I call your name
Title:I call your name
Pairing:John/Paul
Rating:Fan-fiction
BGM:Yes it is (the Beatles)
世界は、これこのように、形通りに出来上がっていて
息が詰まりそうになるけれど
君がこの世界にいてくれるなら
僕は、それでいいや。
「ココで歌ってください!」「その髪はカツラですか?」「散髪はいつやるんですか?」「ベートーベンについて、どう思いますか?」
つまらない質問を、さも得意げにせっついてくるインタビュアー達に、ポールは、母国イギリスを出る時に感じた高揚感が一気にしぼんでいくのが分った。
アメリカ。これがアメリカ?
なんだ、こんなもんか。
これなら、イギリスの記者の方がよっぽど気が利いてるよ。しかし彼はそんな気持ちをおくびにも出さず、他の三人のふざけた答えを聞きながら、自分の役割を理解していた。
『僕の役割は、皆がハメを外さないよう、しっかり後ろを見張ること』
しかし、それをやるということは、熱狂の波に乗れず正気のままに、ここ数日の狂乱の日々を過ごすことを意味した。
まあいいさとポールは思う。どうせどこに行っても、僕が我を忘れることはない。ポールはたまに、自分は何かがかけているのではないかと思う時がある。たまに、昨夜自分が何をしたのか忘れてしまうほど酔っ払ってみたい。自分が薄れるその意識を味わってみたい。
しかし、そんな風に思っている限り、そんな時間はこないということも彼は知っていた。
アメリカは、ビートルマニアの渦にあった。
しかしそれは、ポール自身には関係なかった。
胸の奥にある喜びは、彼が「バンド」に対して払ってきた努力がはっきりと「実った」ことが見て取れたことへの
気持ちで、それはしかし「個人」の感情といえるようなものではなかった。少なくとも、ポールにとっては。
世界は、いつの間にかポールにとって、外から眺めるものになっていた。
しかもそれを、ポールは憂いていない。
いつからだったのだろう。自分の脇を目まぐるしく通り過ぎるアメリカの風景の中で、ポールは凪いだ心の中で
自問していた。何時から自分は、世界をこんな風に見るようになった? マイクが―弟が生まれて、自分が兄に
なってから? 母親が死んでから? いいや、そんなことなど関係なく?
ニューヨークからワシントンDCへ。列車の中は賑わっていた。ジョージが給仕の真似をして、リンゴが山とカメラを首から下げる。そんな様子を見て、ジョンが口だけで笑う。
ああ、あの中に入りたい。
ポールは、何故か今、切実にそう思った。
みんなの中ではしゃぎたい。
莫迦なことをしでかして、笑いたい。
しかし、そう思うたび、心はしんしんと冷えていく。
まるで故郷、リバプールの冬のように。
こちらを見つめるカメラに向かって、彼は声に出して言ってみた。
「笑う気分じゃないんだ」
レンズの向こうで、兄弟映像作家の兄が、少し切なげに眉を顰めた。
そんなポールも、初のアメリカ上陸で続く白痴的な熱狂の中で毒づいたことがあった。
「アメリカには迎合しないぞ」「アメリカには、こびへつらわないぞ!」
そう絡まれた、アメリカで人気のあるDJは辟易しているようだった。あ、やりすぎたかな。ポールはそう
思いなおした。これでビートルズに悪い感情をもたれたらまずいな。周りの人間達も、困ったように
口ごもっていた。
なにか、フォローを入れようか。ポールがそう思った時
キチガイじみた笑い声が、あたりに響いた。
「ポール、いいぞ!! もっとやれ!!」
ジョンだった。
彼は酔っ払っているかのように、顔を赤くながらも口と目元をゆがめて、芝居じみた動作を見せていた。
しかし、その目は笑っていなかった。
そこにいた全員が、ジョンを振り返り、そしておべんちゃらの代わりにとってつけたように笑った。
しかし、笑っているのは彼らだけだった。
そこにいた全員の中で、笑っていないのはジョンとポールだけだった。
空虚な笑いの中で、ジョンがポールに合図を送った。「行こうぜ」
ポールは、ジョンのその表情を見て、その姿を見て
何故だか、救い出されたような気持ちがした。
DJが、こわばった笑いのまま車に乗って退散する。
そうだ、確かジョンは彼に対してはっきりとした侮蔑の言葉を突っ込んだことが合った。
わざとらしく、自分達の曲を間違えて紹介した時に。
その時の様子をポールは思い出す。
まっすぐにDJを見据え、言いつくろいもせず、冷たく自分の言葉を放ったジョン。
馬鹿にするなよ、と。その目が、その声が告げていた。
そうだよ、ジョン。僕はそういいたかった。
ポールは早足に、ジョンに向かって歩み寄りながら、何故か自分の唇が寒さ以外のところで震えていることに気付いた。
そうだよ、ジョン。僕はそういいたかった。
何時の頃からかしれない、この、胸の奥にある冷たい塊。
この世界をうらやむように、眺めるだけの自分。
白痴的な熱狂。妄信的な狂乱の渦。ああ、あの中に入りたい。
入りたい―――。
異国の冬空の下にたたずむジョンに向かいながら、ポールは思っていた。
ジョン、ここはハリボテのようにうそ臭くて、ノッペラボウで下らなくて取るに足らなくてどうしようもなく救いがたいのかもしれないけれど
それでも、そんな世界が僕は、愛おしい。
でも、世界がそんな僕を受け入れてくれないのなら
取り繕わない、むき出しの僕に辟易するというのなら
そうさ、ジョン。僕はまさに、そういってやりたかったんだ。
ジョン、そして、そんな僕を呼んでくれるのは、きっと君だけ。
空虚で愛おしい世界から僕を引っ張り出して、受け入れてくれるのは君だけ。
そして、僕を「世界」に還元してくれるのも―――。
闇雲に「愛してる」と歌い、わめき、がちゃがちゃと楽器をかき回す。
白痴的な熱狂。妄信的な狂乱の渦を作り出す、強制的な音の繰り返し。
小児病的な繰り返し、繰り返し。そしてまた堂々巡りを繰り返す。
そうだ。これでやっと自分は「世界」に還ることが出来る。
「愛おしい」世界の中に入っていける。
こうでもしないと、ここまでしないと
自分の居場所はないのだと、ポールは分かっていた。
いいや、もしかしたら他にも道はあるのかもしれない。
でも、僕には他の道など分からないとポールは、雪の残る道路を歩き続ける。
他の道などいらないと、振り切るように歩き続ける。
道の向こうに自分を待つ、ジョンの姿を確かめながら――――。
『そう教えてくれたのは、君だよ。ジョン』
「愛してる」と、闇雲に汗振り乱して喚きつつ、その中に、苦し紛れの涙を紛らわせていいのだと。
それをやっていいのだと、一緒にやっていくのだと
僕を呼んでくれた君だけが、僕のボス。唯一の。
『ポール、いいぞ!! もっとやれ!!』
先ほどのジョンの声が、ポールの胸に響く。
自分の隣についたポールに、ジョンがにやりと笑って、促した。
共に歩みだすその歩調の中で、故郷より遠く離れた異国の地で向かえた冬の寒さと、今肩を並べるジョンの姿だけが、
今のポールに感じられる確かな「現実」だった。
世界とつながるたった一つの、縁(よすが)だった。
「寒いね、ジョン」
ポールは、震える唇のまま、こういってみた。
「ああ、そうだな」
あっさりとジョンが答えた。そして、苦笑交じりにこう言った。
「リバプールに似てるのは、そこだけだな」
ポールには、それでもう十分だった。
861Hedge-hog’s
「I call your name」
*the end*
最終更新:2009年11月11日 04:19