Mr.Moon-Light!
月夜の晩には、何かが起こる。
魑魅魍魎が、跋扈する。
1960年代初頭、深夜。
リバプール大聖堂の屋根のてっぺんに、二つの影が降り立った。
一人は齢20代前後に見える青年だった。黒いマントを纏い、尖った鼻と鋭い目をして、薄い唇を歪ませている。
もう一人は、やはり20代前後の青年で、黒いスーツに身を固め、形よくつりあがった眉の下に、大きな瞳を金色に輝かせている。
「やーっと封印が解けたな、ポール!」
にやりと笑って、マントが言った。その口元には大きすぎる犬歯が光っている。
「そうだね、ジョン」
名前を呼ばれた黒い男が、案外人懐っこい笑顔を返した。二人は100年前にドジ踏んでここの牧師に封印された怪物だった。が、その封印も力を失っていると知るや、
うきうきと地下の安置室から抜け出して、100年ぶりの食事に出ようと相成ったのである。
「じゃあ行くか。お前どうする?」
「僕は君の後を追って走るよ。久しぶりに走りたいし」
ジョンの問いかけにポールは、自分の鼻を指差して笑う。
「僕の鼻がいいことは知ってるだろ?」
そうだな、と頷いてジョンが大げさにマントを開いた。
そして厳かに一歩踏み出そうとした時
「めんどくさいよ」
と、ポールがその尻を蹴飛ばした。
「おわっ!!??」
マジでびっくりした悲鳴を上げながら、ジョンが暗闇に落ちていった。
ポールが、ん? と下を覗く。
すると無数の鴉が、激しく羽音を立てながら月へ向って飛び立って、そのままUターンで戻ってきた。
「バカ野郎! 大丈夫だって分かってても焦るだろ!!!!」
鴉が一塊に集まると、それはジョンの姿になった。しかしその背中には黒い羽が生えている。
「あ、ごめんごめん」
ちっともあやまっていない顔でポールが謝った。
もう行くぞ! とジョンが怒鳴った。OK、とポールがウィンクすると、その姿をみるみる変えた。
一匹の立派な黒い狼が、そこにいた。
ジョンが大きく羽ばたくと、その姿は一匹の大きな鵺になった。
二人は月を背に、リバプールの町並みを睥睨しながら疾走した。
久しぶりに、二人はこの世界に戻ってきたのだ。
二人はとある長屋に降り立った。なんなく寝室の窓を開け、そのベッドの枕元に立ち並ぶ。ベッドには、一人の少年が眠っていた。
長い睫で、なかなか綺麗な顔立ちをしている。しかし…
腹は減ってはいるのだが。
ちゃんと飯の対象なのだが、なぜか二人は複雑な顔をして少年を見下ろしていた。
しばしの後、ジョンが肘でポールをつついた。
「ポール…お前、齧れよ」
ポールはぎょっと返事をした。
「なに言ってんだよ! 僕が齧ったら、こいつ死んじゃうだろっ」
確かになあ。
「齧るんだったら、ジョンがしなよ。腹減ってるんだろ?」
そうなんだけどなあ…。ジョンは乗り気になれない声でぼやいた。
「でも…なんかこいつ、食う気になれんのだ」
「ああ…わかるよ」
ポールも、なぜかうんざりと答えた。
「なんか、下手に手を出したら、ずーっと付きまとわれそうだよねえ」
「うん」
「実際そうだったしねえ」
「うん」
少年が寝返りを打った。何故か二人はぎくりとした。もし少年が起きだして、こっちが見つかったらとんでもないことになりそうだ(自分達が)。
彼らは部屋の隅の陰に身を潜めた。普通の人間の目には暗がりにしか見えないだろう。
その時、ノックがした。
「ジョージ?」
小さな人影が現れた。使い込まれたシャツの腕をまくった、鼻が大きくておっとりとした顔つきの青年だった。
青年は、ジョージと呼ばれた少年のベッドに歩み寄り、辺りをなんとなく眺めまわすと、気を取り直してジョージの毛布をかけなおした。
ジョンはポールに目配せした。ポールもOK、とウィンクした。
そして、青年が部屋を出ようとした時
くるりと、彼は部屋の隅を振り返った。
ジョンとポールは、体を硬くした。
青年の青い目は、光を背にしても大きく光って見える。彼はジョン達が潜んでいる部屋の隅をじっと見つめていたが、やがて軽く首をかしげたままドアを出て行った。
それを見送って、二人は安堵のため息をついた。「まさか、彼」 ポールが声を潜めてジョンに言った。
「僕達に気付いたかな」
「いや、まさか」
ちょっとだけ迷った口調でジョンが楽観的な意見を述べた。
「だって…首かしげてすぐ出てったし。大丈夫だよ」
「ホント?」
「いや、分らんけど」
「やめろよ、憶測でモノいうの!」
まったく、100年たっても変わんないなあ、その適当な物言い。ポールがぶつぶつ言い始めるのを「ま、いいじゃん。とりあえずメシ食いに行こうぜ!」 とジョンが
その肩を押した。ベッドから「うーん」と声がした。二人は肩をすくめて互いの口に人差し指を押し当てると、つま先立って部屋を後にした。
階段の横の部屋のドアが開きっぱなしになっている。そこからの明かりが、やっと階段を照らしていた。
古ぼけた壁に、痛んだ階段。どう見ても恵まれた生活の気配はない。顔を見合わせながら二人は階下へ降りていき、そっと部屋をのぞきこむと、果たして彼はそこにいた。
彼は、深夜に誰も来ない部屋で一人、慣れた手つきで靴下をつくろっていた。
ポールが思わず泣いた。
「ああ、寂しい人たちは何処へ行くんだろう!」
「いや、今はいいから」
ジョンがあっさりポールに言うと、気配を完全に消しきった。
これは自分の姿を人に認識させない技だった。ジョンは姿をそのままに近寄っていくのだが、相手にはジョンがすぐ傍に来ても分らない。そして、まんまと血を吸われ、
その肉はポールのご馳走になるのだった(ああ、なんと美しい食物連鎖!)。ポールはその鼻を使ってジョンに獲物を知らせる。ポールが感じたのは、こちらの方だったに
違いない。ジョンの後について、ポールも部屋に入っていった。狼男は吸血鬼の眷属である。同じ技を使えるのだ。
そっと二人は、彼が座るソファの後ろにやって来た。小さな肩に、華奢な背中。そして、ちょっと髪が被る首筋の美味しそうなこと。ジョンがポールに、親指を上げた。
ポールが、待ちきれないとばかりに頷いた。
犬歯をむき出しにして、ジョンが迫る。――と、その時。
青年が、ひょいと振り返った。
ジョンとばっちり、目が合った。
そして青年は…ぎょっとして目を丸くしたのだ。
え!? ジョンもポールも、一瞬真っ白になった。これは…見えてる!?
呆然となった二人を前に、あっさりと最初のショックから立ち直った青年は、落ち着いた態度で繕い物をテーブルに置くと
「こんばんは」 と、丁寧に頭を下げた。
「…あ、はい」 ジョンとポールも頭を下げた。
「こんばんは」
しばし三人は互いに見詰め合っていた。そして青年が頭を軽く下げると、また繕い物に戻った。
「…ちょっと待って!」
ポールが思わず突っ込んだ。「せめてなんか言ってよ!?」
青年は、再び振り返った。これでこっちを認識していることがはっきりした。なんか言えっても…、と青年が困った声でぼやくと
「えーと、ミルクくらいは出せますけど」
「いえ、結構」
「ベーコンの切れ端でよければ」
「お気遣いなく」
「パンにミルクを湿したものでも」
「…近所の野良猫が迷い込んだのと違うんだけどね?」
ジョンがうんざりと口を出した。すいません、と青年は真っ赤な顔で頭を下げる。「…今のは、僕たちの食事なんです」
ジョンとポールは、黙り込んだ。失礼なことを言ったのは自分達の方だった。家の傷み方といい、今の食事内容といい…どうやらこれは、相当困ってるようだぞ?
「ところで」 青年が、首をかしげながら二人に尋ねた。「お二人は、どんなモンスターなんですか?」
今度こそ、二人は言葉を失った。
「ジョンさんとポールさん、ですか」
二人をソファに座らせ、自分は粗末な木の椅子に移ると、「リンゴ」と名乗った青年は改めて頭を下げた。
「ところでさ」 ジョンがバツが悪そうに聞いた。
「なんで俺達のこと、「人間以外」だって判ったの?」 その問いに、リンゴが腕を組んで「う~ん」と唸った。そして
「もし泥棒だったら、僕は殺されてると思います」と言った。
「お二人は、僕に見つかっても暴れたりしなかったでしょ? 普通の人間だったら、そうしているはずですから」
「俺達が二階にいるのも分かってたの?」
ジョンの問いに、リンゴは「なんとなく」と答えた。
「普段とちょっと違う気配がしたもので…。でも、上手く隠れてましたね。ちょっと見じゃ分りませんでした」
リンゴが笑いながらそういった。
何故か嬉しくない二人だった。
「どうして僕達のことが見えたの? 僕達の技が効かなかった人間なんて、今までいなかったよ」
ポールの問いに、リンゴが首をかしげた。
「それが、よくは…。子供のころお世話になった孤児院の牧師さんは、僕を生まれつきの「浄眼」の持ち主だと言ってくれましたが」
ジョンとポールは素直に驚いた。道理で、化け物を前に落ち着いていられるはずだ。「浄眼」とは、世界の「邪」を見分けてしまう眼のことだ。
よほどの修行をした者か、それこそ「生まれつき」持ち合わせるしかない。
「じゃ、あんた、苦労したんじゃねえの?」
ジョンの言葉は、今の暮らしをみれば一目瞭然だった。リンゴは困り眉のまま笑った。
「まあ…仕方がないですよね」
ポールがしんみりと頷いた。「浄眼」が、自分たちのようなモンスターだけに効くのならいい。しかし、あまりに強いと、「人間」にも効いて
しまう。悪い心を持っていない人間などいないから、リンゴもきっとかなり辛い思いをしてきたに違いない。
「それで、あの、お二人は」
「いいよ別に。名前で呼びな」
「僕らは、吸血鬼と狼男さ。長い間の相棒で、封印されたのも一緒だったってわけ」
「封印は何処で?」
「リバプール大聖堂地下の安置所さ」
100年前の話だけどね。ジョンの言葉にポールがそう続けた時、リンゴは「えっ?」と声を上げた。
「それ…ジョージのご先祖だ」
へ? 二人は目を丸くした。
「俺達を封印したのが、か?」
「ええ、それは僕の同居人の…、二階で寝てましたよね? 彼がジョージです。ジョージハリスン」
「ハリスンだって!? おい、確認するぞ?」
ジョンがリンゴを指差した。
「俺達を封印したのは、ハロルド・ルイス・ジョージ・ハリスン牧師長だ」
「ええ。そうです。彼はその累系だと孤児院長から聞いてます」
二人は思わず二階を見上げた。剣呑なものを感じて当然だ。自分達を封印した男の血や肉なんざ食いたくもない! 狭い街とは分っているが…なんとなんと!
「ハリスン牧師長は、結局ジョージの祖父に当たる人を、結婚相手以外の女性に宿してしまったことで教会を追放されてしまったようです。そして、あのコ…
ジョージに至っては、両親を事故で亡くしてしまったので」
彼らが世話になっていた孤児院は、ハロルドがまだ牧師長だった頃に立てられたものだそうだ。
「僕は、18で孤児院を出て仕事を始めたんですが…なかなか覚えが悪くて」
今は21歳だということだ。それにしては小柄だ。病気がちで栄養も悪い孤児院では、大体こんなもんだと彼は笑った。
「それですぐばれちゃうんですよね。「親が居ない」…身元がはっきりしないやつだって」
それに加えての「浄眼」だ。苦労だらけだ。
「でも、彼…ジョージが来てくれてから、随分楽しくなりましたよ。彼は良くも悪くも、暗いところがないから一緒にいて楽です」
ジョージは18歳だという。それにしては幼く見える。それも理解できた。
「あんた、それで俺達の…」
その時
「リンゴ?」
二人はぎくっと身を竦めた。
件のハリスン君が、ひょいっと顔を出した。
「あ、ジョージ。起きちゃったかい?」
リンゴが立ち上がって、ジョージを流しに導く。注意をソファから逸らしてくれたのだ。
「なんかさ、ジョン」
ポールが言った。
「リンゴって、いい奴だね」
ジョンは頷いた。いい奴は苦労するんだよな。
「でも、ポール忘れるなよ」
ジョンは釘をさした。
「俺達は、アイツを食うんだから」
うん…。ポールの言葉は沈んでいた。二人は彼らを振り返った。ジョージにミルクを温めながら、リンゴは彼と楽しげに話している。
「さ、もう寝な。明日早いんだろ?」
「うん、まあね」
ご馳走様とカップをリンゴに渡して、ジョージが頷く。
「リンゴは?」
「オレも、もう寝るよ」
「分った。おやすみ」
彼は少しリンゴより高いところからその頬にキスをすると、パタパタと階段を上っていった。
「…仲いいな」
ジョンが独り言のように言った。
「長い間一緒だったから」
リンゴが戻ってきた。もう兄弟みたいなもんで。
へえ? とジョンが声を上げた。兄弟ねえ…。
ポールが視線でジョンを抑える。
「じゃ、もう遅いので僕もこの辺で」
といって、爽やかにリンゴは微笑むと二人に「おやすみなさい」と挨拶をした。
その爽やかさに釣られて、二人も笑顔で頷いた。
「…て、ちょっと待て!」
ジョンがあわててリンゴの襟を掴んだ。「そっちの話は済んだろうが、こっちの話はまだなんだよ!」
「はあ。というと?」
とぼけた顔でリンゴが聞いて来た。思わず膝の力が抜けそうだ。
「だから、吸血鬼の俺と狼男のポールが、なんでここにきたか、だよ!?」
「…あ、そうか!」 リンゴが、パンと手を打った。ドキッとポールが耳を塞いだ。「なんだ今の?」 ジョンも耳を塞ぐ。
今のリンゴの拍手に、二人は本能的な禁忌を感じた。
実は「手を叩いて音を出す」行為は、空間を浄化する作用がある。大きな音を立てる行為もしかり。教会の鐘の音が大きいことや、大晦日に鐘を突く行為、そして神社の
拍手(かしわで)がその代表だ。世の「聖なるもの」の根源が同じだと考えれば、当然の反応だった。
ジョンはきょとんとするリンゴを見た。こいつ、自分のこと何もわかってねえ、と。
「浄眼」を持っているだけではない。きっと彼は「聖別」された者だ。そうじゃなかったら、たかが拍手一回でこんなに彼らをびびらせる事などできない。これでも彼らは
齢300歳を優に超えた「化け物」なのだ。
ジョンが負けじとリンゴの首筋にかじりつこうとした。しかし、彼の眼がジョンを見る度に、彼は弾かれてしまった。入れ替わりにポールが襲い掛かる。しかし、同じだった。
まるで電流を流されたように跳ね飛ばされてしまう。
「大丈夫?」
襲われる方に襲う方が心配されれば世話がない。
「うるせえよ!」
気絶したポールの下で、腹立ち紛れにジョンが怒鳴った。
「ポール起きろよ! ああまったく、重てえなあ!!」
リンゴが慌ててポールの肩を担いで引き起こそうとする。しかし体格が違いすぎて、ジョンの上に二人が尻持ちをつく羽目になった。
「………」
「…すいません」
「いいから早く降りろ!!!!」
ハイ、とリンゴは飛び起きた。ポールもその勢いで我に帰った。
「あれ、ジョン? どこ?」
「おまえの尻の下だ!!!!!」
そういって、悔し紛れにポールの尻を思いっきりの力でつねり上げた。齢を経た吸血鬼の力で捩じ上げられたのだ。いかな狼男でもたまらず、思わず「キャン!」 と悲鳴を
上げて飛び上がった。
「ひどいよ、ジョン!」
ショックで耳と尻尾が出ているのに気付かず、ポールはジョンに文句を付けた。
「絆創膏でも」
「お前も一々、気を使うな!」
ジョンがリンゴに怒鳴りつけた。「うっとーしい!」
リンゴがシュンとなった。ポールがジョンを睨み付けて、リンゴの肩に手をかけた。どうやら、悪意を持たないと普通に触れるようだ。ポールはそのままジョンをたしなめる
ように言った。
「ちょっと言葉が過ぎるよ、ジョン!」
「お前はどっちの味方だよ!!!???」
あきれ返ったジョンの言葉にポールはハッとすると、あわててジョンの傍についた。
「馬鹿馬鹿しい! 今日はもう帰るぞ!!!!」
そう言って、ジョンはどかどかと足を踏み鳴らすように出口に向った。
「どこか休める場所は…」
「ほっとけ!」
ポールがリンゴに、じゃあねと笑いかけて手を振った。
「早くしろ、ポール!」
ポールは舌を出してジョンに続く。その後姿を見送って、リンゴは我に帰ると急いで玄関に向った。ドアの鍵はかかったまま。二人の姿はもう見えない。彼は慌てて鍵を
開けると、音を立ててドアを開けた。
見上げる大きな月の中に、狼と鳥が飛び跳ねている小さな影が見えた。
それを微笑ましく見守りながら、『また、遊びにこないかな?』 と、自分が危機に見舞われていることをちっとも分かっていないリンゴは、そんなことを呑気に思った。
そして、数日後。
「隣に誰か入るみたいだね?」
朝、仕事に出るジョージがリンゴに話しかけた。
「へえ、ホントかい?」
簡単な弁当を手渡して、リンゴが聞き返す。彼の仕事は、今日は午後からだった。
「なんだか、色々荷物を入れてたよ。あ、なんかヘンなものもあったなあ」
「ヘンなもの?」
「うん。あ、もうこんな時間だ! 行って来ます!!」
ジョージはやっぱりリンゴの頬にキスをした。はいはい、とリンゴは頷くと笑って送り出した。そして午後の出勤時、リンゴは、隣の窓やドアが開け放たれて空気を入れ
替えているのを見た。奥で引越し業者が動いてる。誰が来るのかな? いい人だといいな。そんなことを思いながら彼は足を速めて仕事に向った。
そして、夜も深まったころ家に戻ると、来客が来ているのか、部屋から楽しげな声が聞こえてきた。
こんな時間にお客様? と思いながらリンゴが顔を覗かせると
「リンゴ、隣に越してきた人達だよ!」
ジョージが楽しそうに、声をかけた。「挨拶にきたんだって!」それはご丁寧に…と挨拶をしようとして、リンゴの目が丸くなった。
「初めまして、リンゴ・スターさん」
鼻の尖った、鋭い眼をした齢20代前後の青年が、愛想よくリンゴに挨拶をした。
「私の名前はジョン・ムーン。こっちは相棒の」
「ポール・ライトです」
黒いスーツを着た、形よくつりあがった眉の下に大きな緑の眼を光らせた、やはり20代前後の青年が、案外人懐こい笑顔を向けた。
「この二人はね、リンゴ。オカルト探偵なんだって!」
興味津々の顔でジョージがいう。
「そう。それでですね? ジョージ君から話を聞いたのですが、リンゴさんは稀な「浄眼」の持ち主だとか」
ポールの言葉にジョンが頷きながら話を続ける。
「そんな方にはぜひ、私達の仕事を手伝っていただけたらと思いまして。もちろん、ちゃんと報酬は用意しますし、そちらの仕事の都合に合わせていただいて
構いませんよ」
ジョンが握手を求めてリンゴに歩み寄った。思わず手を差し出すリンゴに、ジョンは強く手を取ると顔を近づけて、彼にしか聞こえない
ように囁いた。
「お前の「力」で金を稼ぐ方法を教えてやるよ。あの坊やにも、な」
ジョージとワインを飲んでいたポールが、にっこりとリンゴに笑いかける。
「俺になにか手伝い、できる?」 ジョージが弾む声で問いかけると
「もちろん、ジョージ君にも手伝ってもらうよ。なんでも君は、「偉大な」化け物を二人も封印した、伝説のハリスン牧師長の末裔だとか。そんな君に力がないわけがない。
ええ、ホント。まったくね!」
コンチクショウ。悔しげなジョンの呟きは、リンゴにしか聞こえなかった。思わず、リンゴは噴出した。
「どうしたの?」
チーズを口にしながら、ジョージが不思議そうに尋ねる。
「いや、なんでもない」
リンゴは、笑いながら答える。「ホント、なんでもない」
ジョンが苦々しくリンゴを見た。ポールが肩を竦めた。
「ライトさん、このワインすんごい美味いですね」
「ポールでいいよ。それはボルドーの、僕の領民達が200年前に作った…」
「へ?」
「おっと! いや、こっちの話。さ、飲んで飲んで」
二人もおいでよ、とジョージが手招きする。
リンゴが行こうとすると、その腕をジョンが掴んで
「あきらめてねえからな」
口元から立派な犬歯を覗かせて、ジョンはにやりと笑った。そして、さっさとポール達のところへ向っていった。
リンゴは、そんなジョンに、ポールやジョージににっこりと笑った。隣人が出来るのはいいことだ。それが、心優しいモンスターならなおのこと。
リンゴも皆の輪の中に入り、ワイングラスを受け取った。そして誰とはなしにグラスが掲げられ、四つのグラスが一つ、鳴った。
861Hedge-hog's presents
「Mr.Moon-Light!」
*the end*
最終更新:2009年06月26日 23:06