With a Little Help From My Friends
「ビートルズで801 実質9スレ目」より
「気分が悪い」
マーティンがコントロールルームでの作業を一旦終えて、表へ出る。
やれやれと一息ついたところに突然この言葉が耳に飛び込んできた。
「気分が悪い」
まただ。辺りを見回すとテーブルの上に誰かが突っ伏している。ジョンだった。どうしたのかと思い声をかける。
「大丈夫かい?」
「気分が悪い」
馬鹿の一つ覚えのように同じ言葉を繰り返している。
「どう気分が悪いんだ?」
「新鮮な空気が吸いたい」
今日も一日レコーディングに費やした。おまけに皆が喫煙者のせいで、スタジオの中は煙草の煙が立ち込めている。
さすがのジョンもこれには堪えたみたいだなと思い少し可笑しくなる。「屋上へ行くかい?」と聞く。夜風にあたれば気分も良くなるだろう。
「ああ」
とジョンは弱々しく答える。周りを見るが誰もいない。
「一人で行けるか?」
「大丈夫」
それだけ言うと、ジョンはヨロヨロと立ち上がり屋上へ続く階段へ歩いて行く。一人で行かせて大丈夫だろうか?とマーティンは一瞬考えたが、まだ片付けたい作業が残っていたので、まあいいか、と自分を納得させるように独り言を言った。
しばらくするとスタジオに戻ってきたポールが開口一番「あれ、ジョンは?」とマーティンに尋ねる。
「気分が悪いと言うから屋上へ行かせたよ」
「ふーん」ポールはそれだけ言うとあとから戻ってきたジョージとリンゴをつかまえて雑談を始めた。しばらくしてポールが「あっ」と言って突然立ち上がると、スタジオから足早に出て行こうとする。
「どうしたんだよ、そんなに慌てて」
ジョージが尋ねると「とりあえず後で」とだけ言い残して出て行った。残された2人は少し呆気に取られながら後ろ姿を見送っていた。ポールは急いでいた。俺は何て馬鹿なんだ。と心の中で叫びながら。
ジョンの気分がすぐれなかったのはクスリが抜けた後の禁断症状なのに。
マーティンに言われてすぐジョンを呼び戻しに行かなかった自分に激しく後悔した。確か屋上には手すりがなかったはず‥。そこまで考えて恐ろしくなり考えるのを止める。屋上へ急ぐ。屋上へ上がると空気が刺すように冷たい。急いで辺りを見回し、暗がりに目をこらすと誰かが床の上に大の字で倒れていた。
「ジョン!」
思わず叫んで駆け寄る。
「ああ~?」
突然、場違いな間の抜けた返事が返ってくる。
ポールは思わずジョンの顔を覗き込んだ。
ジョンはニンマリと笑っている。この状況が把握できず、ポールはポカンとするしかなかった。
「心配した?」とジョン。
「……」ポールは何も答えられない。「実はさ」ジョンがそこまで言うと
「ジョンのアホ!」とポール。
「もし屋上から落ちたりでもしたらと思って慌てて‥」
そこまで言って口をつぐむ。
「でもおまえがここに来るまでずいぶんかかったぞ?きっちり10分」
時計を見ながらジョンが、からかうように言う。
「ジョンのアホ!」
とまたポールが叫ぶ。「気分が悪いんじゃなかったのか?」
それを遮るようにジョンが続ける。
「ここから見る星は最高にきれいなんだ」
「えっ?」
「お前知ってたか?スタジオにこもってばかりじゃ駄目だぞ」
ジョンだって同じじゃないか。そう言いたいのを我慢して言葉に出すのをやめる。
「何だよ。心配して損した」そう言いながら安堵のため息をひとつ吐いて
ポールもジョンの横にゴロンと寝転んだ。ひんやりと冷たい地面が気持ちよかった。寝転がって空を見上げると星が無数に輝いていた。
こうやって星を見るなんて何年ぶりだろう。しかも隣にいるのは女じゃなくジョンだ。そこまで考えて可笑しくなった。
「なんだニヤニヤして、気持ち悪いな」
とジョン。
「たまには男同士で星を眺めるのもいいかもしれない」
「どこが」
ジョンにあっさりと否定された。
しばらく無言のまま2人で星を眺める。「風邪を引くからそろそろ戻ろうか」そうポールが声をかけると
「もう少しこのままでいいよ」とジョン。仕方ないな、と思いながら目を閉じる。思いきり深呼吸すると、夜の冷えた空気が体に流れ込んで心地よかった。
「本当に心配したんだからな」
とポールはジョンの顔を見ないままそう言った。
いつもならここでからかってきそうなところだが「ありがとう」ジョンは意外にも素直にそう言うと照れくさいのかポールに背を向けてしまった。ポールはまた一人静かに夜空を見上げた。ふいに誰かが階段を昇ってくる音が聞こえた。
「何やってるんだよ!」
見ると、心配して屋上へ上がってきたリンゴ達の呆れた顔がそこにあった。
終わり
最終更新:2009年12月11日 23:27