あれから時は過ぎ、平盛17年の元日を迎えた。
しかし真北には正月三が日にいずれも勤務が入っていたので、初詣には行けなかった。
近江神宮前駅には神宮の前だけにあって初詣客でにぎわっていた。真北は次から次へと客の対応に追われていた。
ようやく勤務を終えた真北は自宅に帰ると、テレビでは世界各国の新年を祝う映像が流れていた。特に、ひときわ派手な国があった。
「何これ?」
真北は目を疑った、とある国の新年を祝うパレードを。軍隊が行進し、歩道には民間人が見物に来ていて、やがてワゴンの上には小林幸子並の派手な衣装を着た女性が三人歌っていた。車両や建物にはカラフルな電飾が施され、まるで浦安の某遊園地のような派手なパレード、いや、それ以上である。
「ああ、デイン帝国よ、シベリアとかそういうあたりの国。」康太郎は言った。
「デインってこんな国だったっけ?」
「うん、最近力を付け始めたみたい。ソビエト解体で独立してから数年して国王が変わって以来、新年行事も年々派手になっている。」
やがて映像はパレードから大広場での国の指導者の演説に変わる。
「あの人誰?」
「国王だよ」
「えっ!?帝国って言ってなかった!?」
「この国はどうやら国王と皇帝がいるんだ。」
「へぇ、変わった国だな」
しかし、どうも不自然だった。国王の長ったらしい演説に、国民こうあっさり釘付けになり、終わったら会場いる民間人は一斉に敬礼をする。その間、その広場の周辺を歩き回る人はいない。
「ひょっとして、この国はブラックな国じゃないのか」真北はそう疑う。
「ブラックな国?どこが?」
「いや、絶対そうだ。某共産圏の国と一緒だ」
「確かに旧ソ連だけあってそういう雰囲気がしないとも思えないが」
それからして、チャンネルを変え、別のニュース番組を見ていた。すると、その番組でもまた、デインの新年パレードの映像が流れていた。そう、デインの派手なパレードは世界中の注目を集めている。
「しかしデインって派手だ。リオのカーニバルや浦安の某遊園地、岸和田のだんじりでもそこまで派手にやらないさ。」
「ほんとにおかしい。」
翌日、真北はいつものように仕事に向かうと、
「おはようございます」真北は挨拶をする。
「おはようございます」と、返事をしたのは真北の同僚の坪内繁。彼は世界史や世界情勢についてはかなり詳しい。
「ところで、デイン帝国ってどんな国かご存じですか」真北は訊く。
「ああ、デイン帝国の歴史は1500年近くもある。初代国王のアースは、今のデインシティの前身ガルガーラという小さな町を首都として建国した。最初はマイナーな国だったが、16世紀に、兵力は強く、諸産業も発達し「世界の強国」とも呼ばれた。やがてイギリスで産業革命が発生すると、イギリスとの貿易で栄え、さらに発展した。19世紀、ロシアや清、モンゴルに侵攻し、国土を広げた。しかし、ロシア革命が発生すると、デイン本土でも便乗するかのように社会主義運動が勃発し、帝政は一度倒れ、ソビエトに編入された。それから1991年にソビエトが崩壊し、デインは念願の再独立を果たし、1995年に今の国王であるアシュナードが就任すると、軍拡などを推し進め、再び強国としての地位を築き上げた。」
「へぇ、そうなんですか。」
「しかしアシュナードは恐怖政治を行い、一度彼に刃向かう者がいれば、牢獄に入れるかもしくはギロチンで首を取る。それくらいアシュナードは残虐な人らしいです。もちろん、国民達は個人崇拝を強要され、言論の自由もないと言われています。」
「それはひどいですよ」
一方、海を越えて極東のとある国では
「やれやれだ、国王陛下も我々を雇ってくださるぜ」
「戦車工場とはいえ、働き口が見つかって何よりだ」
どうやら労働者3名による会話である。
「デインシティは生産人口270万人。独立当時、二桁あった失業率も今や3.1パーセントだぜ」
「やはり国王陛下に感謝しないと」
「ところであんたはどこで働くんだ」
「俺は飛行機の工場さ、戦闘機をばんばん作って、将来は国の要になりたいさ」
「おお、俺は野戦食を作る工場さ。」
「俺たちは完全に国の原動力さ」
デイン帝国、この国は軍国主義になろうとしている。今後、世界をリードする国になるかもしれない。
2月、中国の枦正一主席が日中首脳会談のため来日した。後世中国も共産党による一党独裁で、前世同様、日本と歴史認識や尖閣諸島をめぐって対立している。
枦は帰国してからのことだった。彼は北京空港に降り立つ瞬間のことだった。
バァーーンッ!
「ぐわぁっ・・・・」
枦は突然の凶弾に倒れた。あわててボディガードや側近、その他政府や党の幹部が枦に声をかける。
やがて救急車が到着し、枦は搬送された。しかし、もはや手遅れだった。彼は病院に到着するやいなや、息を引き取った。
程なくしてこの事件は国内外に広く報じられ、世界中に激震が走った。突然の死に、憤りを覚える者もいれば、悲しみに暮れる者もいた。
それから数日後、デイン帝国首都デインシティにある王城。
そこは国王アシュナードと皇帝グローとその親族や一部の政府や軍の幹部でしか普通は立ち入ることが許されない。
アシュナードは二人の軍人を招く。
「よくやった、見事な暗殺じゃった」アシュナードは語りかける。
「ありがとうございます。」軍人は礼を言う。
実はこの枦正一暗殺事件はデイン帝国の仕業であることを、その他の国はまだ知らない。
続く
最終更新:2008年12月22日 22:00