2010年9月30日 卒論中間報告会
7AHW2108 茅野さやか
指導教員 小貫大輔先生
「弓道の国際社会への発展と展望」
はじめに
近年、柔道をはじめとした武道種目が日本から世界に進出する動きが見られる。弓道もそのひとつであり、世界の弓道人口はおよそ13万人にも及んでいる。弓道という伝統的な日本武術が国際化するにあたり、オリンピック競技への進出などの競技スポーツとしての確立という期待がある。その一方で、国際化することで日本武術という価値観が損なわれるのではないかという危惧がある。弓道は国際化の状況のなかで、どのような道を歩もうとしているのか。このことについて本稿では、今や競技スポーツとして世界のスポーツともなった柔道の発展と問題を挙げ、比較しながらこの課題について考えていきたい。
第1章 弓道の発展と国際化
第1節 日本国内の弓道の発展
弓の歴史は古く、多くの世界で人々に武器として使用されてきた。日本でも石器時代から狩猟を目的に使用されており、その目的に合わせて形も進化してきた。日本の弓は長弓として発達し、そのことは中国の魏志倭人伝にも記されている。織田豊臣時代に入って鉄砲が伝来したことにより、戦具としての弓の時代は去って、弓術として心身鍛練が目的となっていった。江戸時代、幕府の政策により弓術は一度衰退したが、明治時代の半ば、国家主義的思想の高まりから弓道をはじめとする武道が再認識・尊重をされるようになる。
1949年5月22日に全日本弓道連盟が設立される。現在では加盟団体は全国で54団体であり、会員数は135,593名にも及ぶ。男女、年齢を問わず多くの人々に楽しめるスポーツとして人口が多い。
第2節 弓道の世界進出の概観
全日本弓道連盟が設立され、日本の多くの弓道愛好家が世界に赴き、弓道を広めるようになった。そして今日までに世界17カ国で発展を遂げた。2006年5月2日に国際弓道連盟が設立した。この主旨及び目的は、伝統的な日本文化としての弓道を通じて、弓道の最高目標である「真、善、美」を追求し、もって人格の形成を志す弓道人の養成を目的とし、あくまでも競技としての発展が目的ではないことが分かる。
第2章 柔道の国際化と弓道の比較
第1節 柔道の国際化
日本では1949年5月に全日本弓道連盟が結成される。しかしその結成時にはすでに柔道の国際進出の活動が行われていた。柔道の世界進出の第一人者は嘉納冶五郎という人で、彼は1889年から多くの海外渡航をし、その際柔道の普及活動を行った。また、有段者によって全国各地で親睦融和と柔道の普及発展を図る目的で「講道館有段者会」が結成されていき、組織化するという動きは日本国内だけでなく海外にも広まっていった。このような国際的な組織作りが1951年7月の国際柔道連盟発足に繋がった。さらに柔道競技は1964年の東京オリンピックではじめて採用され世界のスポーツとして確立していった。
第2節 柔道国際化の問題
柔道競技が国際化していくなかでカラー柔道衣の問題や国際規定と国内規定の問題等が議論された。カラー柔道衣の問題は東京オリンピック無差別級の優勝者であるアントン・ヘーシンク(オランダ)が競技している2人の人物を見分けやすくする為に提唱した。日本は伝統的に使用されている「白」を支持し反対の立場をとった。これは伝統守ろうとした日本と、柔道は世界のスポーツとしてテレビなどを見る視聴者側の重要性を主張したヨーロッパ連盟の間に起こった論争である。また、試合場、試合方法、観客を意識した得点板、審判員のジェスチャー等、多くの変化があった。観客を意識したスポーツとしての確立が目立つが、その変化が柔道の本質までも変えてしまうことが懸念された。
さらに柔道は日本での組織化と連盟の基盤を固める前に国際組織の設立に踏み込んでいる。
第3節 弓道と柔道の比較
弓道も柔道もスポーツとしての武道の姿が一般的であるが、両方とも段位を有する武術であり、日本の伝統的な文化として技術・技法をはじめとした心身鍛錬を目的としている。
弓道の国際連盟が発足したのはつい最近であるが、国際的なスポーツとして確立する過程を考えるのであれば、柔道がそうであったように、日本の伝統的な武術としての価値観の変化への危惧である。的中主義としての弓道が国際化していくのであれば、人格形成を目的とした最高目標を無視することになり、また世界に限らず現在の日本でも一般的に弓道の認知度が低いことから観客視点の競技になる可能性がある。
一方で弓道と柔道には大きな違いがある。それは対戦相手と手を合わせるか合わせないかというところである。柔道は対戦相手と手を合わせるがゆえに、体格の違いなどが不利となる。その為に日本国内の規定では通用しなくなった。しかし弓道は競技としても対戦相手の条件に関わらず、全ての人が同じ条件で競技をすることができる。であるから国際的なスポーツにする為に規定を変えるという危惧は少ない。
第3章 弓道国際化における日本の対策
第1節 文化としての弓道と競技としての弓道の区別
的中主義を目的としないことを念頭に国際弓道連盟を発足しているが、その事業内容に世界弓道選手権大会の開催及び大会参加の推進が挙げられている。競い合うということは必ず勝敗がきまることであり、そこには少なからず文化としての弓道だけでは成り立たない目的が生じることを考慮しなければならないのではないだろうか。また、このことに対して日本弓道連盟は具体的な対策を考えているのであろうか。
第2節 各国の文化や事情への配慮、理解
国際化において日本伝統の弓道をそのまま伝えることは大切であるが、各国・地域の宗教・信仰や文化の違いを無視してはいけない。競技内容だけでなく道場の出入りや目上の人に対する礼儀をそのまま伝えることは大きな誤解を生みやすい。価値観を守ろうと全てを強要することは大きな障害を生み出す原因となることに注意しなければならない。
おわりに
柔道の国際化と諸問題をみると、同じ武道として弓道も同じ道をたどりかねない。しかし日本国内で組織化する前に、世界での組織化と国際化に急いだ柔道と比較すると弓道の組織化は非常に慎重である。また、全ての人が同じ条件のもとで競技する武道として弓道独自の国際化が展開できる期待がある。
●参考文献
- 友添秀則『現代スポーツ評論 国際化時代の武道を考える』 創文企画、2009年。
- 尾形敬史『競技柔道の国際化 カラー柔道衣までの40年』 不味堂出版、1998年。
- 岡本豊太郎『弓道その魅力』 財団法人 日本武道館、2003年。
- 財団法人 全日本学生弓道連盟ホームページ
最終更新:2010年09月30日 15:42