The World Without Love
423 :Rise & Fall:2009/08/17(月) 23:47:50 ID:???0
861様、
えーと、 ビートルズが終焉に差しかかっていた時のエピソードのひとつに『ある日、リンダとの記念日だとかでポールがアップルの会議を すっぽかしたのをジョンが激怒。ポールの家に塀を乗り越えて 乗り込み、なじったあげく壁にかけてあった絵を蹴り破り 「(記念日)おめでとうよ、相棒」と捨て台詞をはいて去っていく』というのがあったと記憶しています。しかもその絵は以前ジョンが描いて ポールにあげたものだという事がよりいっそうそそられる内容で…
861様、これから書かれる作品の中にこのエピが入る予定はありますでしょうか?
もし、なければこのエピを織り込んだお話をいつか書いていただけないでしょうか?
861様の話で読んでみたいとずっと思っていたので ついに書いてしまいました。
厚かましいお願い、失礼しました。
424 :861:2009/08/20(木) 19:48:44 ID:???0
Rise & Fall様
気付くの遅れて、大変申し訳ございません!
さて、上記のネタ…じゃなくってエピですが、私もこの話が大好きです。なんつーか、ジョンの間違った
エネルギーの使い方が大変ナイスです。この他、ジョンがやはりこの時期にポールんちにレンガを投げ込んで
げらげら笑ったとか「なんだろーなーこの人、うっとーしい!(もちろん、愛を込めたクサシですw)」な
話が多くて、後期も楽しめるFab4は、一回好きになると何度でも、どの時期でも楽しめるチュッ○チャッ(ry
のようなバンドでございますねえ。
さて、リクエストありがとうございます! しかし…たぶん、私がこれを書くと思いっきりの
ギャグに
なりかねませんが、よろしいでしょうか(苦笑)。きっと思いっきりなバカ話になるかもしれません。
だって、このジョン可愛すぎ(爆!)。
「ビートルズで801」実質8スレ目 より
Title: The World Without Love
BGM:All of your toys(the Monkees)
Pairing:Nothing
Rating:Fan-Fiction
「遅い」
ジョンが呟く。
これで、10回目。
10分経過。
「…遅い」
ジョンが呟く。
これで、11回目。
「(ry」
ジョンが(ry
狭いスタジオの中で、カウントの合間がどんどん狭まっていることに、ジョージとリンゴはぐったりしていた。それでなくても、もう二時間は待たされている。彼らは待っていた。誰を? そう。
かの、ジェイムズ・ポール・マッカートニーを。
今、彼らが作っているアルバムは、ポールが主体となってレコーディングが続いている(といってもここ最近は、ずーっとポールが主体になっているのだが(笑)。お陰で、彼の完璧主義と、たとえて言えばイノシシがごとき独断専行に巻き込まれている他のメンバーは、いい加減うんざりしているのに、この仕打ち。ジョンでなくてもいらいらするところに、ジョージとリンゴには、ジョンの隣に鎮座まします東洋のレディ(爆)からのいらない緊張感が、なおさら精神的負担を重くする。
「おそい」
字面だけなら、たった三文字。
そこに篭もった、意味は幾千。
ジョンが、その綺麗な歯並びを強く食いしばらせて、なんだかいろいろと堪えているのがジョージとリンゴには分かった。…ヨーコにそれが分かっているかは知らない(爆)。だから「触らぬ神に」で、二人はスタジオの奥で肩を寄せ合って静かにしていた。
…なんだってこんな思いをせなならんのかと思いつつ。
そんな中でも、ヨーコは悠然とタバコをふかして、ジョージの買い置きのビスケットを齧っている。ジョージはそれについては言いたいことが100万語はあるのだが、今それを言ったらジョン大明神にどんなたたりを落とされるのか分からないので、とりあえず黙っているのだった……。
「うぉそいっ」
力が入りすぎて、へんな発音になったジョンの声がスタジオの空気を揺らす。
「そうだなー」、とリンゴがわざと無神経を装って返事をしてみた。
ジョンの視線が、ギロっとリンゴを睨んだ。だが相手が相手なのでうやむやに頷いて終わらせる。
「まったく、ポールのヤツなにやってんだ」
リンゴのつぶやきにジョージが答える。
「そうだよ、何時まで俺たちを待たせるつもりだよ! このままだったら」
「ああ、ジョンが大変だ」
「俺のおやつも大変だ」
「…ジョージ、ちょっと黙ってろ」
リンゴにあっさり流されて「これだったらエリックんちに行ってりゃよかったよ」といい歳をしてふくれっ面のジョージだった。
その時
「あ、みんないたな」
ニールアスピノールが、ひょっこりと顔を出したので、(ヨーコを除く)全員がほっとした。きっとポールからの連絡を持ってきたのだろうと。この、変な空気を壊してくれる言葉を3人は期待した。
しかし、出てきた言葉は(違う意味で)空気を壊す代物だった。
「ポール、今日はこないってよ」
致し方ないとはいえ、このクラッシャブルな発言にぎょっとしたのは、ジョージとリンゴだった。
「何だって!?」 背後に剣呑すぎる空気の膨らみを感じて、二人はユニゾンで聞き返す。
「ああ、今日はポールこな」
「わーーーっ、わーーーーっ、わああああああああっ!!!!!」
自分達で聞き返しておいて、いざニールが答えようとしたらその口を塞ぐジョージとリンゴに、ニールが「なにすんだよ!」と言い返す。しかし、その血相を見て目が丸くなった。
「に、ニール、ニール!」
ジョージに口を塞がれた、この有能なロードマネージャーにリンゴが小声で呼びかける。
「ちょっと…、それ、ホント?」
「ああ、ホント…だよ?」
怪訝な顔をしつつも、あまりの様子にやはり声を小さくしてニールが頷く。
「…なんでも、リンダと会って一年経ったから、そのお祝いをするんだと。だからお前らも帰って…」
壊滅的なその言葉に
『理由までは聞いてません!!!!!』 とジョージとリンゴは表情で怒鳴りつけた。
しかし、時はすでに遅かった。
「……なんですと?」
字面だけなら、とても穏やか。
しかし怒りは、100万点。
「もういっぺんいってみろや、ネルううううううううううっ!!!!!!」
と、怒鳴るや電光石火、ジョンの手がニールの襟元をきゅっと締め上げた。その顔は茹蛸もかくやと思うほどだった。
「ジョン、ニールじゃない! 悪いのはニールじゃない!」
「だから手を離して! ネルが、ネルがかわいそう!!」
そのあまりの速さと力についていけず、白目を剥いて泡を吹き始めたニールを救うべく、ジョージとリンゴがそれぞれに
ジョンを抑え、ニールを助け起こす。
「だっ! おまっ! おれっ! ポル!!」
「はいはい、『だってお前、俺がどんだけポールを待っていたと思ってんだよ』ってね」
あまりの感情の爆発具合に、目じりに涙をにじませ短絡的な言葉の羅列しか出せなくなったジョンにリンゴが、うんうんと頷きながらさりげなくその肩を叩きつつニールから遠ざける。
ジョージがあわててニールを扇いでいるのが、青い目の端に映った。
「まあ、こう考えようよジョン」 リンゴが明るい口調で言った。
「これで、少なくとも今日はあの忌々しい「マックスウェル」の呪いから開放されるってさ(笑)。キミも、ヨーコとどっか遊びに」
「さっさと終わらせねえと、それこそ呪いになっちまうだろうが!!!!!」
今度はリンゴの肩をつかんで、ジョンが怒鳴りつける。
「分かった分かった」
そのあまりの迫力に辟易しながらリンゴが答える。「分かったから。顔が近いよ、ジョン」
「顔が近くて悪かったな、どうせでかいよ!」
「言ってないよ」
「どうせワシ鼻だよ!!!!」
「言ってない」
「どうせおばあちゃんの眼鏡だよ!!!!!!!」
「………」
「…なんでここは否定しねえんだよ!?」
「………☆」
「可愛いく笑ったって、だめだ!!!!!!」
いらない自虐突っ込みで墓穴を深く掘り進めたジョンは、勝手に傷ついた顔をリンゴから離すと、気付けのつもりでニールの口にビスケットを突っ込んで、返って状況を悪化させているジョージにスポットを移した。
「ジョージ、車だ!!」
「え? 車!?」
混乱したままジョージが慌てて、ジョンを見た。
「ナニそれ、おいしいの!?」
「びびってるからって、違うスレのキャラになってんじゃねえ!! 車を出せ、行くぞ!!!!!」
「ちょ、どこへ行くんだよ、ジョン!」
末っ子に代わってニールを介抱しながら、リンゴが困りモンの次男に声をかける。
「決まってんだろ!!!!」
といいつつ、なにが決まってるのか言わないまま、ジョンはジョージの襟首を捕まえると、どかどかと外へ出て行った。
「ジョン!!!!!!」
ニールの口からビスケットをほじり出しながら、リンゴが声をかける。
その背後に、ヨーコが迫る!
もの言わぬまま、忍び寄るヨーコに気付き、リンゴはドアに向かって怒鳴りつけた。
「……忘れモンだぞーーー、ジョーーーン!!!!!!」
駐車場から、車が発進した音が響く。
それが答えだった。
「………」
なんだか分からないまま、一人残されたリンゴは、気絶したニールと自分の後ろに立つヨーコを交互に眺めた。
「………?」
「なに?」
ヨーコが何か言ったようだが、聞き取れなかった。思わずリンゴが聞き返すと
「……そこのクッキーも、食べていい?」
「キミ、まだ食うの?」
異国の女性の旺盛な食欲にうんざりしつつも、リンゴはニールの背中に「喝」を入れた。
「ふがっ!!!」
ニールが咳き込みながら、身体をぴょこんと起こした
「大体、アイツは昔っから時間の感覚がおかしかったんだよ!」
ジョージに無理やり運転させながら、ジョンが助手席でぶつぶつつぶやいている。
やれ「ジョージマーティンとの初顔合わせじゃ風呂入ってた」だの、「エピーと初めて会うときだって、俺が迎えに行かなきゃあいつバックれてたんじゃねえの?」だの。こんな状態のジョンでもいやなのに、今、自分の車に、自分が運転している時に、ジョンが助手席にいることが、はっきり言って『いやだなあ』とジョージは思っていた。思い出してみろ、ジョージハリスン。彼は思い出した。初めて歯科医にアシッドを食らわされた日のことを。
あの時だって、錯乱したジョンと、お互いの奥様方を車に突っ込んで、自分もくらくらしているのに必死でハンドルを握っていた。トリップ中で、ノロノロ運転を余儀なくされたその隣では、ジョンが今みたいにブツブツ「火事だー、燃えてルー」とか言って、ジョージの不安を無駄に煽っていた。そして、
『お家がカラスに飛んでる!』
『はあ!!??』
「てにおは」が破壊された謎の一文を叫んだかと思うと、ジョンは足を伸ばしてアクセルを踏んだ。
『うわーーーーーーーーっ!!!!!!!!!』
ジョージは叫んだ。なぜか一緒にジョンも叫んでいた。路肩に突っ込みそうなところをかろうじてとどまった車の中は、突然の猛スピードと急ブレーキで半死半生になっていた。
『…………』
言うべき言葉も見つからず、ジョージは隣のジョンを見た。
『……あっぶねえ……!』
まるで「自分が」巻き込まれたような顔で、ジョンがジョージを見た。
『…………もう、帰りたい』
言いたい言葉がありすぎて、言うことが分からなくなっているジョージは半べそかきたい気分で、ハンドルに突っ伏した。
『今、帰ってるだろ?』
すでに立ち直ったジョンが、屈託なくジョージに答えた。
そんな、思い出したくもない思い出(さてここまでに何回「思い出」と出たでしょう思い出?)を甦らせているジョージの横ではジョンが相変わらずぶつぶつ言っている。その姿はマントラを唱えるマハリシよりも怪しく見えて、ジョージは『ホントに、いやだなあ』とうんざりした。
「…なんだってアイツ、あんな風になっちゃったかなあ」
ジョンが頭を傾げてつぶやいた。
「昔はもっと可愛げがあったと思うんだけどなあ、ポール」
「…そうなの?」
一人で呟かせていたら、ホントにヤバイ(爆)人みたいなので、ジョージは嫌々返事を返した。
「可愛かったよお。昔は!「ジョン、ここどうする?」とか「一緒にパリに行ってもいいの?」とか何くれなく訊いて来たし、「ジョンが食べたいものでいいよ」とか、「レノン=マッカートニーでもいいよ」、とか、なんでも俺に頷いてたくせに」
『……いや、最後はどうだかね』 とジョージは胸の中でぼやいた。
「最近はすっかり高圧的になっちまって……。なんで俺がヨーコを連れてきただけで、あそこまでヒステリックになるんだろうな」
『連れてくるからだろ』 とジョージは心の中で鋭く突っ込む。
「マックスウェルじゃ、なんだか俺を集中的に攻撃してくるし、ヨーコの顔を見れば露骨に顔をしかめるし、まったく、どうしろってんだ」
「……ヨーコを連れてこなきゃいいんじゃないの?」
うんざりしながら、ジョージは答えた。
「なんだと? ジョージ…お前もヨーコが悪いと思ってるのか?」
ジョンの言葉にジョージは答えたかった。『ヨーコじゃねえよ。「あんた」が悪いんだよ』と。
そうだよ、連れてこなきゃいいんだよ。そしたら俺のおやつも無事だし大体ヨーコだって、別に毎日連れてきて欲しいなんて思ってないよ、きっと。たまにすっごい…「なんでアタシ、ここに居るのかしら」とか思ってるような顔してるぞ?
しかしジョージは口をつぐんだまま、ハンドルを握りこんでいた。彼はもう何も言いたくなかった。こんな空気の読めない人との噛み合わない会話を続けて運転なんかしていたら、何にもないところでも事故ってしまいそうだ。
その時、ジョージの思考が「ん?」と止まった。あ、あれ? そういえば?
「ジョン!」
「……初めての時なんかホントに可愛くってさ? 「痛くしないでー?」なんて」
「なんの話をドサマギでしてんだよ、ジョン!!!!!」
「うおっ! ビクったあ!!」
ジョンが本気で驚いた顔をジョージに向けた。もうやだ帰りたいマジでとジョージは思ったが、ここで帰りゃ帰ったで、後でどんな目にあうか知れない。着ているジャケットにペンキを流し込まれたりギターホールにうで卵を100個突っ込まれたり、嫌いなビスケット会社との提携話を持ち込んできたりと、マジで冗談じゃないようなことをしでかすジョンだった。
気を取り直して、ジョージが基本情報を要求した。
「俺達、そう言やどこ行くんだよ!?」
「おお、そういえば言ってなかったな」
彼らがどうして長く一緒にやっていけたのか。こういうところが似ているからかも知れない。
つまり―――考えなしのエー加減な見込み発進な部分、というところだが(はっきり言ってろくでもない)。
「ではジョージ、俺達が進むところは…」
「(なんか厭な予感もするが、とりあえず)アイアイ!」
「ずばり、ポールの家でしょう!!!!!!!」
「やっぱりそうかーーーーー!!!!!」
ジョージはハンドルに突っ伏したくなった。
「早く言ってくれよ! 今の方向と正反対じゃないか!!!!」
「お前どこに向かってたんだよ」
「無意識に、うちに向かってた」「おう、もう郊外だな」
「今日はこのまま帰ろうよーーー、話なんか、明日でいいだろ!!??」
ごもっともな訴えを訴えるジョージにジョンが、眼鏡の奥を光らせてきっぱりと答えた。
「だめだ」
「ああああああもおおおおおおおおう!!!!!!!」
天下のジョージハリスンを嘆かせて、ジョンは腕を組むとこっくり頷いた。
午後の、穏やかな時間帯だった。空は晴れ渡り、空気は暖かで、鳥のハミングが木々に止まる。
しかし、その全てが、誰かのおかげで台無しだった(どっちのせい?)。
一方その頃、スタジオでは
「そろそろ、お茶の時間ね」
「ビスケット2缶とクッキー3箱と菓子パン2つとコーヒー5杯食って、まだ入るのキミ?」
げっそりとリンゴがヨーコに答えた。
ニールはとっくに逃げていた。
一方その頃、ポールの家では
「…キミのために、懐かしい歌を歌ったよ。気に入ってくれたかな?」
とろけるような笑顔で、ポールはピアノから顔を上げた。
ベランダを背にしたソファには、リンダが優しい笑顔を浮かべている。
「素敵だったわ、「And I Love Her」ね?」
「ああ、そうだよ」
「でも確かこれ、ジェーンと一緒に居た時に思いついた曲じゃなかったかしら?」
優しい笑顔をまさに「貼り付けた」態のリンダの鋭い突っ込みに、ポールが笑顔のまま「ぐっ」と詰まった。
「………ん?」
その時、塀の向こうからどえらい破壊音が聞こえてきた。
「ポール? なんだか塀の向こうから、どえらい破壊音が聞こえたけど?」
リンダが、綺麗に整えた眉をひそめてポールを見た。
しかし、そのポールの目には、今ここにいるはずのない不思議な物体が庭を横切ったのが見えた…気がした。
「どうしたの、ポール?」
ベランダを背にしたリンダは、それに気付かなかった。しかしポールの様子が変わったことには目ざとかった。
「ん? あ、いや、なんでもないよ! きっとね」
「きっとなんでもないって、なによ?」
「いやあ、それはその、えと、ね?」
こわばった口を笑った形で固定させると、ポールは誤魔化そうとリンダの隣に飛び込むように座った。
そんな訳ないだろ? 気のせい気のせい……などと、心の中でマントラを唱える気分で自分を落ち着かせようとするポールだった。
そのちょっと前。
「やめてくれ、ジョーーーーーン!!!!!!!」
通りを走りこみながら、ジョージが叫んだ。
しかし、時すでに遅かった。
ジョージのミニは、派手な音を立ててポールの家の塀にこすり付けられた。無残にも運転席側のドアは、大根おろしに擦られた大根の断面のようになってしまい、ドアも変に真っ平らになってしまっていた。
「…………よ…、こら、せっと」
運転席側から、ひらひらっと手が伸びてきた。そして次に、例の眼鏡がきらりと光る。
「うへえ、我ながらよくやるよ」 そんなことをぼやきながら、ジョンが窓からひょっこりと現れた。
「うわーーーーーー車がーーーー!!!!!」
こんなに走ったのは「ヤア!ヤア!ヤア!」以来だよ! と怒鳴りながらも、ジョージは自分の車に起きた悲劇を嘆いた。
「なんてことするんだよ、ジョン!!!!」
ジョージの非難は当然だった。しかし、非難を受けた本人はしれっと
「お前が人のいうままに、タバコを買いに行くのが悪い」と言い切った。(言い切ったっ!!)
「しまった、ついいつものクセで!」
ワリと情けないことを答えたジョージだった(もっと言うと、ジョージは悪くない)。
しかしジョンはどこ吹く風、出づらいなあといいながら、窓から身を乗り出す。
「ドアが開かないってのも、結構不便だな」
「結構どころか大問題だよ!!」
ジョージが、えっちらおっちら出てくるジョンに訴える。
「大体なんでわざわざ窓からでるんだよ。助手席のドアから出たらいいだろ!? まさか運転席にいる奴は、運転席から降りなきゃならないとでも思ってるのか!?」
ジョージのその発言に、ジョンは「え?」 と、とても驚いた顔でジョージを見た。
ジョージも、ジョンを見ていた。
風が吹いた。
二人はしばし、変な時間を持った。
「………あ、これで塀を乗り越えるのがずいぶん楽になったぞ。窓から車を降りることを思いついた、俺様天才!」
顔を赤くして、ジョンがぽんと手を打った。
『こいつ、助手席から降りる頭が無かったな』
ジョージは気付いた。そして『塀を越えるなんてのも、今、思いついたな』 と突っ込みたかった。
しかし、車をこんな目に合わされた彼が、他に何を言えただろう。
呆然と立ちすくむジョージの前で、ジョンはひいひいと窓から塀に取り付くと、果てしなく運動神経のないよじ登り方で塀の向こうへ姿を消した。
厚い壁の向こうから、木の枝が激しく折れる音と、荷物が落ちるような音とともに「ぎゃっ!」と短い悲鳴が聞こえた。
これから起きることを考えると、ジョージはポールに同情しないわけでもない。
『でも、だからどうだっていうんだ』
大事な車のドアを大根おろしにされたジョージは、そう心の中で一人言ちた。
「ジョージさん、サインください」
ポールの家を取り巻いていたファンの一人が、空気も読まないでサイン帳を突き出してきた。
ああ、と彼は頷いてペンを取ると、左手で「ぴーたーとーく」とでっかく書き込んだ。そして呆然とするファンの前で、バシンと音を立ててサイン帳を閉じると、遠く、高く、それをどっかへ放り投げた。
ファンの悲痛な声を後ろにしながら、半死半生のミニに(助手席から)乗り込むと、ジョージはエンジンキーを廻した。
情けない音を出して、エンジンから煙が上がった。
「………ウチに帰りたい(泣)」
と、ジョージはハンドルに突っ伏した。
その頃
平気な顔して、すさまじい量の食べ物を平らげていくヨーコに、リンゴと買出し部隊のマルが額を寄せ合い、話していた。
「どこに入ってるんだ、あの量が」
「もう手提げ金庫の底が見えてきてるよ! リンゴ、なんか言ってやってよ(泣)」
「…実は、さっきから言ってるんだけど」
リンゴはマルに、どうぞと手を差し伸べた。マルはちょっと唇を濡らせると意を決して話しかけた。
「えーっと、ヨーコさん実は」
「nanikayoukasira? Nihongodeonegai」
と、マルの問いかけにヨーコはしれっと日本語で答えてきた。
リンゴに向かって半泣きの顔を向けたマルだった。
その頃
「ねえ、どうしたのポール? 顔が青いわよ?」
「空も青いね、ねえリンダ?」
不安げなリンダに根性でスウィートな顔を作ると、ポールは甘い声で意味不明なことをささやいた。
その心の中は、ただひとつ。
『違う、違う、来てない来てないっ!』
これだけだった。
しかし、神はこんなちっぽけな願いを聞き届けるほど暇ではなかった。
背後のベランダのガラスが、どえらい音を立てて割れた。
「きゃあっ!!!!」
思わずリンダが飛び上がった。ポールは、表面だけでも平静を保とうと努めた。『きてない、きてない』
「リンダ、そろそろキャンドルに灯をともそうか?」
「それどころじゃないわよ!! ガラスが、ガラスがっ!」
「これは灯をともすとバラの香りが香るんだよ?」
「ポール、お願い今だけでも心を開いて私の声を聞いてっ!?」
『違う違うっ! なにも起きてない起きてないっ!!!!』
「そろそろハロッズで買ったローストビーフに年齢(とし)の数だけろうそく立てようか?」
「ポール、平気な顔して思いっきり動揺した発言しないでよ!!」
その時、どこからともなく声が聞こえた。
「おやあ、お邪魔だったかなあ!!!!!?????」
どこからともなくなんてモンじゃない。ベランダから声が飛び込んできた。
ポールは、その大きな目を強く瞑って、息を殺して心の中で呟いた。
「違います違います。居ませんよ、居ませんよーっ!」
心の声は口に出ていた。
気持ちがいいくらい広々と外に向かって開かれたベランダから、ガラスの破片を踏みつつ服を(特に腰の部分に付いた泥と芝生を)わざとらしく払い、颯爽とジョンが中に入った。そしてアイドル時代のさわやかな笑顔を作ってリンダに向かった。
「よお、リンダ。久しぶり」
「あ、どうも…って、違うわよ! ここで和やかな会話をしてる場合じゃないわ!」
「そうだよなあ!? よく分かっていらっしゃる!」
目を瞑ったポールの耳にそんな会話が聞こえてくるが、もうすでに逃げることも誤魔化すこともままならない今の自分に出来ることといえば
「居ませんよ、居ませんよ。誰もここにはいませんよ」
マントラを唱えて、悪霊が出て行くのを待つのみ、だった。
「ポール、ポール? どこにいるのかポール?」
悪霊? ことジョンレノンが、悪霊らしくポールの座るソファの周りをぐるぐる回る。
「人を散々待たせておいて、訳分らん理由でそれをすっぽかしちゃう悪い子はどこかなー?」
「違う違う、ここには僕と、リンダしかいないんです。そうなんですっ」
「あ、そうなの? じゃあ、なにか悪いことがあったら、それは全部リンダのせい、な」
「あ、アタシ!?」
突然のご指名に、リンダが思わず声を上げる。
『だめだ、ここで乗ったら彼の勝ちだ!!』
ここにきたら、もう勝ち負けの問題ではないと思うが、ポールは歯を食いしばって耐えようとした。
耐えなくてもいい、と気付いたのは、それから二瞬あとだった。
「素敵な花瓶よ、さようならー」
「きゃあああ!!!!!」
がっシャン! (「あそこにあったのは日本で買った昔の花瓶」)
「ハ○ンドオルガン、残念でした!!」
「いやああああああ!!!!!!!」
どくわっしゃ!! (「ああ、左利きの僕仕様でこしらえてくれた8トラックは出せるオルガンが!!!!!」)
「このまま行ったら、またなんか壊しちゃうなーーーー、リンダが」
「アタシじゃないわよ!!」
(『こらえろポール、堪えろ僕!!』)
「もうひとつくらい、いっちゃうんじゃないかなー? リンダが」
「だから違うって言ってるでしょ!!」
(『だめだ、僕! 乗っちゃ終わりだ!』)
「おや、ここにあるのは、ポールの「昔の親友」で、かのバンド、ビートルズのリーダー、ジョンレノンさんが昔描いた油絵じゃないか?」
(『え?』)
「りっぱな額に飾られちゃって、大事にしてたんだねえ? 描いた人間は粗末に扱うくせしやがって(ぼそり)。ああ、だめだよリンダ、壁から絵を外しちゃ」
「ジョン、ちょ、何するの?」(『おい、なにしてんだジョン』)
「だめだってリンダ、額から絵を出したら」
「なに? やめてよちょっとお!!!!」
(『これは、ちょっと…ちょっと、ちょっと!?』)
「ああ、残念だなあこれでもう見納めだあ!」
「だめええええええ!!!」
ここにきて、やっとポールはうんざりと声を上げた。
「一体なんだってんだよ、ジョン(泣)」
「あら、アタシはジョンじゃないわ?」
ちゃっかりポールの隣に座っていたジョンが、目を開けたポールにニッコリと頷く。
「アタシはリンダイーストマソ。金髪のまぶしい伝説のグルーピー。いたずらっ子なの」
厭味なくらい強調されたアメリカンな発音でそういうが早いか、ジョンは手にした油絵を一気に引き裂いた。
ポールとリンダが、声なき悲鳴を上げた。
「足癖も悪い、田舎ものなの」
そういいながら、ジョンは満面の笑みを浮かべつつ、ぐっちゃぐちゃと音を立てながら、自分の絵を思う存分踏み込んだ。
そして、破壊の上に壊滅をトッピングさせた元・絵を思いっきり踏みつけながらジョンは立ち上がると、
「記念日おめでとさん、相棒。明日は朝7時にスタジオに出て、ハンマー叩いてろよ。俺も行くからな!」
そういうと、ジョンは踵を返して、庭へ向かった。
しかし、ふと振り返ると
「7時に俺が来てなかったら電話して。起きれる自信ないわ、そういや」
そして、きた時と同じように颯爽と出て行った。
ポールとリンダが、呆然と見守る中、ジョンは自分が降りてきた塀に飛びつこうと頑張ったが、車の高さがあって初めて乗り越えるのに成功した高さでは当然届くはずもなく、マーサにじゃれ付かれながらも、どこからともなくはしごを抱えてきて、やっと彼らの視界から姿を消した。
その時「うわあああああっ!!!!」と悲鳴が上がって、荷物が落ちたような音が聞こえたが、部屋をこの有様にされた彼らがそれについて、何を言えというのだろう。
「………ポール?」
リンダが、動き出した隣に声をかけた。
ポールは、マーサに「ハウス!」と言いつけると、取って返して、どこからかほうきとちりとりを持ってきた。
そして、ちまちまと床を掃き始めた。
「ポール? えーっと…」
「なんだい、リンダ」
「………掃除機使ったら?」
「すぐには使えないよ。大きい破片を除いてからじゃないと」
もっともなことを言いながら、世界に冠たるお金持ちのロックンローラーは、きちんと端から順にちまちまとほうきを使ってガラスを片付けていく。
「………ポール」
「なんだい?」
「この絵は、どうするの?」
「ああ、取っといて」
掃除エリアの1/3を片付けたポールは、平気な顔でそう告げた。
「今度それでジョンをからかうから」
その言葉は、くちゃくちゃに丸まった紙を手にしたリンダの顔から表情を奪った。
そして、そのまま彼女はポールの掃除を手伝った。今日は、確か記念日のはずだった。お互いが初めて知り合った日の。
その嬉しいはずの日にリンダは、こんな「共同作業」に当たるとは、思いもよらなかった。
「あ、そうだリンダ」
掃除機を出しながら、ポールが思いついたようにリンダを振り返る。
「「初めて記念日」、おめでとう」
その顔になんの屈託もないのを見て、リンダは自分の肩が落ちたことを禁じえなかった。
「後でローストビーフを食べようね。ああ、その花瓶は保険が利くから」
ソウデスカ、と呟いてリンダはガラスの破片を外のゴミ箱に運んでいくのだった。
そのちょっと前
ジョンは、思いっきり歩道に腰を打ち付けていた。あると思ったジョージの車がなく、その代わり塀に「もうやだ、帰る」と
いう文面が、1文字30cm四方の大きさで書かれていた。
「このヘタレがっ!!!!」
と腰をさすりながら一人で悪態を付いていると、後ろから「あの、ジョンさんサインください」と空気を読まないファンがサイン帳を突き出してきた。『なんだか随分ボロいなあ』とつい受け取ってページを見ると、さまざまな著名人のサインがあった。
「………お前、本当に俺達のファンか?」
ジョンの鋭い突っ込みに、男はしばし押し黙ると「いいえ」 と正直に答えた。彼はただのサイン収集家なのだった。
ジョンは、無表情になるとペンを受け取り、ジョージの書いた「ぴーたーとーく」のサインの上に左手で「まいくねすみす」 と書くと、呆然とするファンの前で、バシンと音を立ててサイン帳を閉じ、塀の向こうに放り投げた。
ファンの悲痛な声を後ろにしながら、ジョンはウチへ帰ろうと歩き出した。そして、タクシーを捕まえた時「あれ、なんか忘れてないか?」と頭をひねった。
「じゃあ、そろそろ帰ろうかしら」
スタジオどころか、アップルビルの大方の買い置きを食い尽くしたヨーコが、やっとその腰を上げた。やれやれ、とマルとリンゴは安堵のため息をついた……のだが
「明日もくるわね」
とするどく彼女は一言、言い放った。
「勘弁してくれ!!!!」
と(買出しの異常さに心配して戻ってきた)ニールとマルが悲鳴を上げた。
「………なんで俺を見るんだよ!?」
と、リンゴが、何故か自分に集まる6つの視線に、ごもっともな声を上げた。
そして
「あら、なにかしらこれ?」
掃除の終わった二人が庭の片隅に、かなりボロボロになった大きめなメモ帳を一冊見つけた。
ポールが手にとって中を見ると、各界の著名人のサインが書かれている。
「ポールさん、そこにいるんですか!?」 塀の向こうから空気を読まない声がした。
「サインください!」
一瞬ポールは黙り込むと、今までのページを全て破りとり、最後の一枚に右手で「もんきーず」と書き込むと、塀の向こうに高く、遠く投げ飛ばした。
悲痛な声を塀の向こうに聞きながらリンダは、「明日7時かあ」とぼやくポールに、『行くつもりなのね』と心の中でげんなりしつつ、これからも続く「世界の常識」から大きく外れまくった方々とのお付き合いに向けて『私がしっかりしないと』と、改めて自分に活を入れるのだった。
Rise&Fall & 861Hedge-hog present
[The World Without Love]
*the end*
以下、「ビートルズで801 実質8スレ目より抜粋&加筆訂正(文責・861Hedge-hog)
435 :861/2 :2009/08/28(金) 22:54:33 ID:???0
リクエストを頂いたSS、遅まきながら完成しました!
458 :The World Without Love/0.5:2009/08/30(日) 22:03:41 ID:???0
随分長くなってしまいましたが、てなわけで、一巻の終わりです。えーと、私の情報では『ポールは「アビーロード」のレコーディングを「例の理由」ですっぽかしたのにジョンが火山を噴火させて、塀を乗り越えて突撃かました』と聞き及んでいます。そして、ジョンが「かましまくった」のは、彼が学生時代に描いた絵で、ポールが気に入ってたからジョンがあげたものだったと聞いています。申し訳有りませんが、慣れ親しんだ自分の中の方の「理由」を採用させていただきました。
Rise&Fallさま、こんな話に道連れにして本当にすいません(とほほ)!
459 :Rise & Fall:2009/08/30(日) 23:12:39 ID:???0(レス文より抜粋)
861様、まずはお礼を。ありがとうございます。(中略)
今までこのエピを思い出すときは寂しさの度合いが強かったのですが、これからは 笑いながら思いだすことが多くなるなと思います。(後略)
460 :861:2009/08/31(月) 01:34:50 ID:???0
Rise&Fallさま
私は果てしなくわがままな書き手なので、このリク話がどれだけRise&Fallさまの意に添えたのか、本当に(自分でも)疑問です。私自身、彼らのこのエピは、ジョンの大暴走話として受け取っていて、話を読んだとたん大笑いしたのです。人によって、(中略)受け取り方はさまざまなんだなあと、とても面白いと思えます。
と、ともにRise&Fallさまが、心が広い方でよかったーーーーー!!と、胸を撫で下ろしています(本当に!)。(後略)
後書き
重ねてRise&Fallさまにお詫びと感謝を。勝手にレスを使用して失礼いたしました。またこのエピソードを自分なりに描くいい機会を与えてくださり、ありがとうございました!! 861Hedge-hog 拝
最終更新:2009年11月13日 03:31