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You know my name?







 男達の行為は容赦なく続けられていた。

 ここが、地下の駐車場であるのに、だ。

 湿った、カビくさい駐車場の、そのまた奥にある空間。そこはVip達のみが使える、個室のような駐車スペースだった。
 そこで、柄の悪い男が三人、『彼』を取り囲んで陵辱の限りを尽くしていた。
「おいおい…、いいのかねえ? こんなことして」
「だってよ、こいつアレだろ? あのバンドのメンバーだろ?」
 口元に卑しい笑いを浮かべながら、男達は言葉を交わす。その間にも、その手は『彼』の華奢な腰をがっちりと掴み、
揺すりあげている。もう一人は自分の屹立したものを口に含ませ、相手に気遣うこともなく、『彼』の頭を抱えて激しく
動かしていた。
「いいんだって。遠慮すんなとさ」
 最後の一人が、意地悪な笑いを浮かべて彼を見下ろしていた。男は『彼』の手をムリヤリ掴んで、自分のものをしごかせている。
もう男達は何回『彼』を使って果てたか分からない。周囲にはすえたあの、独特の臭いが充満し、『彼』の顔と言わず体といわず、
白濁した体液がかけられ、しかも最初の頃のものは肌の上で乾きかかっていた。
「コイツは、これぐらいやんないと満足しないんだってよ。だから時間まで思いっきりヤリまくれって、依頼主のご命令さ」
 それを聞いて、男共は下卑た笑いを響かせた。
「そいつはいいや、とんだヘンタイだなコイツ!」
「まだ3時間経ってないよな。よしもう一回突っ込めそうだぜ」
「順番決めるぞ。コインだせ」
 そういっている内に、一人が「お、もう俺出そう」といって、相手を強く突き上げた。
「あ! 熱い…! いやだ!」
 思わず口を離して、『彼』が声を上げる。その口元からは涎と精液があふれ出し、コンクリートの床に重い水音を立てた。
「おい、顔離すなよ」
 口を使わせていた男が不服そうに言った。そのとたん、臭い液体が勢いよく噴出して、『彼』の端整な顔を汚す。
「あーあ、もったいねえ。口ん中に出そうと思ったのによ」
「お前、もう何回も口に出してんだからいいじゃん」
 そう言われて男は
「だってコイツの口、最高だぜ? 女共だけにまかせるのもったいないくらいな」
 そして、今だ意地汚く腰を振る男を突き飛ばし、自分が『彼』の後ろに回った。
「今度はおれの番だ」
「なんだよ、それ!」
「じゃ、オレが今度は口ね」
 手を使わせていた男が、乱暴に『彼』の頭を掴むと、そのまま腰を押し進めてきた。
「んぐっ!」
 拒否もできない、この肉地獄の中で、『彼』は、ここに自分を呼び出した人物を、必死になって目だけで探した。
 深夜に呼び出され、車から降りたとたん、男達が襲ってきた。抵抗する間もなく彼は押さえつけられ、服を剥され、
そのまま今のような状況に落としこまれたのだった。
 男達は手馴れていた。そして、自侭に振舞っているようでいて、『彼』が溺れこんでしまうような手段をちゃんと心得ていた。
こんな屈辱的な状態だというのに、『彼』は何度も登り詰めた。耳や胸をまさぐられ、ズボンを引き落とされそのまま乱暴に扱われ、
それでも彼は男達の手でイかされてしまった。いつの間にか、『彼』は口の中のものに舌を絡め、腰を浮かせて男たちを受け入れていた。
そんな自分を嫌悪しながら、『彼』は激しく自分を翻弄する快感にうかうかと流されていた。

 その時

 男達は気付かなかった。

 気付いたのは、『彼』だけだった。

 彼らの後ろに、小柄な人影がこちらを見据えていることを。

 その手に光る指輪と、逆光の中にいて尚、底光りする青い目を見て、『彼』の心が凍りついた。

『………!!』
 口がきけない中で、『彼』は思わず喉で叫んだ。『かれ』だった。『かれ』は自分達から少し離れたところで、
冷たい視線を向けながらタバコを吸っていた。濃紺とダークグレーの縞の入ったスーツの下に着込んでいる真っ赤な
ドレスシャツが、薄暗がりの中で血のように浮かんで見えた。
 『彼』の心が羞恥で沸騰した。彼は一体、何時からここにいたのだろう。そして、こんな状態の自分を、いつから
見ていたのだろう。
 その時、『彼』はハッと気付いた。自分を呼び出したのは…『かれ』だった。
 そして、待ち構えていたような男達。
 犯され続ける自分を、助けもしないで見据えている姿。
『まさか。まさか、まさか!!!!!!??????』
「おい」
 男の一人が、『かれ』に気付いた。ぎくりと他の男達も振り返る。
 『かれ』は、無表情のまま「続けてくれ」といった。
「ここで見させてもらうよ」
 そういって、タバコの煙を長く吐き出した。
 依頼を受けた男が「ああ、あんただったのか」とホッとした声で頷いた。
「依頼主の前じゃ、がんばらなきゃな!」
 そういって、他の男達を煽る。男達はゲラゲラ笑って、一層動きを激しくした。
『どうして…、なんで!?』
 『彼』はそう尋ねたかった。彼らは確かに恋人として付き合っていたはずだ。自分は『かれ』を愛していたし、
『かれ』もまた自分と同じ気持ちのはずだった。

 それなのに…どうしてこんなことを。

 しかし、そんな考えもすぐに掻き消えていった。腰をうごめかす男の手が、『彼』の前に伸ばされた。そして、
自分の動きに合わせながらストロークを始める。
「あ、だめだ、やめろ…!!」
「はは! よく言うぜ! こんなにオレのコックに食いついてきてるくせによ!」
「ほら、口離すなって!! 八重歯を立てんなよ!」
「手がお留守だぜ? かわいこちゃん」
 口汚い台詞を浴びせられる『彼』を、『かれ』は、大きな目を半眼にして、黙って見つめていた。
 その視線と目が合って、『彼』はぎくりと身をすくめた。
 『かれ』の目は、無表情のままだった。ただ、青い目の底に、得体の知れない光を湛えて、『彼』を、男達を、
その行為を見つめていた。
 男達の行為を飛び越えて、『彼』は『かれ』の、その目に捕まった。
 肉体は男達に食われていたが、心は『かれ』に犯されていった。
 彼の目を意識するたび、『彼』は今までの行為からは得られることのなかった、激しい高揚を覚えた。
 『かれ』が、この酷い姿の『彼』を見据えながら、その手を口元に運んでタバコをくゆらす姿に、『彼』は追い詰められた。
『見ないで…お願い、……!』
 しかし、『かれ』はそんな『彼』の声無き訴えを知っているはずなのに、それを無視して『彼』を見続けた。『かれ』は
自分では何もしていないはずなのに、『彼』の心を支配していた。
『いやだ……もう、もう、だめ…』
 どこにも救いのない中で、『彼』はただ一つだけ、許されている問いを『かれ』に向けた。
『……、おれ……、もう、もう!!!!』
 『かれ』は、何も言わなかった。
 ただ、靴の踵を一つ鳴らしただけだった。
 声が、濁流のように空間を揺らした。
「あっは! あああ! うあ、あ、ああ、あああああああああああああ!!!!!!!!!」
 その瞬間、男達もそれぞれに果てた。

 犯しつくされ、『彼』は紙くずのようにコンクリートの床に放り出されていた。
「いいんですか? こんなことしちゃって」
 身支度を済ませた男の一人が、『かれ』の前でへらへらと笑う。
「いいんだ」
 そんな男に侮蔑の目を向けて、『かれ』は懐に手を入れた。
「約束の金…」
「おっと、その前にですね」
 男の一人が口を挟んだ。
「ソレですがね…、ま、俺達、口は硬いつもりなんですが」
「なんだ」
「ですが…その、酒が入ったり、お世話になった人なんかには、つい口が滑ってしまうかもわからんのですよ」
 『かれ』が黙り込んだ。それを怯えたと勘違いした男達はどんどんといい気になっていった。
「だから、ま、たまにオレ達の話を聞いてくれたらこっちとしても秘密は守ろうとおもうんですがね」
「そうそう、人の口に戸は立てられない、っていいますからねえ」
 『かれ』は、何も言わなかった。そしてにやにや笑っている男達を一瞥すると「なるほど」と頷いて、顔を男達に
向けたまま、ふところを探った。

 そして

「うぐっ!?」
 脅しをかけた男の口に、冷たい金属片が入れ込まれた。
 それは、折りたたみ式のジャックナイフだった。
「な!?」
 残りの男達は、意表をつかれて呆然となった。
 『かれ』は、ナイフを見ていない。残りの男達の動きを制する視線を向けたまま、口を開いた。
「面白いこというね。つまり、こっちを脅しているワケだ」
「…………」
「別にかまわないさ。まさか自分達がこんな幸運に巡り合えるとは、思ってもみなかったんだろ?」
 そう言って、男達の一つ頭下で『かれ』は笑った。写真や映像で見られる、チャーミングな笑顔だった。
 しかし、その口からは恐ろしい言葉が聞こえた。


                「惜しかったね、もう運は使い切ったよ」


 そして、ためらいなくナイフを横薙ぎに払った。
「ぐおおおお!!!!!!」
 男の口が、内側から真横に切られた。切られたことで口が大きく広がり、鮮血がコンクリの床に散らばった。
「おい!」
 男の一人が前に出ようとした。しかし、男は動けなくなった。
 『かれ』が、その前に立ちはだかり、黙って男を見上げた。
 その冷たい視線。怒りを含んだ、圧倒的な空気。一歩でも動いたら、その手にされたナイフが瞬時に自分達を襲う気配に、
大の男が二人とも固まった。

「天下のアイドルを味わって、しかも金までもらえたはずなのに、欲を出したのが間違いさ」

 言葉と共に、風を切る音が空間をそぎ取った。

「ぎゃああああああああ!!!!!!」
 ぴちゃ、と小さな音を立てて、耳が二つ、壁にぶつかり跳ね返った。
「耳が、おれの耳があああああっ!!!!!!!」
 思わず跪いた男に、『かれ』は手にしたナイフをその目の前に見せた。

 口を切られた男は、床を転げ周り、訳の分からない叫びを上げていた。
 耳をそがれたもう一人は、惨めな声を呻きながら這いずる様に、自分の体の一部を探す。
 そんな様子を薄笑いを浮かべて眺める『かれ』に、男は、自分の今の状況を忘れてぞっとした。

「コレだけは知っていたほうがいいよ。僕達を脅すのは、世界に脅しをかけることと同じだって、ね」

 わかったかな? そう言って、『かれ』は大げさに男の顔を覗き込んだ。手にあるナイフには血がこびりついている。
 男はそれが何であるか、やっと分かった。

 それは、ナイフの形をした「狂気」だった。

 男は、泣き出していた。あうあうと訳の分からない言葉を上げながら、へたり込んだ。
 そして、そのまま失禁した。
 汚いなあ、と『かれ』は顔をしかめた。そして、その臭い池の中に、分厚い紙幣一巻きを落とし込んだ。
「治療費くらいにしかならないけど…、いいよね?」
 もう一つ、いるかい? 『かれ』の屈託ない物言いに、男はひいっと短い悲鳴を上げて首を横に振った。そうかい、
悪いねと『かれ』は笑った。
 底になにがあるのか分からない笑顔だった。

 男達がほうほうの態で逃げ出した後、『かれ』は靴音を鳴らして、『彼』に近づいていった。

『彼』はコンクリートの上に置き捨てられたまま、一部始終を見ていた。
『かれ』は、あんなことをしていながらも吸いきったタバコを、『彼』の鼻先に投げ落とし、足でねじ消すと、片膝を
落として『彼』の髪を引っつかんだ。
 そして、ぐいっとそのまま自分の方に引き上げると、無表情に戻ってこう囁いた。

「満足したかい?」

 その目は、青く燃え上がっている。
 怒りと、嫉妬と…それ以上に強い感情に。
 そして、彼はその名を呼ぶ。冷たい響きを放つ声で。
 愛情を込めて。

「ジョージ」 と―。

 『彼』は、ジョージは、その言葉の響きと視線に、心の底から凍りあがった。
 『かれ』は、リンゴは、いつから気付いていたのだろう。

 自分の…その、誰にも言えない欲望を。
 愛しい人と肌を合わせてもなお、癒えることのない渇望を。
 『かれ』だけでいいと、自分を納得させようと足掻いていた、ジョージ自身の浅ましさを――。

「………リン、ゴ」
 強張る口で、彼は名を呼ぶ。
 呼ばれた方は、黙っていた。
 そして、男共に汚されたジョージの口に、深く口付けた。
 舌を差し込まれ、粘つく口内を蹂躙された。砂がまぶされたようなべたつく身体を、その腕はきつく抱きしめた。
 たった、それだけ。それだけのことで。
 ジョージは、達してしまった。
 彼は、リンゴの腕の中で意識を失った。

 リンゴは、そんなジョージの体を抱き上げると、そのまま彼の車に乗せた。
 そして、車のエンジンをかけた。

 エンジンを温める僅かの間、リンゴはぐったりと目を瞑るジョージの髪を優しい手つきで撫で上げた。
 そして愛しげに、その頬にキスをすると、そのまま自分達が滞在するホテルへと向かっていった。

 轢き潰された耳が一つ、血塗れたコンクリの上で、ぼろきれのように転がっていた。








             861Hedge-hog's「You know my name?」
                    *the end*

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最終更新:2009年06月28日 02:43