小説を考える 第四回

どうして読者に嫌われる?


「難しい問題だな」
「そうですね。要はそれって、人に好かれるにはどうすればいいですか? ってことですし」
「わかれば実生活でも苦労はしないよなー」
「以上!」

「んなわけあるか!」

「あ、やっぱりですか?」
「当然だろうが。きちんと考えるぞ。WBRも一段落ついたしな。小説も少しずつ第2話ができつつあるらしいし。いろいろ考えてることを暴露だ」
「暴露後免疫!」
「それは犬に噛まれたときに考えろ。じゃあ、まずは嫌われるキャラってのがどんなのか考えてみるぞ」
「チートなキャラじゃないですか?」
「たしかに、簡単に作品内のルールを破ってくるキャラは嫌われやすいな。だが、他にも重要な要素がある」
「それは興味がありますね。何なんですか?」
「ギャップだ」
「……ギャップ? 映画版ジャイアンとかでしょうか」
「あれは好感度が上がるギャップの代表な。嫌われるギャップってのは、設定と実際との違和感なんだ。たとえば設定では優しい人物となっているのに略奪愛に走ったり、強いはずなのに性格がヘタレで足手まといになるとかな。そういうのは幻滅されるんだよ。ほら、現実でもそうだろ? いい人というイメージは一瞬で崩れるのに、普段の素行が悪いヤツは少しいい事しただけで超善人に見える」
「まぁ、そうですよね」
「だから、一言で言っちゃえば、現実にいても嫌われるようなヤツは物語でも嫌われるんだよ
「あれれ、最初の部分に戻っちゃいましたね」
「そうだよ。だから、現実を大切にしないヤツはいい話を書けないって話さ。『こういうヤツ、私は好きだなぁ』と思って書いたキャラはだいたい好かれる。逆に、萌えとかの要素にこだわって組み合わせると合体事故を起こして嫌われやすいキャラができあがることもある。両立しない要素は混ぜるな危険だ」
「ああ、そこでアイデンティティとかリアリティなんですね」
「そうだな。ただ、当然だけど物語には敵役が必要不可欠だ。こいつの扱いが存外に難しい。本当に難しい。別にいいんだよ、敵役は徹底的に嫌われ者にして、それを主人公がぶっ倒すだけでも。ただ、なんか途端に薄っぺらくなった気がするんだよな」
「ラスボスの風格がないってことですね?」
「そういうこと。たとえば、テイルズ オブ デスティニー2だが、ラスボスはかなり微妙だ。自称超英雄の方が圧倒的な悪のオーラをまとってるし、魅力的なんだよ。あいつがラスボスで良くない? と本気で思ったな。その点、ファンタジアのダオスは完璧だ。悪ではない悪。見事としか言えないし、大人気だ」
「悲しいストーリーでしたよね。でも、爽やかです。でも、具体的な違いって何なんでしょうね」
「うーん、よく悪役(黒幕)の声をあてることで有名な中田譲治さんがおっしゃるには、『その人物が悪に走ることになった、走らざるを得なかった経緯が興味深い』のだそうだ」
「なるほど……深い言葉ですね」
「一貫性がある敵役は、それがどれだけ悪で外道でも痛快だ。DIOとかな。逆に、どれだけ性格が良くて才能に溢れ、欠点なんて無いという描写がある主人公でも、そこに根っこがなければ魅力なんて生まれない。『はいそーですかお高くとまって結構なことで』と読者は思うだろうさ」
牛肉を食べてる人が捕鯨反対しても馬鹿みたい……ってことですよね」
「そういうことだ。そんなやつに誰が共感できる? だから私は復讐心も何もかもを無視して『殺すな』って主張する聖者ぶった主人公は大嫌いだ。白々しい。ホントに憎いヤツとは不倶戴天。決して同じ世に生きられないんだよ」
「うわぁ、アヴェンジャーの妹紅さんらしいセリフですね」
「まぁ、逆に私が復讐の無意味さを語ると説得力が生まれるんだがな。前の回でやったろ? キャラの内面から発した言葉って話。聖者ぶった主人公ってのは、そこが抜け落ちたガキなんだ。言葉が軽い。それとは対照的に、銀魂の銀さんは普段おちゃらけているが、シリアスなセリフには妙な重みがある。その差はなんだ?」
「信念ですね。Fateでも、シロウくんの言葉には現実味というか、重みが無くて。その理由、信念の起源がわかった瞬間にあっと思うんですよ」
「きのこが使ってるのは高等テクニックだから真似するなよ。Fate/Zeroの方が幾分ストレートだ」
「結構ヤケドする人、いますよね。空の境界を読んだ後は要注意です」
「さて続けるぞー。あと、嫌われるのは作者が理解できていないキャラクターだ。掴めないってことは、作り込みが足りないってことだ。作者の中では美化されていたのが、読者の目から見たらただの馬鹿。嫌なギャップだ」
「技量次第って事ですよね。でも、作者がキャラを操りきらなきゃいけないんですか?」
「そんなことはないな。むしろ、勝手に動いてくれるくらいの方がいいと思うぞ。著者の駒なんて、絵で萌えとかを付加できる漫画ならまだしも、小説じゃあ魅力ゼロだ」
「著者の駒ですか。萌え系のヒロインってだいたいがそうですよね」
「まぁな。だからそういう話の主人公ってのは内実が無いからこれまた鬱陶しい。人の好みにとやかく言うつもりはないよ。どんなヤツに惚れようが勝手だしな。ただ、中身のない主人公は激しく鬱陶しい
「お前はモビルスーツの性能(作者の都合)で勝ったのだ!」
「あの人に、勝ちたい……! じゃなくてな。あと嫌われるのは矛盾のあるキャラだ。ギャップってのと被るんだが……わかりやすいのがガンダムSEEDな」
「戦争はヒーローごっこじゃないんだ!」
「それだ。一番ヒーローごっこしてるヤツがそれを言うか。って思うわけだ。キラも、さんざん敵を殺しておいて、自分の責任を放棄したようなセリフを吐く。同じキラでも月とは違って駄目駄目だ」
「私は、新世界の現人神になる!」
「まぁ、結局のところどれだけ例を並べても、結論は一緒なんだけどな。痛快なヤツは好かれる。何かを損ねるようなヤツは嫌われる。一貫性や根っこのないヤツは嫌われる。中身のない主人公は嫌われる。信念がないヤツは嫌われる。全部、言葉を換えただけで似たような人物像だよ。ただ、小説ならではというのなら、人物ではなく物語や世界の法則になってるキャラは嫌われるな」
「つまり……ご都合主義ですよね。著者の駒っていう」
「そういうこと。キャラは人物としてちゃんと作れよ、ってことさ」

最終更新:2009年10月28日 02:45
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