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alone as a tape


『萌えるシチュエーションを自分なりに考えてみました。

去年だったかジョンの肉声テープを元に出すというジョン伝記で
ジョンは母親とポールに性的に興味を持っていた、みたいなのありましたよね。
ポールと寝てみたかった・・・みたいな。
数日後ポールが「ジョンがゲイじゃない」と大反論していましたが、
実は当時、ジョンとポールは普通に肉体関係もある恋人同士で
でもそれを絶対にふたりだけの秘密にしようと決めていたという流れはどうでしょうか。
ふたりで約束してから今日まで、ポールはジョンの死があろうとも、妻のリンダの死があろうとも
それだけは守っていたというのに、何故ジョンはあんなテープを残したのか・・・
しかも「寝てみたかった」なんて、ポールだけに判る嘘までついて・・・
ポール「僕はずっと君との約束を守ってきた。なのにどうして?本当は何が不満だったんだ?・・・おまえは僕に何を言いたかったんだ」
みたいなのはどうでしょう。』

「ビートルズで801 6スレ目」より抜粋

alone as a tape 

 カセットの録音ボタンを切って、ジョンは小さなため息をついた。
 言わなくてもいいことまで、言ってしまったと後悔している。しかし、いつか自分が居なくなった時、誰かが自分のことを 覚えていてくれたなら、
自分が居なくなって、少しでも哀しいと思ったなら…。このテープを聴いて、思い出してくれたらいいとも思っていた。
 カセットを取り出し日付を書いて、ジョンはうつむいたまま立ち尽くしていた。きっとポールは怒るだろうな、と苦笑まじりに彼は、今もまだ
心が残る幼馴染を思っていた。そして、彼と自分だけが知っていて、今、録音したテープにうっすらと告白した秘密を…。
 それは小さな秘密、互いにとっては。
 それは大きな事実、世界にとっては。
 手近にあったマグカップを覗き込み、カラッポだったのを舌打ちして、ジョンは疲れきった身体をソファに投げ出した。カーテンから日の光が
透けて、その横顔を柔らかく照らす。
 頬に当たる、太陽のぬくもりは、彼の体温を思わせた。
 そういえば、お前と初めて寝たのは、いつだったかな?
 瞼に透ける光りを腕で遮り、ジョンは昔に思いを馳せた。あれは自分が始めて人前で演奏した、教会で出会ってすぐだったっけ? それとも、
一緒に作曲する面白さに夢中になった、まだガキの時代だったかな? デビュー前、一緒にパリに旅行に行ったこともあったよな…。
 重ねられた青年の肌は、滑らかで柔らかかった。それは、最後になるとは思わなかった、最後の時まで変わらなかった。
「ポール」
 長い間の、最愛の人の名を口の中で呟いて、ジョンはそのまま思い出に浸りこむ。
 目の奥に蘇る彼は、いつも笑っていた。
 大きな目でこちらを見て、優しいトーンの声が自分の名を呼ぶ。
 ふざけあって、じゃれあって、腕の中で胸を暖める互いの存在を嬉しく思っていた。 
 遠くに、なったもんだ。ジョンは、今の自分の胸の冷たさを寂しく感じていた。
 ヨーコはかけがえのない人だ。もちろん愛してる。
 でも、彼は…。自分とともに時代を駆け抜け、辛い時も嬉しい時も側にいた、自分の分身のような存在なのだ。バンドの成熟と共に、
自分達もオトナになって、痛い形で袂を分かってしまったが、自分にとって、彼が大事な人であることに変わりはない。
 怒るだろうな、と、彼は再びそう思って、つい吹き出してしまった。そういえば、オレがなんか言うたびに、アイツは怒ったり小言を
いったりしたっけな。ミミに釘でも打たれてたのかな?「ジョンを見ててね、ポール。あの子ったら、なにをしでかすかまるっきり 分から
ないんだから!」―――。自分を見守ってくれた大事な叔母の口調を思い出す。きっとアイツは生真面目に頷いたに違いない。イイコぶる
のがうまかったからな。
 「ジョン、これは僕と君との秘密だね?」
 昔、初めて彼を抱いた時、ジョンが戯れにそう告げた約束を、ポールはたまに持ち出して、嬉しそうに笑った。それはキスをせがむ時の
合言葉のようになっていた。ジョンもその符丁を使って、ポールを抱きしめていた。「ポール、オレの秘密を教えようか?」
 若い頃、ふざけ半分惚気半分でそれを歌にしたときは、さすがにポールも呆れ顔になったが、はっきりとした名詞を出していないのと
結局ジョージが歌うことで生々しさが無くなったので、「お許し」を貰ったのだが…さすがに今回はそうもいかないだろう。
 どうしてだろう、彼のことを思うと、胸の奥が痛んで哀しい気持ちが強くなる。
 幸せな日々が、自分の心を照らし、今の不可思議な寂しさを際立たせる。
 自分の腕の中で甘やかなキスに身を委ね、そのまま顔を見合わせたまま、互いに溺れこんでいった。
 次第に荒くなっていく彼の、自分の息が心を焦がし、何かを求めるようにさまよう彼の手を握りこむ。その手の熱と、こちらを見つめる
潤んだ目が、やけに懐かしい。
 ふと、こんな考えがジョンの心を掠めた。もし、オレが今ここで死んだとして、ヨーコはともかく
 ポール、もし、オレが先にこの世から消えたとしても

 オレのこと、覚えていてくれるかい?

 それは随分とムシのいい願いだと分かっている。酷いことをやってきた彼に対して、なにを言っても都合がいいことだと。
 そう考えた時、彼はやっと自分が彼に対してやってきたことを理解した。なぜそんなことをやってしまったのか納得した。
 そうか、今、やっとわかった。
 俺はお前に、甘えていたんだな。
 お前がオレに甘えていたのと同じくらい…、いや、もっと。
 思い出す彼の姿はいつも優しく、憎たらしいほどに愛おしい。
 『俺はポールだぞ! ジョン、出てきてくれ! 俺は捕まっちまうよ!』
 ダコタアパートの入り口で、芝居じみた一騒ぎを必ず演じる彼の、監視カメラを通して映る、ふざけた怒り顔。
 『ジョン、凄いフレーズだね! これ、俺たちが作った曲なんだよね!?』
 初めて訪れたポールの家で、ギターを挟んで思い思いにかき鳴らし、作り上げた曲を通して弾いた時の、上気した子供の笑顔。
 テーブルの上にポツンと置かれたテープ。ジョンはもう一つ、理解した。
 誰に向けてこのテープを作ったのかを。
「ただいま。…どうしたの? カーテンも開けないで」
 ドアが開く音と一緒に、自分の妻の声がジョンを気忙しげに呼ぶのが聞こえて、ジョンの思考が中断した。
 じゅうたんに吸い込まれる小さな足音と、カーテンが開けられる軽やかな音がジョンの耳に響く。それが彼にはたまらなく嬉しく、
でもそれと同じくらい切ない。
「ジョン?」
 いつもなら「お帰り」と答えてくれる夫が、ソファから顔を上げないので、ヨーコは不思議に思っていた。そして、彼女は彼が静かに
泣いているのを知った。
 息を呑んで立ち尽くす妻に、ジョンは手を伸ばす。彼女の小さな身体を抱きしめて、その暖かさにまた彼は涙を流す。彼女が居て
くれることを喜びながら、それでも、今の自分の胸を焦がしている相手への涙を流す自分が、自身でも許せない。
 ヨーコは、何も訊いてこなかった。ただ黙って、ジョンを慰めるように腕を彼の背中に回した。
 二人は長い間、そうしていた。

 ヨーコから送られてきたカセットを手に、ポールは顔を蒼白にしていた。
 そのテープは、件のものだった。
 同封された手紙が、ナイトテーブルに開かれている。そこには短い言葉で『これはあなたのもの』と綴られていた。
 テープの内容はとっくに知っている。それについては、もうすでに自分は答えを出した。
 『これは、自分を裏切った人間が生まれた記録なのだ』と。
「ジョン…」
 ベッドに腰掛けて、ポールは苦しくその名を責めた。
 どうして、こんなことをしたの?
 どうして、秘密を話したの?
 これは、数少なくなった僕と君との、最後の砦だったのに。
 テープを聴くためのカセットデッキも用意したのに、ヨーコの手紙に意味もなく何度も目を走らせ、彼はまだそれを
聴く気持ちにはなれなかった。
『ポール、オレの秘密を聞かせようか?』
 そう言う彼の声と、その時のくつろいで無邪気に笑う彼の顔が思い出されて、ポールの心が凍りついたように痛む。
『「ナーク・ツインズ」か? かっこいいな!』
 若い一時期、2人だけで活動していた時、ポールが提案した名前をジョンが褒めてくれたことを、ポールは今でも誇らしく思い出す。
 そんな2人の誰にも言えない秘密。今では懐かしいとさえ思える時間と、子供じみた潔癖さで守られた、約束への誓い。
 『君が居なくなってから、僕と君のことは世間から随分言われ続けた。大半がウソと噂で、誤解ばかりが広がっていった。でも…僕には
この秘密があった。誰にもいえない秘密。君と僕だけに通じる話。これだけが…これだけが僕を支えていたんだ。なのになぜ、なぜこんな
ものを残したんだ!? ジョン…君が僕に言ったんだぞ。「誰にもいうな」と。二人だけの秘密だと…!』
 膝に肘を付け、顔を覆うポールの手の隙間から、涙がこぼれだす。
 幸せな思い出が、今、自分を引き裂いていく。
「ジョン…!」
 悲しみに引きつる声が、ポールの震える口元からあふれた。
 どうして、話してしまったの? 僕を憎んでたから? 僕のことなんか、ホントはどうでもいいと思ってたの? 僕に何を言いたかったの?
 僕にどうして欲しかったんだ?
「……どうして、こんな…」
 その答えは、もしかしたらこのテープの中にあるのかもしれない。聴かなければならないと、ポールは思っていた。
 しかし、テープを前にして彼は竦んでいた。
 テープを再生したら、きっとジョンの声が語りかけてくる。懐かしい声で。あの、とがったような口調で。
 本当は聴きたくてたまらない、―彼にとって唯一のボス、長い時間をすごした永遠の恋人―会いたくてももう会えない、最愛の人。
 その彼が、自らの約束を破る瞬間が入っているテープだった。
 泣きながら、ポールはテープを手にした。日付がジョンの字で書かれている。確かに彼が録ったものなのだと、理解する。
 それが、哀しい。それが、辛い。
「どうして、だい? どうして…?」
 テープを持ったまま、ポールは泣き続けた。もはや誰にも訊くことの出来ない問いを呟きながら。

 ポールの手から、そっとテーブルに置かれたテープを挟んだ、時を隔てたその先で、ジョンの心がポールに語りかけていた。
 何度もなんども、声無き声で、訴えていた。

 忘れないで、ポール。オレのことを。

 あの日の約束を。あの日のことを。あの時、互いに感じた心を。
 長い時が流れて、お前があの約束を覚えているのか忘れているのか、オレには分からない。確かめることもできない。
 もし、お前が忘れていたのなら…。それをはっきりさせるのが怖いんだ。怖いんだ。知ってるだろ、ポール。オレが
本当は…臆病者だってこと。
 そして、時の流れにその約束が埋もれてしまうくらいなら、お前を、オレを、
 互いに築いた絆や思い出を裏切ってでも
 お前の気持ちを傷つけようとも
 全てを台無しにしようとも

 形に残していくことを、オレは選ぶよ。

 許されないことを、オレは望むよ。

 許されて忘れられるより、憎まれてでも覚えていられたほうがよほどいい。          
 お前の中に残るほうが、オレにはよほどいい。
 だから、いつか、お前がこのテープを聴いた時は、どうかオレを許さないで。

 守らねばならない約束を、そうと知っていて破ったオレを。
 全てを台無しにしたオレを。

 そして破った約束の中に詰まった、オレ達の大事な時間を、思い出してくれたなら。
 あの、かけがえのない、辛くて幸せだった時間を、掘り起こしてくれるなら。
 オレは…お前を裏切った甲斐があるってものさ。
 そうさ、オレはそんな人間だ!! サイテーの、屑だよ。

 だけど…ポール、だけど…

 覚えていて。これだけは。
 いつか、分かってほしいんだ。

 オレは…もうこんな形でしか、お前に「愛してる」って、言えないんだよ…。     

 ポールは泣きながら、テープに残るジョンの声を、心を思った。
 ジョンは、いつかポールにこの心が届くよう泣きながら祈った。

 テーブルの上の一本のテープは、聞かれるのを待っている。



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最終更新:2009年04月24日 01:59
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