おいらの見る月夜 横綱の誇り

 タワーの中は複雑に入り組まれていた。どうも、怪しいとしかいいようがないものが置かれている。
「麻薬だな、それに銃器もある」
「政府が壊滅した日本は無法地帯なんでね、そんなもの珍しくもなんともないぜ」
 おいらはきょろきょろと建物を見て回るが、さっぱりと何がなんだか分からなかった。
「それにしてもおかしい、武装兵が出てこない」
「うおおおお! どすこーい!」
「なんだなんだあ!」
 ものすごく気合の入った声が聞こえてきた。しかも、あからさまにどすこいと。
「今の声、聞いたかよ。あのちょっとぐもった癖のある声、横綱だぜ?」
 横綱、聞いたこともない名前だ。
「日本人じゃなきゃ、分からないよな。ロシアやモンゴルならともかくブラジルじゃあ相撲ははやらんし」
 殺丸の話だと、日本では偉大なふとっちょということだ。何せ、半端なく強いというはなしらしい。
「その偉大な横綱がなんでこんなところに!?」
「俺だって知りたいぜ」
 走りながら、話していると、そこに巨大な肉の塊が現れた。
「く、糞! 怪物だ! ゆるしてくれ!」
「ごっつあん、あんたら大事な巡業を台無しにしてくれたでごわす。絶対にゆるさんでごわす! 横綱の誇りどす!」
 張り手一線、銃を持った男達は吹っ飛んでいってしまった。
「おい、いったい何を?」
「どすこい! また、新手な敵でごわすか!?」
 肉の塊がもんごりもんごりと動き回る。
「違う、俺達は多分あんたの味方だ! ここをぶっこわしにきたんだろ?」
「そうでごわす!」
「俺達もそうなんだ!」
「なんでごわすとどすこい!?」
 昼黄龍は興行をタワーのテロリストに荒らされて台無しにされたらしい。横綱としての誇り、そして怒り。昼黄龍が復讐にタワーに突っ込むのは当然のことだった。
「おいどん、力になるでごわす」
「だけど、横綱はでかすぎるしな」
 殺丸は思いついた。横綱には悪いが、敵をひきつける囮になってもらうことだ。
「横綱、あんたはさっきみたいに暴れまわってくれ。そのうちに俺達が上部を叩くからよ」
「分かったでごわす。おいどん、ここらで暴れまわるほうが性に合っているでごわす。ごっつああああああん!」
 ブルドーザーのごとく、昼黄龍が突っ込んでいった。
「うひゃあ、大迫力だね」
「よし、じゃあ我らは先に進もうぞ!」
最終更新:2009年01月12日 23:38
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