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131 進め、生きるのならば [放送直後] ---- 何処からか響く道化の声。 告げられる死者の名の中には、もちろん『彼女の名』も含まれていて。 ――♀クルセイダーさん。 ♂騎士はその名が聞こえた瞬間、彼の前で慟哭する青年へと視線をやった。 少しだけ落ち着いてきていた♂アルケミだったが。その肩が、再び震えだす。 (あぁ、♂アルケミ。本当にお前は俺と似ているな) もちろん死んだ大切な人のために泣くとはいっても、二人に違いはあったが。 ♂騎士は、手にかけてしまったことへの後悔。♂アルケミは、ただ虚ろに絶望する。 共通する感情は――この理不尽なゲームへの怒り。 慰めの言葉もかけてやることができずに。ただ、ほとんど見知っていない少女の為に祈りを捧げる。 ♂アルケミがこんなに大切に想う娘だ。きっといい娘だったのだろう。 ♂騎士はぼんやりとそんなことを考えていた。 「っ!」 ばしり、と頬を打たれ。♂騎士は目を見開いた。 彼の前には、マイトスタッフを手にした♂アルケミが立っている。 (……何か、おかしい) 衝撃こそあれ、不思議と頬はほとんど痛くない。 自分の体に疑問はあったが、それどころではない、と彼は思考を戻した。 震える手で、♂アルケミは杖を何度も振り下ろしてくる。 その顔に浮かぶのは、恐怖。 (おいおい、これじゃ本当にSMじゃないか。そんな趣味はないぞ) こんな状況で♂騎士が妙に冷静でいられたのは、痛みが何故かほとんどないせいもあったが。 それよりも、♂アルケミの表情にこれ以上ないほど見覚えがあったからだ。 「お前、俺が怖いんだろ」 彼がそう呟くと、♂アルケミの手が止まった。 そして、震える声でこう呟いた。 「どうして…抵抗しない? 今あんた、俺に殺されそうになってるんだぞ」 「抵抗しないようにお前が縛ったんだろ」 「そうじゃなくて! 叫びもしない、暴れもしない。あんた何か怖いよ!」 ♂アルケミの言葉に、♂騎士は笑みすら浮かべながらこう返した。 「そんなことを考えられるんだ。お前はあの時の俺よりよっぽどましだよ。 お前を俺なんかと一緒にしちゃいけないのかもな」 ♂騎士の脳裏には、あの夕方――悪夢の情景が浮かんでは消えていた。 「あの時…って、あんた一体?」 当然の疑問だ。♂騎士は静かに覚悟を決めた。 彼を慰めることなど自分にはできはしないが、自分の話が何かの役に立つかもしれない。 「確かに…自分のことを何も話さずに、信じろってのも無理な話だよな。 わかった、話そう。俺がこのふざけたゲームで何を考え、……何をしてきたか。 俺をどうするかは…その後お前が自由に決めたらいい」 ♂騎士は全てを話した。 ♂ローグに突然襲われ、人間が怖くなったこと。 湧き上がる恐怖に耐えられず、愛していたはずの♀プリーストを手にかけたこと。 罪の意識で彷徨う中♂プリーストと出会い、彼の言葉に罪を生きて償う勇気を貰ったこと。 そして今。♂アルケミを過去の自分と重ねているのだということ。 「怒ったか? 人殺しなんかと一緒にすんじゃないって。 それとも笑ったか? 聖職者を殺した俺が、聖職者に導かれたなんて」 「……そんなことしないよ」 「まぁ…これからお前がどういう風に生きるつもりかは知らないが、復讐はやめとけよ。 それはこの腐ったゲームに乗るってことだ。そんなの悔しいだろ。 復讐なんてあの娘だって望んでない、なんて綺麗なことを言うのは簡単だが…それができない人間なもんでな、俺は」 ♂騎士の言葉を、♂アルケミは黙って聞いている。 「さて、どうする? さすがにまだ死にたくはないが、お前が俺を怖く思って、殺したいってんならそれでも……」 するり。 解かれたロープに、♂騎士は目を丸くした。 「おいおい、どういう風の吹き回しだ? …本当にいいのかよ」 「いいんだよ。今のあんたの目、人殺しのものじゃないし。 それに、なんだか急にあんたが怖くなくなった。なんか、背中預けられるかもって…思ったし」 そう呟く♂アルケミの表情に嘘はない。 思っていた形とは違ったが、コミュニケーションはとれたらしい。♂騎士は胸を撫で下ろした。 「背中預けられるって……まさかお前、俺に惚れたか? 悪いけど俺には大切な人が……」 「ばっ…! 頭おかしいのかあんたは! 俺にだって♀クルセっていう惹かれてた人が! …って、あ……」 「ふーん。やっぱりそうだったんだな。危険の中で生まれる愛か。青春だねえ」 「う、うるさいな! また縛るぞ!」 少し前にはまともに言葉を交わすことすらできなかった二人。 そうとは思えないほど打ち解けることができたのは、このギリギリの状況でどこかがおかしくなったからなのか、それとも……。 「で、これからどうするんだ?」 「どうするって。まずやることは決まってるだろ」 「え?」 きょとんとする♂アルケミ。本気で思いつかないらしい。 「あのなぁ。あのクルセイダーの娘をあんなとこに転がしとくつもりかよ」 「あ……」 彼の言葉を聞き、♂アルケミは俯いた。 ――どうして忘れてしまっていたんだ。俺はあんなに彼女の死を悲しんでいたじゃないか…それなのに。 「可哀想ってのもあるけど…これは、お前が前に進むために必要なことだと思う。…俺もそうだったから。 頑張って生きてみようぜ。あの娘の分まで、さ」 「そう…だな」 彼女もそれを望んでいる。そんな気がした。 大好きな♀クルセ。きっと彼女は全てを…そう、魂まで自分にくれたのだろう。 ♂アルケミはなぜかはわからないが、そう感じていた。 「ま、お前があの娘を埋葬してやってる間、俺が守っといてやるから安心しとけ。 背中預けてくれるんだろ? 俺はその娘の代わりになんかなりゃしないけどさ」 そう言って♂騎士は笑ってみせた。 「あぁ…頼むよ」 それを見て、♂アルケミも笑顔を返した。 傍から見たら薔薇が咲いているようにしか見えないのはきっと気のせいだ。 ♀クルセを失い、止まっていた♂アルケミの歯車。 それが再び……彼と似た過去を持つ男の手によって、今動き出した。 <♂騎士> 現在位置:F-3 所持品:S3ナイフ、ツルギ、S1少女の日記、青箱1個 外見特徴:憔悴しきり、陰りのある顔。だが、瞳は意志の強さを感じさせる 備考:プロテインの効果で痛覚を失いつつある。♂ケミと共に行動 <♂アルケミスト> 現在位置:F-3 所持品:マイトスタッフ、割れにくい試験管・空きビン・ポーション瓶各10本 外見特徴:BSデフォ・青(csm:4j0g50k2) 備考:BRに反抗するためゲームからの脱出を図る ファザコン気味? 半製造型 ♂騎士と共に行動 ♀クルセを埋葬しにいく。ケミ騎士ペアのその後の行動はおまかせ <残り33名> ---- | [[戻る>2-130]] | [[目次>第二回目次2]] | [[進む>2-132]] |
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