朧月夜は観客席に座り、
おいらが出てくるのを待っていると、一回戦がはじまるようだった。
「殺丸選手、入場です」
青コーナーの方から、体中に切り傷のある男がゆっくりと入場してきた。赤い髪を立たせ、その表情はどこか余裕のようなものを感じさせる。
「
ニッキー選手、入場です」
赤コーナーからはニッキーという男が入場してきた。おいらよりは大きくないものの、巨漢な男で、さっきの殺丸はどうにも相手になりそそうもない。
「おーい、日本人がんばれ!」
どうみても、不利だが少し日本に興味があった朧月夜は殺丸のほうを応援しようと思った。男は不敵に笑い、ゴングが鳴るのを待っている。
レフェリーが何かを言うと、ゴングが鳴らされ、ニッキーが一気に殺丸に襲い掛かった。
「おらおらおらあ!」
「うえ?」
突然のニッキーの攻撃に面を喰らったのか、殺丸はガード越しに重いパンチをもらって吹っ飛んだ。
「ダウン!」
「スリップだよ、ちくしょうあのでか男め」
悔しそうに顔を歪める。レフェリーが「ファイ!」というと、チャンスとみたのかニッキーがまた出てくる。腕を振り回し、強引にその太い腕を当てにいくが、今回はステップでその攻撃を次々にかわしていく。
「悪いな、もう見切ったみたいだ」
「なんだとー!」
殺丸の言葉は本当だった。
怒りのニッキーが大振りのフックを放つところに、殺丸のストレートパンチがヒットしたのだ。顎を打ち抜かれたニッキーは力なく、そのままリングに倒れた。
「まずは一回戦、やらせてもらいやしたよ」
へへっと、鼻をならしてリングを後にする殺丸。その動きはキレがあり、まだ底が知れない。朧月夜はおいらが大丈夫なのか少し不安になる。
「ブラジルに誇る、最強の肉弾魔人。今宵もその連勝記録を重ねるのか。青コーナーより、おいら選手の入場!」
何やら、力の入ったアナウンス。
ダッシュでリングインし、たかだかに腕を振り上げるおいらに観客が大声援だ。
「ふ、心配する必要はなさそうじゃの」
自信満々のおいらに、朧月夜はなんだか心配して損をした気持ちになった。
最終更新:2008年12月17日 22:47