やたらと「成長したい!」と言う人がいます。
そういう人に「成長して、何がやりたいの?」と聞くと、「えっ?」という顔をされたりします。

成長は手段に過ぎません。なのに成長の目的が明確でない人まで「成長したい」と言う。
これは「特に目的はないけど、とりあえずお金を貯めたい」というのに等しい。
死ぬ間際に貯金が最大化されれば幸せなのでしょうか。

成長も同じです。死ぬ際に「すごく成長した自分」が感じられれば満足でしょうか? 
家を買いたいとか旅行に行きたいとか、目的があって初めてお金を貯めるプロセスは意味を持ちます。成長も同じ。
「成長して●●ができるようになりたい」というのがあって初めて、成長することが意味を持つのです。


“インプット”と“アウトプット”のバランス

 ちきりんは常日頃から、“インプット”と“アウトプット”のバランスを意識しています。
例えば人のブログを読むのはインプットで、自分がブログを書いて発信するのはアウトプット。
勉強はインプット、得た知識を使って仕事をするのがアウトプット。野球の練習はインプットで試合がアウトプット。

 人付き合いも同じ。知らない人と新たに知り合い、分かり合って、知人や友人を増やしていくのはインプットで、気の合う友達と飲みに行ったり旅行に行って楽しむのはアウトプットと言えるでしょう。

 ちきりんは、このバランスを意識的にコントロールしています。
「今は、知らない人ともどんどん関わりをもって世界を広げるべき時期」とか「今は、仲のいい友達とまったりのんびり過ごすべき時期」というように。

 これを意識するようになったのは、一度働いてから大学院に行ったからです。
大学を卒業してすぐに大学院に入学するような人だと、「小学校からずっとインプット」なのであまり意識しないでしょう。
でも、一度働いて(=アウトプットの場)から大学院(=インプットの場)に行くと、「このインプットは何のためにするのか?」と強く意識するようになります。そのころから「アウトプット目標がないのに、インプットに時間やお金をかけるのはバカげている」と思うようになりました。

 昔は英語も“とりあえず”勉強していましたが、今は“必要な分だけ”勉強する。
今の仕事や趣味(一人旅)に必要な英語力だけ獲得・維持できればいい。
それ以上のインプットはちきりんにとっては“無駄な”インプットです。


インプットの自己目的化

 昔はみんなこんなにインプットしなかった。というより、できなかった。
インプットは時間もコストもかかる。今は大学院までいく人も多いですが、昔は中卒で働く人も多かった。
インプットの年数が倍になっている。

 もちろん、昔はインプットが足りないからアウトプットにも限界があった。
新技術を知らないと、新商品はできない。で、経済発展に伴って、みんなインプットに力を入れるようになった。

 企業はもともと「工場=製品を作り出すアウトプットの場」でした。そのうち「研究所」という「インプットの場」にもお金をかけるようになった。研究所の意義は、よりよいものを工場でアウトプットするためだった、はず。

 ところが、いつしか「インプットのためにインプットする」人が研究所に集まり始めた。
ずーっと研究(=インプット)している。アウトプットにつながらなくても気にしない。
アウトプット目的のために始めたインプット作業が自己目的化し、「巨額の研究費を投資しているのに、まったく新製品の出ない会社」ができてしまった。そのくせ「研究所で働いている人の方が工場で働いている人よりエライ」みたいな風潮になってくる。

 本来、民間企業の研究は製品につながらなければ意味がありません。インプットだけでは、(自分の満足はあっても)他者にとっては何の価値もありません。


あなたは何ができるの?

 経済の右肩上がり時代は、「アウトプットにつながらないインプットのコスト」も企業は負担できました。
でも、今は「新しい価値」を世に提供できない企業は淘汰されます。

 大事なのはアウトプットです。日本がここまで高度成長したのはアウトプットが多かったからです。
アウトプットなしにインプットし続ける人が増えたら、将来はとても暗い。

 と思っていたら、最近は新しい傾向もある。就職環境が厳しい中で「とりあえず起業する」人も出てきた。
走りながら経営を学ぶ彼らは、MBAで経営を勉強しつつ、起業も経営もしない人よりよほどましです。

 自営業の友人が「成長機会が乏しい」と言っていた。
確かに、自分が先頭に立ってビジネスをやっているとアウトプットに追いまくられ、なかなかインプット時間を確保できない。

 それでも「インプットだけ」より「アウトプットだけ」の方がいい。
インプットだけの人なんて、いてもいなくても世の中は何も変わりません。

 就職や転職の時だって問われるのは「あなたは何が(アウトプット)できるの?」ということです。
それなのに履歴書に輝かしい「学歴」や「資格」を連ねて、「僕はこれだけインプットしました!」とアピールする人がいる。

 何がすごいのか全然分からない。学歴や資格はインプットの記録ですが、問われるのは「(そのインプットで)どんなアウトプットを出せる(出した)の?」という点です。


人間の「生産性」

 分母にインプット、分子にアウトプットをとると、その式で「生産性」が計算できます。この生産性が向上していくことで、より「成長」することができます。これは工場でも経済学でも人間でも同じです。

 よく式を見てください。分母がインプット、分子がアウトプットです。この数値を上げるためには分子のアウトプットを増やす必要があり、分母の数字であるインプットを増やしたら生産性は低下します。

 それじゃあ成長どころか退化してしまいます。「勉強ばかりしていると成長できない」ってことなんです!

最終更新:2009年11月22日 15:47