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こんなゲットバックセッションなら許す!!!!


 アップルビルの半地下のスタジオで、リンゴスターは皆を待っていた。
 防音設備が整った、休憩室までこしらえてあるこの場所で、当初ゲットバックセッションは行われていた(しかし、どうしても手狭であったので、
結局場所変えすることになったのだが)。半地下特有の、湿った空気はひんやりと彼を包んでいる。
「え? ジョージ?」
 ドアが開いて現れた最初の人物は、遅刻魔で有名なジョージハリスンだった。彼は後ろ手にドアを閉めて、床に転がる機材をよけながらリンゴの側に寄っていく。
「スタジオの場所、移るみたいだな」
「そうだね」
 そんな他愛の無いことを受け答えて、ジョージはリンゴの膝にすとんと座った。実に自然な態度だった。
「おい、ジョー?」
 驚いた顔をするリンゴに、ジョージは悪びれもなく昔話を持ちかけた。
「昔、よくこうやってリンゴの膝に乗ったよね」
「ああ、ハンブルグでか? 随分昔の話だな」
 そう答えながら、リンゴは懐かしさで笑みを大きくした。革ジャンを着込んで粋がってたベビーフェイスのギタリスト。彼はなぜか自分に懐いてきた。姿を見ると
寄ってきて、甘えるように膝に座った。店ののん兵衛たちにからかわれても、涼しい顔で…。
「なあ」
「ん?」
「なんで、あの頃こんなことしてきたんだ? 皆にからからかわれても」
「人がどう言おうと、俺がアンタを好きなことに変わりがないからさ」
 あけすけにそう言うと、ジョージはにやっと笑った。ヒゲの向こうに浮かぶ笑顔は、昔と少しも変わらない。ちょっと面食らったリンゴに、ジョージは顔を下ろしていく。
「…どうしたんだ?」
 長いキスが終わってから、リンゴがジョージに尋ねた。「なにか、あったのか?」
 ジョージは少し黙り込んだが、尖らせた口を少しずつ開いて答える。
「…エリックがね、いやなことを言うんだ」
「エリック? あの?」
 うん、と頷いてジョージが続けた。「俺があんたが好きなことを、アイツ「ガキの思い込み」だって言うんだ。昔の亡霊に取り付かれてるって」
 リンゴは思わず苦笑した。やれやれ、嫉妬に焦がれる青年は、とうとうオレを殺してしまったのかい。
 自分の首に腕を回し、ふくれっ面を隠さない昔なじみの青年に、リンゴはわざと教師のような声音で話す。
「その通り。子供は大人になるものだ。そして子供は学校を卒業するものだよ」
「だったら、俺は落第生だな」
 リンゴの顔のあちこちにキスを落としながらジョージが言う。
「いつまでも卒業できないろくでなしだ」
「落第ばかりだと、退学処分にするよ」
「だとしたら」
 ジョージの目が、リンゴの目をはたと見つめる。昔と変わらない目。アーモンド色の、瞳に好奇心と、ちょっとだけ落ち着いた光を浮かべて、こちらを嬉しそうに見つめて
くる。「だとしたら?」と聞き返されて、ジョージが、すこし戸惑ったように口ごもる。言わなくてもわかるだろ? といいたげに彼はリンゴの額にキスをすると、
鼻にかかったリバプール訛りではっきりと答える。
「俺は、もう一回アンタに入学するよ」
 だってホラ、と彼はリンゴの手を取ると、そのまま左の胸に押し当てた。
 ことことと早鐘を打つ鼓動。触れているところから、肌に熱が帯びていく。
 ジョージが、リンゴの頬を両手で包むと、そのまま髪に指を差し込んでいく。リンゴの髪が、まるで指を舐め上げるように絡んで、すり抜けていく。
 すっかり甘えきって、相手になにもかも委ねたジョージの姿はこの上なく艶めかしかった。片方の腕をリンゴの肩に回し、もう一方で彼の緩めた襟首を指先でくすぐる。
リンゴはちょっとだけ首を竦めてジョージを咎めたが、やがてその両手をジョージの脇腹に滑らせる。
「あいかわらず、ここが好きなの?」
「…変なこというなよ…」
「でも、ほら」
 自分の膝の上で、小さく身体をよじってため息をつくジョーをからかいながら、リンゴは「ほら、ここも」と身体のあちこちに道を付けていく。
 激しさのない代わりに、相手をいたわり、甘やかす優しいしぐさだった。
「ん…」
 リンゴの唇を首や肩に受けて、ジョージが熱のこもった息をもらす。殺風景なスタジオなど、もう二人には関係なかった。フリルのついたシャツブラウスのリボンを
ほどき、彼は自分でボタンを外す。そして、はっきりとリンゴに身体を向けた。
 まあ、いわゆる「対面ざ(ry」の形になって、ジョージは本格的に、リンゴに甘えだした。今迄だって充分に甘えていたのだが、本気モードとなったジョーの無邪気な
艶やかさは、ちょっと想像を絶するものがある。これがFabの面々じゃなかったら、せっかくの据え膳を前に一発で腰砕けになって、なにもできなくなっただろう。
 しかし、相手はリンゴである。彼もまた「ゴージャスハイパーモード」に切り替わっていた。長く伸ばした髪の隙間から覗く青い目は憂いを帯びて濡れて光り、
薄く微笑む口元は柔らかでありながら、強烈な男性匂さを醸している。小さな身体からは大きなオーラが溢れ、寒々としたスタジオを一気にお花畑にしてしまったように
思わせた。そんなリンゴにジョージは思わずため息をついた。少女が大人に恋をするような純粋な憧れと、身体になじみこんだ強い愉悦を思っての、余熱を逃がすような
息だった。
 半分ほど高いところにあるジョージの目を覗き込みながら、リンゴはにこりと笑った。そして、ボタンのはだけたシャツに、その顔を埋めた。
「あっ…、はあ…」
 思わずジョージの顎が上がり、背中が一つ、大きく震えた。リンゴはそのまま両手を背中に回す。
「…ね、リンゴ」
 じれったい時間が永遠に続くように思えて、ジョージがリンゴを強く抱きしめた。そしてやはり長い髪の間から、柔らかそうな唇をのぞかせて、せっかちな要求をする。
「お願い…、ここで、しよ?」
「ここでかい? 隣の休憩室へ行こうよ」
「いやだ、ここがいい。ここじゃなきゃやだ」
 目元をばら色に染めて、ジョージが拗ねた声を出す。「こまったお嬢さんだね」と笑いかけて、リンゴは温かに湿った舌でジョージの胸板を慰めにかかった。

『いや…、そんなとこ舐めないで』
 はっきりと言おう。最初にアップルのスタジオは防音が効いていると説明したが、じつはアレはアップルのゴミであるインチキ技術者「マジックアレックス」の触れ込み
なのだ。あのアホのことはこちらが説明するまでもないだろう。な、もんだから、ドア一つ向こうの音なんてワリとだだもれで、しかもスタジオの入り口は鍵すら壊れていた。
 もちろん二人がソレを知らないわけじゃない。しかし、彼らはキニシナイ。むしろその方が新しい刺激になるってもんで、しっかり、とっくり、久々の交遊を暖めているのだ。
「まったく、あきれるよ」
 ドアの隣でポールが呟いた。
「いいんじゃね? 仲が宜しくて結構なこった」
 その隣で、ジョンが壁に寄りかかりながら、のんびりあくびをして答えた。彼らはもちろんスタジオに仕事をしにきたのだが、どっかのバカップルがカラオケボックス
代わりにスタジオを使い込んでしまったから、入るに入れず、しかし帰るのも、なんかくやしいような気がして、こんな中途半端な場所に突っ立っている状況にあった。
「マルに連絡してもらわなきゃ。あと2時間で撮影陣がきちゃうよ」
「連絡? なんていってもらうんだ? 『ビートルズのメンバー二人が、気分が乗っちゃってちょっと月まで旅行に出ちゃったから、今日は撮影ナシ』てか?」
「いやな言い方すんなよ!」
 思わず荒っぽい声がでたポールに、ジョンが慌てて「しーっ」と人差し指をポールの唇に置いた。
「いやあ、それにしてもリンゴはすごいな。まったく、ドア越しでもビンビンとした空気を感じたよ」
「それなら、ジョージだってそうさ。今のジョーに勝てる奴は」
「お前くらいだな」
 ポールの言葉を引き受けて、ジョンはすばやくポールの唇を奪った。「ヒゲくすぐってえ」とジョンはポールの口元を自分の唇でくすぐるようにそうささやくと、にっと
笑ってまたキスをする。
「ちょ…ジョン…」
「あのバカップルに負けるのは、レノン=マッカートニーの面子に関ると思わねえ?」
 そんなアホくさいことを呟きながら、ジョンがポールに何度も口付ける。空気が一気に濃密になっていくのが分かる。
「だめ…だよ。もうすぐ撮影が」
「始まるまで二時間あるんだよな?」
 レノンはポールの抵抗を、易々と破っていく。髪を撫で付けたり、耳元にキスを繰り返したり、壁に追い詰めてくすくすとポールの生真面目さをからかう。
「かわいいな、ポーリィ。なんでそんなに変わらないんだよ」
「そっちは随分変わったよ」
「オレが? どう?」
「すっかり老け込んださ」
 そんな憎まれ口に、ジョンは軽く笑い声を上げた。そして、ワルツを踊るようにポールを抱きしめる。
「時間が惜しくないか、Love? オレはここでもかまわないぜ?」
 もー、しょーがないなー、とポールが苦笑いを浮かべつつ、ジョンを促してスタジオの隣へと歩き出した。「なんだよここじゃねーの?」と、心底ザンネンそうにぼやく
ジョンを、軽く無視して、でも歩きながらポールはジョンの肩に甘えかかる。
 長年の恋人に、こんな風に甘えかけられて頑張らない男は去勢されたイヌのようなもんだ。ジョンはいつも口うるさいポールの、久々の「ツンデレモード」に思わず
「ムッハー!」となった(←20世紀最大のバカップルの面目躍如)。




「よーし、いっちょ久々にがんばっちゃおっかなー!」
「バカ、隣に聞こえるだろ?」
「ははは、ナニ言ってんだよ」
 屈託なくそう言ったかと思うと、ぐいっとジョンはポールに顔を寄せた。そして
「これからもっと聞かせるだろ?」
 と、意味ありげに微笑む。
「!!!!」
 ドアを開ける直前の会話に、ポールが顔を赤くしてジョンを睨み付けた。
 ジョンはおおげさにウィンクを返して、ポールを抱えるようにドアを閉めた。

 そんな様子を、一つ角の向こうから伺っている2つの人影があった。
「ちょ、ポール!? これって、どゆこと?」
 一人は(完全に混乱した)、リンダイーストマンである。
「なんであの二人…え? しかもなんか、あの話ではスタジオでは」
「そうね、きっとジョージさんとリンゴさんが、愛を交わしているのだわ」
 そしてもう一人、大したことをいっている訳ではないのに、深遠なことを言っているように聞こえるヨーコオノの肯定が、リンダの問いの答えだった。
「ええええ!? なにそれ? あたし聞いてないわよそんなこと」
「進んで言う人もいないでしょうね」
「そんなこと言ってるんじゃないわよ!」
 半地下の暗がりでも映える金髪を、リンダは振り乱しながらヨーコに怒鳴った。しかし、並みの神経を持っていない彼女は、黒い瞳にかけらの動揺も見せず、彼女の
恋人がしたようにリンダの口元に人差し指を乗せた。
「そんな大きな声で、彼らの命の輝きを乱してはいけないわ」
「あんたナニ言ってんの?」
 心底不思議そうに、リンダはヨーコを見つめた。
「あたし達の付き合ってる相手が、男と浮気してるのよ? しかも友達の旦那達まで! なんで落ち着いてられるって」
「浮気ではないわ。そんな言葉で彼らの行いを汚してはダメ」
「ちょ、アンタ」
「分かっているはずよ、リンダさん。あなたにも」
 すっとヨーコがリンダに近寄った。その瞳は底が見えないくらい漆黒で、まるで夜のようだ。
「彼らが今行っているのは、ただのセックスではないわ。その瞬間に命を燃やし、心を通わせ限られた時間の中で共に高みを目指す実践的な共同芸術なのよ」
「…つまり時間がないから手っ取り早く終わらせるために、お互いがんばってます、ことでしょ」
 見も蓋もない言い方だが、その通りである。
「リンダさん、そんな言い方はあなたらしくないわ」
 そう言ってヨーコは微笑んだ。慈愛に溢れた笑顔だった。
「あなたは写真家。私は芸術家。その双方には一つの道が通じているの」
「…それは?」
 思わすリンダが引き込まれる。
「それは芸術を理解し、残していこうとする心よ。私達は、自分の恋人や夫、また、自分が何者であるかというものを乗り越え、一人の人間として、心の向かう方へ 
眼差しをむけなければならないの。あなたが持つカメラは、何のためにあるの?」
 なんだか、分かったような分からんような言葉だが、アメリカ人はこういうものに弱い。リンダは、自分が言いくるめられてると気付いてはいるのだが、ここでそれを
言ったら自分が芸術を解しないヤンキーのように思われそうだと考えた。すでに罠にかかっているwww。リンダ戻ってこーいと声をかけたくても、今彼女はヨーコと共に
ある。彼女の脱線した芸術論に飲み込まれそうになりつつあるリンダに、ヨーコは
「私のように思っているのは、一人だけじゃないの」と宣言した。
「え?」
 リンダの当惑にヨーコは答える。
「私の他にパティさんやモーリンさんが合流してくれたわ。私達は、自分が見聞きした共同芸術の報告会を開いたりその様子を書き起こしたりして、瞬間の輝きを広く
伝えようとしているのよ」
「それは、自分の旦那の萌え話に花を咲かせてるってだけじゃないの?」
「私達は、たまにその記録を一冊の本に纏めて、共に歩むもの同士が集う場所で販売するの。それはお互いの活動のための資金にもなるわ」
「…ちょ、それ」
「今度の新刊はA4版26P、表紙フルカラー、新作二本と再録一本で一冊5ポンド(3千円くらいとお考えください)の予定よ」
「たか! そしてアコギ!!!」
「そうだわ、私達はこんなことをしている場合ではないのよ」
 そう言って彼女はどっからか電話を持ってきて、ちゃっちゃとダイヤルを回す。
「パティさん? 私よ。そう、今アップルのスタジオ。あなたの旦那さまの芸術が進んでいるところよ。早く来ないと終わっちゃう…モーリンさんは? そう、じゃ今回は
アシさんとして頑張ってもらいましょう」
「ねー、なんの話ー(泣)!?」
 リンダの訴えを流して、ヨーコは何度か頷くと受話器を置いた。
「これでいいわ。今回もばっちりよ」
 ちなみにこれが前の本、と彼女はリンダに一冊の大判サイズの本を差し出した。そこにはかなり美化が入ったFabが描かれている。中を開くと、漫画が一本とSSが一本、
そして座談会が最後を飾る。最初は引き気味だったリンダだったが、やがて顔を染め目を輝かせて、本に没頭し始めた。

 ここでとある漫画の名言を入れておこう。

 曰く 『ホモの嫌いな女は、いない』、と。

 読み終わったリンダが顔を上げた。先ほどのいぶかしげな影はすっかりナリを潜め、新たな世界を発見した喜びに溢れた目を、ドアの方に向ける。
 そして、しっかとヨーコの手を握った。
「素晴らしいわ、ヨーコ! あたし、バカだった。許してね」
「いいのよ、それよりあなたも参加しない? 私とあなたが手を組めば、きっと数々の芸術の機会に出会えるし…、私達がそう仕向けるコトだってできるわ」
「そうね、芸術を人為的に起こすのも、それを志すものの勤めよ!」
「そうと決まれば、さあ、リンダさん」
「そうね、ヨーコ!」
「まだ終わってない? 大丈夫!!!???」
 その時、慌てた様子でパティが飛び込んできた。カメラとスケッチブックを抱えての登場に、「大丈夫よ、彼ら二回戦に入ったわ」とヨーコが告げると、三人の女達は
にやっと笑った。そして、それっと我先にドアの隙間に顔を突っ込みだした。

 そんな様子を横目に、撮影班に今日の中止を連絡しながら「どいつもこいつも、呑気にしやがって…! こっちの苦労も考えろ!!!!」とまともなことを怒鳴りつけたい
思いでいっぱいのニールアスピノール(後のアップル代表)だった。








         861Hedge-hog's presents
    「こんなゲットバックセッションなら許す!!!」


           どっとはらい。

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最終更新:2009年07月05日 06:45
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