おいらの見る月夜 試合後の二人

 その夜、おいらの稼いだ金で二人はホテルに泊まることになった。
「主のおかげで久しぶりにゆっくりできる」
 初日を気絶したまま寝たおかげで、風呂にも入ってない。しかも、アマゾンにいたせいか体中がべたべただ。
「俺は落ち着かないけどな。土がねえと、いまいちしっくりこねえ」
「主は人か? それとも、獣か?」
 おいらがよいしょといいながらベッドに横になると、メリっとすごい音がしたが、そんなことは気にしないようだ。朧月夜は見なかったふりをして窓を開けた。
「ふう、どうもこの男がいるせいか暑苦しいわ」
 ふわりと夜風が部屋に入ってきて、なんだか気持ちが良い。
「あ、おいらよ! 間違っても変なことをしてみろ! 我は絶対に主を……」
「ぐがー」
「ぬー!」
 すでに爆睡しているおいら。ベッドはくの字にへし曲がっているが、本当に気にならなかったらしい。
「それにしても、ここまで逃げてきたわいいがの。どうしたものか」
 遠い星、それでも近い方。ここまで太陽の民を避けて逃げてきたわいいが、察しの良い太陽の王子にはすぐに見つかってしまうことだろう。
「最悪、明日にはくるであろうな。まあ、その時にはこの男が役に立つじゃろうが」
 窓を閉め、朧月夜もベッドに横になった。
 木が軋む音がするが、丈夫なベッドで横になったくらいじゃ到底壊れそうもない。やはり、おいらが異常なだけか。
 心残りは月においてきた両親、それに友人や餅つき達だ。皆、元気にしているだろうか。いや、元気すぎるだろう。何せ、あの宇宙一暑苦しい星から手厚い接待を受けているのだから。
「はあ、このおいらも似ているわ。こやつ、太陽の民じゃなかろうな」
 純粋で熱い性格。まるで太陽の民のような人間。だけど、その体格や肌の色なんか土星人に近いものがある。しかも、あの強さはもしかすれば宇宙でも通用するものをもっているかもしれない。
「なあ、おいらよ。主は何者じゃ。情報じゃ地球人は弱く脆い生物と聞いておったんじゃがの」
 殺丸が言っていた言葉。戦争。たくさんの人が血を流す争い。月でもよくそんなことがあった。だけど、戦姫とも言われる朧月夜が遠方から魔法の援助をすれば負けることは無かった。月はごく平和な星だ。餅つきをする兎がいれば、みんなそれを食べて楽しく過ごしている。実を言うと、月から逃げ出したのはそんな平和でつまらない生活に嫌気がさしていたというのもあった。
 あんな近くで人間同士の戦いを見るとは思わなかった。接近して戦えば、自分ですら勝つことはできないだろう。
「ぬ、寝るか」
 様々な考えが脳裏に浮かぶが、アマゾンにいて疲れた朧月夜は寝ることにした。電気を消すと、どこかでまだ騒ぎの声がしていたが、隣のおいらのいびきに比べると全然マシだった。
最終更新:2008年12月26日 10:12
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