バトルROワイアル@Wiki内検索 / 「2-281」で検索した結果

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  • 2-281
    281.噛み合わない歯車[3日目午前] 遠くからかすかに言い合う声が聞こえた。 一瞬そちらへ気を取られた♂騎士は注意を目の前の茂みへ視線を戻す。 「そこの奴、出てこい」 騒ぎが聞こえると同時にそこでもはっきり気配が動いた。 誰かが隠れている。 しかし声を掛けてもすぐに出てくる様子はなかった。 剣を構え一歩踏み出す。 「来ないならこっちから行くぞ」 ゆっくり待っている暇はない。 聞こえた騒ぎが♀ハンターの引き起こしたものなら止めに行かなくてはいけないし、一方的に撃たれまくった♀騎士の具合も気になる。 すると茂みの向こうの誰かが口を開いた。 「出てもいいのですが、その前に質問です」 意外にも落ち着いた男の声。聞き覚えはないがとりあえず敵ではないらしい。 半ば戦う覚悟を固めていた彼は軽く意表をつかれて足を止める。 「…なんだ」 「そちらのお二人はどうし...
  • 2-283
    283.悪意は静かに笑う[三日目午前] 「♀商人さんなら、私達と一緒に・・・」 淫徒プリと悪ケミは同時に振り返る 「・・・見る影もないよ?」「それ、言葉の使い所間違ってる」 「うるさいわね!」 ♀マジのツッコミに、♀アコが叫ぶ 「少し早く歩きすぎたかな・・・」 「一緒に戻ろうと言いましたから、もう少ししたら戻られると思いますが・・・」 不安げに言う悪ケミと淫徒プリ 「・・・来ないね」 「うん、こない」 ♀マジと♀アコが顔を見合わせる 淫徒プリの言葉虚しく、軽く♂プリと全員の自己紹介を済ませたが一向に♀商人が戻る気配はない 「私があの時目を離さなければ・・・」 「そんな事言ったら、私だってそうだよ。今は♀商人と♀ケミを探そ?」 自分を攻める淫徒プリに、悪ケミがフォローを入れる 「そうだよ、♀ケミにも謝らないといけないしね。♀マジなんて本気で魔法撃ってたし...
  • 2-284
    284. 迷い道回り道 [3日目午前] ひたひた、ひたひた ♀商人はただまっすぐに進む。 自分の足音に追われるようにして。 木漏れ日の作る影におびえ、 風の鳴る音に身をすくませながら。 後ろを振り返るのが怖い。 振り返ればさっきの化け物がすぐそこに居るような。 目的地があるわけでもないのに、足取りは次第に速くなる。 ひたひた、ひたひた 視線は前へ向いていても、意識は後ろにばかり向かって。 だから声を掛けられるまで気付くこともできなかった。 「おい」 「ひっ!?」 突然行く手の木陰から現れた人影に彼女は硬直する。 よろめくように数歩あとずさり、しかしそれ以上は足が止まった。 戻れば「あれ」がいるかもしれない。 前門の虎後門の狼。 カチカチと歯が鳴り、手のひらに嫌な汗が湧いた。 カートの取っ...
  • 2-288
    288.彼女の結末[三日目昼頃]  気付いた時、辺りには誰もいなかった。  己の相棒の姿も、何処にもなかった。  戦闘の跡か。これは、何だ。不気味な生物の残骸のようなものと、その体液であろう気味の悪い染みが散らばっている。  おぼろげに辿ってみた記憶の最後の映像は、羽虫の女王と大勢の人間との対峙。一体あれから、どうなったのだろうか――。  そうだ。こうしてはいられない。  あの頼りない相棒は一体、どこに行ってしまったのか。探さなければ。  ばさりと広げた翼に違和感と多少の痛み。火傷をしている。  ……この程度、何でも無い。  何が起こっているのか。  ♀ハンターは、何処に行ってしまったのか。  把握しなくては。  そう思うや否や、彼はひとりその場を飛び立った。     ◇  ◇  ◇ 「……お前の負けだ」 「………………」  己にぴたり...
  • 2-289
    289.信頼対決 情勢は、圧倒的にパピヨンが不利だった。 敵には魔法職が二人。聖職者が二人。さらに、蛮勇とも呼べるほど強固な意思で攻撃を続けるアタッカーが一人。 対して、味方には自分と、『トモダチ』が一匹。 『トモダチ』は狂戦士のごとく攻撃を続ける♂スパノビに粘着されおり、今すぐにでも助けたい。 しかし、かといって安易に近づけば♀WIZのクァグマイアにより動きを鈍くされた後、魔法で蜂の巣にされるのが目に見えている。 パピヨンは、この状況を転換させうる何かを心から渇望していた。 そして。 今、それは存在したのだった。 パピヨンが自分たちの背後に回ったのを見て、♀WIZはほくそ笑んだ。 おそらく、寄生虫とパピヨンで挟み撃ちにする気だと考えたからだ。 しかし、逆に言えば、それは味方の分断である。 これで、パピヨンは寄生虫を攻撃している♂スパノビを攻撃することが...
  • 2-287
    287.猛る力[3日目] それは大切な、大切な約束だった。 なんであの人がそんなことを望んだかはよく分からない。 守ればどうなるのかもよく分からない。 理由なんてどうでもよかった。 あの人との約束だから守りたかっただけで。 破るなんて想像もできない、神聖な誓いともいえるものだった。 だから―― ◇◇◇◇ 「クァグマイアー!」 先手を取ったのは♀Wizだった。 目標空間に充満した水分が地面をぬかるみに変え、空中にいるパピヨンの羽をも重くする。 「あーもーうっとーしーっ」 パピヨンは大きく羽ばたき、上空へ逃げた。 一瞬遅れて彼女のいた場所にファイアウォールが立ち、熱気にあぶられる。だが辛うじて炎は届かない。 「なにすんのよー!」 「何って…あえて言うなら教育的指導、かしら」 魔法が届かないと見た♀Wizは皮肉めいた答えを返す。 間合いに引...
  • 2-286
    286.命の選択を[3日目午前] 「跳べ!」 弓が引かれるのを見た瞬間、グラサンモンクは♂セージの肩を押して右へ跳んだ。 素早く反応した♂セージが左へ走り、木陰へ飛び込む。 ♀ハンター…の成れの果てと言うべきか…は、目標が分散したことで一瞬動きを止めたが、すぐにグラサンモンクを向いて矢を放つ。 ばしゅんっ 半ば朽ちたような武器や、腫れ上がってちゃんと見えているかも怪しい眼を考えれば、驚くほど正確な射撃だった。 地を蹴って全力で射線から身をはずす。 背後をかすめ過ぎる矢風。 よけた。だが息つく暇もなく頭を狙って二の矢が飛来する。 素早く上体を沈めてかわす。髪の毛を十数本まとめて持っていかれた。 さらに三の矢が足元へ。反射的に跳び上がって避け――その着地点を狙って四の矢。 空中で強引に姿勢を変える。だが脚を浅く切り裂かれ、血が数滴散った。 気にせずダ...
  • 2-280
    280. 迷走 [3日目午前] 「ふはは、俺様復・活!」 眼を覚ました♂プリはとりあえず大見得を切りながら登場してみた。 自他共に認める悪人顔の彼を治療してくれたのだ。そこで戦ってるのはきっと知り合いに違いない。 仲間の危機に颯爽と登場。俺様かっちょいー。 などと妄想していたのだが。 そこにいたのは♀マジに♀アコ、♂スパノビと逃げてゆく♀アルケミ。 全部知らない顔だった。 「・・・えーと。お前ら、誰?」 さすがにちょっと恥ずかしくなって頬をかきながらたずねたりしてみる。 もっとも答えが返ってくるとはあんまり期待してなかった。 「それどころじゃないっ!手伝えーっ!」 「むぐ~~~~~~っ!!」 ♀アルケミを諦めた♀アコが♂スパノビの腕を引っぱりながら怒鳴り、顔を上げられない♀マジは地面をバンバン叩いて抗議する。 「ま、そうだよな」 なんとなく納得しながら彼...
  • 2-282
    282.Who is Helper?[三日目午前]  どうしよう。どうすればいい。  はぁはぁと弾んだ息を抑えようとしつつ、木陰に隠れて♀アルケミストは現状の把握と整理に必死で頭を回転させていた。が、すぐにその思考には余計な感情が入り混じってくる。  ――今までの人生も巧く立ち回らなければここまで生きてこれなかったのは確かだろうが。こんなに疲れる頭の使い方をしたのは、この島が初めてだ。もう嫌だ。  駄目だ。考えろ。諦めるな。考えなければいけないのは、ここだ。今考えなければ、後悔しても遅い。死にたくなければ、考えるしかないのだ。そうやって今までも考え続けてきたじゃないか。  ♀アコライトと♀マジシャンには、完全に敵と見做されたに違いない。いずれ戻ってくる淫徒プリら仲間達も、最早♀アルケミストの安全を確保してくれる駒にはならないだろう。元から、淫徒プリや♂セージには自分の行動は...
  • 2-285
    285.受け継がれしカリスマ 「・・・・・・ファイヤーウォール!」  ごう、と紅蓮の炎が草原に立ち昇り、びくりとパピヨンが硬直する。  炎と氷、ふたつの壁に攻撃を悉く阻まれ、デビルチとパピヨンは折角見つけた獲物を前に悪戦苦闘していた。 「ちょっと何ーこいつー」 「こノ・・・・・・ユピテル・・・・・・」 「ユピテルサンダー!!」  己が詠唱よりも速く、♀Wizが放った雷撃球がデビルチを直撃し、盛大に吹っ飛ばされる。悪魔の纏う『闇』の属性を持つデビルチゆえ何とか耐えることは可能だが、こんなものを何発も喰らっては身が持たない。 「ク・・・・・・コンな、・・・・・・!!」 「ヤバくない? あれ、あたしはパスでいいよー。美味しくもなさそうだしー」  よろよろと起き上がるデビルチと眼前の♀Wizを交互に見ながら、パピヨンは既に戦意を喪失していた。  パピヨンとデビルチの二匹...
  • NG2-28
     NG 遠い雨上がり  悪ケミちゃん様、ご機嫌斜めのお天気に些かブルー。  ──と言う様な事はうっちゃって、雨宿りの最中なのであった。  人間、降りしきる雨なんぞに打たれれば普通体力を消耗するもので、風邪だって引いてしまう。  それは勿論、世界制服を企む悪ケミとて例外ではない。 「鬱陶しい雨よね……」  呟いて空を見上げるのだけれど、一行に雨に止む気配は無く。  寧ろ、これから強くなりそうな気配すらある。  一応の目標が決まった矢先にこれである。  因みに木陰である。悪ケミハウスは雨に弱く、今は畳まれてバックの中だ。 「そうだね。でも、そんなには続かないと思う」  と、相槌を打つ様に忍者が言った。  彼は、腕を組み自然体で木の幹に背中をよりかけている。  革靴には所々、雨がしみこんでいるのか黒い斑点が出来ていた。 「遅くても今晩ぐらいま...
  • 2-228
    228.残酷な神さま [2日目深夜] 夢を見た。 とびきりのごちそうを目の前にしてうかれはしゃぐビニット。 そんなビニットを、行儀が悪いとたしなめるデフォルテー。 にぎやかな晩餐だった。 早くも葡萄酒を飲みはじめているソリンがいれば、鼻歌を歌いながら楽しそうに料理を運ぶテーリングがいる。 そして私のとなりには、まだ髪を伸ばしはじめたばかりの幼いWが座っていた。 彼女は瞳をきらきらと輝かせながら、テーブルの上に置かれた箱から赤色の包装紙をはがしとっている。 その箱は、私たちがついさっきWに贈ったものだ。 よほど中身が気になるのか、彼女は夢中になって紙をはがしていた。 ようやく開けた箱の中から出てきたものを見て、彼女は歓喜の声をあげた。 小さな手で大事そうに取り出したそれは、レースのついた白いリボンだった。 彼女はリボン...
  • 2-206
    206.信頼の意味  暗い森の中を息を殺して早足で歩く。  ルアフで、足元を照らしたいところだがPTを組んでいるわけではない今、それは危険だ。 「やれやれ……振り出しに戻りましたか……」  先程の喧騒の最中、淫徒プリは喧騒に乗じてあの場から離れた。  PTから離れるという目的は達せられたものの、これではゲームが始まったばかりの時と変わりようが無い。 「さて、どうしましょうか……」  地図で点滅する自分の位置を確認すると、現在地はE-6、E-7の境界付近らしい。  あの危険な毒花の♀アルケミや復讐に燃えている三人からは離れたい。  殺しと薬に手を染めることこそしなかったもの、その他の犯罪と呼ばれることは一通りしている。  それゆえ、その手のいざこざから起こる凄惨な風景は見慣れているが、あくまで自分は蚊帳の外から見るからこそ、その光景も所詮他...
  • NG2-24
    NG 定時放送2(朝8時の場合) 「さぁさ皆様、起きてくださいまし!お寝坊さんはいらっしゃらないでしょうね? 楽しい楽しいバトルロワイアル、二日目の始まりですよ! しかし良い朝ですねぇ。これはまさしく皆様の日ごろの行いが報われたということでしょうね? 何せ前回のバトルロワイアルなど、開催期間中ずーっと雨模様でございましたから。 私どもも気が滅入ったものです。やはり雨が4日も続きますと皆様……ああ失礼、脱線してしまいました。 きちんとお仕事しなくては、ですね。ではお先に死亡者を読み上げますよー。 ♀剣士さん ♀セージさん バードさん ♀クルセイダーさん ♂BSさん ダンサーさん ♂剣士さん そして我が国の工務大臣殿!不甲斐ないですねぇ、早速のリタイアですか。 というわけで朝までの間に8名が亡くなられました。残り33名です。 良いですね、なか...
  • 2-294
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  • 2-265
    265.プリズナー(三日目・午前) (すごい・・・) ♂シーフは♀WIZに見とれていた 詠唱の早さ、そしてその威力は勿論の事だが 薄暗い地下室をリムーバの残骸が火の粉を上げて舞い踊る その中心に、彼女が居た 闇に映える銀髪がサラリと流れ、微笑を浮かべて僕を見ている 神聖で妖絶で、その姿は今まで見てきた絵本のどんな女神よりも・・・ 「・・・♂シーフ君?」 「…あっひゃい!?」 思いっきり裏返った声が出た 「どうしたんですか?ぼーっとして…落ちた時どこか痛めました?」 「いっいえ、大丈夫です」 見とれてました、とは流石に言えない 「でも、何か変ですよ?熱でもあるのかしら・・・」 無防備に顔を覗き込んでくる♀WIZ (えっちょっまっうぇwwwwテラヤバスwww) ♂シーフ、思考回路ショート寸前 ...
  • 2-258
    258.♀スパノビの遺した物[3日目朝] 「夜間死者数は9名でいいですね?…なに、3名増えた?誰です?生死確認は?死亡状況報告急ぎなさい」 薄暗い地下室にGM橘の神経質な声が響く。 彼らGMも夜は交替で眠っており、その間の状況は報告で知るしかなかった。 橘は何枚もの手書きの報告書を読み合わせ、バラバラの情報から経過をまとめようとする。 そんな彼の手元へピエロ帽を乗せた頭が突き出された。 「ほほう。一気に半分近く減りましたか。どなたか頑張りましたかねえ」 ジョーカーは殺気立った室内の様子もどこ吹く風とのんきな顔で言う。 起きてさほど間がないはずなのに、その化粧には一分の隙もない。 まさかこの顔のまま寝たんじゃないでしょうね、とか思いつつ橘は上司の頭を押し戻した。 「いいですからあなたはダーツでもサイコロでも用意しててください。きちんとまとめてからお見せ...
  • 2-217
    217.誇りある魂 [定時放送③後] GMジョーカーによる定時放送が終わった。 自分たちの居場所が禁止区域には含まれていないことを確認し、ほっとした3人だったが、その後のしばらくは沈黙の時間が続くことになった。 沈黙の中で♀騎士は♂ハンターを様子見したが、彼の表情は、どうにも重かった。 放っておいたら、地面に沈みこんでしまうのではないかと心配に思ったほどだ。 感情というのは、周囲に伝わるものである。 誰かが嬉しそうに笑っていれば、自然と周りにいる人間も心がはずむ。 哀しみに身をまかせ、暗い表情をしていれば、同行者も似た気持ちになってくる。 そして今のこの重苦しい空気を作っているのが、顔を伏せ気味に膝をかかえて地べたに座っている、♂ハンターだった。 出会ったときもどこか淋しげで、悲壮感すらただよわせていた彼だったが、今はそのときよりも酷い。 ...
  • 2-212
    212.宿り木 [2日目深夜] 彼女はギャンブルというものが嫌いだった。 かつて彼女をかどわかした男が、無類の賭博好きだったからかもしれない。 それとも彼女自身が、賭け事のたぐいで損をした経験ばかりだったからかもしれない。 いずれにしても、良い思い出がないことだけは、たしかであった。 だから彼女はこれまで古いカード帖を開封したことなど、ただの一度もなかった。 自分の運のなさは青い箱や、紫の箱で懲りていたし、自分が開けたところで、どうせろくなものしか出やしないと決めつけていたのである。 露店にならべ、色目を使って気を惹いた男たち相手に高値で売りつけるのがせいぜいであった。 もちろん売ったのは古いカード帖だけではなく、金払いの良さそうな男はたらし込み、骨の髄までしゃぶり尽くした。 そうやって彼女は、所属するギルドのメンバーには内緒で、こっそりと私腹を肥やしていた...
  • 2-236
    236.誤解する人々 [3日目未明] 「遅いですね」 ♀商人が木立に入ってからしばらく経ち、♂セージは首を傾げた。 女性のお手洗いは長いというが、それにしてもずいぶん遅い。 彼は淫徒プリをそっと揺さぶった。 「…ん?はい?」 「すみません、♀商人が排泄に出て戻りません。何かあったらいけないので見てきます」 「はい…って、ちょっと」 頷いた淫徒プリの眠たい眼がそのまま半眼のジト眼に移行する。 「なんでしょう」 「女の子のトイレ覗く気じゃないでしょうね」 「そんな趣味はありませんし、彼女にも来るなと言われました。ですがそれだけにしては遅すぎます」 淫徒プリは首を傾げた。 「ちょと遠くまで行っただけじゃないかしら」 「声の届く範囲に居て下さいと言ったのですが」 「…じゃあなおさら遠くまで行ったかもしれませんよ」 「そういうものですか?」 わけが分からない...
  • 2-239
    239.なかま [3日目早朝] 彼女は長い悪夢を見ていた。 日常と言う名の悪夢。 当たり前になりすぎて悪夢だという意識もなかった。 彼女に夢はなかった。 ただその時置かれた境遇から脱し、這い上がることの繰り返し。 それは作業であって夢ではない。 上り詰めた先に何をしようと言う目的があったわけでもない。 彼女は悪夢しか知らないままに育ち、 そして今、別の悪夢の中にいる。 ♀アルケミストは目を覚ました。 う~ん、と体を伸ばそうとして手をぶつける。 そう言えば木のうろに潜り込んで寝たんだった。 (そろそろ一度きちんと身繕いしたいわね) 髪に付いた木屑を払って彼女は思った。 色気が武器の彼女としては着替えも化粧もできない今の状況はよろしくない。 あまり身だしなみが整い過ぎてても警戒されるだろうが、せめて水浴びして髪をとかすぐらいはし...
  • 2-264
    264.ハプニング(三日目・午前) 「♀Wizさん、大丈夫ですか?顔色が悪いですよ?」 来た道を戻る形で北に向かう途中、♂シーフが♀Wizに問いかける。 勿論、これは♀Wizの指示であり『立ち止まる口実を作ってください』という事である。 イグドラシルの実の半分をもらい、かなり体力が回復しているが、それでも本調子には程遠いらしく、♂シーフの判断はごく自然なものであろう。 ただ、♂シーフは♀Wizがしんどそうにしているのを察し、少し体力を回復させた方が良いかもしれない、という判断もあったであろう。 さて、何故♀Wizがそんな指示を出したか、であるが。 至極、単純な事である。気になる廃屋を見つけただけである。 移動中であれば、気にも留めなかっただろうが、少しでも手掛かりが欲しい現状では、すがる思いであった。 ――何か重要な情報が手にはいるかもしれない 確率的には...
  • 2-233
    233.大自然の呼び声 [3日目未明] ずびし。 ♂セージの脳天に鋭いチョップが入った。 「ついてこないで」 ♀商人は冷たく言う。 「そうは言ってもですね」 ♂セージは眠そうに目をしばたかせつつ抗弁した。 「やはり1人になるのはよくありませんよ」 「すぐに戻るってば」 彼女はいらだたしげに男を押し戻す。 ただし寝ている仲間を起こさないように小声で。 「しかし排泄中は最も無防備になる瞬間のひと・・・ぶっ」 言葉の途中で靴を投げつけられ♂セージは倒れた。 投げつけた姿勢のまま♂商人は肩を怒らせ荒い息を吐く。 「分かってるなら来るなっ!」 要するに見張り番の最中にトイレへ行きたくなったのだ。 彼女は投げつけた靴を拾って木立に入る。 「いい?絶対にこないでね」 「仕方ありませんね。声の届く範囲にいて下さい」 ♂セージ...
  • 2-229
    229. 親分の『命令』 [2日目深夜] 締め上げていた足首が、腕の中からするりと抜ける。 はっと♀BSが顔を上げた時には、♂ローグは既に闇へとその姿を消していた。 (逃げられた、か……) 戦いの最中の、まるで殺し合いを楽しむかのような♂ローグの表情を♀BSは思い出し、目を伏せた。 あの男は危険だ。どうにかして止めを刺したかったのだけれども。 ♂スパノビが彼女のほうへ歩み寄り、傷口に手をかざす。 それと同時に左脇腹から体内へと染み込むような痺れが消える。だが―― (……生憎、もう完全に毒が回っちまってたみたいだね) 毒を受けながらも、闘争本能のままに♀BSは力を振り絞って動いた。 だからこそ♂ローグを退けることができたのだが、同時に受けた毒の進行を早めることにもなってしまっていた。 毒を抜くことはできても、失われた体力は元には戻らない。 それに加え腹部...
  • 2-241
    241.dawn purple [3日目未明] 草深い山の奥。 暗い梢の隙間から藍色の空が覗く。 りーり、りーり 朝の訪れも知らぬかのように虫達は合唱する。 ああ、ああ、ああ、ああ 虫の音に答えるのは嬌声にも似た高い声。 それに合わせて薄紫の光が明滅する。 光の元は1人の少女だった。 薄い胸。 短いスカートから覗く細い脚。 女としてはまだ成熟しきっていない青い果実。 かつて♀アーチャーと呼ばれていた彼女は、しかしそのなだらかな下腹をわずかにふくらませていた。 四つん這いになったその背で薄紫の光が明滅する。 下履きは脱ぎ捨てられ、秘めやかな場所を隠す物は短い裾の作るわずかな影しかない。 あぁっ 内股の青白い肉がひくついた。 ツッ―― スカートの暗がりから透き通った液体があふれ、白い腿を伝い落ちる。 そして青い布...
  • 2-240
    240.復活の魔術[3日目早朝] ♂WIZが死を感じた時に思ったことは二つ。 -デビルチがいっていた二人組の存在も考慮して場所を移すべきでした… -ここで死ぬわけにはいかないのです、まだ私は…彼女を…! 一つ目の思いはすぐに消えた。今更すぎるからである。 正確にいうならばデビルチの報告にあった二人組みの他に♂WIZはこの近辺に強い妖艶な魔力を感じていた。 こんな危うい区域はすぐでるべきだったのだと、本当に今更ながらの刹那の後悔。 二つ目の思いは強く脳を回転させた。私が生きるにはどうしたらいいのかと。 答えはすぐにでた。自分の魂を移すことだ。幸いそのための準備も整っている。 これを実現させるには自分の魂を肉体から切り離す必要がある。 それには切り離す肉体の命を絶つのが理想。 もはや虫の息になってしまった今の自分の状態なら問題はない。 そして定...
  • 2-213
    213.異端 [2日目夜~深夜] 最初に起きたのは、♀マジだった。 ♀マジを背負いながら、騎士を乗せたペコペコさながらの疾走を披露した♀アコはよほど疲れたのか、いまだ轟沈していた。 ともかく先に起きた♀マジは、痛む片方の足を気にしつつ、先ほど急に直った♀アコの首輪について一考するのだった。 どうにも引っかかることがあったのである。 それは、この首輪がそう簡単に壊れるだろうか? ということ。 首輪は現在島で行われている殺し合いを殺し合いとして成立させるための、なによりの鍵だ。 壊れてしまいました、では済まない。 それに、この殺戮ゲームが過去に何回も行われているということから考えても、変だった。 管理側から渡された地図を見るに、自分たちの現在地が管理側に情報として送られていることは間違いない。 とすると、♀アコが禁止区域に入って無事だったことが伝わっていないは...
  • 2-299
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  • 2-200
    200.野良犬は牙を研ぐ [2日目夜放送後~深夜] ジョーカーの声で目を覚ましたグラリスはすぐに西へ向かった。 海岸沿いの狭いルートが閉じた以上、袋小路になってしまった場所で眠るのはあまりに危険だったからだ。もし明朝の放送でF-3が禁止区域に設定されたらまず助からない。 (つくづく癪に障る男ですこと) 彼女はジョーカーが禁止区域を無作為に選んだとは信じていなかった。 なにしろダーツを使って選んだというのだ。あの男が百発百中の腕を持っていたとしても誰も驚くまい。 自分を追い立て、他の連中と戦わせようと言うのだろう。 休むな。戦え。さもないとWが…と言うわけだ。 だが今のままでは難しい。 最初に遭遇する可能性が高いのは彼女に重傷を負わせた例の五人なのだ。 おそらく戦力を減じてはいまい。 おそらく、と言うのは彼女が放送で目を覚ましたためである。 ...
  • 2-247
    247.Arrowhead[3日目早朝] 「――最っ低・・・!!」 目の前のアルケミストが瓶を振りかぶる。 「ちいっ」 ♂ローグは決意に満ちたその表情に脅威を感じた。 火炎瓶か、強酸か。 何にせよヤバい物なのは間違いない。 心臓を狙おうとしていたクロスボウの先をとっさに少し上へ向ける。 後ずさりしながら連射した矢の一発目が♀アルケミストの右肩を、二発目が顔面を捉えた。 ほとんど同時に投げ放たれた瓶は着弾の衝撃でわずかに狙いを外す。 瓶の直撃がないと見切った彼は突進してくる♂スパノビに狙いを変えた。 「死ねや」 二連射が巨体へ吸い込まれるように命中し、地響きを立てて倒れる。 同時に♂ローグのすぐ脇に瓶が落ちた。 バシャッ 「・・・うおっ!?」 いつもの彼なら飛び散るしぶきぐらい難なく避けただろう。 だが意識が♂スパノビへ向いていたこと、そして壊れ...
  • 2-205
    205.隠し味 [2日目深夜] トクン。 トクン。 血流にのって薬効が全身を巡る。 黄色い果実に秘められた世界樹の生命力そのものが。 傷ついた全身の細胞が癒合し再生して行く。 シュワシュワ、プチプチと音が聞こえる気がするほどの早さで。 (う…) ♂騎士はうっすらと目を開けた。 そして薄目のままゆっくりと周囲を見回す。 周囲に数人分の気配があった。 「あ、いま♂騎士さん動きませんでしたか?」 聞き覚えのない声。 とっさに目を閉じる。だが、そのことで却って動きが生まれてしまったようだ。 「♂騎士!よかった、気が付いたか!」 誰かが飛びついてくる。 反射的に振りほどこうとするが、体が思うように動かない。 力を込めると硬直していたあちこちの骨と筋がばりばりと音を立てた。 「ぐ…」 「無茶するな。まだ完治したわけじゃねえ」 また別の声がする。 少...
  • 2-250
    250.エウレカ [3日目朝] 腹が燃えていた。 じくじくと冷たい炎を上げて。 (これはダメのようですね) 多臓器不全という言葉が♀スパノビの脳裏に浮かんだ。 心臓は時々思い出したように脈打つだけ。肺は半分もふくらまない。 肋骨より下は完全に駄目だ。 絶え間ない苦痛のかたまりだけがそこにある。 四肢も動くのは左手一本だけ。 もはや数分以内に確実にやってくる死を待つだけの体だった。 とどめを刺して楽にしてもらいたいところだけど。 体の下に♀ハンターの鼓動を感じた。 彼女のためにもこのまま死ぬことはできない。 (大丈夫。♀ハンターさんはお姉ちゃんがきっと守ります) 身じろぎするごとに焼けこげた内蔵が悲鳴を上げる。 それでも左手で♀ハンターの体を探ることを諦めない。 (お姉ちゃんは妹のする事なんて全てお見通しなのです...
  • 2-203
    203.ふぁると♀スパノビだけがともだちさ [2日目夜] これは夢? それともまぼろし? ううん、そんなことない! ほかの誰にもわからなくたって、あたしにはわかる。 空をすべる大きなつばさも、するどい鉤型のくちばしも、切り裂く爪も、強靭なあしゆびも、すぐに思い描ける。 どんな闇夜だって、たとえ目が見えていなくたって、声さえ聞けば、あたしにだけはわかるの。 だからあたしは、おおきな声で大好きな彼の名を呼んだ。 「ふぁる!」 あぁ、ふぁる。やっぱり来てくれたんだ。来てくれたんだね。それもこんなところまで。 つばさや尾羽が、あんなにぼろぼろになってるのに。そうまでして、来てくれたんだね。 だったらもう、あたしもがんばるしかない。覚悟は決まったわ。 相手が鳥を嫌う羽虫の女王なら、あたしはその虫を食べて生きてきた、猛禽の娘よ! ふぁるとふたりなら、できないこ...
  • 2-277
    277. 失われた剣(三日目午前) (この通路、どこまで通じているのかしら) 慎重に奥へと進みつつ♀Wizは首をかしげる。 GMが現れたということは、やはり彼らの本拠地まで通じているのか。 確かに今朝の放送で本拠があると言っていたE-5までそれほど遠くはない。 だけど。 (そうするとこんな物があった理由がわからないんですよね) 右手の杖を一回転させる。 隠れ家の入り口に侵入者のための武器を置いておく馬鹿は居ない。 腐乱死体を放置したりもしない。 不衛生だし、誰だってそんな悪臭のする物を近くに置きたくはないだろう。 かといって参加者を近づけないための細工にしては死体が白い衣装を着ていたのがおかしい。 GMの死体と見れば調べたくなるのが当然だ。実際彼女達がそうしたように。 つまり、ここは本拠ではない。 (じゃあ、誰がなんのために?) 元の島民が残したと考える...
  • 2-290
    290.撤退戦・前 ぐぅ、と焼け付くような痛みを感じた。 ♂プリーストは一瞬混乱したが、即座に自分が腹を刺されたのだと悟った。 足元を見れば、そこにはデビルチがいた。こいつが下手人だろう。 ♂プリーストは渾身の力でデビルチを蹴りつける。 それだけで、デビルチはサッカーボールのように弾んで、近くの木にぶつかった。 さらなる伏兵がいないかと周囲を確認するが、どうやら伏兵はこのデビルチだけだったらしい。 だが、それでもパーティーは壊滅的な打撃を受けたらしい。 モンスターと共にやってきて自分達と共闘していた♀WIZは木に叩きつけられたらしく、まったく動く気配がない。 ♀マジは意識はあるものの、叫びつつ地面でもんどりうっている。おそらく彼女も奇襲を受けたのだろう。 ♂スパノビはさらに酷い。元々かなり傷ついていたが、今パピヨンに背中ごしに胸を貫かれている。 悲鳴を上げている...
  • 2-210
    210.打算と信頼と  淫徒プリは、困惑していた。  なんだ、この♂セージは……。  思わず上ずった声で声を上げてしまったが、変装を見破られていたりはしないだろうか?  考えをまとめるために呟いていた独り言も聞かれたのではないだろうか?  しかし、その一方ですぐに頭を切り替え状況を判断する。  突然隣りに現れたは、ハイディングかクローキングの効果があるカード挿しの装備のおかげだろう。  消えていたにもかかわらず、自分を襲ってこなかったので十中八九は殺人者側ではない。  だが、それがこの♂セージが絶対にマーダーではないという保障にはつながらない。  用心して、いつでも逃げられるようにしておかなくては。  そんなことを思いつつ、淫徒プリは♂セージに対峙する。 「ああ、御安心下さい。私は殺人者側ではありません。もし仮にそうであるなら、消...
  • 2-227
    227. ビーチフラッグス [2日目深夜] グラリスは血の跡をつけながら、芋虫のように地面を這いずりバスタードソードに向かう。愛するWを生かすために。左手を奪った♂クルセイダーを殺すために。 ♂クルセイダーもまたバスタードソードへと歩を進める。大木に預けていた体重を自分の足へと戻し、一歩、また一歩と、地面を這いずるグラリスとさほど変わらない早さで。 (俺は生きる!) (彼女を殺して、俺は生き残らなければならない) ♂クルセイダーは察していた。今の自分では彼女がバスタードソードを手にする前に彼女の元へたどり着けないことを。それでも、彼は思った。 (彼女がそれを手にし、構えるまでのわずかな時間に殺さなければ) 今の♂クルセイダーには、避けた後体勢を立て直す体力…、いや、避けるだけの体力も残されていないと感じていた。 (彼を殺す!) (彼を殺して、Wを...
  • 2-274
    274. ロシアンルーレット (3日目午前) 「……」 「……」 2人が去ったあと、残った淫徒プリらの間に沈黙が落ちる。 あの叫び声は一体誰のものか。 見に行った2人は大丈夫か。 思惑が交錯する。 ♀ケミは思う。悲鳴の主が♀ハンターならいい。 そのまま死んでいてくれればもっといい。 ♀マジは考える。たぶんこれで♀ケミの話の真偽がはっきりする。 悲鳴の主が生きていてくれれば。 そして♀アコは思いついたことをすぐ口に出した。 「あたし達はどーしよ?」 「どうするかって、あとは侍ってるしかないでしょ」 当然のように言って悪ケミが肩をすくめる。だが♀アコは首をかしげた。 「そうかな?絶対間に合わないって決まったわけじゃないし、2人を追っかけてもいーんじゃない?」 「あ、うーん」 「キミ、時々すごく鋭いこと言うよね」 それぞれに声を上げて淫徒プリと♀マジは考...
  • 2-242
    242.言霊[3日目早朝]  ♂騎士が現れた後。  とりあえず朝の放送を聞いてから動くともう一度決めた後、交代制で見張りに付くことにして、まだ体力が本調子ではない♀WIZのサポートに淫徒プリは付いていた。  支援とWIZの組み合わせであれば、大抵の襲撃にも耐えられるだろうからだ。 「あの……さっきの言葉……どなたが言っていた言葉ですか?」  どうにも気になって仕方がなかった淫徒プリは♀WIZに声をかけた。 「さっきの言葉? ああ、人間は一人で死んで行くんじゃないって?」 「そうです。その言葉」 「だから、大切な人ですよ。この指輪の相手……と言えば判ります?」  そう言いながら、左手の薬指にはまった銀色の指輪……結婚指輪を見せた。 「旦那さま……ですか?」  ♀WIZは微笑むことでその質問を肯定した。 「……失礼ですが、...
  • 2-235
    235.不運 ―――……何だ? ♂プリは躊躇っていた。 木陰を通して人影が見える。まだかなり遠いが、複数…恐らく3人だろう。 「集団でいるってことは…多分殺人者じゃないんだよな。」 呟いて確認してみる。このゲーム、最後まで残った者が勝ち…だということは。 殺人者は単独で行動したがるだろう…と、思う。多分。恐らく。 ―――ってことは味方なんだよな…? 彼等は♂騎士の行方を知っているかもしれない。殺人者でなく、知っているなら教えてくれるだろう。 だが、と彼は思う。あの集団が味方なのかを彼は判別できなかった。何故なら――― 一人妙なのだ。主に頭が。 ―――やたらデカくねぇか?あいつの頭… ミッドガルド王国ではアフロという髪型は一般的ではない。そのため、彼はそんな髪型の存在すら知らなかった。 その上、夜で遠距離であるということが、彼に正確な判断をさせなかった。 ...
  • 2-275
    275.魔なるものの邂逅 (三日目午前) 「あーもーっばかばかばかばかばかうまのけつーっ!絶対絶対ぜえぇーったい許さないんだからっ!」 誰の声も届かない空の上でパピヨンは器用に地団太を踏んでいた。 圧倒的多数を相手にしてとはいえ、勝負を挑んで撃退されたことがよほど気に入らなかったらしい。 「今度会ったらぎったんぎったんのぐっちょんっぐっちょんのけちょんけちょんにして、もんのすごぉーっく恥ずかしいイタズラ書きしてやるーっ!お・ぼ・え・て・ろーっ!」 両手を突き上げ、ひとしきり吠えるだけ吠えた彼女はやがて急にがっくりうなだれた。 引き締まった腹を押さえて情けない声を出す。 「それにしても・・・おなか減ったなあ」 心なしか触角も力を失って垂れ下がっているようだった。 「どっかにご飯落ちてないかなー。今ならむさい男でも死体でも我慢するのになー。若くて元気な子の生き血がいーな...
  • 2-234
    234.見慣れた悪夢[2日目深夜~3日目未明] ゆっくりと目を開けた。カーテンから差し込む光が、昼に近づいていることを教えてくれる。  昨日は研究に力を入れすぎて、ほぼ徹夜をしてしまった。突っ伏した机から体を起こすと、毛布がはらりと地面に落ちる。寝てしまった自分に彼女が掛けてくれたらしい。さり気無い心配りがいつも自分を癒してくれる。まぁ、彼女には決して言わないが・・・。  「おはようございます。昨日の研究は何か成果はありました?」 地下の研究室から階段を上がってくると、キッチンにいる彼女が何かを切りながら聞いてくる。眠たい頭で「少しは。」とだけ答え、昼になってしまった朝ごはんが何なのか、ぼんやりと考えた。今刻んでいるのは、レタスかな?ということはサラダがあるので、それにあわせて、肉か魚の料理があるのか?しかし、寝起きにそれらは重いな。だが、食べないと怒るし、な...
  • 2-254
    254.それぞれの魂[3日目朝] 「んなことできるかっ!」 逃げろと言った♂ハンターに♂プリは怒鳴り返した。 だが♂ハンターは譲らない。 「そっちの倒れてる子達はどうするんだ。あんたしか連れてけないだろ」 「そりゃそうだが…うおっと」 キャタピラーの振り回す触角から跳び下がって♂プリは苦々しげな表情になった。 確かに気絶した♀ハンターを連れて逃げられるのは彼と♂騎士だけだ。 彼はちらりと♂騎士の顔を窺った。 「俺じゃ駄目だ。連れて行っても傷を治せない」 雰囲気を悟ったのか♂騎士が先手を打つ。 それに一度別れたらまた♂プリ達も見分けられなくなるだろう。そんな彼が連れて逃げても別の危険に巻き込む恐れが高い。 「だからしんがりを受け持つ。♂プリが連れて行ってくれ」 ♂騎士は背中で♂プリを押しのけてキャタピラーと対峙した。...
  • 2-245
    245.真面目である不幸[3日目早朝] トン・トン・トトント・トントントン 不規則なステップを踏む音が朝方の冷たい空気に響く。 そしてそれに合わせる鼻歌も。 show you show me san-dan-syo♪ 醤油 de ご賞味 ren-da-syo♪ リズミカルでありながら不規則な節。 韻を踏んだ…と言うよりはむしろ駄洒落じみた歌詞。 同時に繰り出される鋭い拳の連撃とはイメージにいささかギャップがあった。 「むー」 近くで丸まって寝ていた女性が身じろぎした。 途端にステップを踏む男――♂モンクの動きがぴたりと止まる。 彼は足音を忍ばせて戻り、まじめな顔で彼女に語りかけた。 「…お休み・ゆっくり・羊を・カウント・one・two・three and half」 「ハーフって何だよ」 後ろからツッコミが入る。 習...
  • 2-209
    209.営巣 [2日目夜] さく、  さく、 少女は柔らかい腐葉土を踏みしめて進む。 夜闇を見据える赤い瞳には力がみなぎり、口元には満足げな笑みを浮かべ。 「ふふ」 その足取りが止まり、下腹を優しくなでた。 「よい魔力じゃ。これならば夜明けには産めよう」 彼女は女王蜂。 その本質は人の王のように「他者を支配する」ことではなく、 「子を産み、その子らを統べる」ところにある。 眷属たる巨大昆虫がおらずとも、 魔力によって召喚することを封じられようとも、 男の精と命を取り込むことで子をなすことはできるのだ。 召喚に比べれば手間と生み出せる数において大幅に劣るが、質において劣るものではない。 そして生物としての本質である以上、魔力を封じたぐらいで奪える物でもない。 朝方に卵を産めば、昼前には孵化するだろう。 彼女にの...
  • 2-204
    204.ひとりだけの世界 [深夜] ――いつから、こうなった? 暗い夜道を、取り憑かれたように♀BSはただ歩く。♂スパノビはおろおろとしたままそれに付き従う。 方向などわからない。消えた仲間がどうなったかなどということも、最早どうでもよかった。 いや、はじめから仲間などではなかったのだろう、と♀BSはぼうっとした頭のまま思う。 ♀アルケミストも、淫徒プリも、加わったばかりの♂アコライトと♀ノービスも――ただ自分の望みを叶えることだけを考えていた。 その望みが、みんなで生き残るなどという甘いものではなかったことははっきりとわかる。 ♀BSはあまり思慮深いほうではなかったが、それだけは本能で感じ取っていた。 「お前はどうして何も言わずに、あたいについてくるんだい?」 やや後方を歩く♂スパノビに問いかける。まともな答えを期待してはいなかったのだが。 「よ、よくわ...
  • 2-222
    222.生者のために、死者のために [2日目深夜] 光の届かない夜の森で、闇がうごめいていた。 よほど慎重なのか足音も小さく、風のざわめきを利用して巧みに存在を隠していた。 けれど瞳には、まともな人間であれば見ただけで萎縮し、取り乱してしまうほどの赤黒い殺意の炎が燃え上がっていた。 蠢動する闇とは裏腹に、男の表情は苦痛にゆがんでいた。 見れば男の脇腹からは、血らしきものが流れ落ちている。どうやら手当てしてあった傷口が開いたらしい。 男の傷はそれだけではない。 血には染まっていないものの、左目にはまだ新しい傷があり、おそらくは失明しているのだろう。 簡易的な処置を済ませてはあるが、焼けただれた左半身も、見るからに痛々しい。 が、男が顔をしかめることになった原因は別にあった。 不意をつかれて投擲された銛と呼ぶのもためらわれる鏃と棒を組み合わせただけ...
  • 2-201
    201.何も考えずに走れ! [第二回放送前~放送後] 「ん、あったあった」 「わん!」 定時放送が鳴るほんの少し前 ♀アコと♀マジ+1匹はなんとか荷物のあった海岸に辿り着いていた 方向音痴の♀アコがそこに辿り着けたのは♀マジという比較的普通の方向感覚の持ち主が同行していたのと、海岸という地形上、北か南の二択で済むということもあったのかもしれない 「こんなところから落とされて生きてたの…?」 子デザと一緒に無邪気に喜ぶ♀アコの後ろでは♀マジが断崖絶壁の高さに目を回している 「まー、ちゃんと受身が取れれば意外と生きていけるモンよねー」 「そういう問題じゃないと思う…」 ♀マジが頭痛がするのを感じながらこめかみを押さえたその時 『島での2日目をいかがお過ごしでしょうか。ジョーカーです。』 定時放送が鳴り響いた まず死者の...
  • 2-221
    221.水 [2日目深夜] 「そう……うん……大変だったね」 ♀ハンタさんは大事な相棒――ふぁるを肩に乗せてさかんにうなずいていました。 防具になる物は何もないのですけど、あんなに鋭い爪でつかまれて痛くないのでしょうか。 「ああごめんね。生肉はないの。干し肉しかないんだけど、食べる?」 「ええとですね♀ハンタさん。ちょっといいですか」 「はいお姉ちゃん何でしょう」 答える声もしっかりしています。 ハンターにとって相棒の鷹というのは性格が変わっちゃうほど頼りになる物なのですね。 お姉ちゃんとしては少々さびしい気もしますが、今はそれどころではありません。 「急いでこの場を離れましょう」 「すぐですか?ふぁるにごはん上げてからじゃダメですか?」 ピィ ♀ハンタさんに合わせてふぁるが不満そうな鳴き声を上げました。 ちょっとかわいいです。でもダメなのです。 「す...
  • 2-261
    261.表裏背反[3日目午前] ひゅっ 「む」 デビルチを探して付近を見回っていたグラサンモンクはかすかな矢音を聞きつけて反射的に身を低くした。 そして素早く周囲を見回す。 人影は見あたらない。そしてどうやら彼に向かって矢が飛んでくる様子もない。 となると…狙いは仲間達か。 彼は舌打ちして全速力で駆け戻りつつ怒鳴った。 「伏せろ!」 ♀アコと♀マジはとっくに身を低くしていた。 だが悪ケミだけは彼女たちの様子を笑いながら1人のんきに座っている。 彼は駆け寄りざまに押し倒した。 「あ、ちょっと。こらっ!したぼくがこんなコトしていいと思ってるのっ!?」 当然のように彼女はとても分かりやすい勘違いをした。 グラサンモンクは必死になだめる。 「待て、勘違いだ。暴れるな」 「したぼくが命令するな~っ!このこのこのっ」 覆い被さった彼の頭が下からポカポカ殴...
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