■希望崎の春の森■
サイバネ少女・蟹ちゃんは
生徒会陣営の構成員を詳細に検討し、結論を下した。
敵の中で最も危険なのは、満点花マルクルル。
こいつのヒロイン性能は、桁違いだ。
あの人と接点を作らせてはいけない。
その前に……ブッ殺す!
さいわい、奴自身には戦闘能力がほとんどない。
増援さえ来なければ楽勝だ。
サイバネ少女は<未来視>を活用して慎重に襲撃タイミングを検討した。
好機きたる!
ハルマゲドン直前だと言うのに、暢気に独りで森へと散歩に出かけたマルクルル!
サイバネ少女は喜び勇んでマルクルルの後を追った。
もうすっかり春である。
希望崎の奥にある森の中にも美しい花が咲き乱れ、あたたかい空気がほんのりと湿気を含み心地よい。
港河廻衣香が生徒会予算を使い込んで密かに建造したビオトープでも、サワガニやテナガエビが元気に活動をはじめていた。
そんな春の森を、マルクルルはニコニコ笑顔で楽しそうに歩いている。
(これから殺されるとも知らずに、おめでたい奴だ。……こっちまで楽しくなってくるじゃねェか)
「蟹ちゃんもお散歩? いい天気だもんね!」
マルクルルが、くるりと振り向いて声を掛けた。
「なッ……! いつから気付いていた!?」
「ん? さっきから、ずーっと後ろにいたよね?」
巨大なサイバネ☆クローは破壊力こそ高いものの、尾行には不向きである。
「ハラショー! やっぱりそのクロー、すっごいね! いっぺん近くで見てみたかったんだ」
「えへへ、立派でしょー」
「ね、ね、ちょっと触ってもいいかな?」
「もちろんいいよー。あ、内側のブレード部分には気をつけて。うっかりスイッチが入ったら熱くなるから」
「ハラショー! ありがとう!」
ぺたぺたとクローを触ってみるマルクルル。
「すっごく頑丈そう! でもこれって重いよね。だいじょうぶ?」
「うん。鍛えてるからね。こう見えても私、普通の人の三倍ぐらいの脚力があるんだよ」
「ハラショー! 蟹ちゃんってすごいのはクローだけじゃないんだね!」
「ふっふふー。もっちろんですとも!」
そして二人は、仲良く希望崎の春の森を散歩して、楽しいひとときを過ごしました。
明日はいよいよ血で血を洗うハルマゲドン。
でも、だからこそ、こんな時間が大切なのです。
■希望崎の春の森■ おわり
最終更新:2014年04月19日 14:51