「ところで,どうして俺達は選ばれたりなんかしたんだろう」
「・・・簡単なことだよ,俺達の活躍を知る何者かが力があることを見込んで俺達を選んだんだと思う。
世界を一つ救った英雄と,四聖獣の力を宿す4人のアスリートの一人だからね」
「ぇと・・・四聖獣って・・・」
「・・・ぇ,忘れたの?
15年前,俺達がまだ幼い頃・・・日本をフェニックスが襲ってきたその時に,君は一度死んだが四聖獣『朱雀』の力をその魂に宿し復活したじゃないか。
名前を言えば分かるかな?」
「朱雀・・・あ!
そうか,俺は『ドッチャンザー』に転身する力を貰えたけど,エレメント規制法のせいで使えずにいるうちに忘れてたみたいだ・・・」
「思い出してくれたか。
他の3人,吉田くんと田村くんと清藤くんも同じ」
「玄武『クラシエル』,青龍『ブレイグーン』,白虎『タケシンガー』だったでよ」
「ああ。
どうやらこの先に・・・一人いるみたいなんだ,その内の一人がね」
「な,なんで分かるんだ?」
「前に一緒に闘ったときに彼ら固有の『気』を感じられるようになったからだよ。
エレメンタルは水だ・・・恐らく吉田くんかも知れない」
「吉田が・・・あいつも選ばれたのか」
「可能性なきにしもあらず。
『境界震』っつって別の理由で世界をまたぐこともあるからね」
「そうか・・・それで,反応はどっちの方角から?」
「この先真っ直ぐ北へ。
見たところ少し先に見える洞窟がそうみたい」
「そうと分かれば・・・すぐにでも進もう,またあの虎共に襲われたらたまらん」
「そうだね,行こうか・・・」
かつて紅き翼を持ち鎧を纏った,聖獣の力を宿した英雄が居た。
名鉄の鶯色の制服に身を包んだ彼にその記憶が戻ったが,それは戦いへの序章に過ぎなかった。
選ばれし者達同士が出会うその時,運命は動き出す。
「しかし暗いな・・・こんな所からどう脱出するんだ・・・」
「俺にも分からないよ,でも・・・ほんの少しだけ風の流れは感じられるんだ。
だけど弱すぎて出所まで辿り着くには相当かかるかも知れない」
「そうか・・・仕方ない,出所を辿るしかなさそうだから頼む」
「OK,・・・・・・こっちだよ,真北さん」
一方そのころ,水が滴り落ち所々に水たまりを作る少しヒヤリとする洞窟内に男が2人。
片方はどこかの鉄道の運転士の制服を着ているが,アメフト部に並ぶようながたいの良さと長身が目立つ。
そしてもう片方はほんの少し散切り感の残る黒髪が特徴的で,空軍のパイロットスーツに『VAROM Ⅰ』と刺繍され,三つ星の勲章と2つラインの腕章がある。
パイロットスーツの青年は少々声が高く,聴いただけでは女性と間違えるような音域にあった。
「・・・・・・こっち」
「ずいぶんとうねりながら吹き付けてるな」
「うん,だけどこれだけうねっても風が流れると言うことは通り道が確保されてるって事なんだね」
「よくできた洞窟やな・・・」
2人が進むうち,少し開けた空間に辿り着いた。
しかし,道はない。
あるのは巨大な地底湖のみだった。
ただし水中や壁の所々にヒカリゴケが群生して白い光を放つため,先程の通路よりは明るい。
「・・・行き止まりかいな・・・」
「この上から吹き込んできてはいるけど,壁づたいに上れそうにはないね」
「・・・吉田,エナジーで何とか出来ないんか」
「無理だよ,玄武の力を使ってもモーセの十戒みたいに水を裂いて道を造ることは容易じゃないんだ・・・。
ただ,コケの生え方からして水中のあの道以外に先へ進める道はないみたい」
「そうか・・・やはり,5年前あの女からもらった力を使うしか無いんやな」
「それしかないだろうね・・・でも,精神力の消費を抑えるなら,俺が聖獣の力で何とかするけど」
「せやな・・・けど,心配は無用。
わしの精神はそこいらの軍人連中共とは違ってかなり強靱や言われとる。
たぶん力を使っていたとしても,途中でくたばることはないわ」
「なるほどね・・・それならすぐにでも進もう。
たぶんこの水路を越えた先に,俺達が目指すべき場所,出会うべき人達が居ると思うから」
「ああ」
意味深な会話。
しかし彼らは自らの持つ力についてしっかり自覚しているようだった。
会話の後,パイロットスーツの青年が行動に出る。
胸の前で数回印を切り,念じる。
緑色のオーラが彼を包み,角が生えていて蛇の巻き付いたような亀を象ったかと思うと,一閃。
その亀のような見るからに強固な漆黒の鎧に身を包んだ彼がそこに居た。
サークレットには亀の顔があしらわれ,耳の上辺りでは龍の角のような飾りが突き出ている。
一方で運転士制服の青年も少し集中し念じると,体のまわりを蒼いオーラが覆い始める。
まるでどこかの星で培ったナノマシンによるバリアのような覆い方になると,彼は目を開き鎧に身を包む青年の方を見やる。
「準備完了や,・・・行くか,クラシエル」
「こっちもOKだよ,どのくらい長いかは分からないけれど・・・行ってみよう,真北さん」
二人が向き合い,一度頷くと,二人はなんの躊躇もなく地底湖に飛び込んだ。
すぐに気泡を吐き出し,普通の人間でなら溺死するところなのだが・・・二人は水を吸って呼吸している。
これが彼らの言っていた能力の一つなのだろう。
彼らは,進むべき道を泳いでいった。
一方で,別の入り口前。
「はぁ~・・・退屈だ・・・」
「もっと強ぇ相手は居ねぇのか・・・」
少しトゲトゲになったようなヘアスタイルの青年と,一緒に座り込んでいる筋肉が異常なまでに発達したラフな服装の青年。
二人共やることがないのか,退屈そうに座り込み続けていた。
「なぁ・・・
おいら,この洞窟なんか妙な感じしないか?」
「言われてみればなぁ・・・けど,そんなことより強い奴が居ないか探しに行きたいところだが・・・」
『・・・腹減ったよなぁ・・・』
実を言えば,空腹で動けずにいたのだろう。
二人とも腹の虫が鳴るたびに溜息をつき,うつむいてがっかり。
「・・・毅,おめぇ身体能力はあるのか?」
「なんとかな,中学の頃ダチと一緒にドッヂボールやってたから」
「なら・・・あの樹,見てみろよ」
「ん・・・? おぉぉ!!! うまそうな木の実がっ!!!」
「相当高ぇけど,ちょっと細っこるいし・・・俺が登っちまうと折れて木の実もろとも大変なことになりそうだからお前に行って欲しいんだよな」
「ぉし,任せとけ」
しかし筋肉の発達した,おいらと呼ばれた肉弾魔人の方が食料になりそうな木の実を見つけた。
その木の実が大量に,たわわと実る樹はいかにも街路樹として移植されたての若木のように細い。
だがその赤い木の実の形状はリンゴに似ており,安全に食べることが出来そうだ。
毅と呼ばれた青年がこれまでとはうってかわって素早く木に登り,実をもいで肉弾魔人のもとに落としていく。
彼は腕で数個木の実をキャッチした後,近くに生えていた巨大な葉を持ってきてその上に木の実を置いた。
数分のうちに葉の上は木の実でいっぱいになり,毅が降りてきたところで二人は久し振りの食事にありつく。
『いただきまーす!!!』
「うん,うみゃー!! これリンゴに似てるくせに桃みたいに甘くて柔らけぇな」
「おぅ,なんかブラジルにいた頃に食べてた果物よりうまいぜ!」
こうして二人は収穫した数分で木の実をたいらげると,木の実を実らせていた樹に向かって一礼し,
『ごちそうさまでしたっ』
とお礼を言う。
二人の活力はほぼ最大まで回復したに違いない。
「さてと・・・此処にいても仕方ないし,気になるなら洞窟の中に入ってみるか?」
「ああ,それに登ったせいでちょっと暑いから,中で涼みてぇ・・・」
二人は毅の避暑も兼ねて,洞窟内を探検することにした。
そしてもう一方の出口前。
魔導士のような格好の眼鏡を掛けた青年と,これまたパイロットスーツの青年。
スーツには『VAROM Ⅱ』の文字と3つ星勲章に,2つ線の腕章。
此方のパイロットスーツ青年は同じ黒髪でもかなり整った綺麗な髪型だった。
「此処の洞窟であっているんだろうな?」
「ええ,魔導書と風の示す先は,この洞窟で間違いないはずですが・・・」
「この先に,あいつらが居るのか」
「はい,彼女らの気配を強く感じます。
別の入り口から移動しているようですが,進んでいけば自ずと逢えるでしょうね」
「・・・紅牙,弘・・・待ってろ,世界に呼び出された本当の理由を知っているのは俺達だけだ。
必ずお前達に伝えてみせる・・・行こう,
ヴィルエッジ」
「仰せのままに,秀雄さん」
「うぇ~・・・;; い,行き止まりぃ・・・」
そしてそのころ,紅牙と弘は別の地底湖にたどり着いていた。
壁に空いた穴から水が流れ落ち瀑布を作っている。
また,白く光るヒカリゴケの群生の照明が彼女らに此処で行き止まりであることを告げていた。
しかし,そのコケの群生は水中にも続いており,道があるように見える。
「どうしよう,この先には進めないよ~・・・」
「進むにしても,お前が男にならなきゃいけないけど・・・無理だよな」
「どーやらそのとーりで。
・・・こっちに来てから,全く『両生転変』が自在に操れなくなってるんだ」
「はぁ・・・打つ手なし,戻る道は一つだけ。
『気』は感じられても,逢えずじまいじゃ・・・」
二人が途方に暮れたとき,紅牙がはっとして辺りを落ち着き無く見回す。
「・・・どうした?」
「・・・・・・何か,来る」
「吉田か?」
「一方はそうだけど・・・もう2つ,風と大地のエレメント!
俺達の辿ってきた道の所々にあった分岐点から合流してこっちに・・・。
でも,吉田くんの反応の他にも3つ,それぞれの反応と一緒に誰かが居るみたいだ・・・って,もう一つ・・・」
「吉田達の他・・・それに風と地?
で,その最後のは・・・」
彼女は若干青ざめつつ湖を指差し・・・
「・・・この,下」
そう言った矢先に地底湖の中心から気泡があふれ出す。
水面ではじけ轟音を響かせつつ,それは徐々に浮上する。
「・・・い゛っ・・・な・・・」
「仲間の他には・・・魔物だったみたい・・・俺水属性苦手なんだよね・・・」
「!? なんや!! なんかえらく揺れとるが・・・」
「真北さんもう少しだよ,その先で何かでかいのが浮上してるみたいなんだ!
それで揺れてるんだと思うんだけど!!」
「くっ,この揺れで道塞がれないとええな・・・!」
轟音と共に,それは姿を現した。
巨大なイカ,元来なら海水に生息するはずのそれが,淡水の地底湖に住んでいたようだった。
「こんなところでまさかクラーケンなんつー大ボスに出くわすなんて・・・」
「最悪や・・・俺達二人とも水属性の攻撃は苦手やし,触手で水に引きずり込まれたら即おだぶつ・・・」
「死に場所にならなきゃ良いけど・・・」
彼女らが狼狽えるうちに,巨大イカは触手の一本を振り下ろした。
間一髪二人はかわすも,その跡を見てみれば岩が触手の跡をくっきり残すほどめり込んでいた。
相当な体長と比重を持ったものなのだろう,紅牙はそう判断した。
「たぶん今の俺達じゃ無理だ・・・弘はドッチャンザーに変身して,俺は翼を開いて,二人で逃げ続けるほかなさそうだね」
「ああ,火属性攻撃当てるにしろ,墨で打ち消されてしまうわな」
今の自分たちの攻撃は通じない,そう判断し彼女はその背に紅蓮の翼を一対生やした。
そして離陸し,触手を向ける巨大イカを攪乱しにかかる。
その間に弘はペンダントを握りしめ,強く念じた。
「・・・『朱雀』,俺に力を貸してくれ・・・!!」
瞬間,弘から紅蓮のオーラが立ち上る。
その『気』は彼を覆い尽くすと美しい鳥の姿を象り一閃。
光と共に弘は紅蓮の翼と鎧を持つ聖獣形態へ変身した。
紅牙に続き,彼もその背の翼で空を舞い二人で触手から逃げつつ巨大イカを攪乱する。
すると,それから暫く経って彼らが入ってきた入り口の方から足音が響く。
同時に,巨大イカの陰から小さく浮上するものが二つ。
「・・・来たっ!!
みんな一緒になってる!」
「本当か!!
・・・あっ! 田村!! それに清藤も・・・って,おいらにヴィルエッジまで!」
「真北! 吉田くん!!」
そう,別の入り口から出口を探して水中を進んできた真北と健次,探検のために入ってきたおいらと毅,紅牙を探していたヴィルエッジと秀雄。
偶然の一致ではあるが,誰しも彼女の顔を知らないものはなく,また全員がお互いのことを理解している。
「なんや・・・ちまたで見るより随分でかいイカやな!」
「調理したらおいしそうだけど・・・こいつだね,さっき浮上して地震を起こしてたのは!」
「ぉほぉv 美味そうなイカ!!」
「おいおい,この期に及んで食うことしか頭にないのか,お前は・・・」
獲物が増えたためか,巨大イカの触手が更に数本動き出す。
強固な鎧を装備しているにもかかわらず,健次は真北と共に軽々と触手をかわし地底湖のほとりに降り立つ。
またおいらと毅も身軽に触手の一撃をかわした。
秀雄とヴィルエッジは風の刃を生成し,逆に切り払うことで回避している。
紅牙は飛び回りつつも彼らに指示を下した。
「再会したての所すまねぇが,こいつを倒すのを手伝ってくれ!
秀雄くんと毅は四聖獣の力を解放してくれ,それからヴィルさんは出来る限り短い詠唱で良いんで風の魔法で対抗して,おいらは触手が来たら噛みついて食べちゃってぉk!
真北と健次くんは水中から奴の触手を斬り落としてくれ!
俺は弘と引き続き奴を攪乱しにかかる!」
「わかった! ・・・『青龍』!」
「おぅよ! 来ぉい,『白虎』!」
「承知しました,この風は如何ですかな!」
「やったー!! 今日はグルメ三昧だぜぇ!!」
指示通り,秀雄と毅は念じてオーラを纏い,秀雄は龍の形のオーラに,毅は虎の形のオーラに覆われ,それぞれが咆哮し一閃したところで,鎧と道着で身を包んだ二人が姿を現す。
ヴィルエッジは魔導書に手を翳し,次々と風の刃を触手に当てていく。
そしておいらは・・・襲い来る触手を肉体で受け止め,そのままかぶりついて肉を噛み千切る。
確実にダメージを与えていく2人に続いて,雄々しい龍の翼を開き空へ舞い上がる秀雄。
紅牙と共に数回攪乱させた後,手甲から伸びた爪を分離させ,弓へと変形させた。
エネルギーを込め,矢の形に練り上げてから弦を引き,本体の眉間と思われる場所へぶち込んだ。
毅は伸びた自分の爪で襲い来る触手を次々と引き裂いていく。
それだけでなく爪で間に合わない場合は自らの拳や脚で打撃していた。
一方で真北と健次は再び水中に潜り,残った触手と格闘する。
「っ・・・このぉぉぉぉ!!」
ひっつかんだ触手の一本を引っ張り,健次が力任せに引きちぎる。
「これでも喰らっとけ,死んだらわしらでゲソまで喰ったるわ!」
更に真北が氷の銃剣を生成し,その刃で根元から二本触手を断った。
触手を半数以上失い,苦しむ巨大イカ。
真北と健次が再び湖畔に舞い戻り,地上の軍勢が3本触手を失わせ,残る触手が2本になったところで彼女は新たな号令を下した。
彼女自身,愛剣である『白夜』を呼び出し物理攻撃の態勢に入っている。
「よし,此処まで来れば怖いものはない!
みんなで突撃だ!!」
『おぉーーーっ!!!』
紅牙の号令の声と同時に,それぞれが必殺技を放ちにかかる。
弘が炎を纏い猛スピードで巨大イカに突っ込んでいく。
毅は爪に闘気を纏わせ,鋼の如き輝きと強度を持たせると本体に向かって痛烈に引っ掻き攻撃と打撃攻撃をかました。
秀雄は弓に込めるエネルギーをより多くし,生成できる矢の数を大幅に増やして矢の雨を降らせる。
健次と真北は二人で協力して巨大な氷の槍を作り上げ,一気に巨大イカを貫いた。
おいらは強靱な肉体を生かし毅と共に打撃を何度も喰らわせる。
ヴィルエッジは彼らの攻撃のラッシュが終わり,弘の炎を纏った体当たりが命中して彼が離脱した後に,魔導書に手を翳し暴風を巻き起こす。
そして最後に,紅牙の気合の斬撃により残る2本の触手ごと本体は斬り裂かれ,巨大イカは絶命し触手や本体の肉片が湖に浮かび上がる。
戦いを終えた彼女らは湖畔に焚き火を起こして一休みしつつ,紅牙によって調理されおいしい料理となったイカに舌鼓を打つのであった。
食事も終わり,一息ついたところで弘達4人は変身を解いた。
「しかしなぁ,まさか俺達四聖獣が全員集まるなんて,思いもしなかったでよ」
「これだけの実力者が集められると言うことは,相当大変な事態に巻き込まれた,としか言いようがありませんね」
「大変な事態って・・・ヴィルさん,何か知ってるの?」
「私ではないのですが,彼がどうしても貴方に伝えたいことがあるそうで」
「秀雄くんが? ・・・教えてくれ,何か事情を知ってるのなら」
「ああ,これだけは言わせてくれ・・・この世界を救えるのが俺らしか居ないって事をな」
「世界を救う?
・・・秀雄,それはどういうことなんだ」
「順を追って説明する。
・・・まず俺達が居るこの世界の名は『ヴィルガスト』,紅牙なら知っているだろうが,その中でも相当辺境の外れの地に俺達は飛ばされたらしい」
「『ヴィルガスト』・・・女神ウィンディーネ様がかつて,三池瞬くんを呼んで此処の世界の住人達と一緒に神官バロスの野望を打ち砕いた・・・そんな伝説の残る世界だったね」
「ああ,そして俺達はその女神に素質を見いだされ,再び迫る新たな危機から世界を救ってくれと頼まれた存在なんだ。
女神の話では,甲龍の装備品一式が何者かによって破壊され,
破壊神に対抗できる武器防具を失ったせいで世界の平和と調和が失われつつあるという。
恐らく俺達は,甲龍の装備一式の代わりとなり災厄からヴィルガストを救うためにこの世界に呼び出されたんだ」
「・・・その甲龍の装備ってのは何なんや?」
「甲龍の装備とは,ヴィルガストに瞬さんが呼び出される以前から存在した,伝説の武器防具なのです。
かつて女神ウィンディーネが破壊神に迫害を受けていたとき,一頭の龍が人に姿を変え,破壊神を封印したらしく,その龍が残した装備が『甲龍の装備』と呼ばれるものだと言います」
「へぇ,DQで言う天空の鎧とか,そう言った物なんだね」
「つまり,俺達が呼び出されるその時に聴いた『この世界を助けて』の一言は・・・」
「女神ウィンディーネの呼びかけに違いない。
他の世界を見守れるにしろ,リクレールではトーテム達の力を借りたとしても力不足だ。
せいぜい天空大陸の時間軸に沿った移動くらいしかできないだろう」
「そう言うことだったのか・・・」
「何はともあれ,俺達でこの世界を救ってやればそれで良いんだろ?」
「簡潔にまとめればそうなるな・・・」
「けれど,一筋縄ではいきそうにないから・・・俺達全員を引き合わせた」
「つまり,これで全員?」
「いや・・・別の場所でも何人か同じように呼び出された戦士達が居るらしいんだ。
しかも,全員が俺達の知り合い。
つまりは・・・」
「・・・『まりのねっと.』,か」
「それも『
バトルロイヤルR』って訳だね」
『バトルロイヤルR』。
自らの分身データを送信し登録することで,4人での戦闘を行うチャンピオンシップ付の大会。
一定の勝利数に達した場合賜杯を掛けた大会への参戦権が得られ,そこで優勝したものに黄金の賜杯と揺るぎない栄光が与えられるものである。
彼らはかつてその栄光を掴むための大会に何度も参加し,賜杯を手にしたことがある強豪ばかりなのだ。
特に,『まりのねっと.』と呼ばれる人気のドメインでは多数のプレイヤーが自らの分身達を闘わせて居るため,『本家』と称されるほどの場所である。
彼女らはそこで腕を競い合い,時に協力し時に敵対していた。
「名前は知っていたが,俺自身ヴィルガストに来るのは初めてなんだ。
こんな状況で,しっかり役目果たしてあげられるのかな・・・」
「大丈夫や,仮にも沢山の世界を救ってきた英雄やし,わしもお前さんの実力はよう知っとる。
せやから肩落としたりするんやない,わしらのチームワークなら,きっとやっていけるわ」
「・・・有難う,真北」
「さて,目的もはっきりしたんだし,そろそろ出口に向かって移動するか」
「そうですね・・・実は我々の入ってきた入り口に『フロルの風』のワープポイントを設置しておいたんです。
焚き火を片付ければ私の述片を使って,其処まで皆で移動できますよ」
「ぅわー,気が利くなー・・・」
「風でそんなに早く移動できんのかぁ?」
「うん,前に一度酔いつぶれかけて送ってもらったときに使ってもらったんだが,なかなか良い速さだったぜ」
「そっか,それならだいじょうぶだよな」
彼らが一通り語り終えると,紅牙達は焚き火を片付けヴィルエッジの近くに集まる。
彼が魔導書に挟んでいた栞のような物を取り出し,天に掲げた。
すると,一瞬のうちに彼ら全員が風となり,秀雄とヴィルエッジが辿った道を戻り出口まで一瞬の内に移動した。
集った8人の戦士。
伝えられた真実。
理解できた役目,そして彼らの絆・・・。
苦難の旅路は,まだまだ続く。
新たな仲間に出会うその時,彼らの運命は大きく動き出すこととなる。
それが例え,バトルロイヤルRのような壮絶なバトルだとしても。
この世界での敵に立ち向かうその時にも,彼らの運命は揺れ動く。
生か死か,彷徨いそうになるときであろうと。
強大すぎる力に屈服しかけたときも。
彼女らにこの先待ち受けるのは,どんな物語なのだろうか・・・。
to be a continued......
最終更新:2009年05月31日 02:37