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alone 4 hedge-hogs


chap. 1 :「One and One Is Two」

 ロンドンの街はずれにある小さなホテルの1室に、ポールマッカートニーは友人を訪ねてきた。このホテルは大規模ではないが、歴史を感じる
つくりが落ち着いた雰囲気を持つ「知る人ぞ知る」トコロで、友人がここを隠れ家として使っているのをポールは知っていたのだった。
「…お前か」
 どんよりした眼と、適当に着込んだ姿でジョンレノンが現れた。「get backセッション」が進み始めた、冬の初めのことだった。
「何しにきたんだよ。また説教か」
 めんどくさげに、手近の椅子に身を投げ出して、ジョンはポールにうんざりと話しかける。ポール何もいわずに、そんなジョンの様子を見つめていた。
「…なんだよ、こんどはだんまりか。なんなんだよ、お前。言いたいことがあるなら、さっさと言え。オレは眠いんだから」
「…今日、セッションのある日だけど」
「ああ、それがなんだ?」
「覚えてたのか」
 ジョンは「うん」と肯きながら「今日はヨーコが芸術家同士の集まりにでるから、スタジオにはいかない」と、こともなげにいう。
「じゃあ、一緒には来てくれないのか」
 ポールの言葉にジョンは「そうだよ」と荒っぽくうなずく。
「オレがいなくても、お前がさっさとなんでもやりゃいいだろ? ジョージもリンゴも、ニールもマルも、お前のいうことは「ハイハイ」聞くだろうさ」
 その言葉に、ポールの表情が苦くなった。そして、頼むから、一緒にスタジオに来てくれないか、と頼んできた。
「マルもニールも、ボクの顔を立ててるだけだ。ジョージに到っては、ボクがなにか言うたびに、連れてくる奴が増えてくるから、なにもいえない状態さ。
リンゴだけだよ。ボクの話を聞いてくれるのは」
「へえ、そうかい」
 はき捨てるようなジョンの口ぶりだった。「リンゴはいいやつさ。そんな奴にも、お前はあれこれ注文つけてるもんな」
「あれは…、彼のドラムがボクの持ってるイメージと違うから、説明しただけだよ」
「あれが説明ね! すげえな、お前ナニサマ? どこの暴君サマだっつの!?」
 ジョンが、ホワイトアルバムのレコーディングの話をしているのは明白だった。ポールのイメージとリンゴのドラムがうまく合わず、号を煮やしたポールは
自分でドラムを叩いてしまい、リンゴがスタジオを飛び出してしまった時のことだった。
 ポールを攻撃するときに、ジョンが必ず始める話だった。ジョンもかなりリンゴに辛辣なことをしたじゃないか、といいかえしたいのをポールは抑えた。
いつもなら反撃されて、喧嘩別れになってしまうのに、ポールが黙ってしまったのでジョンはかさに着て、お決まりの「お小言」を蒸し返す。
「オレだったらやだね。仕事場に専制君主がいるなんてよ。まったく、いっつもビクビク仕事しなきゃならないって、最悪だと思いませんか? ポールさん」
 ポールは、ねずみをなぶる猫のようなジョンの言葉を、唇をかんで耐え抜いた。そして、一応落ち着いたと思うと、頭を下げて頼み込む。
「…お願いだ。また、皆をまとめてくれないか。もうボクじゃどうしようもない。誰もボクの話を聞かないし、言うこともまともに取り合わない。やっぱり
ビートルズは、君が必要なんだよ。虫が良すぎるお願いだと、分かってる。だから…もし、この話を引き受けてくれるなら。…また、僕たちのリーダーに戻ってくれるなら、
僕で出来ることならなんでも、言うことをきくよ」
 ボクが嫌いだというなら、なるべく顔を出さないようにする。ポールは辛そうにそう告げた。ジョンはそんなポールにひとしきり罵倒を浴びせた。身も凍るような
言葉の濁流だった。
 しかし、ポールにショックを与えたのは、ジョンのこの申し出だった。
「オレに話を聞いて欲しいんだったら、俺の額と唇、そんで一物にキスして「お願いします、ご主人様」っていいな。お前にそれができるんだったらな」
 ポールの表情が、真っ青になった。眉がひそめられ、唇がわなわなと震えだす。屈辱的な申し出だった。ジョンは、ポールにはそれが出来ないと喬をくくって
いるので、にやにやと目の前の青年を眺めている。
 いつ逃げ出すだろうと、ジョンが思っていると
「…それをやったら、話をきいてくれるんだね?」
 眼を光らせて、ポールが聞き返してきた。
「ああ、そうだな」
 ジョンの表情が、ぎくりと変わった。
 ポールが、ゆっくりとジョンに近づいていった。一人掛けチェアに座るジョンの、肘掛に両手をついて、歩く早さ同様ゆっくりと額に唇を寄せていく。
 あと少し、という時
「!?」
 ポールの肩が、ぐいっと引き離された。
「ジョン!?」
 我に返ったように、ポールはジョンを見上げた。ジョンの手が、ポールを拒絶している。そしていきなり立ち上がり、ジョンは戸惑いを隠しきれていない
ポールの様子を見下ろしていたが
「…やってらんね」
 と言い捨てると、足早に部屋を出て行った。
「ジョン!!」
 ポールの呼びかけにも、答えは帰ってこなかった。




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最終更新:2009年04月24日 13:15