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Grow old with me,please!



 ジョンが「家庭ごみ」を回収日前夜に出しにいって、ついでに行きつけのコンビ二に寄ってシャンプーとお気に入りの菓子パンを買って帰ってきた時、
それはすでに始まっていた。
 部屋の玄関を入ると、愛する家族が楽しそうに声を上げている。
「どうしたんだい?」
 とデレついた顔で茶の間に行くと、ショーンが可愛らしい笑顔を向けて「ダディ、おかえんなさい!」と駆け寄って
ジョンに抱きついた。「コレが天下のジョンレノンか」と砂を吐いてしまうほどのデレデレ顔で、彼はショーンを抱き上げた。
「お帰りなさい、ジョン」
 最愛にして優れた芸術家(ジョン評)のワイフが、ソファから振り向いて彼に笑いかける。
「ねえ、ダディ?」
 たどたどしく、ショーンが尋ねた。「ダディは、びーとるずだったの?」
 ジョンは驚いた。今の今までそんなこと、聞かれたこともなかったのに。ヨーコに視線を向けると彼女は、「今、テレビでやってるのよ」と言った。
 やってるって、何が? と、彼がヨーコの肩越しにTVを覗くと
『おはよう、同士!』
 自分の声が、耳に響く。
 そして大画面TVには、白黒画面で帽子を被ったまま風呂場でふざける自分の姿が大写しになっていた。
 一瞬、ジョンの顔から表情が消えた。
 そして、ショーンをヨーコに渡すと
「うわああああああああああああああああああっ!!!!!!!!」 
と悲壮な声を上げてTVを消そうとした。
「ダディ、どしたの?」
 ヨーコの膝の上で、ショーンがきょとんと首をかしげる。その手にはリモコンがしっかり握られていた。
 このTVはめんどくさがりなジョンが選んだだけあって、リモコンでしか操作できない。彼はショーンに「リモコンちょうだい」
と言った。しかし、愛息は頷かなかった。
「やだ! ぼくコレ見るんだもん!!!!」
 見るんだもん、じゃねえよ! ジョンは、ショーンを抱っこしてるヨーコを見た。彼女は慈愛の篭った目を画面に向けている。

 昔の、粋がって、声張り上げて馬鹿みたいに「イエーイエー」叫んで女の子の追っかけられてやにさがってる、夫の姿を。
 そして当の夫は、それは、それだけは勘弁してくれと哀願したかった。

「ヨーコ、ショーンからリモコンを取ってくれ!」
「やだ! マミーねえぼくコレみたいよ!」
「いいじゃない、ジョン。私もこれ初めて見るわ」
 そう言ってヨーコはにっこり微笑むと、致命的な言葉をいった。
「かわいいじゃない、あなた」
 ぐぎゃああああああああああああっ!!!!!!!
 ジョンの頭は破裂しそうになった。恥と羞恥とShameと恥辱が、彼の中に溢れかえった。 

 自分は、せめてヨーコにはかっこよくありたいと思っていたのに!!!!!!!!!!(間違い)
 ショーンにも、そう見せようと思っていたのに!!!!!!(間違い)

「ダディかわいい!」
 もう限界。
「ガアアアアアアアっ!!!!!!」 
 怪獣のような声を上げて、ジョンはクリスタル製の重たい灰皿を画面に叩き付けようとした。
「ジョン!?」
「ダディ!!!!!」
 ショーンの声で、彼はハッとした。ショーンは泣きそうな顔だった。
 息子の中で「かっこいい」から「可愛い」に格下げになったあげく「怖い」に変形してしまったら堪らない。ジョンは腕を下ろしたが、TVに、ドレッシング
ルームのシーンで「迷子になっちゃったんデス!」と大げさに膝を折る自分(わざとらしくて台詞もがっちがち)が大写しになった時、再び腕が上がりそうになった。
「ダディ、NO!」
 ショーンの怒り声は、ジョンの弱点だった。ジョンはTV破壊をあきらめ、そのまま電話に走ると、TV局の番号を押した。
「…あ、もしもし? 今そっちの番組見てるんだけどね、やめて欲しいんだよあんなもの流すのは!!!! もう昔の話なんだから恥ずかしいんだよ!
 あ? 俺? ジョンだよ。ジョンレノンだよ!!!!! …なに? 誰がこんなことで嘘つくか!? いやだから、家族に見られたら困るんだって!……、
おい。オイ?」
 受話器の向こうからは「ッツーッツー」と言う音しか聞こえない。
 ジョンは真っ赤な顔してもう一度電話をかけた。
「もしもし? なんで電話を切るんだよ! 善良な視聴者の要望が聞けないんなら、マスコミにFax流してお前ンとこ非難するぞ!? 
…なに笑ってんだコラ!」
「ジョン、もういいじゃない」とヨーコがジョンの隣にやってきて諭す。

 あなた、ちゃんと可愛く写ってるわよ?
 表情は硬いけど、台詞もちゃんといえてるし。曲も可愛くて素敵よ?

 ヨーコは、彼を慰めるために言っているのだが、その全ては裏目だった。
 ジョンは、今自分に雷が落ちるか、TV局に雷が落ちてくれと真面目に願いながら電話に向き直った。
「もうやめてくれよ! 金なら払うから映画をとめてくれ!!!!! ヨーコにこんなもん見られたくないんだよ! ホントになんでもするからさ! え? 
もう一人おんなじこといってる奴がいるって? そいつきっとポールだ! ほら、当のビートルが二人もやめろってんだから…え? いい加減にしないと
通報する? いいじゃねえか! するならしろ!!!!!」
 受話器の向こうが、プッ、と鳴った。
「もしもし? …オイコラ、もしもし!? また切りやがった! こん畜生、局に火ィつけたろかゴルァ!!!!」
 そして電話に八つ当たりしそうになったのをヨーコがとめる。
「ジョン、もう映画終わるわよ」
 なに? ジョンは画面を振り返った。
 そこには、ノームから深夜ライブのことを告げられ、言葉を荒げる(演技中の)自分の姿があった。
 当時の思い出と、今の状況が渾然一体となって、より一層ジョンを恥ずかしくさせた。
「…ショーン?」
 腰が抜けそうになりながら、ジョンが一人息子に声をかけた。
 彼は楽しげに目を輝かせて、こう言った。
「ダディ、びーとるずってかわいいね! たのしいね!!!!」
 ヨーコを見る。彼女もにっこり頷いた。
 ジョンは恥ずかしさMaxで、ゲル化しそうになっていた。
 家族は、今の映画を楽しそうに語り合っている。「ダディかわいい」「ジョンかわいい」と聞こえるたびに彼のゲル化は進んでいった。
 その時、電話がなった。半分アメーバ状態になった体を引きずって受話器をとると、それはポールからだった。
『やあ、ジョン』その声は、想像していた響きと違って、明るく聞こえていた。
「お前…知ってる? 今TVで」 ジョンは声までゲル化しそうになりながら尋ねた。
 ポールは『うん』と、こともなげに答えた。
『ちょうどこっちにきてたからね。今僕も見てたんだ。懐かしいからつい電話しちゃった』
 明るい、明るすぎる! ジョンは思わず怒鳴った。
「お前恥ずかしくなかったのかよ!?  俺はTV局に電話入れて番組止めようとしたぞ! …あれ? そういやお前も止めようと電話したんじゃないの?」

 ポールは受話器の向こうで『いいや』とあっさり答えた。

『きっとジョージじゃないの? アイツの演技もひどかったからさ』
「お前はいいのか? あれが家族の目に入っていいのんか!?」
『いやあ、恥ずかしいってか、お互い若かったよね?』
 あははとポールは笑った。開き直ったような響きはない。ジョンのゲル化が一層進んだ。
『ショーンやヨーコも見たのかい?』
「ああ、そうだよ。そしたら二人とも俺のこと、「かわいいかわいい」って…」
『ああ、それはしょうがないよ』
 ポールがとどめをさした。

『だって君、かわいかったもの』

 ―――――――― ジョンの中で、何かが切れた。

『ジョン?』
 ポールの、屈託ない問いかけに、ジョンは
「お前なんか、大っっっ嫌いだ!!!!!!」
 と怒鳴りつけた。そして電話に受話器を叩きつける直前、彼はポールの楽しげな笑い声を聞いた。
 家族二人は、まだ今の映画について話してる。
「ダディ、イエーイエー、イエー!!!!!」
 さすが子供は、調子のいい囃し声に敏感だ。楽しそうにソファで飛び跳ねながら、無邪気に叫ぶ。
「あなたの若い頃の曲、興味深かったわ」
 ヨーコが思慮深い顔で頷いた。
 ジョンは、ゲル化した。

 そして、それから数ヵ月後。
 5年ぶりに、スタジオに入ったジョンがいた。
 彼は思った。アレが、あの姿が今の俺と被られたらたまったもんじゃない! ここはきっちり姿を出して、今の、かっちょいい俺を世界に見せないと!!!!! (大間違い)

 今でもショーンは、彼に「かわいい」と言う。その度ジョンはアメーバ体と化していた。

 勘弁してくれ、違うんだ。
 畜生ポール、覚えてろ! と、何故かポールに攻撃をシフトさせながら、彼は大急ぎでアルバムを作った。

 そして、久々の音楽活動の理由について、こう語った。

「息子のショーンが、友達の家で「イエローサブマリン」を見て、僕に「パパはビートルズだったの?」と聞いてきたんだ。それで再び、ギターを取ったのさ。
いいか、ショーンが見た映画は、アニメの、「イエローサブマリン」だからな。そこんとこちゃんと書いといてくれよ?
 …なんだ、その顔は!? おいそこ、「ムキになってかわいい」とかぬかすな!! チョーパンかますぞ、コラ!!!!!」







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         「Grow old with me,please!」
             *どっとはらい*





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最終更新:2009年06月25日 02:10