広い庭で、犬の精液にまみれたリンゴのそばに近づく人影があった。
射精後のけだるい中で、ジョージはぎくりとその姿を見た。
ジョンだった。彼はたまたまリンゴの家に遊びにきたのだ。
「…おい、リッチ! どうしたんだこれ!?」
思わず抱き起こし、何度か軽く頬を打つ。やっと霞がかかった目を開いて、リンゴが目の前の名前をつぶやいた。
「ジョン?」
「そうだよ、分かるか? なんだこれ、ひでえ有様だな。家には?誰かいないのか?」
「家族は誰も…ジョージが来てくれてたんだけど、どこ行ったかな…」
ジョージ? その名前をきいて、ジョンは嫌なセンサーがぴんと立った。あの野郎、またなんかやらかしたな。
「とにかく家に戻ろうぜ。これは…かえって、家に誰もいなくてよかったな」
ジョンはリンゴを元気付けようと、軽口を叩いて明るく笑いかけた。リンゴもつられて笑みを返した。
ジョージが、足音を忍ばせて二人の後ろをついていくと、ジョンは勝手知ったるとばかりに、リンゴをお姫様だっこのまま家に歩き進むと、まず水を一杯
飲ませてからシャワーの用意をした。大丈夫か? と何度も声をかけ、細かい気遣いをしてみせる。ジョンは本来、こういう男だった。ジョージは昔、
自分がハンブルグから強制送還される時のことを思い出した。一人で帰らなければならないジョーを、ジョンとスチュが心配して、何度も何度も道を
教えてくれたっけ…。
ぽわわと思い出にひたったのが失敗だった。
いきなり身を隠しているドアが、バンっと大きく開いた。
「ぐはっ!」
ドアノブに、思いっきり胃の上をどつかれて、ジョージが目を白黒させた。
「ジョー?」
意地の悪い笑い顔が、ドアから生える。
「や、やあ、ジョン…」
「やあ、じゃねえぞこのクソ餓鬼!」
リンゴがシャワーを浴びているのをいいことに、ジョンは(遊び半分で)何度もドアを開け閉めさせて、ジョージをぼっふぼふにした。
「冗談だったんだってば!!!」必死で弁明するも、ドアで遊ぶことで頭が一杯になっているジョンには聞こえない、いや意味がない。かくて
ジョージはリンゴがシャワーから出てくるまで、ドアと壁から乱暴な抱擁を受けっぱなしになっていた。
「…ジョージ、大丈夫かい?」
シャツとジーンズに着替えたリンゴが、ティーバッグを落としたマグにお湯を注ぎながら、なんともいえない笑顔を浮かべた。
「お前が言われなきゃならない台詞だぞ、それは」
ジョンがもっともなことを言う。ジョージは、青あざだらけの顔をしかめていたが、リンゴには素直に謝った。
「これが、その薬さ…」
そういって、彼は上着のポケットから小さな瓶を「一つ」出した。ジョージの説明に、興味をしめしたのがジョンだった。
「じゃ、これを動物に飲ませたら、人間あいてにおっぱじめようとする訳か」
「ジョン…」顔を赤くしてリンゴがジョンの服の袖を引く。
「ジョー、それくれよ! そしたら今回のお前のイタズラ、許してやるぜ」
「ジョン、それこそ僕が決めることだよ」リンゴが呆れてジョンを見る。
「嫌だよ、安くないお金で買ったんだ。もうリンゴには使わないからこのままボクが持ってるよ!」
「バカ野郎! リンゴに使わないってナンだ!? それじゃリンゴ以外には使うってことじゃねえか!」「その可能性が
あるってだけだよ!」「それじゃ話にならんだろ!」
「黙れ、バカ共!!!!!!」
いきなり怒号と、テーブルを強く叩く音が響いた。びくっと二人は肩を竦めると、音を発した場所に立つリンゴを
恐々見上げた。青く大きな瞳が、強く光って二人を照らす。
唖然となった二人の間から、さっと瓶を浚うと彼はそのまま、庭に向かって投げ出した。
「ああああああ!!!!!!」 本気でザンネンそうな二人の口を、ギロっと視線で黙らせる。
「あんなもんがあるから、バカなことを考えるんだよ。こうした方がいいの。これでこの話はおしまい!」
「ええー?」
「ジョン。どうせマーサにでも使ってみようと思ったんだろ? ポールが慌てるところが見たいとかなんとかで」
「うっ…」
「それがバカだっていうんだ。ジョー、お前もいい加減にしろよ。今回は許してやるけど、俺の目が届くところで、
またバカをやったら…」ジョージの顔から血の気が引いた。
「ごめんなさい、ごしゅ」
「いや、それはいいから」
あっさりとリンゴはジョージに言い捨てる。
「とにかく、ジョン。助けてくれてありがとう。ジョージ、薬の効き目はどれくらい?」
「あ、もう切れてると思う」
「よかった。モーリンを襲いだしたらどうしようかと思ってたんだ。じゃあ、二人とももう、帰れ」
「ええ?」
「俺、きたばっかじゃん!」
「ジョージは変な薬を僕の飼い犬に使った罰、ジョンはあんな薬を欲しがった罰。二人で反省しながらとぼとぼ歩け!」
最後は笑いながらの言葉になった。わかったよ、と二人はすごすごと玄関を出て行った。
しかし、一歩外へ出たとたん
「ジョン?」
ジョンが庭に駆け出したのを見て、ジョージが声をかけた。
「どこ行くのー?」
「あの薬探すんだよ! あんな面白そうなものめったにねえじゃんか!!!!」
そして、庭の真ん中近くで、四つんばいになって草原に顔を突っ込みだす。
呆れてモノが言えないジョージの足元に、無邪気な顔に戻った例の犬がじゃれてきた。
その犬と、庭にいるジョンを交互に見比べて、ポケットから「青い薬瓶」を取り出すと、ジョージに口元に、あの片笑いがにやっと浮かんだ。
本人知らないところで、ジョン大ピンチ。
ジョンは必死に地面にへばりついて、小瓶を探していた。しかし、リンゴに見つからないように
気を配りながら、広い庭を探索するのも無理な話で、本人もそろそろやめよーかなーっと思い始めていた。
その時
「ん?」
異様な雰囲気が、背後にせまる。
「え?」
何気に振り返って、ジョンの顔が固まった。
そこには、犬が、あの、その、股間がパンパンになって目を血走らせてる犬が、ジョンをエライい目つきで
見ている。
「おい、なんだよコレ!?」
はっと思ってジョージを振り返ると、彼はにやっと笑ってVサインを出した。
その指の間に、「青い小瓶」が挟まっている。
「てめ…っ!」
その声は、最後まで続かなかった。
犬が…ジョンに飛び掛る。
「うわ、まてなにをするあsdfghjkl;:」:;lkjhgfd!!!!!」
必死で抵抗するも服は無残にびりびりにされていく。興奮しきった様子の犬が自分の身体をべろべろ舐めていくのを
止めることができない。
「ちょ、やめ、ははは、くすぐったいって!!! おい、ジョージてめえ、やめさせろ!!!」
聞こえないフリをして、ジョージがまたもVサイン。
「あ、マジでだめ、ん、ちょっと、やめ」
リンゴがふと庭に目をやると、遠くでジョンが犬と戯れている、ように見えた。
『ジョンが犬とあんなに無邪気になって遊んでるよ。ジョージもあんなに楽しそうにそれを
眺めてるなんて』
いいことだ。と勝手に彼はそう思いつつ、
庭の真ん中で犬にもだえちゃってるジョンと、これはまたいいオカズが、と目を皿にし始めたジョージを
優しい目で見守るのだった…。
最終更新:2009年04月23日 19:54