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再生

再生 ~アカハライモリによる切断実験~



● はじめに


  あなたは『イモリの尻尾が再生する』ということを知っているだろうか。

トカゲの尾が切れても生えてくることは知っているだろう。同じようにイモリの尻尾も生えてくるのだ。しかも再生能力はトカゲ以上。トカゲの再生は見たところ元通りなのだが、実は骨は再生してないのだ。要するにハリボテ。やっつけ仕事。
しかしイモリは違う。なんと骨まで再生するのだ。なんという職人肌。さすが両生類。体の構造が単純なだけある。

こんな感じで私は「いつかイモリの尻尾を切ってやろう」と思っていたのだが、生きている生物を傷付けるのはいかんせん良心が痛む。だから今まではためらってきた。

しかし今回は高校最後の実験と言うことで、そのタブーをぶち壊すことにしたのだ。

● 切断



さて早速イモリの尾を切ってしまおう。嫌な事は先延ばしにしないのがいい人生を送るコツだと思う。用意するのは健康なアカハライモリとハサミ。それだけ。解剖用バサミだとなおよし。聞いた話だと手でも引きちぎれるらしい。良心が痛むからやらないが。

イモリは体長9センチ(尾は4センチ)。いたって普通、中肉中背のイモリだ。何の罪も犯さず生きてきたのだろう。イモリを持ち上げ、かわいそうだと思いながら先から3センチほどのところに刃をあてる。一気に切ってしまおうと手に力をこめた。
サクッといくと思った私は甘かった。イモリの尻尾は以外にもハサミに耐えたのだ。トカゲは元々切れるように出来ているが、イモリはそうではなかった。切れることなど予想していないものを切るのだ。簡単にいかないのは当然だろう。

何度かハサミをノコギリのように押したり引いたりしていたら、ブチッと切れた。イモリを机に降ろすと、逃げ出すその切り口からは大量の血が。赤い血が足跡のように机を濡らす。血といっても人間のようなドロドロした血液ではなく、水で薄めたようなサラサラしたものだった。イモリの身体についていた水分と混ざったのだろうか。

● 観察



   イモリと切れた尻尾を観察してみる。

本体からも、切れた尻尾からも、血液が染み出てくる。ゆっくり流れ出てくる感じは、吹き出すというより染み出すという表現のほうがしっくりと来る。トカゲの尻尾は切れてもほとんど血は出ないが、イモリは無理やり切ったので血が出るらしい。さぞ痛かっただろう。

本体のイモリはしばらく机の上を走り回っていたが、やがて落ち着いてきたので、きれいな水が入ったビーカーに入れる。すると体の粘膜が半透明の固まりとなり、はがれていった。頭から尾へ。おそらくストレスで取れたのだろうと思う。

私は原因が分からないことを全てストレスのせいにするのは良くないと思う。人間社会でも、犯罪の原因はすぐ『職場のストレス』だとか、『家庭でのストレス』だと決め付けるが、それは深く考えることからの逃避だと私は考えている。ペットの死因に関しても、よく調べもせずに『ストレスが原因』ときめつけるのは生き物の死を無駄にしていると思う。まあ今回もストレスに頼ってしまったが。

話がそれたので本題に戻ろう。
   切れた尻尾のほうは、表面が乾いていくうちに、だんだんベタベタしていく。海水浴をした後の肌に似ている。恐らく粘膜の成分が水が蒸発したあとに残ったのだろう。
   切り口はきれいだった。さすがは解剖用バサミ。そうこなくっちゃ。切り口を見ると上から骨、筋肉、太い血管と並んでいた。今回の実験とはあまり関係ないが。
そして驚くべきことに、尻尾は体とつながってはいないのにも関わらずウネウネ動いている。初めは筋肉が硬直し始めているのかと思ったが、触るとそれに反応するようにゆっくりと動くので、切った尻尾にはそういう性質があるのだと思う。
   トカゲの尻尾も切れた後に独立して動くらしい。攻撃してきた相手の気を引くのだ。イモリの尻尾も本体を助けるために、動くのだろう。けなげだ。泣ける。

   5分ほどで傷口が止血したので、水槽に移す。水槽は9センチ四方で、水は4センチ入れる。砂を敷き詰め、ウィーロモスという藻を入れて完成。これで飼育環境は大丈夫だろう。本当は他のイモリがいる水槽に入れたかったが、傷口から感染病になるかもしれないので仕方ない。エサをあげると切断のストレスで腹を下してしまう可能性があるらしいので、今日のところはあげないようにする。
   またストレスかよ。

● 再生



ようやく再生の観察にはいる。

と、その前にイモリの再生について少し調べてみた。すると、『完全に再生するのには一年ほどかかる』という記述が。切断したのは6月26日。研究を発表し、引退するのが同じ年の文化祭で9月なかば。ヤバイ、時間がたりねぇ。気づいたときには時すでに遅く、イモリの尻尾はきれいに取れていた。後の祭りだ。こうなったらイモリの再生能力を信じるしかない。負けるなイモリ。頑張れイモリ。

   気を取り直して、観察してみよう。
   切断の2日後、6月28日。ドキドキしながら水槽をのぞく。良かった、生きてる。特に暴れるわけでもなく、いたって普通だ。尻尾が無いこと以外は。尻尾は再生した様子はない。そりゃそうだ。まだ365分の2が過ぎただけなのだから。
   尻尾の切り口に白いカビのようなものがついている。マズイ、化膿しちゃったか?と思ったが実験なので、そのままにしておく。残酷だが。
   エサの糸ミミズはいつもと変わらない様子でパクついた。やっぱりここが楽しい。
   水換えをして、今日はおしまい。

   7月1日。カビが消えた。粘膜だったのかもしれない。良かった良かった。それ以外に変化は無いので今日はエサをやり、水を換え、終わりにする。

   その後も観察を続けたが、大きな変化も無いので省略する。
   なんやかんや言ってるうちに、期末試験が始まり、部活をできなくなる。

   試験も終わり、7月22日。観察を再開すると、いきなり変化が。傷口がふさがっていたのだ。きれいに先端が丸くなっているので、うっかりすると「元々こんなイモリだったんじゃないか」と錯覚してしまう。
もう感染も無いだろうということで、仲間のいる水槽へ返す。早速噛み付き合っているようで、仲がいい。腹が減っているだけというのは考えないようにする。イモリは歯がないので、噛まれても大丈夫。尻尾が無いから泳ぐの大変かな、と思っていたが、なんかスイスイ泳いでいた。自然は偉大だ。

ここで学校は夏休みに入る。部活は一応毎日あるのだが、たまにしか行けないだろう。というか行かないだろう。なぜならメンドクサイから。

● 再生(in夏休み)



夏休みに入った。観察と観察の間にすこしブランクが生まれるので、なかなか詳細なデータが取れないが、頑張る。

見るたびにぐんぐんと尻尾が伸びていく。先っぽの形も丸から、だんだんととがって来た。元の形に戻ってきたようだ。切った箇所には不自然なくぼみがあるものの、生活には支障はなさそうだ。このぶんだと、もうすぐ完全に復活するだろう。奇跡だ。一年かかると言われていたが、3ヶ月ぐらいですみそうだ。これも私の愛情のたまものだろう。とにかくよかった

   そしてこの文章を書いている9月1日現在、切断したイモリは元気に生きている。

尻尾は今3センチ。元々は4センチなので、だいぶ再生した。他のイモリと比べても違和感はない。再生した部分は色が少し濃くなっていて、アカハライモリの特徴である裏の赤い模様はなくなっていた。切った箇所の不自然な切れ込みは治らなかった。

● あとがき



思惑通り、イモリは元気に再生した。
   人並みの感想だが、生命の力強さにはしみじみ感動した。

再生の仕組みは、簡単なことである。
私達人間も、少しの傷なら治るだろう。骨を折ってもくっつくだろう。それと同じことだ。哺乳類である私達は体の構造が複雑なので、足がなくなっても簡単には治らない。しかしイモリなどの両生類は体の構造が比較的簡単だ。だから脳や臓器じゃない限り、細胞が欠乏を修復してくれる。そういうことだ。

さてこれで私の浅野最後の実験は、成功で終えることが出来た。
   これできれいさっぱり引退できる。頑張れ後輩。さようなら。

《 Special thanks 》
放任主義の顧問・絡みづらい先輩・めんどくさい友達・空回りの生徒会長・生意気な後輩
死んでしまった生き物たち・今生きている生き物たち・アクアステージ21・かねだい
このパンフを読んでる皆様・文化祭に来てくれた皆様
                       ありがとうございました


最終更新:2009年03月31日 15:24
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