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Nontitle(R/G・1)




 のどの渇きを覚えて目が覚めた。
 まだ頭がぼんやりする。ここはどこだろう。ぼんやりした頭で周りを見回す。
 見慣れないカーテンに見慣れない家具。
 記憶をたぐり寄せる。ああそうだ。夜遅く仕事を終えて、帰るのが面倒だという理由で、スタジオから程近いセントジョンズウッドにあるポールの家に3人で押しかけたんだった。
 4人で酒を飲みテレビを見ながらくつろいでいたが、仕事の疲れが残っていたのか途中で気分が悪くなり、他の3人を残したまま自分は寝室へ向かい、そのままベッドに倒れこんでしまったのだ。
 ここまで思い出し、ふと横を見るともう一つベッドがあり、誰かが寝ていたような跡が残っていた。とりあえずベッドから降り、裸足のままキッチンへと向かう。ここには何度か来た事があったので迷うことはなかった。グラスに水を注ぎ一気に流し込む。冷たい水がぼんやりした頭を少しだけスッキリさせてくれる。
 もう一眠りしよう、そう思い、寝室へ向かおうとすると、リビングから明かりが洩れているのに気づいた。
 誰だろうと思い、中を覗く。ジョージがいた。
「何してるんだ?」と声をかける。
「眠れなくて」とジョージ。見るとテーブルの上にウィスキーが半分残ったグラスが置いてある。
「もう気分は良くなったのかい?」
 ジョージが聞く。「ああ」とだけ答えると「聞いてくれよ」とそれを聞いて安心したのかジョージがクスクス笑い出す。
「ジョンが飲んでる途中で寝ちゃってさ」
 おかしそうに肩を揺らして笑う。
「ポールと2人で必死に起こしたんだけど、全然起きなくて。仕方がないからソファで寝かせたんだけど」
 と指でジョンを指差す。
「あまりにも動かないもんだから鼻をつまんでやったんだ。それでもピクリとも動かないんだぜ。死んだのかと思ってビックリしたよ」
 今はかすかにイビキをかきながら眠っているジョンが目に入る。それを見てリンゴも思わず笑う。
「ポールは?」
「もう寝ちゃったよ」
 動かないジョンを見て、呆れた顔をして寝室に引き上げるポールを想像して可笑しくなった。
「こっちに来て一杯やる?」
 ジョージがグラスを掲げてリンゴに尋ねる。
「いや、もういいよ」
 そう言って寝室へ戻ろうとジョージに背を向けたが、明日は一日オフだったことを思い出し、少し考えて「やっぱり付き合うよ」と言ってジョージの座っているソファへ向かった。
 「どっちなんだよ」とからかうようにジョージが笑う。酔っているのか今日はずいぶん楽しそうだ。
「シャツが皺になってるよ」
 リンゴの姿を見てジョージが言う。
 言われて自分の姿を見る。今日はカメラ撮影があるから小奇麗な格好で来るように、そうマーティンに言われてワイシャツとネクタイをクローゼットから引っぱり出し、それを着てスタジオに行ったんだった。
 皺くちゃになったシャツを見て、軽く舌打ちしながらリンゴはソファのひじ掛けに座ると、ネクタイを緩めシャツをのボタンを外そうとする。それを見ていたジョージがふざけて「手伝ってやるよ」と言いながらリンゴのシャツを掴んで脱がそうとする。慌ててそれをやめさせようと片手でシャツを掴み、もう片方の手でジョージをソファに押さえつける。
 腕力には自信のあるリンゴが、酔っているジョージを押さえ込むのは簡単だった。
「もうしないって」
 悲鳴に近い声を出してジョージが叫ぶ。
「本当か?」
「もうしない」
 そう言うので力を緩めてやった。
 「ひどいよ」あまりの情けない声にリンゴが笑い出す。
 ジョージはもうはむかう気力も失くしたのか、すねてしまったのか、ウィスキーが半分残っているグラスを掴むとグイっと飲み干し「俺、もう寝るから」とだけ言って立ち上がろうとした。だが足元が少しおぼつかない。
「悪かった」
 とリンゴは笑ってジョージの腕を強引に引っ張り、ソファに座らせた。
 ジョージのくしゃくしゃになってしまった髪を見てもう一度笑う。そこで慌てて笑いをかみ殺す。
「俺も一杯付き合うから」
 お詫びのつもりでリンゴがそう言うと、少し機嫌を直したのか「グラスを取ってくる」と言ってジョージはキッチンへ歩いていった。その姿をぼんやり見ながらリンゴは煙草に火をつけようとマッチを探す。どこにやったっけ。そう思っているとグラスを持ったジョージがマッチをリンゴに投げて寄こした。
「ありがとう」
 一言そう言って煙草に火をつける。リンゴのグラスにウィスキーを入れようとしたジョージをリンゴは手で制して「自分でやるから座れよ」と言ってソファをぽんと叩いた。
 素直にジョージがそれに応じる。「今日も一日大変だった」ソファに座るなり体を投げ出して、ジョージはため息まじりにそう言った。
 「まさしくハードデイズナイトだな」リンゴが間髪入れずにそう言う。「俺はまじめに話してるのに」少し怒った顔でジョージが言う。
「大変なのはおまえだけじゃないんだぞ」
 そこまで言って少し説教臭かったかなと思い「明日は休みだし、体を休めれば気分も良くなるよ」と言い直す。
 同意を得られたのが嬉しかったのか「それでポールがさ・・」と身を乗り出して話を続けようとするが、ジョンがそばで眠っている事を思い出し慌てて口ごもる。

「ポールがどうした?」リンゴはわざと意地悪く聞き返す。ジョージは焦って人差し指を口の前に当てて(黙れ)というゼスチャーをとる。

 それがおかしくてまたリンゴが笑い出す。ジョージはからかわれた事にまた腹を立てて、そばにあったマッチをリンゴに投げつける。
 さっきからいい年をした大人2人が何をしてるんだ?そう思うとリンゴは余計におかしさがこみ上げてきたが、天気のように気分がころころと変わるジョージを見ていると愛しさにも似た不思議な感情を覚えた。自分でもよく分からない感情だった。「悪かったよ」
 そう言うとリンゴはジョージの肩をぐっと自分に引き寄せた。
 抵抗するか思ったが、ジョージは意外にもおとなしくリンゴに身を預けてきた。
 少し驚いてジョージの顔を覗き込むと、「もう少しこのままでいさせてくれ」と小さく消え入りそうな声が聞こえた。リンゴは静かにジョージの頭を優しく自分の肩にもたれさせた。
 しばらくそうしていると寝息が聞こえてきた。リンゴがそばにいて安心したのか、ジョージは眠ってしまっていた。
 やれやれ、と思いながら煙草の煙をゆっくりと吐き出し、リンゴは一人、静かに流れていく時間を楽しむのだった。


 (…困ったな)
 ジョンは一人悩んでいた。
 リンゴがリビングに入ってきた時点で目が覚めていたが、2人のやり取りを見て、起きるタイミングを完全に逃してしまったのだった。
 (頼むから2人とも早く部屋に帰ってくれ)
 ジョンは一人、切実にそう願っていた。




                       終わり

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最終更新:2009年12月11日 22:34