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alone 4 hedge-hogs 3


chap. 3 :「I've Got A Feeling」

 残されたポールも、混迷の中ただ一人、今までジョンが座っていた椅子の前でへたりこんでいた。
嵐が去ったような脱力感に、彼は呆然と床に視線を落としていた。ジョンの言葉の一つ一つが胸を裂き、焼印のように胸から消えない。
『話を聞いて欲しかったら』
 そういった彼の顔は、メフィストフェレスも逃げ出すような酷薄な笑みを浮かべていた。その表情に打ちのめされながら、しかしポールは、その申し出を
断るつもりのない自分に気付いていた。席を蹴って、帰ってもよかったはずなのに。
「…ははっ」
 乾いた笑いが、口からこぼれた。最低だ、と彼は自分をなじった。
『お前、うれしかったんだろう』と。
大変な時だから、ビジネスとして、自分はジョンに動いてほしいからだと…そう思いたいのに。
 あの申し出を前にした時、あっさりと理性が飛んだ。
 やっと、その時がきた、と胸が高鳴った。
『やっとジョンが、呼んでくれた』と…!!
 まだ十代の頃から一緒にいて、ずっと彼の隣にいた。乱暴でインチキな彼が、時に見せる少年の顔を知っているのは自分だけだと、心の中で自負していた。
 しかし、彼が知りえたのはそこまでだった。やがて富と名声を手に入れた彼らの周りにはいつも人が取り囲み、ポールもジョンも、その誰からも求められた。
 ジョンはその中にあって、手当たりしだい、と言っていいほど体を開いた。男だろうと女だろうと、彼が認めたら、それで話は決まるのだ。
 しかし、その中にポールが入ることは、最後までなかった。
 彼とて、周りの者から求められなかったことはない。しかし、ジョンとは話がちがった。
 いつも一緒にいる二人だった。休暇で一時離れていても、何を考えているか分かるくらいに。ポールが、そんなジョンを恋しく思うのは当然だった。
 ジョンにも、それがわかっているはずだった。しかし、それでもポールの望みがかなうことはなかった。肩を寄せ合い、顔を近づけ、体を預けながら
共に歩いてきたけれど、それ以上になることはなかった。いつか、はっきりと誘ったことがあったのに、ジョンがはぐらかして逃げたことはポールには
ショックだった。必死の思いで求めたのに、ジョンは見てみぬふりをした。ポールはもう、自分から出るのはやめようと思った。どんなに時間がかかっても、
いつかジョンが自分を認めてくれる。その時を待とうと。
「…バカみたいだ」
 しかし、ポールの願いは、永久に届くことはない。それが今日、はっきりとわかった。
 ポールの目から、大粒の涙が零れ落ちた。度し難い。まったく…なんて愚かなんだろう。こんな屈辱的な状態での性的嫌がらせに、胸を躍らせる自分が
いるなんて。
 ビジネスが失敗するかどうかの瀬戸際で、個人の感情が叶いそうになって、喜んでしまうなんて!
「…う…、っく、…あ…ああ…」
 嗚咽が、喉からあふれてくる。世界から消えてしまいたいと心底から願ってしまうほどの失望感は、いったいどこからきているのだろう。
 知りたくない、とポールは思った。知ってしまったら、彼は自分を殺してしまうだろう。最後の砦の自尊心すらボロボロに崩れさって、惨めな心を晒されてしまう。
 そんな姿をはっきりと見せられるのは、それだけは、死んでもいやだった。
 そう思いながら、そんな気持ちと相反する叫びをポールは無言で上げていた。

 『そうなってもいい、どうしても手にしたいものがあったんだ!』と。

 共に過ごした時間を、確実にするためのモノ。
 長い時間の中で培ってきた大事なものを、しっかりと掴みたかった。
 ジョン。君も同じ想いだったのだ、と。同じものを掴んでいたのだと、確信したかった。
 君の隣に、いたかった。君の笑顔を見ていたかった。共に道を歩み、大事な時を分かち合い、一緒に進んで行きたかった。
 出会った頃から、それは変わらない願い。ちっぽけで、単純で、それだからこそ、はるかに遠い。
 ジョン、僕はただ……、君を、愛していたかった。そして……
 例え、僕のように、じゃなくてもいい。ほんの少し、ちょっとだけ、振り向いてくれたなら
 その手を、僕にくれたなら。

 願いは、たったそれだけだったのに…!

 椅子に突っ伏して、肩を震わせポールは泣いた。愚かな自分を懺悔するように。
 …椅子に座ったジョンの膝に、泣いて恋うているように。







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最終更新:2009年04月24日 14:18