till there was you
896 :ホワイトアルバムさん:2009/04/01(水) 02:29:00 ID:TgBRZdBe0
J「ウールトン教会の芝生でまた寝たふりしてるからよ、またそっと来いよな(笑)」
P「ぼくスキッフルやっててちょっとギター上手いんだけどまた聞いてくれよな(微笑)」
2ch ビートルズ板・「ジョンが生き返ったとしてポールにかける最初の一言」スレより
いつも曇り空ばかりのリヴァプールにしては、珍しいほどのいい天気だった。
ジョンレノンは、学校をサボってウールトン教会の芝生の上で、のんびりと寝そべっていた。
足を組んで、両腕を頭に敷いて。眩しい日の光を防ぐため、美術史の教科書を開いて、顔に伏せている。
垣根が張り巡らされたこの中は、通りの喧騒が聞こえながら、違う世界が広がっていると思えるほど、落ち着いていた。
『来るかな、あいつ…』
目を伏せてとろとろと居眠りをしながら、ジョンは先日、教会で開かれたバザーを思い出していた。
彼はそのステージに、スキッフルバンドをでっちあげて自分の腕ためしを兼ねた演奏を披露した。出来は悲惨なものだったが、
出会いが一つあった。
そいつは、友人のトレバーの背中から現れた。
大きな瞳を見開いて。
頬をばら色に染めて。
唇を、きゅっとしめて。
少しふっくらした輪郭と、その童顔はとてもマッチしていた。
「ジョン、こいつは…ええと…」
「ジェームズ・ポール・マッカートニー」
ちょっとむっつりした顔をうつむき加減にして、彼は友人に一瞥もくれないでボソッと自己紹介する。普段はセカンドネームで呼ばれてる、と。
「へえ、んじゃポーリィか」
あの時はビールの酔いが回ってきて、ジョンは少し浮かれていた。紹介されたばかりの少年の肩に腕を回した。
「ヘイ、ポーリィ。お前のギターって、どんなもん?」
「少なくても、バンジョーよりは弾けるよ」
ジョンの顔がギクリとした。トレバーはきょとんとして、レモネードを啜っている。
ポールが、静かに笑った。少し首を傾げる。
ジョンはしばらく、その少年を見つめた。彼も黙って視線を受けている。
年を聞いたら、まだ14歳だという。ジョンはうへえ、と心で呻いた。
こいつ、こんな歳でもうそんなこと分かるのかよ。
そして、喧騒を避けるため、教会の中に逃げ込むと、ちょっと弾いてみろ、とギターを渡す。
ちょっと爪弾いて、ポールはあれ? と眉をしかめた。涼しい顔でギターを抱えてはいるけれど、ジョンが知っているのは母親が教えてくれたバンジョーのコードのみだった
ので彼はギターをバンジョー仕立てにしていたのだった。あれこれちょこちょこいじって、やっと落ち着いた顔になったポールは、今ジョンが演奏した曲を披露した。もちろん、
歌詞も正しく歌った。
ジョンは無表情を決め込んだが、内心ショックだった。こんなやつがいたのかと。
演奏が終わった。ポールは、言葉を失っているジョンに恐る恐る視線を向けた。
その目を見て、ジョンの顔に血の気が戻った。
ポールは、自分が今やったことがどんなにすごいことか、まるで分かってないようだった。自信のない、弱弱しい目をジョンに向けて、無言で問いかけていた。
どうだい? 僕、うまくやれたかな?
僕を、認めてくれるかな?
ジョンはその目を黙って見つめた。張り詰めた空気が伝わってくる。まるでイタズラが見つかって、罰を待つ子供のようなその目に見覚えがあった。
それは、自分も持っている目だ。
ジョンはため息をつくと、ポールの頭に手を置いた。そして
「俺、よくここの教会の芝生で昼寝してるんだ」
え? とポールの肩から緊張が抜けた。
「学校ある日なんて、よくいるからよ。よかったらギターもってこいよ」
そして、くしゃっと一つ髪を大きく撫ぜると
「タバコも、持ってこいよな!」
と言って、笑って席を立った。年下の少年にビビッた様子を見せないように。精一杯肩をいからせて。胸をふんぞり返らせて。
彼は大股でどかどかと教会の床を蹴って、さっさと外に出て行った。
背中の向こうで、ポールがぽかんと見ているのを気付いていたが、わざとジョンは振り向かなかった。酒の酔い以外の血の気が、
頬に上っていた。
あれから2週間がたった。
あの日から、なんとなくそわそわしながら、ジョンは芝生の上で毎日ごろ寝をしていた。
くるかな、あいつ。そんなことを思いながら、無理に目を瞑って昼寝を決め込もうとする。
そうしているうちに、なんとなく眠ってしまうのだが、変な寝方になるので、起きた時は疲れが淀んでいるようだった。
トレバーに訊けば、彼がどこに住んでるかも分かる。
でも、それだけは絶対しないと、ジョンは決めていた。もしこれで奴がこなかったら、この話は終わり。さっさと忘れよう。
でも、もし来たら…。もし、来たら?
ジョンは心臓がヘンに暴れることに眉をしかめた。どうする? もしあんな奴がきたら、俺のバンドはアイツに取られちゃうかもしれない。
あんなギターが上手くて、歌が上手くて、それに…。
ポールの顔つきを思い出して、ジョンは心で頭を振った。なんであんな奴がいるんだよ。なんで、あんな奴が俺の前に
その時、ジョンの心に、ギターを弾き終わったポールの目が浮かんだ。
不安そうな、自信のない、弱弱しい光りを帯びた、大きな目。
ジョンは教科書の下で、きゅっと唇を噛んだ。
チクショウ、そんな目で見るなよ。
そんなことを胸で呟いた時
誰かがこちらに歩いてくる気配がした。
飛び起きそうになって、ジョンはぐっと堪えた。
その気配は、そっとジョンの近くに座ると、コトコト、と音を立てて何かを取り出したようだった。見なくても分かる。ギターだ。
そして、ちょっと迷ってから…。
「there were bells on the hill」
自信のない、小さな声だった。しかし、原曲の甘すぎるメロディがすっきりと引き締まっている。
ああ、来ちまった。ジョンは何故かがっかりした気持ちと、動悸さえ早くなる期待を同時に感じていた。
どうしよう。このガキ。どうしようかな。
かわいくて、ギターが上手くて、歌が上手で、自信のないこの僕ちゃんを。
俺の前に出てきてしまった、この迷った顔したお子様を。
ジョンは、しかしそんなことを思いながらも、口元には笑みが浮かんでいた。
胸に、不思議な暖かさが広がるのが分かった。
つい、ジョンが鼻歌で歌を返した。ポールの声が、ピクンと止まって、それからすぐに、続きだす。
先ほどよりは、ちょっとだけ元気に。
ジョンの足先が、リズムを取り出す。鼻歌はハミングになっていた。
ギターの音に、活気がみなぎる。声が嬉しげに高くなっていく。
ウールトン教会を通りかかったバスの窓から、ジョージはその演奏を聴いた。
『あれ、だれだろ? ポールに似てるけど』
しかし、彼の知っているポールの演奏は、今聴いているものより覇気がないようにジョージは思った。
『メリハリあって、いいギターだなあ。しかもハーモニーがついてるよ。この歌、ついてないはずなのに』
すげえな、とジョージは窓の外に目を向けた。高い垣根に邪魔されて見えなかったが、その演奏は耳に届く。
他のバスの乗客は無関心に下を向いていた。ジョージは少しだけ得意になった。こんないい天気に、ギターと歌が聞こえたなんて。
そんでそれに気付いたのが自分だけなんて。ちょっとイカした話じゃないか。
その時、かすかに影が動いた。
一番前に座っている男が、窓の外をみて微笑んでいた。
男は 背が小さくて、遠目からでも鼻が目立っていた。歳のころは同じくらいだろうか。身体が小さいようなので、ここからではよく分からない。
そして、ジョージと同じ方を向いているのだ。
ジョージは『へえ』と歓心した。きっと歌が聞こえてるんだと思い、ちょっとだけザンネンな気持ちがしたけれど、なんだか同じ宝物を見つけた相手と出会った
ような気がして、素直に嬉しいなと思った。
ジョンはまだ寝たフリをして、教科書を被ったまま起きようとしない。
ポールは気付かないフリをして、ギターを爪弾き歌い続ける。
バスが、病院前で止まる。あの男が降りていった。
それをなんとなく目で追って、ジョージはそのままバスに乗り続けた。家までまだ5丁ほどある。
そんな地上を、一羽の鳩が見下ろしながら、歌と共に青い空へ向かって、飛んでいった
861hedge-hog's
「till there was you」
*the end*
最終更新:2009年06月28日 03:31