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from half the world away



BGM:half the world away (Oasis)
Title:from half the world away
Pairing:Ringo/George
rating:R-18



 インドのリシケシュ。そこにあるアシュラム(修行場)の一室で、ささやかな送別会が開かれていた。
 そこには、かの有名なFab4が勢ぞろいしていた。彼らはマハリシとの瞑想修行のためここに訪れていたのだが、体の弱いリンゴが激しいインドの気候に体が持たず、明日、
イギリスへ帰国することになったのだ。
 もう、アシュラムで知り合った人たちとのお別れの挨拶は終わっていた。だから今はプライベートな集まりだ。
「でも残念だな、帰っちゃうなんて」
 ジョンが、がっかりした顔でリンゴに話しかけた。
「せっかく楽しくなってきたところなのに」
「それはオレも残念だよ」
 リンゴは、手回りの荷物を整理しながら頷いた。彼の妻のモーリンは、一足早くイギリスに帰っている。リンゴが帰ってきて、すぐにも安心して過ごせるようにと、彼女の
気配りだった。
「僕はもう少し居てみるよ」
 ポールも少し疲れた顔をしていた。しかし、彼はジョンに視線を一瞬走らせて、にこっと笑った。
「ああ」とリンゴは笑った。そして、どちらかと言えば都会の方が性に合うバンドメイトを「がんばれよ」と励ました。
「でもなあ…もっと色んな話を聞きたかったな」
 とリンゴが呟いた。もし、食事と気候が合っていたら、もっとここにいて色んな人と話してみたかった。瞑想のことはよく解からないけれど、そこから得られるものは、心の平安と連帯感だと彼は理解していた。そしてそれはまさしく、今の自分達に必要なものだった。
「おや、ビートルズの中で一番恵まれているリンゴスターさんが、これ以上何を望んでますかな?」
 ジョンが老人の声でおどけた。ポールとリンゴが声を合わせて笑った。

 しかし、その中でたった一人、無言だったビートルがいた。
 彼は、皆が楽しげに話す様子を、部屋の隅からじっと見ているだけだった。
 皆がいる間、彼は口を開かなかった。


「どうしたんだ? ジョージ」

 ジョンとポールが自分達の部屋に帰ってからも、ジョージは、部屋から動かなかった。声をかけられても彼は何も答えない。リンゴはため息をつくと、空っぽの戸棚から、
古ぼけたブリキのカップを取り出した。
 そして、手荷物の中から、小さな銀色の水筒を取り出す。
 蓋を開けて、少しだけカップに注ぐと、ふわりと芳醇な香りが立った。
「オレは体に障るから」 と言って、残りのボトルをジョージに差し出した。ジョージは、やっと彼に歩み寄り、そのボトルを受け取った。
 リンゴに勧められて一口含むと、焼けるような苦味が心地よく喉を通る。
「これ…ウィスキー?」
 ジョージが声を上げた。アシュラムでは、アルコールやタバコなどの嗜好品の持ちこみはご法度のはすだ。
 リンゴは、「しーっ」と自分の口に人差し指を当てると、ジョージにウィンクを送った。
「違うよジョー。ここはアシュラムなんだから、アルコールがあるわけないだろ?」
 とぼけた顔で、リンゴは続けた。
「だから、俺達がこんなものを飲めるわけない。そうだろ?」
 一瞬ジョージが「ん?」と考えたが、やがてにやりと口元を緩める。
「…そうだね。おれ達が、こんなものを飲めるわけないんだよね?」
 頭いいよ、リンゴ。そう答えてジョージはリンゴにボトルを掲げた。リンゴもブリキのカップを返杯した。少しだけ空気が穏やかになる。
 久しぶりのアルコールの刺激で眉をしかめたジョージに、リンゴが尋ねる。
「で、オレに何が言いたかったんだ? ジョー」
 ジョージが、ハッと彼を見た。リンゴは穏やかに微笑んでいる。
「ジョンやポールの前じゃ、言いづらいことだったんだろ?」
 そういって、彼はジョージを自分の隣に呼んだ。ちょっとジョージはため
らったようだが、結局リンゴの隣に収まった。
 リンゴは、ジョージに視線を向けなかった。彼が話しやすくしようと、前をぼんやり見ながらちびちびとカップに口を付ける。そんな彼の横顔に、ジョージも視線を前に
したまま、やっと重い口を開いた。

「…おれ、戻らないかもしれない」 と。

「戻らないって、何処に?」
 聞かずもがなのことを、リンゴはジョージに尋ねた。視線は前に向けている。
 ジョージはしばらく黙っていた。しかし、小さな声でこう言った。
「………イギリスに」
 リンゴは、落ち着いていた。ふうんと頷いて、そのまま黙った。ジョージの言葉を待っている態度だった。
 ジョージは、まとまらない考えを、ぽつりぽつりと話す子供のようだった。
「おれ…今、ここにいるのが、楽しくて……、ここだったら、おれ、なんだか上手くやっていけるような…そんな感じなんだ」
「今までは、上手く行ってなかったのかい?」
 リンゴの意地悪な問いに、彼は首を振った。
「今までだって、上手くいってたさ。でも……なんだろ? なんだか凄く息苦しい感じが、「上手くいっている」ことの上に圧し掛かっているみたいで…」
 たどたどしく話す内容を、リンゴは理解できた。ここでのジョージはとてものびのびとしていて、楽しそうだった。いたい場所にいて、したいことをして
いる気持ちが伝わってきて、見ているリンゴも嬉しくなるくらいだった。
 確かに、ここの自由な空間を知れば、あの狭くてすすけたような自国には戻りたくもなくなるだろう。
 リンゴは、確認するように聞いた。「グループはどうする?」
 予想していた問いだったのだろう。ジョージは、聞かれたとたんに口を開いた。 が、すぐに言葉は出なかった。彼は迷っているようだった。それは話して
いいのか迷っているのか、グループをどうしていいのか分らないのか。リンゴには判断できなかった。
 リンゴもしばらく、黙り込んだ。しかし、ジョージよりも先に口を開くと「帰ってくるさ」と言った。
「お前は帰ってくるよ、ジョー。ここに」
「………どこに?」
「ここ、さ」
 リンゴは、自分の隣を指した。ジョージが笑った。
「随分しょってるね」
「そうか? 案外イケてる答えだと思ったけどな」
 あはは、と声を上げてジョージが笑った。しかし、その顔はすぐに悲しげに顰められた。
「ジョンとさ…話してるんだ。ここに永住しようかって」
 リンゴの目が丸くなった。そんなことまで思うくらい、ジョージは思いつめていたのか、と。
 しかしリンゴは、それがいいことなのかどうか分らなかった。確かにここは素敵な場所だ。小さなコミュニティが肩を寄せ合って、お互い目的を同じく
して歩み進めようとする。しかし、ここはかりそめの場所なのだ。次の段階を見つけられたら、仲間達と握手を交わして、自分の帰るべき場所に戻らねばならない。
 万が一、インドのどこかに住もうとしても、彼らは本当にやっていけるのか? 最初の頃は平気だろう。しかし熱狂がさめた時彼らはどうするだろう? 結局は、快適な
暮らしを求めて豪華なホテル住まいになるのではないか?
 それでは、ロンドンに居るのと同じではないだろうか。
「ジョージ」
 リンゴが口を開いた。
「お前は、帰ってくるよ」
 胸に沸き起こった言葉の代わりに、リンゴはそう言ってジョージをやっと見つめた。
 ジョージも、やっとリンゴに目を向けた。驚いていた。
「なんで、そんなことがいえるの?」
「言えるんじゃないよ」 リンゴが笑った。
「そう思ったんだ」
 何時もの「リンゴ語」だった。しかしジョージは笑おうとせず、視線をリンゴから外さない。
「…おれ、帰らないかもしれないよ?」
「うん」
「グループだって、抜けるかもしれない」
「うん」
「もう、ここから動けないかも……いや、動きたくないんだ。何にも煩わされないでここにずっと引っ込んでいたいんだ!!!!! 『ビートルズ』のジョージじゃない、ただの
ジョージハリスンとして!!!!!!」
 リンゴは、大きく頷いた。
「うん」
 聞きたかったのは、それだった。ジョージの本音、胸のうちだった。
 彼はジョージに腕を広げた。ジョージはその中に自分を委ねた。
「ジョー、大丈夫。大丈夫だよ?」
 リンゴは、自分の肩に額を押し付けるジョージの頭を優しく抱えると、その髪に指を差し込んだ。
「お前だって分ってるんだ…。ここがどんなところか。でも、あんまり楽しくて、それが今までの辛さを引き立ててしまって、戻るのが怖くなってるのさ」
 大丈夫、大丈夫……。リンゴは何度も、ジョージの髪を撫でた。その声は穏やかな低音で聞くだけで心が凪いでいくようだった。
「リンゴ…」
 ジョージが、その腕をリンゴの肩に回す。声が少し潤んでいた。
「おれが帰らなかったら、探しに来てくれる?」
「さあな。オレはめんどくさがりだしなあ」
 リンゴはそう言って笑った。ジョージの空気が優しく緩む。

「ひでえの」
「ひどいのはどっちだ?」

 ジョージが顔を上げた。リンゴは笑っていた。 しかし、その青い目は深い憂鬱を湛えていた。
 ジョージは、何もいえなかった。ただ、何かを詫びるようにその額にキスをした。
 そして、ゆっくりと彼らはキスを交わした。

 小さな粗末なベッドの中で、二人は心を交わすように肌を重ねていた。
「痛くないか?」 リンゴが心配そうにジョージに尋ねた。少しだけ顔を青くさせながら、ジョージは笑顔で何度も頷いた。彼の中にリンゴがいた。それはとてもしっかりと
していて、ジョージに彼の存在を大きく示していた。ジョージはヨガの呼吸で体と心を緩めると、意識をリンゴに集中させた。
 リンゴは、ジョージの呼吸にリズムを感じて、ゆっくりとそれに合わせて動いた。
「…あっ…?」
 ジョージの中で、何かが変わった。
 リズムが、彼を捕らえた。痛みの奥からせりあがってくるものが彼を飲み込んでいく。
「あっあ、なんだ…これ? あ……、はあっ!!!!!」
 ジョージの体に、一気に熱が篭った。冷や汗とはちがう汗が体を濡らし、我慢したくても声が上がってしまう。
 リンゴがジョージを揺らすたび、彼がジョージを貫くたび、ジョージは心の冷たく固まった心の結び目が、ほろほろと解けていくのが分った。彼を受け入れ、彼に委ねて、
そして自分も彼を飲み込んでいく。
 全てが取り払われて、ただの命が、絡まってほぐれるを繰り返していく。

「リンゴ…だめ、こんな、の…、し、しらな、いっ」 

 口元をとろけさせながら、ジョージは必死でリンゴに訴えた。顎ががくがくと震えて、意識が振り回されていることを知らせる。リンゴの意識も、ジョージとシンクロ
していた。彼の呼吸に、リズムに合わせることで、知らない間に深く彼の中にダイブしていった。彼は優秀な、本当に優秀な ドラマーだった。
「ジョージ…」
 お互いに混ざり合うことに夢中になりながら、リンゴはジョージに口付けた。噛み付くようなキスをジョージも返し、そのままリンゴの背中に腕を回す。 ジョージの
折った膝を、彼の肩口まで押し上げてリンゴは緩急を付けて腰を打ちつけた。ジョージの両方の足の指が、強く内側に握りこまれていく。
「うあっ! …ああっ!! あ、ひっ、ひああっ!!!!」
 ジョージはもう、どうすることも出来なかった。リンゴの腰が動くたび、お互いの腹の上でジョージも揉みこまれて行く。上下から刺激をうけて、彼は急激に昇りつめていく。
 何度も彼はリンゴに甘えついた。リンゴの顎の裏にキスを繰り返し、その髪をくしゃくしゃにし、背中や首にしがみついた。リンゴもまた、ジョージを甘やかしながら、
自分のためにも動いていた。
 体を通して、心の底へ。深く、深く。
「ひ、くぅっ!!!!!」
 ジョージの体が一つ、大きく跳ねた。思わず出た高い声に、リンゴの気持ちが高揚する。
 お互いの時間が近づいている。
 リンゴがジョージを硬く抱きしめて、そのまま一気に深く突き進んだ。
 その一瞬、ジョージは無言だった。言葉を、声を上げる余裕もなかった。
「……あ、……あ、お、おお…は、あ」
 低いうめきがリンゴの耳に響く。リンゴの腕の中で、ジョージは登りつめた。
 上がった顎が、ブルッとちいさく震えた。今感じた物から見たら、それは小さすぎる反応のように見えたが、今の彼には、もはやそれぐらいしかできなかった。
 リンゴが昇りつめる瞬間、彼はジョージから離れて、その白い腹に彼を放った。
 お互い、その強すぎる余韻に翻弄されながら、互いを抱きしめあった。
 ジョージの、薄く開いた口に、リンゴが深く口付ける。
 舌を絡ませ、互いを吸いあい、そのまま猫のように、互いの頬を舐めあった。
「リッチ…」
 辛かった気持ちを拭い去ってくれた優しい人の名前を呟くと、ジョージは急速に眠り込んで行った。身体よりも、胸の温かさが彼を包んでいた。

 目が覚めると、ベッドにはジョージしかいなかった。
 もう日差しは高く、強く部屋を照らしていた。
「リンゴ?」 身体を起こして声をかける。しかし、返事は無い。人の気配は、彼一人だけだった。
 いまだぼやける意識に足をもつれさせながら、ジョージは服を着ると急いで部屋を出た。
「お、来た来た」
「おそいぞ、ジョー!!」
 広場で、ジョンとポールが、ジョージに手を振る。急ぎ足で歩み寄ると、彼は息せき切って、リンゴのことを聞いた。
「やつなら、とっくに出てったぜ」 ジョンがあっさりと教えてくれた。「朝一番の飛行機に乗るってんでさ。マル達が送っていったよ。もう帰ってきてるけど?」
 そう聞くと、ジョージの肩が落ちた。彼の様子に気がついたポールが 「見送ったのは、僕とジョンだけさ。本当に早かったからね。「ジョージに会わなくていいの?」って
聞いたけど、「伝言を残したからいい」とさ」
 お前、何か聞いてる? とポールがそのまま尋ねた。ジョージは首を横に振った。うつむいた顔は髪に隠れて見えなかったが、はっきりと落胆の色が見える。
「…お前、今日は部屋で休んだ方がいいな」
 ジョージにそう言って、ジョンは、うつむいたままのジョージの頭をぐしゃぐしゃと撫ぜた。
「後でメシもって行くから。ちょっと寝て来い」
 ポールが「送ろうか?」と言ってくれたが、ジョージは断わると、裸足のまま自分の部屋に戻った。
 なぜだか、彼は寂しかった。 
 昨夜の、互いを受けとめあった後としては、あまりに寂しい顛末だった。
 部屋に入って、力のないまま足を流してスリッパを履くと、彼はベッドサイドに歩き進んだ。
 その時、サイドボードに、銀色に光るものを見た。 近寄って手に取ると、それは昨日のリンゴのボトルだった。

 彼は、一瞬息が止まった。
 その意味が分ったからだ。

 彼はそのまま、蓋を取ると一口を飲んだ。最後の一口は昨日と同じく、喉を心地よく焼いて、降りていった。
 そして蓋を閉めると、ジョージは手の中のボトルをしっかりと見つめた。
 それが、「彼」であるかのように。
「…返すよ、リンゴ」
 「彼」に答えるようにはっきりと、ジョージは呟いた。

「必ず、返すからね」

 彼の隣に座って、そして、手渡そうとジョージは決めた。
 それはきっと、あの、くすんだ空気の、狭い国での話だろう。いいや、きっとそうなると、確信した。

 ボトルは、彼の両手の中で、日の光を受けながら強く光っていた。











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        "from half the world away"
             *the end*

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最終更新:2009年07月22日 05:55