ちょっと大人になった二人

 バトロイで戦い始めて数年、もう無茶をすることや自分から戦いたいと思うこともなくなった。今はゆっくりと畳の上で餅を食べることが主な仕事だ。
「そうじゃった、今日は帰ってくる日じゃ。掃除でもせんとな」
 朧月夜はゆっくりと重い腰を上げると、本棚あたりから掃除でもしようとはたきを持った。月で姫として生活していればこんなことをしなくてもいいのだが、自分が望んだ道だから仕方ない。いつもは意外とマメな筋肉マンが掃除をしてくれるのだが、まだ血の気たっぷりな男だから遠くまで遠征なんかに行っているとこうやって埃が溜まってしまう。
「むぅ、汚いのう」
 口元を押さえ、パタパタとはたきで埃を落としていく。こんなことになるならもっと早くやっておけば良かったと思うのはいつものことだ。
「せめて、おいらが帰ってくるまでには綺麗にしときたいの」
 遠征で疲れているおいらに掃除させるのは少し悪いという気持ちもあり、朧月夜はパタパタとやっている。だが、普段掃除なんかしないから全然作業は進まない。
「ぬあ~、疲れた。うわ、今度は床がすごいことになっておる」
 へなへなと力なく畳にへたり込むが、やらなくてはならないから今度は箒を持ってきて床を掃いた。
「うむうむ、これだけやっとけば十分じゃろ」
 まだ、本棚しか掃除をしてなかったが朧月夜は満足げだった。
「おら!」
 すると、ドアの方からバタンと勢いの良い音が聞こえてきた。朧月夜ははたきと箒をどうにかしなくてはと慌てて片付けようとするが、どっちを先に片付けるか迷ってるうちに声の主は部屋に来てしまった。
「ただいまだ! おぼ!」
「ほほほ、お帰りなさい」
 結局両手に掃除用具を持った情け無い姿になってしまった。朧月夜は恥ずかしくておいらに掃除なんかしているところを見られたくなかったのだ。
「おい、掃除してくれてたのか! どうしたんだ! 病気か!」
 過剰に反応しているおいらに余計どうしてよいものか困ってしまう。そもそも、帰ってくるといっても夕方になるはずなのにまだ昼前だ。この男はいつも絶対に予定より早いのだ。帰ってくる前に湯を沸かし、餅をついておく手はずだったのに台無しだ。
「ちょいとの、気分じゃ」
 だからちょっと、言葉もこんなのになる。
「そうか、だけどまだ途中みたいだな。よし、俺がやるからおぼは休んでてくれ」
 もっと台無しだった。休んでもらいたいのに、掃除までやられたら何をしたいのか分かったものじゃない。
「いいんじゃ、おいらが休んでおれ。これは我がやるんじゃ!」
「駄目だ駄目だ! おぼにこんなことさせたら男が廃る!」
 と、箒やはたきを奪い合う。おいらも腕力で無理矢理取ろうとなんかしないのがよく分からない優しさだ。
「分かった。じゃあ、その道具はおぼが使え! 俺はこの肺で埃を吸い取る!」
「な、何を考えとるんじゃ! なら、掃除機を……」
 埃を吸い込もうとしているおいらを止める為に太い腕にしがみついたが、びくりともしない。すうっと急速に本棚に口を近づけると一枚の写真がとんできておいらの口にくっついた。
「ん? なんかつまったぞ!」
 おいらがそれをとり、見るとなんだか懐かしそうな目をして優しく微笑んだ。
「おい、おぼ。これを見ろよ」
「ん? なんじゃ?」

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 そこには昔、チームうまかぼうをたちあげたばかりの時の集合写真があった。まだ昼黄龍アリテがいない頃。本当にはじめのころの写真だった。
「懐かしいな。あの頃は大変だったけど、楽しかったぜ。おぼなんかむくれて大変だったな」
「うるさい!」
 あの頃、ようやくうまかぼうの設備が整い、まだまだバタバタしていた時だ。自分は姫としてのプライドや本当はここにいるはずじゃないみたいな態度をとっていてよく迷惑をかけていた。機嫌を損ねればすぐにおいらが餅を来て、何を言っても笑ってすましてくれた。
「ふふ、殺丸は今はヨーロッパ。宣伝マンは事務作業。我と主はこうやって二人で暮らしてる。変わったの」
「まあな。だけど、お前が本当に俺と来てくれるなんて信じられなかったぜ」
「他に行くあてがないもんでな」
 月に帰る道、太陽に行くといった方法もあったが、何せ月姫としての一生はこの男より遥かに長い。ならば、少しの間でもこの男と一緒にいたいと思った。すぐに朽ちてしまう人の一生だが、この男といるとそんなことを忘れてしまう。
 ふと、おいらが太い腕を首に回してきた。


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「写真と同じだ」
 暑苦しくて大嫌いだった堅い腕。あの時の写真を見ると本当に嫌だったんだなというのが良くわかる。
「あの頃は本気で嫌じゃった」
「マジか? 嫌も嫌よも好きのうちじゃなかったのか?」
「いんや、本気で嫌じゃったぞ」
 嫌だったけど、何故か安心して心地良かったりする。だから、大人しくそのままで写真を撮られたのだ。
 今になると、こんな腕をまわされると少しだけ照れてしまう。
「おぼ、また皆で写真とろうな」
「うむ」
 照れた顔なんか撮られたくないなと思いながら、朧月夜はあの頃のメンバーとそして新しいメンバーと一緒に写真をとったりご飯を食べたいと思った。
 そして、また会えることを信じて写真をアルバムに閉じるのだった。


あとがき
急遽書き上げたので文章がおかしいことになってますが、気にしないで下さい。
ストーリーは今から数年後のおいらと朧月夜。
絵を描きながらこんなストーリーあったらいいなと思い、思ってるうちに書きました。
書き終えてみてみると、一年間で随分と絵の質が変わりました。
あの頃はギャグテイストなものしか書けず、今よりずっと荒かったですね。だけど、当時の絵もちょっと好きな自分がいます。
昔の環境はペイントにマウス。今はサイにペンタブ。描き方も全然違います。
上の絵はレイヤー無しで塗りつぶしがメインですからね。
この絵はレイヤー10くらい使ってます。しかも塗り方も水彩です。
ちょっと上達したかなと思ってますが、更なる高みを目指して(多分もう限界)がんばりたいですね。
完全な趣味の世界になりましたけど、読んでいただけたら幸いです。

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最終更新:2009年09月19日 00:26
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