襲いくるたくさんのゾンビに高中は囲まれていた。
「高中君! 大丈夫ですか!?」
皇后崎が棒を持って高中の方にやってくる。
「だめだ! 来るな皇后崎!」
高中を囲んでいたゾンビが皇后崎の方へ集まり出す。
「うわ!」
皇后崎の一撃でゾンビの首が飛ぶ。
「皇后崎、逃げろ!」
「分かってます!」
皇后崎は橋からずいぶん遠くまで行ってしまった。
「ぴーぴーぴー緊急事態です。避難して下さい、橋は三分で崩壊します」
その時であった、タイミング悪く自爆装置が発動してしまったのだ。
「皇后崎! こっちにくるんだ! ロックが解除されたぞ!」
だが、皇后崎は橋から遠くにいる。しかもゾンビが行くをはばんでいるのだ。
「高中君……お元気で」
皇后崎は覚悟を決めたようにゾンビを引き連れて橋から離れていく。
「どこいくんだよ! 橋はこっちだぞ!」
高中は皇后崎を助ける為に後を追おうとする。
「だめだ! 速く行くんだ! 私の漢気を無駄にする気ですか!!」
「こ、皇后崎……」
皇后崎の姿はもうゾンビで見えなくなっていた。
高中は意を決して橋の中に入っていった。
「
高中さん! 速く、後二分もありません!」
「ああ、急ごう!!」
高中と川俣は直線の橋の中を全力疾走した。
そして残り一分になった時である。
「た、高中さん! あれは、あれはなんですか!?」
後ろから超突進してくる生き物を川俣が見つけてしまった。
「なんだあれ! きも!!」
それは非常にきもい生き物だった。しかしきもいだけではない。鋭利な爪をもっていてその俊敏な動きで斬りつけられたらあっという間に死んでしまうのが分かるほどだ。
そしてそのきもい生き物は何かを持っていた。
「……皇后崎!!」
きもい生き物が持っていた、正確にはくっついていたのは皇后崎が着ていた服の一部だった。皇后崎はこのきもい生き物に殺されたのだろう。
「くそ、許せねえ! このきもいやつは許せねえ!」
だが、そのきもい生き物が近づくに連れて高中はある人を思い出していった。
「こ、近藤?」
「高中さん、速く逃げましょうよ!」
川俣は慌てている。たしかに川俣じゃこの化け物には勝てない。
「お前は逃げろ! 俺はこいつと決着をつけてから行く!」
「た、高中さん、無理ですよ!」
「いいからいきやがれ、馬鹿!!」
高中の大きな声に川俣は一瞬怯んだが、そのまま強い眼差しで高中を見ると振り返って走っていった。
「近藤か? いや間違いなくお前は近藤だよ。それにしても余計、不細工な顔になったなお前……」
悲しそうな高中、だが近藤は動いている高中を殺す事しか頭にはないようだ。
「悲しいな、近藤よ。お前とラーメンを食べている時は楽しかったよ。とても、とても楽しかったよ」
近藤は高中に距離をつめる。そしてその鋭利な爪を振り上げた。
「ごめんな、俺はお前をやっちゃうよ」
素早く振り下ろした近藤の爪は空を切った。そして高中の包丁が近藤の腕を切り落とす。
「ぎゃー!!」
近藤のすさまじい絶叫が響き渡る。
だがそのまま叫んだ状態で近藤は高中に噛みつこうとする。
「あぶねえ!」
間一髪で近藤の噛みつきを避ける。高中はこの厳しい環境の中で確実に強くなっていた。
「近藤よ、次に噛みついてきたらお前の最後ぜ」
高中の言葉を聞いているのか、近藤は爪で襲ってきた。
だが、高中はそれを避けるともう一つの腕も切り落とす。そして時間を空けずに腹を切り裂いた。
「もう、動かないでくれ……頼む」
包丁はいままでたくさんのゾンビを斬ったせいでかなり弱っていた。
だが近藤は立ち上がる。
「くそ!」
高中は立ち上がった近藤の腹をまた裂く。
パキーン!
すると今まで使っていた包丁が、奇麗に折れてしまった。
「や、やばいぜ……」
高中の焦りとは裏腹に、近藤はまた立ち上がった。
「だめだ、俺……ここで死ぬ」
高中はあきらめてそこに立ちつくした。そして近藤は大きな口を開いた。
「がががが……たたがなが……」
「!?」
近藤は口を開いたが、高中に噛みつく事をしない。
「ばやぐ……にげど……」
なんと、奇跡的に近藤に一瞬意識が戻ったようだ。
「近藤? お前! 近藤!!」
高中は感激に叫ぶ。
「だがなが……ばなぜて、よ……かっだ……」
「俺もだ! 近藤!! 俺もだ!!」
高中の目からは涙が溢れる。近藤ともうラーメンを食べる事はないのだ。
「もう、もだねえ……はやぐいげ!!」
近藤の言葉を最後に高中は何も言わずに振り返って全力疾走した。
「自爆まで、あと三秒」
「三秒!?」
普通、三十秒前には言ってくれると思っていた高中は驚いた。
まだ出口まで五十メートルはある。
「二、一……自爆します」
三秒を全力で走って出口まで残り二十メートルあまり、高中は自爆の声を聞いても走った。
「ありゃーー!!」
そして、ものすごい爆発音と共に橋は真ん中から崩れたはじめた。
「やべえ!」
体勢が崩れた高中は真ん中から崩れようとしている橋に飲まれようとしていた。
「くそ、こんな所で!」
橋は大きく傾き高中は後十五メートルを動けない。
「だめだ、本当に終わった……」
高中が完全にあきらめた時、橋はいきなり体勢を元に戻した。
「何!?」
真ん中から崩れかけた橋を見ると、瀕死の状態である近藤が橋を支えていたのだ。
「最後まで、世話になっちまったな」
高中は近藤に一礼すると、そのまま十五メートルを走り抜けた。