ジリリリリリ!、目覚まし時計が鳴る。時刻は6時30分08秒。
低血圧のせいか、先ほどの夢のせいかまだ気分が優れない。
まだ覚醒しきっていない頭を起こすべく俺は窓へ向かい緑色のカーテンを開ける。
すると今の気持ちとは反対にサンサンと輝く太陽が一日の始まりを告げている。
「まぶし・・・」
手をかざして呟く。
「さて、と着替えるか」
パジャマを脱ぎベッドの上に放り投げ、似合いもしないスーツをクローゼットから取り出し着替える。
ふらつきながら階段を降り、リビングへ行くと父さんがコーヒー片手に新聞を読んでいた。
「おはよ・・・ふぁあ」
欠伸交じりに気だるそうに俺が言うと
「おはよう冬弥、朝からそんなんだと幸せが逃げるぞ」
などと父さんが言う、余計なおせっかいだ。
そこにエプロン姿の母さんが洗濯物を持って登場、そして一言。
「あら冬弥起きてたの、起きたんならさっさと顔洗って固くならないうちにご飯食べちゃいなさい」
「はいはい」
生返事で答える。全く、今日は大学の卒業式なんだから今日くらいもう少し代わり映えのする台詞はないのか?
まぁ、逆に盛大にお祝いされながらの登校なんてのもそれはそれで嫌なもんだが。
そう心の中でぼやき、母さんの言う通り顔を洗って朝食を済ますと時刻は7時16分38秒。
バスの時間は7時24分、バス停まで2分で行けるからあと5分程暇である。
5分は暇のうちに入らないという人も多数いるだろうが、こんなときに限って長く感じるものである。
短く感じる程慌しいのもあれだが・・・
そんなことを考えてる内に5分は過ぎてしまった、やはり短かったな。
「いってきまーす」
気のない挨拶で家を出て、バス停に着くと同時にバスが来た。
さすがに4年も同じことの繰り返ししてりゃこれくらい楽なことだ。
バスに乗ると見慣れた、見慣れすぎて飽きてきた顔がちらほらとある。出勤途中のサラリーマン、少しケバい女子高生。
そして同じ大学4年の友人、大海聡。
「やっほー」
聡が手を振って言う。
「うぃーす、隣座るぞ」
愛想の欠片もない返事をして座る。
「相変わらず元気ないねー、卒業式くらい元気だしたらどうなのさ?」
「お涙ちょうだいが定番の卒業式で元気すぎる奴もどうかと思うけどな」
少しひねくれた言い方をする俺。
「あはは、でも冬弥ってこういうの絶対泣かなそうだよね」
「俺がそんな冷めた人間だと思うか?」
「え?じゃあ泣くの?」
「・・・未来は誰にも予測できんからな、多分泣かないと思うが・・・」
なんて少し痛い台詞を言ってると
「わいは泣くで!」
後頭部付近から第三者の声、振り向くとまたもや見覚えのある顔。
「お、桜木じゃないか」
「ホントだ、要人じゃん、いつからいたの?」
「やっほー、うぃーす、隣座るぞからや」
「ようは最初からだろ・・・」
いちいちめんどくさい言い方をする奴だ、普通に最初から居たといえばいいものを。
「せや、最初からやで?冬弥が乗ったときにはすでに聡の後ろの席に座っとったで?せやのにお前は聡だけに声かけた、なんでや、わいはそんなに影が薄いんか!?」
いつもこんな感じのにぎやかなやり取り、いい加減飽きたぜ・・・なんていうほど俺は薄情じゃないが・・・いかんせんうざい。
「いや、だってお前寝てたし・・・」
「寝とらへんわ、目瞑って音楽聴いとっただけや!」
ちょいと無茶な言い訳だな、おい。
「だから小刻みに振動してたのか、ってどっちにしろ声かけられないじゃねぇか」
「アホか!その為にイヤホン片耳にしかしとらへんで、あと振動ゆうな、リズム刻んどった言えや!」
あーあ、めんどくせ・・・
「そんな細かいこと気付けるか!」
「まぁ、そないな細かいことは寛大なわいが見逃したる。感謝せぇや?にしてもお前スーツ似合わんのぉ」
自分で自分を寛大って言う奴初めて見たよ、そしてなぜ上から目線。誕生日は俺のが早い。
「うっせ、自分でも解ってるんだからほっとけ」
胸にぐさりと刺さる言葉の矢、精一杯の強がり・・・のつもり。
「そーだよ要人、いくら冬弥が中の下レベルのルックスで我が強くて血縁関係のない人で紗夜ちゃんと咲ちゃん以外の女の子と喋ったことのないヘタレでよくこんな学力で卒業できるなって言うほどの残念な頭でも、本人が気にしてることを言っちゃだめだよぉー」
追い討ちをかけるかのようにさらにグサグサと音をたてて突き刺さる無数の矢。
すでに瀕死状態、どこかに薬草かポーションはないのか?
「聡、お前のほうが俺の気にしてることにづかづかと土足で入ってきているんだが・・・」
『えー、次、瑞鳥(みずのとり)町、瑞鳥町、終点です。お降りの方は忘れ物の無いようお気をつけてお降りください』
「あ、ほらもう降りなきゃ!」
聡が車内アナウンスを良いことに会話を半ば強引に止める。多少の不機嫌は残りつつもバスを降り、地下鉄に乗る。
どうでもいいことだけど、なんで地下鉄の長い階段にエスカレーターは無いのだろう?短い方にはあるのに。
「そういえば今日って何時くらいに終わるんだっけ?」
「なんや、そんなことも知らんのかいな、そんなんやからお前は一生へタレなんや」
素朴な疑問に対して無駄につんけんした返事、俺は男にツンデレを求めてはいないぞ。女にも求めてはないが。
「じゃあ、お前知ってるのかよ?」
またまた無駄な強がり。
「当たり前田のあきらさんや、11時30分ごろに終了よて・・・」
「違うよ要人、12時30分に終了予定だよ」
聡が言い切る前に間違いを指摘する、ってか違ってるじゃねぇかお前、それと当たり前田のあきらさんて誰だよ。
突っ込もうとしたが、めんどくさそうな答えが返ってきそうなのでやめといた。
「あ、そうやっけか?」
「ほらここ、終了予定時刻12時30分って書いてあるでしょ?」
聡がカバンから卒業式の予定なるものを取り出し指を指す。
「ん?どれど・・・」
俺が除き込もうとした途端電車が急カーブをし、よろけた聡が卒業式の予定を落とす。
「あっ・・・」
近くの制服姿の女の子が拾い、聡に渡す。
「どうもありがとうございま・・・あ、咲ちゃんに紗夜ちゃん」
「みんなおは・・・」
「おっはよー!」
咲が言い切る前に紗夜が大声で言う。と同時に同じ車両の人達の視線が俺(達)に注がれる。さっきの矢はまだ抜けきってないってのに。
「おぉ、おはよ」
「なぁ、毎回思うねんけどお前ら性格と名前逆とちゃうん?」
俺も思うがあえて言わない、無論数少ない喋れる女子に嫌われたくないからな!
「そんなことな・・・」
「そんなこと知るかっつーの!」
また咲が言い切る前に紗夜が喋る。
「紗夜ちゃん、ここ公共の施設だからもう少し静かに喋ろ?」
聡が口に人差し指を当てて言う。男子がやるのは珍しいな。
「あぁ、ごめんごめん」
なんていいながら紗夜は顔の前で手を合わせる。
「次、風白(かざしろ)大学院前、風白大学院前、お出口は左側です」
車内アナウンスが俺らの会話を止める。
「もう学校か、なんか緊張してきちゃった」
「せやなー、なんか妙な緊張感に煽られるよな」
「はっ、要人がそんなこと言ってもヘタレに思われるだけだぜ、あ、聡君は可愛いから別だよ」
なんという差別、少し要人に同情を覚えるよ。
「えっと、褒められたのかよくわかんないけど、ありがとう・・・」
「なんやてオラ」
「あぁ?むかつくんならかかってこいよ、あんたが柔道二段のあたしに勝てると思うんならね!」
「さすが未来の夫婦、仲いいねー」
聡が要人と紗夜の二人を茶化す。いつもこんなのが続くんだぜ?もう見飽きた。
「なんやて聡?」「なんだって聡君?」
綺麗にハモった。
「聡君、あんまり紗夜ちゃんたちをからかっちゃダメだよ」
「お前ら置いてくぞー」
睨み合う桜木と咲、その横で笑う聡、こんなのを何度も見れば冷静でいるほかないだろう。変に首突っ込んでこっちに被害が出るのもごめんだしな。
「あぁ!待って!冬弥君!ほら、みんなも早く来ないと置いてかれるよ!」
2章終わり。
ちょっと長くなりました。
いや、1章が短すぎたのかな?
それはさておき、どうでしたか第2章?大学生5人組のこれからの展開に乞うご期待!
10/2一部修正
最終更新:2011年07月29日 17:45