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苺畑で捕まえて


 崖の上で子供達が遊んでいる。崖の上には、黄金色に輝く稲穂が生い茂っている。
子供達は駆け回ったり、縄跳びをしたり、あるいは、かくれんぼをしたりブランコを漕いだりしている。
金の稲穂の波は子供達に巻きついてその腕の中へ引き入れようとしている。子供達のはじゃぐ声にまぎれて稲穂は静かに、ゆっくりと、歌いかける。
時折ざわざわと風のベールを羽織った金の綿毛のような髪は、子供達の小さな身体を包み込んで抱え込む。
子供というのは、残酷なものだ。純粋な瞳とは裏腹に、生き物を殺したり、残酷な遊びを考案したりする。
今も、数人の幼い男の子たちは首吊りごっこなる危険な遊びをしている。

 栗色の髪をした子が赤毛色で、そばかすの男の子に死体役をやらせようとしている。
死体役に抜擢された子はいかにも弱そうで加害を受けるタイプに見える。
男の子たちは死体役を囃し立てて今か今かと待ちわびている。
男の子はそれを必死で拒否したが、とうとう無理やりやらされてしまった。
男の子はロープに首をかけると、首吊り死体の真似をしてみる。男の子は、目を瞑って首を下に下ろした。
周りに居る子たちは、面白がってもっとやれとはやし立てている。

悪い子 悪い子出ておいで
悪い子にはお仕置きをしよう
悪い子は鞭で叩いて小さな頬を千切って箱に閉じ込めてしまおう
悪い子 悪い子出ておいで
みんな みんな出ておいで

 女の子たちは男の子たちなんかほっといて花を片手に歌を歌っていたり、駆け回っていたりする。
さきほどの男の子の顔色が変わってきた。男の子は必死にロープから降りようともがいた。
もがいて手足を暴れさせている。ロープは、ますます男の子の首に食い込んでいる。
下にいる男の子たちは、また面白がって指でつついたり、見たりしている。
まだロープが首に付いている男の子は、手足をじたばたさせて仲間に助けを求めている。
仲間達は助けないようだ。残酷な、子供ならでは無垢な笑いが響いている。

 子供だから、こんな残酷かつ非道極まりない遊びは許されるのだ。
ぶら下がった男の子が、手足の動きを止めて木がざわざわと風に誘われてワルツを奏でた。

 木の上では、色の白い男の子が本を読んでいた。
男の子はよく見れば、色の白い綺麗な肌に加え、日に透けるような金髪と形の好い鼻、やや鋭いが、寂しげな目を持っている。
木の上で読書をする、どこか物憂げでけだるげな雰囲気に太陽でさえ驚いて、陽を当てるのを恐れてしまうだろう。
歳は下にいる子供たちより上なのか十歳に見えた。
下はまだ賑っていたが、上はページを静かに捲る音と、風で木がざわざわと揺れる音だけが響いている。
下では相変わらず小さな子供達が戯れている。
男の子はふと下に目をやった。そしてまたページに目を戻した。

 突然、下で悲鳴が上がった。
断末魔を引き裂くようなその悲鳴の先には刃物を持ち眼を光らせた、中肉中背の男がいまかいまかと子供たちを狙っている。
子供が一人殺された。かわいい栗毛の女の子だ。女の子は、遊んでいたところを後ろから襲われた。
八歳の、短い命だった。

 次に死ぬ子はだぁれかな?
かわいいかわいい子供たち
怖がらないで出ておいで 
さぁさぁ出ておいで
おいしいお菓子をあげたなら
後ろから銀のナイフを突き刺して血で最後の飾りを食卓に飾ろう 

男の子は、みんなを守ろうと木から下りた。悪い子も、逃げ惑っている。
逃げても、逃げても、男は後ろから追ってくる。
みんなは逃げて惑った。泣いている子や、追っ払おうと立ち向かっている子もいた。
さっきまで木の上に居た男の子は、男を追い払おうと必死で掴みかかった。
掴みかかって、ナイフが男の子の膝を掠めた。
男の子の膝からは、血が出ている。

 それでもこの美しい場所からみんなを守ろうとした。
その時、男の子がぱったりと倒れた。男が、男の子の血のついたナイフを持ったまま、笑っている。
みんなは倒れた場所に駆け寄った。男の子の身体から、赤い水が流れ出て、稲穂を濡らした。
もう、男の子の身体は何個も穴が開いている。男の子は最後の息をして、みんなを守れなかったことを悔やんで泣いた。
それは、別れの涙でもあった。男の子の白い頬も、みんなの頬も涙で濡れて潤んだ。

 男の子は意識が薄れゆく中で、みんなに謝った。
ごめんね。守れなくて、ごめんね。その声はか細い声だった。か細い声で、さよなら、と呟いた。
男の子は遠い国に旅立っちゃった。天国という名の遠い国には何があるのかな?

この崖の上には苺畑がある。

みんなの、大事な、大事な畑だよ。みんなで育てた大事な苺は、男の子の流した血の色とおんなじ色をしてたんだって。
あとから遊びに来た、眼の大きな男の子と、茶色い髪の男の子はなんにも知らなくて泣いてたんだって。

苺畑で捕まえたら、優しく殺して大事に、大事に育てよう。
小さな、小さな宝物を。

    完

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最終更新:2009年06月16日 14:44