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I'm out a time.


 傷つけてるつもりじゃなかった。
 本気でそうしようとか、思っていたわけでもない。
 ただ、そう言うと、いつもやさしい彼の顔がにわかに曇って、苦々しくこっちを見るのが、 なんだかすごく楽しくて。
 そういいながらじゃれ付くと、ぞんざいにこっちを払いのけるのが嬉しくて。
 オレはそんなところがある。悪い癖だと分かってる。
 好きなコをからかいすぎて、怒らせてしまうこと。
 でも、まさか彼がそこまで嫌がってたとは思わなかったんだ。
 だから、まさか
 こんなことになるなんて。

「リンゴ、ねえねえレイプさせてよねえ」
 その日もオレは軽い気持ちでそう言って、リンゴに後ろから抱きついた。小さな肩は オレの腕にすっぽり収まって、女と違ったフカフカの身体の感触が服の上から
でも伝わってくる。
「いい加減にしてくれよ、ジョー」
 いつもは愛称で呼ばない彼が、いきなりそうやって呼んできたからオレは「あれ?」と思って、 またいい気になってしまった。
「いい加減って、なにさ」
「そんなこと言ってじゃれ付いてくるのはもうよせ、って言うんだ」
 そういうと、彼はこっちを振り返った。オレを下からねめつけてくる眼は、何時もと違って怒りを含んでいる。空色の目が冷たく光ってオレを制しようとする。
「なんだよ、それ!」
 自分のやっていることを棚上げて、オレはむっとして言い返した。こんなの、ちょっとしたオアソビじゃないか。それに、本当に嫌だったら、なんで最初っからそう
いわないんだ。彼はいう。ジョーが俺を からかっていっているのが分かっていたから、最初は笑って受け取っていたさ。でも、こう何度も言われたら、たとえ冗談でも
いい気持ちがしない。はっきり言わなきゃ分からないみたいだから、今、注意してるんだ、と。
 その時のリンゴの様子。全身が怒気を含んでいて、あの小さな身体がぐっと大きく見えた。さらさらの赤毛は逆立っているようだった。そして、あの――― 。

 青い光。冷たい炎が燃え立っているような視線。

 怒気と視線をまともに食らって、オレは一瞬息が詰まった。 オレの腕の中にいる人物が、オレの知らない人物に変ってしまった。
 しかし、愚かなことにオレはまだ粋がって、彼を離そうとしなかった。よせばいいのにかえって腕に力を込めてしっかりと抱きしめると、精一杯皮肉に笑ってこう言った。
「そういうなら、ホラ、オレを振り切っていきなよ。あんたにそれができるならね」
 バカだった。まったく愚かな話だ。オレは彼の体格と普段の優しい態度で、目がくらんでいた。忘れきっていたのさ。いくら昔は身体が弱かろうと、確かに今だって
病気がちかもしれなくても
 彼は、あの激しいステージの間中、ドラムを叩いてビートを刻む(しかも歌まで!)、ドラマーだということを。
 オレの言葉に、彼の怒りが爆発した。
「ぐっ!」
 殴られる、と思うより早く、正確に、彼の拳がオレのみぞおちにめり込んだ。硬い指輪の感触が、はっきりとわかるくらい深い衝撃だった。
「か、は…っ! あ」
 身体から力が抜ける。痛みと精神的なショックで立っていられず、身体が崩折れていく。
 息が詰まるのをさけようと、本能的に咳き込む。
 彼は、そんなオレの身体を支えると、軽く背中を撫でた。ホッとしたのもつかの間、彼が優しかったのはそこまでだった。オレは彼の肩に担ぎ上げられ、そのまま
寝室に運び込まれた。長い演奏旅行の間、少しでも緊張を解きたいオレ達は、寝室のリネンの交換は2日に一回としていた。あんまり毎日こぎれいだと、返って余所に
来ていると自覚して、緊張が取れないからだ。だから、そこも今朝のまま、寝乱れてくしゃくしゃになったままのベッドだった。
 それが、なんだか生々しい。
 オレはそんな中に、乱暴に投げ出された。まだ身体が強張っていうことをきかない。腹を押さえて激しく咳き込む。つばを飲み込むこともできない。
 しかし、彼はそんな憐れなオレの様子にちっとも頓着しないで、はぎ捨てるように自分の上着を脱いで床にたたきつけると、そのままオレの上に乗っかってきた。
 そして、むりやりオレの身体を伸ばすと、そのままぐっと、おっかぶさってくる。
 オレは逃れようともがく。だけど、びくともしない。まさか、そんなと焦ればあせるほど、逆にベッドの中にもつれ込んでいく。その時、
オレは気付いた。リンゴの身体…。ぽっちゃりして、弱弱しく見えていたのに、うわっ皮の脂肪の下は、しっかりと筋肉がついている。そうだ、ギター弾きなんかと
違ってドラマーは全身を使って演奏をする。長年ドラムを叩いている彼が、どうして弱っちいことがある。
「お前がしたがってるのは、こんなことなんだよ? ジョー。それを教えてやるよ」
 彼はオレの襟元からネクタイを除いた。強く引っ張られて一瞬喉が絞まる。オレは怯えてしまったのだろう。今では分かるがその時はもう、どうしていいのか
分からなくて、体罰を前に縮こまる餓鬼そのまんまだったに違いない。
 彼は話してくれた。自分はこの体格から、よくからかわれていたことを。そして、なにも分からないまま社会に出た時、かなり「痛い目」に遭ってきたことを。
「だから、俺も随分荒っぽくなったよ。でも、そんなこと聞かれない限り話さないだろ?」
 彼は、笑う。背筋を寒くするほどの、凄みのあるその笑み。
「だから、怖くてね。お前が俺に抱きついてくるとさ、ふざけてると分かっていても、つい緊張しちまうんだ」
「…オレ…そんな、つもりじゃ」
 彼は頷く。分かってる、と。
「俺が緊張するってのは、お前が「レイプ」と言って抱きつくたび、振り返りざまお前の顎を叩き割るのを押さえるため、さ」
 分かるだろ? オレの顎を片手で掴んで、彼は言う。頷くのも返事をするのも忘れて、オレはすくみ上がる。凄い力。その迫力。
 彼はそのまま、オレにキスしてきた。振りほどこうとして、もつれ込む身体。息を呑むように唇を吸われて、息が詰まる。
「は…、あ」
 舌が差し込まれて、空気が吸えた。柔らかくてあったかい感触が、乱暴に口の中を暴れまわる。口の裏をなぞられ、舌をつるりと飲み込まれ、わざと音を立てて
吸い付いてくる。
 そうしながら、手が、服の上からオレの身体を撫で回す。腰から脇腹を通って、二の腕をさする。
「ん…、んふっ、んんん!!」
 リンゴの手が身体を走るたび、俺は思わず跳ね上がった。どうしよう、どうしよう。 怖い。怖いよ。怖くてリンゴの顔が見られない。でも、耐え切れなくて
薄目を開けると、 彼はこっちをじっと見つめている。まるでオレを、怯えてすくむオレの姿を観察するみたく、冷たい、青い目を向けて。バカなオレを制する、その視線。
 彼の手は、相変わらずひんやりしているのに、オレの身体はどんどん熱くなっていく。
 息が、違う意味で上がっていく。混乱が置き換えられる。
 怖くて彼にしがみつこうとしても、その度、手首をつかまれ枕に押し付けられてしまう。
 ここではそんなことも、オレには許されていない!
 ただ、オレは彼のするままに翻弄され、なぶられて、高揚を強制されるだけ。
 だらしなく惚けたツラを無様に晒して、彼のお許しを請い願うだけ。
 ああ、畜生! だのに、なんで、なんで、なんで
 なんでこんなに…
「はあ…ああ、いや…、やだよ…!」
「聞こえないね」
 頭の中がぐちゃぐちゃで、どうしていいか分からない。落ち着きたくて逃れたくて「嫌だ」と言っても、彼は聞いてくれない。片手でオレの口を塞ぐと、その
人差し指をオレの口元に差し出す。
「うるさい、これでもしゃぶってな」
 そして口の中につっこまれる。くちゅくちゅっと引っ掻き回され、弄り回される口の中。だけどオレは…、うっとりとそれを受けると、そのまま赤ん坊みたく、夢中に
なってこれに吸い付いた。
 舌を絡ませ、唾液を絡ませ、それをすすり上げるように。
 その様子を、リンゴは冷たく見ていた。青い目が、オレを煽る。そして、オレの唾液で濡れた自分の指先を、自分の口に含んで彼は笑う。意地悪く笑う。
 ほら、ジョー。まだだ、まだ終わらないよ。





 胸をはだけられ、そのままキスされる。ボタンが弾けて、パラパラとシーツを叩く。
 ここにきて、まだオレは彼にしがみつくこともできない。
 彼の薄い唇が、オレの腹や首根っこ、そして…上半身で一番感じやすい場所を捕えて、舌まで使ってなぶり上げる。ここまで煽られてきたオレは、もうどうしようも
なく、次の刺激に餓えていた。そこへきて、この仕打ち。
 もうだめ、もうだめ、ガマンできない。
 だらしなく惚けたツラを無様に晒して、彼のお許しを請い願うだけ。
 ああ、でもその「お許し」って、一体なんだ?
 青い目が、オレを征する。その手が、その身体が、その口が、その声が、その一挙手が、彼の全てがオレを犯していく。やっと分かった。これは毒だ。決して
蓋を開けちゃいけない毒だったんだ。
 優しい彼に甘えて甘えて、とうとうこんなところへ迷い込んでしまった。暴いちゃいけない裏っ側。口を付けてはいけない毒。
 今、それはオレの口元にもって来られててムリヤリ注がれている。そうなったのは自分のアホさかげんのせい。
 それなのに、呑んじゃいけないって分かってるのに、オレは今の今まで砂漠を渡り歩いた人間みたいに、喉を鳴らして、それを飲み干そうとしている。
 底が見えても、最後の一滴まですすりこもうと、浅ましく音を立てて器のヘリに吸い付いている。

 そして、その器を持っているのは…。

 彼は笑う。自分をバカにした相手を逆にたらしこんで、その様子をみて嘲笑う。
 きっと、今までだって、そんなふうにしていたんじゃないだろうか。
 それを証拠に、オレはもう、上半身はすっかり裸で、でも彼はネクタイも外していない。
 オレはもうすっかり出来上がっているのに、彼はまだ入り口にもきていない。
 ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。
 百回だって書きます。百回だって言います。そんなつもりじゃなかった。傷つけようなんて、思ってもなかった。罰を受けるのは当然だ。
 それなのに、こんなに怖くて、彼が怖くて、竦み上がってなすすべもなくって、罰を受けてるハズなのに。
 なのに、なのに、どうして、
 どうしてこんなに…気持ちいいんだよ…!
「リンゴ…、もう、もうオレ」
「聞こえないといった」
「許して、もう許して、たすけて…!」
「じゃあ…『ごめんなさい』は?」
 オレの気持ちが聞こえたようなタイミングに、ぎくりとなった。
「ご、めんなさい」
「もっと大きな声で」
「ごめんなさい」
「もっと」
「ごめんなさい、ごめんなさい! ああ、ねえリンゴ、お願い!」
 オレの必死な様子に呆れたのか、彼は笑った。
 何時もの、優しい笑顔だった。
「よし、イイコだね」
 そういって、彼はオレの頬に口づけて、そのまま耳元をまさぐる。大きな鼻の先が顎のラインや耳の中をくすぐる。
 そして、やっと、やっと、オレの腕を離して、自分の肩にまわしてくれた。
 オレは、たったそんなことが許されただけなのに、嬉しくて、凄く嬉しくて、がむしゃらに彼の首っ玉にしがみついた。
「ネクタイ、外してよ」
 そんな声がささやかれる。暗示にかかったようにオレは彼の胸元に手を伸ばす。
 もどかしく、ネクタイを外して、ついその首筋に八重歯を立てた。
「こら!」
 痛かったのか、彼はちょっとビクッとして、オレの鼻をつまんだ。そしておしおきとばかりに、オレのベルトに手を掛けた。
「あ、だめだ。やめて!」
「どうして」
 また顔が意地悪くなった。
「見られたらマズイものでもあるってのか?」
 そして、すばやくベルトを抜くと、するりと手を滑り込ませる。恥ずかしくてオレは顔を背けた。
 だって、オレはもう
「凄いことになってるな」
 にやりと、リンゴが笑う。「そんなに感じてたのか?」息も出来ないほど恥ずかしくて返事もできない。
 下着の上から撫で上げられて、オレはまた彼にしがみつくことしかできなくなった。からかうようないじり方をされて、もう沸騰寸前だった。
 どうしよう、どうしよう、このままだったら、このままいったら
 ガマンして、息をこらえているオレに、リンゴは気付いてくれた。
「ジョー、イキたいのか?」
 心臓が止まるかと思った。そうだよ、リンゴ。もうガマンできない。なんだっていい、どうしたっていい、だから、お願いだ。早く、はやくオレを吹き飛ばしてくれよ。
 あんたのその手で、オレをどうにかしちまってくれ!
 そう叫びたくて、たまらない。だけど、そうなったら、オレはどうなる? どうなっちまうんだ? 
 こんなスゴイ快感を知ってしまって、こんな恐ろしくて…こんな、魅惑的なリンゴを知ってしまって、以前と同じようにいられるか? 壊れやしないか? 
さんざん焦らされ、煽られ炙られて、もう道は一本しかない。

 でも…どうすりゃいいんだよ…!?

「大丈夫さ、ジョー」
 そんな、混乱しきったオレに、リンゴがささやく。耳をくすぐるように、優しく。
 心の底に溜まっている、口にするのも恥ずかしい欲望を誘い出すように。
「こんなことで、狂った人間はいない。楽になりたくないのかい?」
 その声に、オレはどう答えたろう。頷いた? かぶりを振った? 
 どうにしろ、表す答えは同じだ。
 そして彼は、その答えを拾ってくれた。何度目かもう分からなくなったキスと同時に、オレの下着に手が滑り込み、そして「例のしぐさ」を畳み掛けてきた。
「ああ! あは、ひっ…、あああ!!!」
「そんなに気持ちいいのかい?」
「う、うん。いい…! すごく…あ、うああっ! 気持ちいい、気持ちいいよお!!」
 彼のくすくす笑う声がする。そして、もう汗やら涙やらで、訳の分からなくなった俺の頬をぺろっと舐めた。オレの口から、自分のものとは思えない声が上がる。
 酷いよ、リンゴ。こんなのない。
 ここにきて、優しくなるなんて。
 やっぱり、毒だ。この人は。恐ろしいほどの強い毒。
 皿まで舐め取りたくなるほどの、きついどく。
「ん、うう、あ、あああん」
 口からは、もう意味のない喘ぎしか出てこない。最後に向かって振り切られる意識を保とうと、必死にリンゴの肩にしがみつくことしかできない。
 そんなオレに、彼は一層激しく手を動かして、わざわざ振り切ろうとする。
 オレの意識を、吹っ飛ばそうとする。
 決定的な言葉でオレを殺そうとする。
「ほら、イッちゃいな」
 そして、髪に顔を突っ込んできて、ふう、と熱い息を吹き込んだ。

 あっけなく、たあいなく
 オレは、殺された。

 極彩色の波が、オレにぶつかってきて、さっさとオレを浚っていった。
 リンゴの声がする。餓鬼をいさめる大人の口調で。
『もうこれで、あまり人を甘くみるんじゃないぜ、ジョー?』
 でも、オレは答えることができなかった。

 誰かが、頬を軽く叩いてる。
「ジョージ、ステージの時間だよ」
 その声で、オレはやっと目を開けた。そこには、オレの頬から手を離すリンゴがいた。
 ハッと我に返って、ガバっと起きあがって時計をみると、ステージまでもう5時間くらいしかない。
「まだシャワーくらいは使えるよ。とっとと身体を流して用意しな。エピーからの電話は俺が受けたから」
 顎で「こいよ」と合図して、彼は寝室から出て行った。まだオレは呆然としていた。あれ、なんだ? 夢? 
 今までのは、オレの欲求不満が見せてたトンデモな夢だったのか?
 夢と現実の区別が付かない、曖昧な気持ちのままベッドから出ようと、オレはシーツに手を置いた。その時

 小さな手触りがあった。

 手についてきたそれを見ると、ワイシャツのボタンだった。改めて見回すと、あちらこちらに散らばっている。
 まるで、弾き飛ばされたかのように。
 起きてみると、下着もスラックスも履いていた。でもベルトはない。そして着ていたシャツがパジャマになっていた。
「大丈夫かい?」 
 部屋からでたオレに、リンゴが声をかける。ああ、と頷くけど、心はここにあらず。ぽかんと突っ立ってるオレを、彼はシャワールームまで引っ張っていった。
 そして、バスローブを羽織っただけの、びしょびしょになって出てきたオレの頭をわざわざ拭いてくれた。
 だめだよ、リンゴ。どうして優しくするんだよ。ああ、ドライヤーまでかけてくれて。
「モーリンに教わったんだ。マッシュルームカットを手早く乾かす方法をね」
 だめだよ、リンゴ。ここにきて、モーの名前を出すなんて。
 まったく、怖い人だよ。この人は。
 どうせステージ衣装は、皆が揃った時に着替えるので、私服を引っ張り出す。いつも着ているシャツは、ソファの背もたれに掛けられていた。
「ボタン、台無しにしてごめん。仕立て屋にでも直してもらって」
 バツが悪そうにリンゴが言う。それをみて、オレはあれが、本当にあったことなのだとやっと理解した。
 ぼんやりしていたものが、はっきりと見えた。
「リンゴ、あの…」
 今までのことをあやまろうと、オレはなんだかもじもじしてしまった。あああ、これじゃホントに餓鬼だ。みっともねえ。
 彼は「ん?」と目を丸くすると、にやりと笑って
「これで分かったろ? あまり人をからかうもんじゃないって」
 そして、かすめるようにオレにキスをして、頭をポンポンと撫でると「先に下りてる」と部屋から出て行った。

 そして、突然部屋にぽつんと残されて、オレは彼が出て行ったドアを呆然と見つめた。
 嵐のような時間。激しいうねりに翻弄され、もてあそばれて、からかわれて………堕とされた。
 身体には、まだ熱が残ってる。心には、新たな気持ちが疼いてる。

 そんなことを知っているのだろうか? そんな風にオレを仕向けて、一人でさっさと出ていってしまえるのか。
 薄暗くなっていく部屋に、バカみたいに突っ立ったまま、オレはなんともしがたい、どうしようもない思いを抱えこみ、あの青い目に向かって八つ当たりをした。

 ほんとに、リンゴ。あんた、本当に
 ほんとうに、酷い人だよ。

「早くしてくれ、ジョージ!!」
 ブライアンの金切り声が、ホテルの入り口に響く。いつものお上品な姿からはかけ離れている姿に、そうとうイラついていることが分かる。
「さ、行こう」
 リンゴが、やっとロビーに降りてきたオレを見て、さっと走り出した。
 その後ろからついていきながら、オレは自分の中に湧き出す誘惑に折り合いを付けようと必死だった。

 また、「あの」リンゴに会いたくなったら、どうしよう。
 話はカンタンだ。またいつものようにふざけかかればいい。
 でもそうしたら、今度こそリンゴに嫌われるかもしれない。
 それでは、まったく話にならない。

 車のドアを開けて待つニールに、頭っから車に突っ込まれて、リンゴと顔を見合わせながら、オレは「やってはいけない」ことをやりたがる自分の性格に心底
うんざりして、ため息をついた。

 リンゴは、こっちを見もしないで、ニールとブライを相手にとりとめのない話をしている。






             *the end*

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最終更新:2009年06月28日 04:28
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