山田と少女は避難所で休憩をしていた。
「なあ、この避難所……妙じゃないか?」
山田は避難所に何か嫌な胸騒ぎを感じていた。
「なんでです?」
「だってよ、周りを警官が囲んじゃいるが脱出の傾向がまるで見えないぜ?」
山田の言うとおり、避難所の周りは警官が警備している。実際に山田達を追いかけ回したモンスターは警官によって倒された。だが、それ以来避難してきた人に何の指示もなく、ただ待たされているだけなのである。
「大丈夫ですよ、山田さん。あ、私は沢本夕陽です」
「夕陽? 変わった名前だな」
「よく言われます。でも、気に入ってるんですよ、夕陽って奇麗じゃないですか」
山田が夕陽を見ると彼女の笑顔は夕陽というよりももっと輝いて朝日のような輝きに思えた。
「そうだな、夕陽は奇麗だ」
山田は夕陽を絶対に守ろうと思った。
「……やっぱり妙だ。ちょっと警官と話してくる」
山田は不安を解消するために警官と話す事にした。
「あ、私も!」
山田の後を追って夕陽もついてきた。
警官は相変わらず銃撃戦を繰り広げている。
「おいおい、まじかよ」
山田は警官の前方を見て驚愕した。警官が銃撃戦を繰り広げているなかで、その前方では何百と、もしかすれば何千いるかもしれないゾンビが迫ってきていたのだ。
「夕陽! にゅがるぞ!」
山田は軽いパニックを起こして話す時に噛んでしまった。
「逃げるって! どこに!」
どさくさに紛れて山田は夕陽の手を握ったが、その行為は間違いなくセクハラだ。
「どこって! あれ、どこだよ!!」
山田はなんの当ても思いつかなかった。
「山田さん! 下水道に行きましょう! あそこならゾンビも入ってこないと思います!」
「そうだ! それだ、よし下水道に行くぞ!」
山田と夕陽はマンホールを見つけるとそばに落ちていた木材でマンホールの中に入っていった。
「くっせー!!」
山田は下水道のあまりの臭さに絶叫を上げていた。その声は下水道の奥深くまで響くほど大きな声だ。
がさがさがさ
「山田さん!」
山田が大きな声を出したせいで、何かの生き物が近づいてくる音が聞こえてきた。
がさがさがさ
「やべ! 何かくるぞー!!」
また山田の声が下水道をこだまする。
「ギャー!!」
夕陽の後ろにそれは現れた。
巨大な目玉、巨大な体。山田の倍くらいはありそうなネズミがそこにいた。
「おい、落ち着けよ。夕陽、落ち着けー、分かったか落ち着くんだよ!!」
パニックになった山田のテンションはやけに高い。
「山田さん、私は落ち着いてます」
「いや、落ち着いてない!! 落ち着くんだ!! 慌てるなよ、今お前を喰おうとしているネズミがすぐ後ろにいるんだ。分かるか? 落ち着けよ」
「え? や、山田さん、助けて下さいよ……」
夕陽は脅えて声が震えている。
「だから、まず落ち着け。おち、おちおちおち、おち落ち着いてられるかー!!」
山田は勢いと共に飛び出すとネズミに襲いかかった。
ネズミは山田のいきなりの奇襲で動けず、まともに山田の包丁での一撃をくらった。この時、山田はラーメン屋でアルバイトをしていてよかったと思った。山田はネズミに一撃を加えるとそのままあっという間にさばいてしまったのだ。
「はあはあはあ、いっちょ……あがり……」
「山田さん!」
夕陽は怖かったのであろう、山田に抱きついてきた。山田に夕陽の暖かいぬくもりが伝わってきて、山田は変質者のような笑みをあげた。だが同時に抱きついてきた彼女を気丈に振る舞っているが小さくて、細くて、とても脆いとも感じた。
「おいおい、こんな所でやめてくんな」
「あ、すみません! 私怖くて……」
夕陽は慌てて山田から離れた。
「え!? いや、いいんだよ。全然、もっとあれ、いやあの。よし! 行こう!」
山田はかっこつけてやめてくんなと言った事を後悔した。山田はもうちょっとこうさせて、って言ってくるのを期待していたのだ。
「ところで山田さん、この下水からどこに逃げます?」
「あ? いや、どこって……えーと」
あいかわらず山田は無計画だ。
ラーメン屋でアルバイトをしたきっかけだって、ニートが嫌だという理由のみであった。そして今年で二十歳になり成人を迎えた山田はやはり将来の事なんて考えてなかった。
「えーとあてがないのなら……」
夕陽は壁にはってあった下水道の地図を見た。
「あの、ここからずっと西側に言くと地下鉄があります。ここから地下鉄に乗って脱出しましょう」
「よし! そう決まったら行くしかないな!」
山田と夕陽は地下鉄に向けて歩き出した。
最終更新:2008年11月20日 09:05