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ここでキスして。 2


「このホテル、だよね・・・」
言って、ポールは目の前の建物を見上げる。現在は7時5分前。時間に遅れていないこと、ホテルを間違えていないことを確認すると、彼はそっとその扉をくぐった。
「ポール、こっちこっち」
ロビーではジョージが待っていた。
「――っていうか、その格好……」
愛らしいワンピースを着たポールを見、まるで女じゃないか、ジョージが言って苦笑する。まぁ似合いすぎなんだけどね、付け加えたが。
「そう言われてもさ。僕のセンス、知ってるでしょ?だから人に選んでもらったら何を勘違いしたのかこうなっちゃって」
「それを着てくる君も凄いよ」
「だってこんな格好なら仕事でよくするから慣れてるし……」
裾を小さく摘まんでポールは気恥ずかしそうに答えた。
「確かに見慣れてるからジョンもすぐ気付くかもね。じゃあ案内するよ、ついてきて」
そして2人は7時きっかりに1つの扉をノックする。すぐに返答があって、ジョンが扉から顔をのぞかせた。
「よぉ、ジョージ……と、後ろは……?」
「言っただろ?ポールだよ。僕の友達で、モデルやってるって」
「ああ、男なのに女性誌に載ってる……」
ジョンの最後の一言は聞こえなかったらしく、ポールは少し緊張した面持ちで、けれど笑顔を崩さないで視線を向けている。
「こんばんは」
「ジョンのファンでさ、一回話がしてみたいんだって」

「へぇ。いいぜ、上がれよ」
ジョンはにっと笑うと部屋の奥を親指でさした。え、いいの? ポールが嬉しそうに確認する。もういちど彼は頷いて、扉を大きく開けた。
「じゃ、じゃあお邪魔します」
パァ、顔を輝かせてポールは部屋に踏み込むが、ジョージは動く気配を見せない。
「ジョージは?」
「2人でゆっくり話し合いなよ。僕いつもジョンと顔合わせてるわけだから別に話すことないし」
冗談交じりでそう言えば、話題が尽きるぐらい顔合せてるか? ジョンがやはり冗談めかし、けらけらと笑いながらそう言って、じゃあなと扉を閉めた。
「ま、とにかく適当なとこ座れよ」
言われてポールは近くのソファに腰掛ける。
あのジョンが目の前にいる、そう考えてそわそわとする彼を見て、まぁ落ち着けよ、ジョンはホテルに備え付けの紅茶を淹れて差し出した。
「こんなもんで悪いけど」
「ううん、どうもありがとう」
嬉しそうに紅茶を受け取ろうと伸ばされた腕、その袖の隙間から、ほんの一瞬、ちらりと何かで切ったかのような傷痕が覗いた。
ジョンは、ふとポールの腕に刻まれた無数の傷が気になった。
その傷は縦横無尽にカッターナイフやカミソリで刻まれていた。ジョンは、ポールの瞳を先ほど見たとき彼には心の傷があることに気づいた。
そして、恐る恐る聞いてみた。
「その・・その腕の傷、どうしたんだ?」
「え・・?」
「悪い。いやなこと聞いちまったか?」
ジョンはあわてて謝ると、ポールはううん、と頭を小さく振って話始めた。

「僕、学生時代ずっといじめに会ってて・・それできづいたらこんなことしてた。世間でいうリストカットかな・・それで、不登校にも多々なったし、自殺も考えたよ。
学校行くといつも刃物でトイレに入って腕切ってた。でも、ある日そんな自分を変えたいって思って人に多く見られる仕事をしたら自分が変わるんじゃないかと思って、この仕事を選んだんだ。
最初は偏見や中傷もあったよ、“気持ち悪い”とか“薄気味悪い”って。でも、それでも、僕は隠さなかった。
だから僕はこうして今僕は心から笑うことができるんだ」
確かに彼の写真を見ると、最初は彼の腕の傷が眼に付く。ジョンは、ポールの話に唖然とした。あまりにも、生々しすぎたのだ。
ポールはそっと目元の涙をぬぐうとジョンを見た。
「そんなに・・辛いことを経験してきたんだな。でも、もういいんだ、お前は独りじゃない」
「ありがとう・・」
その時、ポールの涙が小さく零れ落ちた気がした。

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最終更新:2009年07月24日 15:07