再会,そして・・・

日本を巻き込んだデイン帝国の野望。
一人の青年とその仲間達の元で砕かれたアシュナード2世の野望は,今や近代史にとって一番大きな出来事となっていた。
日本史の教科書にもそのことは大きく取り上げられ,戦闘の様子からアシュナード2世の最後まで,あらゆる事が本人達の口から語られたとおり詳細に記述されている。

そして,もう一人・・・。


北の果ての街で,今や双子の姉妹の両親となった人物。
紅い長髪が今日も上手くポニーテールにまとめられ,歩く度に左右に振れる。
紺色の長髪もアンダーポニテでまとめられ,紅いバンダナと共に装備した赤めの色眼鏡がより際だつようだった。


「おかあさ~~~ん!!」
「母者・・・」


そしてその2人によく似た女の子が二人。
その手には『日本史B』と描かれた少し厚手のA5サイズ書物があった。


「ねぇねぇ,明日からいよいよ大詰めで真北さん達の所に入るんだけど,予習で教えてもらっていい??」
「どうも私達が知っておいた方が,彼らの関係者としてぐっと胸を張れるような気がするのだが・・・」
「よしよし,蓮牙も緋炎も其処に座って。
 お母さんが真北さんや弘君達から聞いた分で知ってること,全部話してあげる」
「わーぃやったー!! じゃあまずここね・・・」


蓮牙と緋炎。
紅蓮の牙に,緋色の炎。
彼女らに付けられた名は英雄である母親の扱う力から名付けられたもの。


―――そう,聖良紅牙こそ彼女らの母親。
そして彼女は往年の幼なじみであり,共に歴戦を勝ち抜いてきた仲間である紺野悠牙と結婚し,この2子をもうけて今に至る。
もっとも,その間にも大きな戦いが避けられないことが幾度か有り蓮牙と緋炎を家に置いていくことがあったのだが,その間紅牙だけが出る場合は悠牙が面倒を見,悠牙だけが出る場合は紅牙が面倒を見て,2人とも出払う場合は自分たちで家事をやれるようにと書き置きを無数に残していく。
お陰で蓮牙も緋炎も,他の小学4年生顔負けの二人暮らしが出来るようになっていた。
その上,時折母親と父親から戦闘に関する指導も受けていたためか,戦闘メインのクエストをこなして生活費を稼ぐことも覚えるほどである。


何一つ異変無い家庭。
何一つとして不自由なく,幸せだった家庭に,とんでもないことが起こったのはこの直後だった・・・。



紅牙が緋炎と蓮牙にこの人が誰だと説明しているうちに,突然教科書が輝き出す。

「・・・え,何・・・これ・・・」
「お母さん,どうしたの?」
「・・・呼んでる。
 誰かが『この世界を助けて』って。
 ごめんね二人とも,お母さんまた別の世界に行かなきゃ・・・」
「母者・・・大丈夫,また前のように蓮牙と二人で力を合わせて生き抜いていく。
 心配は無用だ,心おきなく行ってきてくれ」
「・・・ありがと,緋炎」

彼女にだけ聞こえた声に導かれ,紅牙はそのまま教科書から発せられる光に吸い込まれるようにして消えていった。

後に残された二人は事情を父親の悠牙に話し,母親の帰りを3人で待つことにした。












見渡す限りの森林が広がる。
周りを見てもき・木・樹。
とにかく樹木ばっかりの世界が広がる。
名鉄の制服に身を包んだ青年は,その中心で目を覚ました。

「ぅう・・・ここは・・・?
 そうだっ,危うく事故になりかけて,急ブレーキをかけようとしたら視界がいきなり真っ白になって・・・」

自分の身に何が起こったのか。
周囲を見渡し,状況を把握しながら考える。

「・・・死んじゃいないみたいだな,俺」

彼は立ち上がり,あてもなくふらふらと歩き出す。



小一時間ほど経っただろうか。
それでも辺りはまだまだ見渡せば樹ばかり。
この森を抜ける気配は,一向にないようだ。

ふと,彼の近くの茂みが音を立てる。
彼は歩みを止めた。

次第に音は大きくなり,そして現れたのは一頭の虎だった。
眼は赤く不気味に輝き,まるで此方を餌として狙っているようであった。
低いうなり声が聞こえる。


「こんなところで・・・まだ,乗務残ってるのに」


うろたえる彼をよそに,虎は彼に向かって襲いかかる。
もうダメか,そう彼が思い目を閉じた瞬間だった。


斬撃による鈍い音が響く。


数秒もしないうちに,彼の背後でドシャリ,と虎の倒れる音がした。

状況が一変したのを理解すると,彼はゆっくりと目を見開く。


「・・・また,貸し一つだな」
「!! お前は・・・」
「悪ぃ,通りすがりに君を見つけたら後ろのあいつが飛び出してきたもんでさぁ」


目の前に立つのは自分の記憶にもある人物。
紅いポニーテールに,紅の光の刃を携えた―――女性。
彼女の袖無しのコートがポニーテールと共に風に揺れる。


「にゃす,弘君」
「紅牙・・・一体どうして??」
「実のところよく分からないけどねww
 転移後のカンって奴かな」
「カンかよ・・・」


すぐに名前が出た。
お互い名前を知っている。
それだけじゃない,かつて一緒に闘ったり,互いに腕を競い合った存在。



聖良紅牙と星川弘

どちらも,世界の危機に直面した際その危機を鎮めるために活躍した英雄である。



「そうだ! 俺も今の内にドッチャーに変身できたらお前みたいに闘えるかな?」
「たぶんね。
 今の血のニオイで,仲間がまわりから集まってきているようだから・・・俺が引きつける間に変身してくれ」
「分かった!」



2人の作戦会議が終わるか終わらないか,その間際。
隙を見計らって紅牙の背後から虎が飛び出してくる。
だが彼女は振り向きざまにその虎を容赦なく斬り捨てた。

それを皮切りに何頭もの虎が茂みから飛び出してくる。
さらには先程斬り捨てたはずの虎も立ち上がり彼女に襲いかかる。

その間に彼はポケットにしまってあったペンダントを首にかけ,精神を集中する。
それと同時に,彼のまわりを赤々と燃える炎が取り巻き・・・彼のコスチュームを変えていく。

黒光りの革靴は公立の高校が採用するような立派なスニーカーに。
びしっと決めていたスーツは深紅のノースリーブとスラックスに。
トップスには大きく黄金色に輝く『Jockies』の文字。
名鉄乗務中必ず被る帽子は彼の額に鉢巻となって巻かれ,それと同時に黒かった彼の髪が紅く染まる。
そして襟足が長く伸び,綺麗なアンダーポニテになったところで彼の両腕にリストバンドが装備され,目を開くと彼の目まで紅く染まっている。
手にはいつの間にか,ドッジボール用の紅い公式球があった。


―――ドッチャー・アルフェンス。
名古屋ジョッキーズで多大な功績を残した,尾張のドッジ野郎の異名を持つ男。
その名こそ星川弘の真の名前,真の姿。
一降りで遠くまで投げられる球,さらに威力も速さも申し分ないアタック。
そしてどんなボールも滅多に当たらないという驚異の回避率。

彼は紅牙が仕留め損ねた虎に狙いを定め,そのボールを投げる。
ボールは猛スピードで飛んでいき,見事に虎の脇腹を捕らえた。
反動で吹き飛ばされ,絶命した虎はそのまま茂みに消えた。

しかし,一向に虎は逃げる気配を見せず,数を増すばかり。


「・・・どうするよ,このままじゃ埒があかねぇ」
「仕方ない,武器だけじゃなく術にも頼ろう・・・ドッチャー,ちょっと俺の方向いて」
「な,何をするんだ??」
「大丈夫,ちょっと君の中のエナジーを目覚めさせるだけ」


そんな中で紅牙はいきなりドッチャーに面と向き合うように言った。
彼が言われるがままに彼女の方を向くと,彼女は一度指を鳴らす。

すると襲いかかってくるはずの虎が,森の茂みが,木々が,自分たちを除く全てが一瞬にして停止した。


「・・・時間が,止まった??」
「開花までに個人差があるから,時間稼ぎ。
 さて・・・始めようか,君の中のエナジーを目覚めさせること」
「え・・・」


全てが止まっていることを確認し,彼女はドッチャーの額に指を軽く当てる。


「・・・分かるかな,君の中に力があること,その力が何か・・・」
「・・・わかる,胸の奥が熱くなってきた・・・力が湧いてくる・・・」
「そう,それが君の『力』だ,君自身が操るにふさわしい力・・・俺と同じ力」


彼自身が言葉を発するのと同時に,彼の額に当てられた指の下にほんのりと,燃える火のような紋章が一瞬輝いた。


「・・・さて,思ったより早く終われた。
 後は君自身が力を行使して,俺の助けになる番だぜ」
「・・・ああ」


紅牙が指を離し,ドッチャーとは別の方向の虎たちを見据える。
そしてドッチャーも,自らの向いた方向の虎たちを見据えた。


―――再び,時が動き出す。
虎たちが一斉に飛びかかってきた。

同時に二人の手に火球が生成される。


『灼き尽くすは灼熱の劫火
 聖なる炎の御許,散れ,悪しき者よ
 汝らに裁きを下せ ファイアー・ボール』


そして同時に詠唱を終えて虎たちに向かって投げると,火球は分裂し凄まじい勢いで全ての虎たちに襲いかかる。
為す術無く火球を避けられず,残る虎たちは一瞬にして火だるまになっていった。
それを見て火球に当たっていない後続の虎たちは恐れをなし,茂みの奥へと消えていった。







「ふぃー・・・助かった・・・」
「初めてにしては上出来じゃん?
 ドッジボールだけじゃなく,火のエナジストとしての素質もあるみたいだね」
「そうかな,俺はお前に教えられたとおりやっただけだけど」

二人の顔に笑みが戻る。

そしてその直後にドッチャーは我に返り,変身を解いて紅牙に聞き寄る。
弘は何故自分があんな場所で目覚めたのか,まだ理由を知らないのだ。

「そうだ! 俺,名鉄の乗務中だったのに・・・事故りそうになってブレーキ掛けようとしたら,突然目の前が真っ白くなって・・・」
「気がついたらここより離れた場所に倒れていたって言うオチで?」
「・・・そうなんだ,俺は一体どうなってる?
 死んではいないことは分かるけど,何で電車の中からこんな森の中に・・・」

その様子を見て,紅牙は真剣に応えた。

「・・・たぶん,選ばれたんだ・・・君も」
「選ばれた??」
「この世界を救うそのために・・・ね」
「世界を救う・・・ちょっと待った,状況が理解できない・・・」
「聞くけど,視界が白くなる前に声が聞こえなかったかな?
 『この世界を助けて』って・・・」
「ぁ・・・言われてみれば・・・」




謎の言葉。
見知らぬ土地。
かつての仲間との再会が『選ばれし者』同士の邂逅と言うこと。

これからとてつもない運命に巻き込まれることを彼はまだ知らない。
彼の栄冠への道のり,栄光を手にするまでの物語は,たった今始まったばかりなのだから・・・。






to be a continued......
最終更新:2009年04月06日 00:52
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。