おいらの見る月夜 殺丸との再会

 空港で出会ったのは偶然にもおいらと拳を交えた殺丸だった。旅行鞄を肩に担ぎ、同じ飛行機に乗るところだった。
「ひひ、偶然というか運命じみたものを感じるな」
「日本に帰るのか?」
「まあ、なんていうかな、帰るというかな。まあ、そんなとこだ」
 サングラスの隙間からこちらを見てニヤリとする殺丸。何かあるとおいらは察するが口には出さないでおく。
「おたくら、日本に来てどうするんだ?」
「へ?」
 そういえば、ただ朧月夜に似ている人がいただけで日本に行こうとしたが、何をしようとかまるで考えていなかった。
「何するんだ?」
「知らんよ」
 朧月夜はどっちでもいいといった様子だ。おいらとしては困った。これでは単純で単細胞だと思われてしまう。
「旅行だよ、日本に行ってお月見をするんだ」
 ブラジルには無い習慣、お月見というワードを出して博学ぶりをアピールする。
「お月見なんて、ここでも出来るじゃねえか。でも、餅がねえか」
「そう、餅と酒。だから、俺達は日本に行くんだ。な?」
 朧月夜を見ると、何やら顔が赤くなっていた。
「どうしたんだ?」
「ぬ、主はいきなり何を言っとるのか。我はまだ会って数日もたたないわけの分からぬ野蛮な男と、お月見などできんぞ! この無礼者が!」
 どうやら怒っていたらしい、たこのように真っ赤になりながらおいらをぽかぽか殴っている。
「なんだよ、そんなに嫌ならいいけどよ。じゃあ、どうするんだよ」
「ん、いいのか? そうか、そうじゃな。それに、お月見をするなら我の父上と母上も一緒でなくてはならん」
「そうだな、皆一緒の方が楽しいよな」
 月の人間にとっちゃ遊び半分というか、ただ月見をするだけじゃ駄目らしい。儀式のようなものか何か知らないが、わざわざ親を連れてやるのだから意味のあることなのだろう。
「じゃあ、何しに日本に行くんだ?」
「ただの旅行になった」
「ひひ、そう見たいだな」
「で、お前は何が言いたい?」
 おいらの言葉に殺丸の緩んだ口が一瞬引き締まった。
「俺と一緒に戦ってくれねえかなって」
「んあ?」
 殺丸は復讐に燃えていた。両親を殺され、友人やらすべてが殺された。日本は第二次戦国時代と言われるほど、内戦が相次いでいた。だから、おいらのように日本に旅行に来るなんて輩はいないはずだと妙に感じていた。
 おいらの方は多分、無策。何かあるのは女のほう。
「俺の住む日本はもはや平和な国ではない。裏の住民が日本を動かしている。ひひ、俺みたいな戦争堕ちは日本から逃げてあちこちに逃げて行ったけどよ。日々、聞こえるんだよな。家族や友の恨みの声がね。あいつらを殺せ、あいつらを殺せってよ。聞こえる度に背筋がぞくぞくして誰でもいいから殺したくなっちまう。だけど、俺一人じゃ自殺しに行くようなものでな。できれば、お前と共闘したいってとこだ。見返りとしてはな……」
「分かった。やろうぜ」
「は?」
 おいらの答えは即答だった。
 まだ、見返りとしての報酬を言っていないはずだ。おいらにとってこの戦いに良いことなんてない。ただの危険な戦いだ。こっちは何もまだ条件を示していないのに、どういうことかわからない。
「おい、お前」
「いっとくが、無償だぜ。俺は強くなりたいんだ。こんな危険なところなんて滅多にいけるわけじゃない。もちろんいかせてもらう」
「ひひ、とんでもない大物だぜ。あんた」
 強くなれるのが、この男にとって報酬だったらしい。どこまで、強さに貪欲な奴だ。
 だけど、何故ここまで強さを求めるのか。よく理解はできない。今ですら、強い。母国では最強を名乗るほど。何故、それ以上を目指すのか知りたくないわけじゃない。しかし、それを聞くのは心外でもあった。
「朧月夜、お前はどこかのホテルで待っていてくれ」
「見くびるな、おいらよ。我は援助役とすれば宇宙最強。太陽の民すら欲する力を持っているのだぞ。この小さな星の小さな国の問題なぞ、我が居ればあっという間じゃ」
 気の強そうな女だ。こりゃあ、この馬鹿な巨人では足元を掬われそうだ。だけど、この男の戦闘力は並どころじゃない。俺ですら、一歩を踏み込むのに勇気がいるほどの力を持っている。戦場を駆け抜けた俺がだ。
「俺は、お前の力知らないしな。どうもこうも言えないぜ」
 おいらの言葉にかちんときたのか、女の方の空気が変わった。髪の毛がふわりと浮き上がり、妙な言葉を口走っている。
「どうじゃ、何か分からんか?」
 おいらの様子がおかしい。両手を見合い、何やら震えている。
「お前、何をしたんだ。すごいぞ、こりゃあこのまま地球を叩いたら半分にしちまいそうだ」
「ふん、どうじゃ。これが我の力、宇宙の全てが欲する力じゃ」
「すげえよ! お前! 最高!」
「こ、こら! やめんか!」
 結局仲のよさそうな二人だ。おいらが手を握って振り回しているが、彼女の方もまんざらじゃない表情をしている。
「ひひ、どうだ。結論はでたか?」
「もちろん、やってやるぜ」
 これで、復讐できる。ずっと待っていた。自分と同じ、いやそれ以上の力を持つ男を。向かう先は東京のしかも一番高いところ。東京ミッドナイトタワーに奴はいる。誰よりも頂点を目指し、全てを見下し、破壊してきた男。そして、何も怖いものなんてなかった俺が恐れをなして逃げ出すほどの力を持つ男。
最終更新:2009年01月09日 23:07
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