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白いサテンの夜


 幼いダーニハリスンは、八歳の瞳にけなげな決心を乗せて、今、父であるジョージハリスンに向かい合っていた。
 元ビートルズ、その中でももっとも哲学者でもあり、人柄もよいといわれているジョージはダーニの憧れである。いつも忙しそうでなかなか会えないけれど、
会うと必ず自分を抱きしめてくれて、一杯話しを聞いてくれる。自分の母、オリビアとの仲も良く、ダーニは自分の家が誇りだった。
 しかし、たった一つだけ気がかりなのは…どうやら父は、外に出ると小さな浮気を繰り返し、オリビアを哀しませていることだった。それさえなければ完璧なのに…。
 たまに、キッチンやバスルームで声をひそめて泣く母の姿を見るたび、小さなダーニの胸は痛んだ。
 よし、ならば自分が意見しよう! 幼いダーニは決心した。父は大好きだ。母だって。そんな二人が傷つけあうのは見るに耐えない。ダーニは久しぶりに共に取った
夕食のすぐ後に、父の元に駆け込んだ。
「パパ、はなしがあるんだ」
「いいよダーニ、なんだい?」
「…おとこどうしのはなし、なんだ」
「なに?」
 ダーニの目は真剣だった。ジョージはまだ赤ちゃんみたいに思っていたダーニの成長に、クリシュナ神への感謝の念を送った(いやだな…)。
「いいぞ、じゃあ地下のスタジオで話そう」
「うん」
 あら、お風呂は? と尋ねてくるオリビアに「先に入っててくれ」とジョージは言いながら、意気込んで先を歩くダーニを指して、「内緒」のサインを送る。
 オリビアは、「あらあら?」と微笑みながら、そんな父子を見送った。

 ジョージの家は半地下になっており、その部分はスタジオ兼瞑想の場になっている。ちょっと湿った薄寒い中で、ダーニは改まってジョージと向き合う。
「どうした、ダーニ。男同士の話なんて」
 彼の前で、父はどっしりと構えている。そんな父を前に、ダーニは気後れした。言ってはいけないことなのかもしれない。しかし、もはや黙ってみていられない
ダーニの幼い正義感なのだった。
「…パパ」
「うん?」
「パパは、どうして外の女の人と浮気をするの? 僕達を、ママを、本当は愛してないの?」
 その質問は、ジョージの胸を突いた。
 そして同時に、「愛」というものに理解をもち始めている自分の息子を、誇らしく思った。
 これは、ごまかしで答えてはいけない、とジョージは側に転がっていたギターを取った。父が大事な話を纏める時、必ずギターを引きながら物事を咀嚼することを
分かっていたので、ダーニは、自分の言葉に真剣に答えてくれようとする父を頼もしく思った。

 よし、まずはギターで心を統一させて、話を大まかに纏めようとジョージはギターを爪弾きだす。それは例えていうなら、「サラリー○ンNE○」のお茶の間コントで
演奏されるフォークのような旋律だった。
 そして、ジョージは「心の中で」歌った      ―――――ハズだ。

♪息子よ。父さんは、お母さんを傷つけたくなんかない
 息子よ。お父さんは、お前や母さんを本気で愛してる
(変調)
 でも、ちょっと若い頃リンゴのおじさんと遊びすぎちゃって
 あの超絶快絶、ウルトラテクで開発されちゃって
 彼以上の絶頂感をついつい追い求めて しまうんだよ
 それは母さんやパティや、エリックがいたって、関係ないんだよー
(元に)
 息子よ、お母さんに、満足できないって訳じゃない
 言い換えると、母さんでも、満足させられなかったんだよ。

 あの完璧鉄壁セックスマッシーンのリンゴにかかったら… 「終」♪

 ここまで歌って、さてどうやって纏めようかとジョージは考えようとした。
 ふと、ダーニを見ると、なんだか顔を真っ赤に染めて、ぶるぶる震えている。
「ダーニ?」
 ジョージがいぶかしげに声をかけた。
「パパ…」
 彼はジョージを、よく学校の回りで出会ってしまう、なんだか困った人を前にした顔で見上げていた。眉をひそめて口を震わせ、彼はやっと告げた。
「今の、全部口に出てるよ!!!!!」
 ジョージの目が点になった。
 ダーニが、責める目で睨んでいる。
 しばし、彼はそんな息子を見守っていたが、手にしたギターを横に置くと、自分の息子に丁寧に、「すいません」と頭を下げた。
 ダーニは、思いっきり泣き出した。
「ごめんよダーニ、おいで、ほらだっこ」
「いやださわるな、へんたい!!!!」
「おとうさんにむかって、その口はなんだ!」
「お父さんがお父さんのおともだちとヘンタイ仲間だったなんて、僕母さんになんて言えばいいの!?」
「大丈夫、母さんも知って」(ボグッ)。
「いってえ! いいパンチ持ってるじゃねぇかおめえ!」(リバプール訛り)
「僕、もう誰を信じればいいんだよ―――!!!!!?????」

 子供のダーニにはまだ理解できない、かと言って大人になってからも理解されたら困るだけの問題が露見してしまったのは、霧が月の光を吸って、まるで白いサテンに
包まれたような夜のことだった……。

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最終更新:2009年06月09日 00:44