Cast No Shadow
BGM:Cast No Shadow(Oasis)
Title: Cast No Shadow
Pairing:Ringo/Dhani
Rating:PG-18
柔らかな寝息が頬にかかって、リンゴの目がゆっくりと開いた。
見慣れない天井に、一瞬戸惑う。でも、すぐにここがどこか分かると、安心して息を一つ、深く吐いた。
彼の隣では、安らいだ顔で、青年が健やかな寝息を立てていた。
普段の、大人びて構えた姿はどこにもない。子供のような無邪気な顔で、彼はぐっすりと眠っていた。
リンゴは、眠り込む前の時間を思い出し、先ほどとは違うため息をつく。
彼と…ダーニとこんなことになってしまったのは、一体どうしてだったろう。
ああそうだ、あの日…、ジョージの墓に出向いたあの日、偶然、彼と顔を合わせた。
彼のフラットに案内された。そして…。信じられない告白をされた。
『僕はあなたが好きなんです』
…なんて、まっすぐな告白だろう。逃げも隠れもしない。射るように心を貫くその目を向けられ、リンゴはたまらなくなった。彼は余りにジョージに似ていた。彼の…長年の
恋人の子供なのだから、それは当然なのかもしれない。しかし、それでも彼は似すぎていた。
その顔も、その姿も、その視線も……。
リンゴは、そんな彼からの告白を受けるコトはできないと、一度は拒否した。あまりに年が違いすぎた。そして…やはり、彼がジョージに似すぎているのが、リンゴには
辛かったのだ。
『リンゴ…お願い。僕を見てください。僕は…そんなに父に似てるんですか? なにも知らないで、僕をうわべだけで見て、それでも同じだと言えるんですか?』
激しい告白を終えたダーニは、お互いの目を涙に溢れさせている時に、声を震わせてそう訴えた。
そして、その端整な白い顔をためらいがちに近づけながら、静かにリンゴに囁きかける。
『なにも試そうともしないで…、僕を決め付けないで、リッチ』
そして、再び唇を重ねてきた。
長いまつげが、閉じられた瞼にそって細かく震えていた。長い腕がリンゴの首に巻きつき、しっかりと抱きついてくる。
「ダーニ…」
「いやだ」
リンゴの戸惑いに一言で答え終わると、ダーニは何度もキスを繰り返した。何度も、何度も。
それはまるで、飼われるのを待つ子犬のように必死な姿だった。
「…おじさん…」
甘えた声で呟きながら、ダーニの唇は、リンゴの頬や髪を、舐めるように動いていった。腕と同じく、長くてしなやかな指がリンゴにじゃれかかってくる。そこには、先ほど
感じた大人の姿勢はどこにもない。
リンゴは思わず(そう、思わず)ダーニを引き寄せると、深く彼に口付けた。
「…んっ…」
ダーニの口元から、甘えた吐息が洩れる。舌を差し込まれ、何度も絡め取られ、そして…優しく吸われると、ダーニの身体から力が抜けていった。
「…リンゴ…」
顔が離れて、ダーニがとろんとした目をリンゴに向けた。今、彼の瞳が潤んでいるのは、泣いたからではなかった。彼は、自分の涙の原因を与えた人間に、そっと手を伸ばした。
その青い目は、優しく自分を見つめている。
ダーニは、泣き出しそうな自分を抑えながら、震える指先でリンゴの頬に触れた。
「お願い…、一度だけでもいいから」
その手を取って、リンゴは彼を受け止めた。
優しく彼を甘やかし、そして、ゆっくりと時間をかけて、お互いを高みへ導いていった。
性急さの無い代わりに、ゆったりとした時間の中で、リンゴとダーニはお互いを共有した。静かな空気の中を、甘やかな喘ぎが揺らぐ。ダーニの、夜目にも白い身体がリンゴ
の身体に絡みつく。
「……あ、ああっ!」
ダーニは身体のあちこちをくすぐられ、じらされて、心を完全にとろかされた。リンゴはそんなダーニの様子を見て、やっと彼の中に入っていった。
ダーニは初めてではなかった。「ビジネスの世界ですから」と、彼は短く言った。だが、リンゴはそれが彼の強がりだと分かった。大きな後ろ盾だった父が死んで、彼一人で
巨大なビジネスに立ち向かわなければならなかった。それは、この線の細い青年にどれだけプレッシャーだったろう。また、父親譲りの端整な顔立ちを持っていれば、好事家達
が放っておくわけが無い。不本意ながら、その身を任せたこともあるのは頷けた。
リンゴは、何も言わないで彼の頭を撫ぜると、そのまま強く抱きしめた。ダーニは言葉を失った。だが、おずおずと腕をリンゴの背中に回して、ぎゅっと力を込めた。
涙が一筋、ダーニの目尻からこぼれた。
そんな彼に、リンゴはそっと慰めを与えていった。
「ん…」
仰向けで、枕に頭をこすり付けるようにしていたダーニが「あ、ヤダ!」と顎をびくりと上げた。
「どうした? ダーニ」
にっこりと意地悪く笑って、リンゴが、自分の動きに敏感に反応した青年に尋ねた。
「なにが厭なの?」
「あっ…いや! だって……ダメ!! そこで…動かないでっ…!」
ダーニの身体に熱が篭る。焦るような顔付きをリンゴに向けて、甘えた声で反発する。
リンゴの胸が、ちくりと痛んだ。そうだ、ジョージも…最初のウチはこうやって、昇りつめそうになったら反発してきた。でも、言葉とは裏腹に、その腕はリンゴを強く
求めていた。
目の前で、ダーニが腕を広げている。
リンゴを求めて。
その姿に、なにかが重なる。同じようでいて、違う姿が浮かび上がる。
リンゴがその時、何を思ったのか…それは、彼以外には分からない。
ただ、彼はその誘いに応じて、その身をダーニの中に委ねた。
そしてそのまま彼を抱きしめると、激しく彼を追い詰めていく。
強い刺激をまともに受けて、ダーニの声が高く上がった。
彼はいきなり、意識が飛んだように感じた。リンゴが自分を揺さぶるたび、その手が、その口が、その目が、彼に触れるたび、今まで知りようもなかった悦びが身体の
奥から湧き上がるのを止められなかった。リンゴの声が自分を呼ぶ。甘えるように、口付けてくる。
「…うあ、ああ!! だめ…もうだめえ! おじさん…僕、もう…!」
子供の声で、ダーニが首を振る。髪が乱れて、汗に濡れた額に張り付く。その髪を指先でなぞりながら、リンゴがその頬を一つ、舐め上げた。
「あ、ああ、だめ!!! いや、あ、あああああ!!!!!」
声と共に、ダーニの細い身体が何度も激しく震えた。リンゴの息が、一瞬止まる。
彼もまた、ダーニの奥で強い快感を吐き出していた。
しばらく二人はそのまま動けなかった。お互いに感じた波の強さに、心も身体も麻痺してしまったようだった。
やっとリンゴが頭を上げると、潤んだ目に涙を浮かべたダーニがこちらを見つめていた。
「…」
何かを言おうとしたダーニの口を、人差し指で制すると
「いいよ、ダーニ」
リンゴはそう囁いて、顔を寄せた。
二人は、何度目かになるかしれない口付けを交わした。
そして、今日まで。
彼らは幾度か、夜を共にした。
ダーニを腕にいだく度、彼の身体を知る度に、リンゴは複雑な気持ちになっていった。
彼と…ジョージは、やはり似通っていた。
彼の身体に手を走らせると、彼の父親と同じところで、息を熱くするのを知った。
彼の身体に深く入り込んでいる時にキスをせがんでくる時のタイミングや、その場所…。
夜を重ねる度、彼はどんどん大胆に甘えてくるようになった…、その、無邪気な媚態。
彼にもたれ、全てをまかせてじゃれ付いてくる姿。
そんなダーニを見るにつけ、リンゴの胸はジョージに向かっていった。そんな時は、彼は目を開いて、ダーニをしっかり見つめるようにした。ここにいるのはジョージ
じゃないと、自分に知らせるために。
そして、そんなリンゴを見ると、ダーニはすこし寂しげに笑い、そっとリンゴに顔を近づけてこういうのだった。
「リンゴ、リンゴ…、僕はここだよ。ここにいるよ?」
その言葉は…リンゴの胸に、まっすぐ届いているのだろうか。
それは、囁くダーニにも、囁かれたリンゴにも、分からなかった。
リンゴの隣で深く眠っていたダーニが、ころりと寝返りをうった。
その肩から毛布がはだけて、白くて細い肩があらわになる。
やれやれ、とリンゴは苦笑すると毛布をかけなおした。
「…ん、あれ?」
ダーニがその時、寝ぼけた声と共に、リンゴに振り返った。
「…僕、寝てた?」
「ああ」
水のはいったコップから一口含んで、リンゴは笑顔で答えた。
しかし、飲み込む前に水は、ダーニの口に移っていった。
「…おいしい」
照れた笑顔でそういうと、ダーニは顔半分を毛布に隠した。
リンゴは、思わず笑顔を大きくした。
ダーニが、彼であるところを一つ見つけて。
ジョージと違うところを、また一つ見つけて。
「…ダーニ」
呼ばれたダーニは、「ん?」とリンゴを見上げた。
リンゴは、そんなダーニの額に一つ、キスをした。
彼を愛しかけている自分を自覚しながら、それでも、
若さと可能性に輝く、この愛すべき青年の幸せを願いながら。
『いつか、彼にふさわしい人間が現れますように』
そんなことを祈りながら。
861Hedge-hog’s
“Cast No Shadow”
*the end*
最終更新:2009年07月11日 04:35