きつねの口は
川原周
いま、ちょっと、化けて出てい
る所だから。
枕元ではなくって、SAYOUま
で。立て付けの悪いドアを引っ張
って、のついた信号を人並みに待
って。
最近のきつねはよく人に化け
る。働く練習だそう。
畜生らしい温かみや、生え変わ
ったばかりの夏毛に、ふと、さわ
れないのは残念かもしれない。
実際、には残念なものだ。出会
ってから6年間、きつねはきつね
だったから。たぬきになったりし
なかった。佐竹のほうが30を超え
た。
きつねの温度のほうが落ち着い
た。
けど、代わりに、癖のある毛髪
なら、揉みくちゃには出来るん
だ。そのときのきつねは、もの凄
く不機嫌な顔をするけども。
まったく、すっかり色気付きや
がって、である。きつねは焦茶の
髪を流行の肩までに整えて、丈の
短いスカートなどを履く。見かけ
は18歳くらいだろう。
掻き回されるのが、嫌なら、佐
竹でも届かない金髪の白人にで
も、化けれってんだ。少女なんて
辞めちまえ。佐竹は成人男性のな
かでも、聳え立つほうだ。
そんな佐竹相手に、机に向って
いても、手を頑張って伸ばせば、
届く小柄に化けるきつねの奴が悪
い。
うっかり、強引をしたくなって
しまう。佐竹はきつねの薄い眉を
ハの字にしたいわけじゃないん
だ。
思えば、いつも、困らせてしま
う。
「佐竹の無駄遣い……履歴書なん
て50枚も要らないよ、働きたい場
所は1つだけだから」きつねは言
った。
経済観念どころか、自分で社会
に出たいとか言う、きつねはし
っかり者だ。
夕飯の買い物から帰ってきて、
早々、きつねは小包を開いたらし
い。Amazonは凄い、なんでも揃
う。
「いいじゃねーか、なんでも多い
分にはよ……失敗してもよ、安心
じゃねーか」
電話が鳴ると、建築全体を支配
する。2階建て築50年の木造は要
所要所、配水管などが手を加えら
れながらだけれど、時の重ね方は
静かだ。
普段は佐竹もめがねをかけて、
キー叩いている事が多いし、きつ
ねだって、お喋りなわけじゃな
い。どちらかと言うと、きつねは
人見知りだし。それで、よく就職
しようと思えたものだ。
「あんたもね、いい加減に落ち着
きなさいよ……きつねちゃんが気
を使うじゃない」
受話器を佐竹があげると、けた
たましい、くぐもった声がスピ
ーカーからした。母さんの声だ。
見合いの斡旋にいま母さんは嵌
まっているのだろう。ちょっと前
は海外旅行にはまっていたから、
すぐに飽きるだろう。困った人
だ。
「俺、知っているだろうけど、
奥さん養うほどの学者は稼ぎね
ぇよ、その上、呑んだくれだし
……絶対、苦労さしちまうって
……」
そう言っても、母親が引き下が
らないことはわかっている。長年
の経験から導き出した結論だ。学
会には発表できない。佐竹の専門
は主に近代文学だ。
「そうやって、すぐ逃げる……私
もはやく孫の顔がみたいわ
……5人目だけど」
母さんは兄夫妻と一緒に暮らし
ていて、その前はここ。この家は
両親から、借りているものだ。
「……ちょっと、良い」そうきつ
ねが上目遣いで聞いた。どうや
ら、久しぶりに母親と話したいら
しい。きつねは母親によく懐いて
いたから。
きつねが電話を変わると、とた
ん、和やかになる。母さんがほと
んど話しているらしく、きつね
はただ頷いているだけにみえるの
に。
「……佐竹、見合い、しなくって
いいって」
結果をきつねは出してきた。回
線を勝手に切った事なんて、受話
器と一緒に置いておいても構わな
い。
「ふー、ともかく助かった、見合
いってスーツだろう、料亭だろ
う。堅苦しくってやってらんね
ぇよ……案外、おまえ、交渉とか
向いてるのかもな」
自分の弱点はすぐイメージで物
事を話す所。仕事が上手くいかな
いのも、そうやって、捻じ曲げる
から。
「……まぁ、想像の範疇だけど
よ」
佐竹は就活をしたことがない。
その時期は論文を書いていた。
ネットとかには、就職活動と
は、まず、見掛けを整えるものら
しいと書いてある。就職活動メイ
クに就職活動ファッション、面接
に受かる受け答えなどだ。
このたび、きつねが就職活動を
するにあたって、佐竹は資料を探
していた。きつねはそれらの生地
を参考にするなら、すぐに受かる
だろう。
だって、きつねは人を化かすの
が得意なんだ。どんな風にも人に
は見せられるだろう。
「ねぇ、佐竹……仮にだけど、私
が佐竹の論文手伝いたいって言
ったら、どうする……そうだな、
給料は佐竹のお酒に当てている分
でいいや」
みんなのコメント
- と全体的にはよい思うのですが、SAYOUってなに? 西友? -- トム・ヤムクンさん (2012-09-07 21:49:07)
- らしさがあっていいかと。人によっては状況が掴めなくてモヤモヤしてしまうかもしれない。 -- 宇賀 (2012-09-07 16:11:59)
- 誤字。生地→記事。 -- 宇賀 (2012-09-07 16:10:41)
- 個人的にむっちゃ好きなノリというか設定です萌え。でも、長さの関係でシリーズものの第何話目って感じがする(一話目ではない)。ほんわかした空気を壊すことになってしまうかもしれないけど、冒頭で狐との関係をざっとだが少し細かく説明した方が分かりやすいかもしれない。今のままだと、可愛らしいほわんほわんした空気だけが先行してしまい、テーマである就活がぼやけてしまっている。もしかしたら私のツボにはまった設定なのでそう見えてるだけかもしれませんが… -- 加藤 (2012-09-07 15:56:31)
最終更新:2012年09月07日 21:49