一緒に月を見上げましょう
「ポール、見ろよ」
ジョンと迎えの車を待っていたポールは、ジョンの声に釣られて、彼の指差す方を見た。
「わあ」
彼は思わず声を上げた。
インドで見る月はイギリスと違い、大きくて金色に輝いていて、アシュラム全体を、光が飲み込んでいるようだった。
少し歩こうや、とジョンが誘った。いいね、とポールが頷いた。どうせ道は一本だ。迎えがきたら拾って貰おう。
インドの乾いた大地の上を、ジョンとポールは、てくてく歩いた。
遠くに低い山並みが見える。
木々の陰がちらほらと、月に照らされ黒く浮かぶ。
昼間の強い熱は、まだ大地に残り、足元から土の匂いを立ち上らせている。
ジョンは首に下げたボルビックを、一口飲んでポールに手渡した。
ありがとうと受け取って、ポールも一口含んでみた。
月はどこまでも明るく、瞬く星も見えないほどに輝き、道行く二人を大きく照らす。
広い大地に、今は二人しかいないように錯覚して、ポールは前を行くジョンの、後ろ姿を見つめていた。
ただそれだけが、今の自分を導く指針であるかのように。
「月が綺麗だな」
振り向かないで、ジョンが言った。そんな彼に「ちぇっ」と思ったけど、それでもいいやとポールは思いなおした。
そして、なに食わない声で「そうだね」と答えた。
その時ジョンが、ふと立ち止まった。
どうしたの? とポールが聞く前に、ジョンは少しだけ躊躇うように口ごもると、やはり振り向かないで、こう言った。
「こんな月を、お前と見られてよかったよ」
そしてまた、歩き始めた。
「綺麗だね」とポールも言った。「綺麗だな」とジョンが答えた。
ジョンは一度もふりむかなかった。それでもいいやと、ポールは思った。
月は、二つの道行く影が、ぴたりと寄り添い重なるように、彼らを大きく照らしていた。
861Hedge-hog's
"I'm not in love,but"
* the end*
最終更新:2009年06月10日 13:42