t03-037 :五章:2009/03/08(日) 09:05:21 ID:oQzZqGHh
*********************

「今日も風邪ため、一日静養なさるとのことです」

サウラの部屋の侍従から伝えられた三日連続の決まり文句に、
セドルは不承不承下がる。
シーフゥの首尾とこれからの打ち合わせをしたかったのだが、いたし方あるまい。
きびすを返し戻ろうとしたところ、アズメイラ王妃と会った。

「浮かない顔をしてどうしたかな」
「サウラさんが風邪を召したそうです。
まだ顔も見れない状態で、こじらせていないか心配です」
「ほう、なるほどな……」

アズメイラは暫し後ろに控える侍女と小声でやりとりする。

「そうか。まあ外の者には寒いだろうからな。
何か見舞いの品でも持っていったらどうだ」

この場で気兼ねもなくごく自然に薦めたが、
何故ここまで仲が良くなったのか本当に不思議だった。
いまだにセドルには謎だったが、別段問題ではないのでそれ以上深く考えない。
シーフゥとは違い、危機感がなければ意外と人は疑問に思わないものである。

「そうですね……そうしたいと思います」
「ふふ、まあ喜ばれる品を持っていくのだな」

そう言うと、セドルは少しはにかむ。
アズメイラも思わずつられそうになるほど、
人を魅了する天性が備わっている表情だった。
正直なところ、これにはかなわない。

「何が良いか、パザン殿にでもご相談にいきます」

セドルは話し始めた時とは正反対に、軽快な足取りで去っていった。

アズメイラは自室に戻って報告書を再読する。
これは以前にセドルがサウラとシーフゥを調査して書き上げた物だ。
パザンとグーリーの報告書もあるが、こちらはシェシングが書いた。
命令したのはアズメイラ自身だが、
内容は忌憚のない私文であり、公式文書ではないため公開されていない。
セドルのものを読めば、一読しただけで苦笑は免れない。
一言で表せば、正義感に満ちあふれた恋文だった。

t03-038 :五章:2009/03/08(日) 09:12:02 ID:oQzZqGHh
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本来なら必要とあらば相手を招く身分のも関わらず、
自ら足を運ぶセドル王子にパザンは敬服してしまう。
故郷では、けっしてありえぬことだ。
恐縮しながらも歓待してシーフゥに茶を出させるが、
セドルは気にすることなく同じテーブルに座る。
やはりありえぬことだった。

「どうされましたか?」
「いや……サウラさんが風邪をひいたらしく、かれこれ三日ほど面会謝絶なんです。
大丈夫でしょうか心配です。見舞いの品でも持っていこうかと思うのですが」
「はあ? 風邪? サウラがそう言っていたのですか」

話の途中で随分驚いた声を上げたことに、セドルの方が驚いた。

「いや、部屋に控えている侍従の話しですけど」
「ふうむ、まあ何と言うか……」

パザンはどう言ったら良いのか悩む。

「彼女が……その、基本的に風邪をひくなど、病気になることはありえませんが」
「うん?」

とりあえず思ったことをそのまま伝えたが、案の定王子は首をかしげる。
理由も示さずこんなことを言えば、まあ当然の反応であると言えた。
パザンは再び、どう説明したら良いのか悩む。

「……あ~、これほど寒い中でも、サウラは着るものを変えませんでしたでしょう」

極寒の地でも露出度の高い服を着たままのサウラは、
ある種の尊敬の念も込めて見られていた。
もしくは頭が暖かいか。

「その、まあ、寒さに強いというか」
「なるほど。ですが病気などすることもあるでしょう」
「あ~、そうなのですが……まあサウラは特殊というか……異常というか」

えらく歯切れの悪い物言いにセドルは吹いてしまった。
サウラが聞いたら怒ることだろう。

「まあですから、その侍従が言うことは嘘ですな。これは間違いありません」
「ですがなぜそのようなことを?」
「確かに解せませんな……。
サウラがすぐ嘘とわかる嘘を言わせてるとは考えにくいですし」
「あ、あの~」

横から給仕をしていたシーフゥが控えめに口を挟んだ。
先ほど気付かなかったが、なぜか髪を三つ編みにしていた。

「どうした」
「遠慮なく、何でも言ってみてよ」

いきなり砕けた表情をセドルが見せる。
身分の違いにも関わらず、王子が言った友人という言葉に嘘偽りは無かった。

t03-039 :五章:2009/03/08(日) 09:15:24 ID:oQzZqGHh
「アズメイラ王妃が一枚噛んでいる、というのは。
どこかに閉じ込めておいて、そのまま口裏を合わせた、とか」

それは両者とも真っ先に考えていたことだった。
シーフゥは別の意味でも一枚噛んでいる気がしたが、
約束どおりそれは伏せた。

「そうだね。サウラさんが微妙な存在なのは間違いないけど……。
晩餐の時の様子を省みても、あれが偽りの仲とは思いにくい。
実は先ほども会ったけど、その時に何か見舞いの品を持っていったらどうかと言ったのは王妃でしたし」
「我々は春には旅立つと暗に陛下へも通達してます。
王妃も知っているはずですし、宮中もサウラとの仲が良いともっぱらの噂です。
わざわざ拉致監禁など、危険なまねをするとは思えませんな」
「それならその~、もっと単純に考えて……」

ものすごく言いにくそうにシーフゥは顔をゆがめる。
こんなことを言うのは恥ずかしい。
なぜなら常日頃、とまでいかなくても、ときどき思ってしまうことだったからだ。
自分の胸のうちを悟られるのは、それが邪まなだけにいたたまれない気分になる。

「……サウラさんを見て、我慢できなくなったとか」
「つまり?」
「え~と……サウラさん普段からすごい色っぽいし、
一人や二人、無理矢理に、って思ってもおかしくないと思うんですよ。
特に僕たちに良い感情を持っていない人には、王妃を抜きにしてもやりかねないかと。
痛い目にあわせると言うか、監禁してそのついでと言うか……。
一番自然な理由の気もするんですが、
何でお二人がそう思わなかったのか不思議でしたけどぉ……」

できれば察して欲しかったとでも言う風に、語尾がフェードアウトした。

基本的にサウラを夜伽へ呼べるのは王だけである。
それ以外の人など何を言うのか、であった。
セドルは一応だが多少無理をすれば可能であるし、
当人はさすがに悪いと思って、劣情を意識の外に払うようにして、それは一応成功している。
パザンは幼少のころのサウラを育てた親代わりであったし、訳あって性的対象には見ていなかった。
もっとも嫌疑派の理由が穢れている、汚らわしい等々なのだから、
サウラに魅力を感じるのはおかしな話なのだが、そこは男が持つ業と言うべきか。
セドルもそこまで読めなかったし、極力自国の者を信用したい、
パザンにしてみれば嫌悪感を持たれている他国人の別腹まで推して量るのは土台無理であった。

二人とも完全に失念していた。
思い余って犯罪に走る可能性は充分に考えられた。

t03-040 :五章:2009/03/08(日) 09:17:51 ID:oQzZqGHh
サウラは非常に目立つ。
もともと髪や肌の色からしても当然だが、
女性ながら成人男性と肩を並べる背丈に長い艶のある髪、
それに誰もが振り向く妖艶な美貌、魅惑のプロポーション。
隠そうと思っても隠せるものではない。
見つからぬようするには一箇所に監禁するか、
そうでなければ必ず多数での協力者が不可欠だ。
あまり考えたくないが、半永久的な搾取、さらには殺害する目的もあるかもしれない。
そうなれば一刻も早く助けなければならず、この前提も崩れてしまうのが気がかりだった。

「いや、それはありませんな」
「そうですか?」
「サウラは自分に害なす者を、
時として手のひらに転がして楽しむほど危険に慣れています。
失礼ながら、平和に慣れ親しんだこの国の人間に扱いきれる者でありません。
さしあたって、命に別状はないものと考えてよいです」

セドルが先の懸念を話したら、パザンはきっぱりと否定した。
その後、身を乗り出して、ここからが本題とでも言う風に両腕を卓の上に広げる。

「いいですか。サウラを監禁するには、サウラの協力が必要です」
「……どういう意味ですか」
「あっ。それ、わかる気がします」

セドルはわからなかったが、シーフゥは理解できたようだ。
後ろでグーリーもうなずいていた。

「簡単に言えば、彼女がその気になれば、捕らえたままでいるのは不可能です。
正直言って私は、サウラのことを殿下が気に病むことはなく、放っておけば良いとも思っています」

サウラをある程度知っていても、その言葉はあまりに薄情に聞こえた。
だからこそシーフゥは可笑しく、おもわず笑ってしまった。
確固たるものはなにもないが、サウラの無事でない姿など想像できなかったからだ。
つまり根拠もなくパザンの意見に諸手を挙げて賛成だった自分に、
まったく違和感がなかったのが可笑しかった。

パザンにしてみれば、飽きたら向こうから出てくるのはわかりきっていた。
むしろここで助けなど入ったら、何で邪魔をしたのかとねちねちと問い詰められることだろう。
そしてその聞き役は己、身体的被害が甥っ子にも及ぶともなれば、このまま好きにさせたらいい。

t03-041 :五章:2009/03/08(日) 09:23:46 ID:oQzZqGHh
「は、はあ? それは私の立場からは、
もし監禁してるものだとすれば、とても許せる行為ではありません。
したがって看過などできようはずがないでしょう」

さて、問題はこの目の前に居る、正義感と義務に縛られている若者だが。
パザンはどう説得するべきか悩んだ。
さっきからずっと似たような悩みを抱えて、次第に厭世的な気分になってきた。
説明が難しい今、どう言っても無理な気がするし、
それにここまで良くしてくれる王子を無碍にするわけにもいかない。
ならば協力して、そして『王子が』発見してくれればいいのだ。
その後のことを考えると少々気が引けるが、きっと良い勉強になってくれるはず。
彼女の恐ろしさを身をもって知る必要がある。

「確かにそうですな。万一のことも考えれば当然の判断です。失礼を」
「いえ、わかってもらえて嬉しいです」

セドルは言いにくそうに両手を組んだ。

「……おそらく王妃は無関係です。
どこから手をつけてよいのやら、見当もつかないのが正直なところ。
とりあえず、協力者と思われる部屋の侍従を問い詰めてみたいですが、
サウラさんの安全の確保を第一に考えると下手に接触はできません。
当面は監視するぐらいしか手がないのかと……」
「シーフゥは?」

パザンは別方からも意見を求めた。
多少罪悪感があったが、セドルの真面目な意見は話半分にしか聞いていなかった。
王宮内はセドルやシーフゥの方が詳しい。
そしてシーフゥの方がサウラに対して圧倒的に理解があるように思えた。
ならばどちらの意見がより正確か。

「う~ん……サウラさん風呂好きですから、絶対に日に一度は入ると思うんですよ。
そこで待ち伏せていたら良いのではないかと」
「監禁されてる可能性が高いのに?」
「監禁されていてもです。サウラさんは常識が通用しませんから」

セドルは少し頭が痛くなりそうだった。
どこかピントがずれて、話がかみ合っていないように思えた。
仲間意識がないのだろうかと、本気で疑いたくなる。
セドルはセドルで、サウラの良い理解者は自分だけなのだと考え始めていた。
ここでちょっとしたアピールなればと、密かに期待していた。

t03-042 :五章:2009/03/08(日) 09:28:31 ID:oQzZqGHh
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前にこの場に来たとき、風邪でもひいたのだろうかと考えたことを思い出す。
だが彼らの習慣では、風呂など入らずに静養するのが普通だそうだった。


サウラは風呂場に来て、ふんだんにあるお湯で背中を流す。
落すのは今日一日の疲れや垢だけではない。
唾液の跡や精液の乾いた膜、もろもろを洗い流していた。
男と触れ合うたびに組織の一つ一つが活性化するよう。
もともと生気に満ちた身体の持ち主だけに、
ひとたび磨きをかければ、以前にも増して輝いていくようだった。

そうして一番おいしいところをいただくのが自分だと、従者は思っていた。
サウラの肩を引き寄せ、顎に手をかける。

「……そこまでだ。罪状は監禁、それに強姦も加えてやろう。
協力者がいるはずだが、首謀者はお前かな」

聞いただけで氷点下に落ちるような声と共に、
ぬらりと刀剣の保護に用いられる油の感触が従者の頬を滑らす。
不思議と生暖かい鋼が、まるで血の通った存在に思えた。

「あら、セドルさまですか」
「そうです。助けに参りました。とりあえず話は後で……」

セドルは激情のあまり声が震えていた。
従者はひっっと怯える。
手も震えて、ぴたぴたと刃が当たっていた。
振り返ることすら儘ならない。怖い。

片や刃を向ける方は怒りのあまり、ここでこの男を切り捨てたい衝動と戦っていた。
自分の中に湧き上がるドス黒い激情、
抑えることができたのは、ひとえに生来の我慢強さと英才教育のおかげだった。

「セドルさま、剣をしまっては。この場では無粋です。
ここは温まるところ、冷えた感情をぶつける場ではありませんわ」
「……私は許せないのです。この男が、貴女を……」

色々な悔しさがあった。
客人を迎える王族の義務を守れなかった、
排他的な差別から解放したかった、
そして慕う人を守れなかった。
サウラは優しげな目でそんな憤りをあらわにするセドルを見た。

「良い方法を一つ教えましょうか。
思う存分仕返しすれば良いのですよ。そうすればどうでもよくなります」
「は、はあ?」

非常に理に適っている気もするが、なにか間違っていることを言った。
サウラは濡れた身体にもかかわらず、セドルに寄り添う。

「えっ? あっ、いや、サウラさ……」

振り払おうとする手をかいくぐり、相手の衣服を脱がしていくのは巧みな技にも思えた。
もっとも剣を持ったままなので、セドル自身が迂闊に手出しできない。

t03-043 :五章:2009/03/08(日) 09:34:31 ID:oQzZqGHh
「さあ、今度は」
「だ、だから……あっ、まて!」

従者が逃げたが、出口で待ち構えていたグーリーによって簡単につかまった。

「グーリー、そこで押えていて。顔をこちらに向けてね」

グーリーは無言でうなずく。
命令に忠実かつ丁寧に羽交い絞めにして、絡み合う二人へと顔を固定させた。
これまた巧みな技に見えた。
満足げにサウラはサウラで事を進める。

「んん……ちゅ」
「ふぁあ、でんかぁ……私嬉しいですわ」

サウラは鼻にかかった甘ったるい声でセドルに頬ずりする。

「私を心配して、助けてくれて、あんなに怒ってくれるなんて、女冥利につきますわ」
「も、勿論ですよ!」

まさに我が意を得たりの気分に浸るセドルだったが、
そこから先が一足飛びしすぎてはいまいかと思う。

「私、色々な人に汚されたんです」
「くっ、やはり!」
「ですから殿下の愛を今」
「えっと……いや、その」

そっと下半身、当然勃起している箇所へと手を伸ばす。
湯上りの色気とも言うべき、女の武器が最大限発揮される場面。
だがセドルは意味もなく我慢強かった。

「わ、かりましたから、離れましょう」
「……殿下は汚れた私に興味など持つわけありませんのね」
「まさか! とんでもありません!!
サウラさんはとても美しく清らかですよ!!!」

これまでの所業を知っても同じ台詞がはけるか大いに疑問だが、
非常に力強い断固たる口調だった。

「でしたら……この場で抱いてくださいませ……。
あの者がいる前で、私を奪い取って欲しいです」
「う……んく」

思わず息を飲み込む。
双方とも膝が崩れ落ちるが、どちらからなったのかわからない。
お互いの同意の上でなったかもしれない。
セドルが上になり、サウラを組み敷いていた。

サウラは自ら手を添えて、そっと膣口を広げる。
お湯とは違う熱い分泌液で潤ませながら、ひくひくと蠢くのは男を待ち受ける悦び。
そんな誘惑に抗えるはずもなく、
セドルはいきり立つ肉棒を取り出し、徐々に挿入していった。
あるべきところに、あるべきものが納まる。
奥までぶつかり、そこをこつんと狙撃をする。

t03-044 :五章:2009/03/08(日) 09:36:28 ID:oQzZqGHh
「ア、ああァ……殿下の逞しくてステキ。うん……」

蕩けた表情に可愛らしさに顔を近づけてキスをした。
手のひらで膨らむ乳首を転がして愛撫しながら、舌を吸い上げて唾液の甘さを味わう。
結合部は膣奥まで入れたまま、小刻みに子宮口との睦み合いを繰り返した。
蠕動をいざなう女性器の愛撫だけでうっかり射精しかねなかった。
一番弱い先端が溶けそうなまま、根元までその感覚が広がっていく。
セドルは久しぶりに見るサウラの裸体へと視線を落とす。

「はあ、はあぁ」

やつらが犯罪に手を染めるのもわかる気がする。
これだと自分もかわらない。
ごくりと唾を飲む。

「憲兵の見地から聞きたい、あの侍従以外に誰がいたんだ」
「はうん、こんな状況でずるいですわ……。そんなの言わせないでください」

いけないとわかりつつも、口にするのを止められなかった。
組み敷いて結合し、お互い逃れられないからこそ聞きたい。
危険な香りがする、その期間に起きた秘められた出来事。
その釜の蓋を開けたい衝動。
単に怖いもの見たさだけではない。
サウラが言った、思う存分仕返しすれば良い、という台詞が頭にこびり付いていた。

「ん……あぁ、殿下。これではサウラは生殺しですわ。もっと激しく……」

そしてその対象を、目の前の女性にぶつけたい。
これは誰よりも優位に立ってる彼女への仕返しだろうか。
嫌がることをしたい子供じみた、だが大人ならではの愉悦が全身を包む。

「だから、ちゃんと言ってくれないと話が先に進まないよね」
「やっ……あ……」

乳首をくにりと摘んで曲げたり伸ばしたりした。
サウラはぴくぴくと震え、
口を開け、声にならないままぱくぱくと金魚のように息継ぎをする。
どうしてこうも嗜虐心をかき立てるのだろうか。
肉襞がもの欲しそうに蜜を絡めてくるのにも、切ない涙を連想させた。

「どうしても言わない気? それならさ」

セドルは抜けそうなぎりぎりまで腰を引いていくのに、
サウラは離すまいと抱き寄せる。

「ああん、言います。言いますから……抜いちゃダメぇ」
「ふうん。誰だったの、サウラを犯したのは」
「はあはあ……ヤハオ公爵に、カートージュ審判官、それに――」

あがるはあがる名前の羅列、
貴族、行政官、小間使いから神官まで多種多様。
たった三日間ほどで、よくもまあこの数かと。
実質休息など無かったであろうに。

「はは……それにこんなに気持ちよかったら、きっと一回だけじゃ終わらないんだろ!」
「やっ、そ、れ激しい!」

t03-045 :五章:2009/03/08(日) 09:41:50 ID:oQzZqGHh
突然激しい律動を始めた刺激で、焦らされた分サウラは身悶えた。
男のそれが女の急所を責める、繰り返された動きであってもやはり格別であった。
単に相手の位や貴意ではない、特別な理由。
それが自分を求めて止まない感情と重なるとき、誰よりも格別だった。

「質問に答えないつもり? なら」
「止めちゃダメ……」

悲しそうにかぶり振るサウラの仕草にどきりとする。
健気で可愛らしく、そしていじめたい。

「はうん……そうですわ。皆3回も4回も出さないと……んぁあ、気が、すまないです。
オマンコの中にたっぷりと出した後も、入れたまま抜かないで硬いまままた犯すんです、はあ、はあ」

喋りながら徐々に強くなる突き上げに、サウラは途切れ途切れに喘いだ。
片膝を抱えられ、より深い結合のもと、鼠けい部を打ち付けあう。
穏やかな充足感と駆けぬける刺激が、膣奥に亀頭を押し込まれる度に震えた。
疼きの根源を貫かれる牝の嬌声が一層肉柱を逞しくする。
動きが小刻みに早くなると、血流がわかるほど脈動した。

「はあはあ、もう……来て。一番奥まで熱いのください!!」
「うくぅぅ! はあっ、はあっ、ふん!!」

女の聖域を今度は粘液が貫き、
侵攻と占領とともに欲情の炎を燃え上がらせる。
何ものにも縛られず膣内射精をする解放感と自分のものとする支配欲、
この時のために精巣で熟成された遺伝子が架け橋を走りぬけて直接胎内へと注ぐ。
サウラは強烈な牡の迸りにぷるぷると仰け反った。
甘んじて受ける容赦のない生殖の契りは、激流となって脳天まで突き抜ける。

「はああぁ……熱い子種がいっぱい……。勢い良く飛び跳ねてますわ。
こんな、こんなに……もうサウラは殿下なしでは耐えられなくなりそうです」

猛り狂う波動が最奥を求める腰の動きと重なる。
つま先まで身体をこわばらせ、最後の一滴まで搾り取ろうと淫肉も締め付けを増していた。
生々しい音をたてて熱く潤む粘膜へと精液を受け入れ、牝の本能が悦びにわななく。
それでも両者は衰えることを知らない。

「そうだよ……。耐えられなくしてあげる。
だから安心して言ってごらん。どんなことされたのか」
「お尻の穴でも犯されました。
何人も、何人もいますから……
それだけでは足りませんから……口や手、おっぱいでも出しましたわ。
皆、濃厚で熱い精液を注ぎますのよ」
「もしかして嬉しかったんじゃないの?
色んな人から犯されて……輪姦されて」

自ら胸を抱いて、赤面しながら頷いた。
奥底に潜む淫らな性をカミングアウトする恥じらい。
可愛らしくもある仕草に、汚らわしいその肯定。
外見からうかがい知れぬほど、底知れぬ漆黒の感情が噴き上げて心を染める。

「でももうそんなことは許さないよ……。
だってサウラはもう私意外では耐えられない身体にしてあげるから……」

いまだ彼女の中にある肉柱がうなりを上げて奮い立つ。
一番悪いのは彼女なのだ。だから彼女へと報復する。
何か間違っているが、非常に理に適っている気もした。

t03-046 :五章:2009/03/08(日) 09:44:07 ID:oQzZqGHh
「あっ、あっ、はあぁぁ」
「ほら、淫乱なサウラのここを満足させてあげるよ」

セドルは首筋に舌を這わせながら、結合部に秘める肉芽へと指を添えて愛撫した。

「んふぅ、ああぁ……そうです、そこ、そこ! らっぁぁめ!!
んひぃ、はああ! お、狂ってしまいそうです」」

感度の良いクリトリスへの責めと合わせて、乳房に吸い付く。
口いっぱいに含んで舌で蕾を愛でれば、膣壁の淫らな蠕動へつながる。
それだけでもはや隆々と勃起して、先端が先に出した精液溜まりへと届いた。
もっとここの小部屋へ注ぐ、その決意は金剛石より硬い。

「気を確かにして。サウラが誰のものかって、はっきり知ってもらわないとね」

サウラの足首を掴んで、床まで押さえつける。
自然と浮き上がる腰に合わせて、勢いよく怒張を打ち付けた。
生殖器を伝い脳髄まで響く快感に、サウラの身体が震え、口角を飛ばしながら咆哮する。
官能的かつ支配欲を満たす眺めは加虐心をそそる。

「さ、今サウラのアソコはどんな状態?」
「は、はいぃぃ、殿下の硬いチンポが、サウラのオマンコに出たり入ったりしてますの。
お、奥ぅ~、そこに当たっちゃって、そのたびにお腹もおっぱいも頭までキュンキュンしちゃいますぅ
殿下がサウラを自分のものにしようって、あんあんああぁ~! オチンチンで支配してきます。
ああぁん、肉奴隷へと調教されちゃってますですぅ!」
「でもこれだけじゃ満足しないだろ」

サウラは抱きついて、豊満な胸をこれでもかと押し付けてくる。
擦れる乳首の感触がこそばゆい。

「そ・う・で・す・わ。殿下、んふ。オチンチン奥まで入れたまま、グリグリってしてください」

言うまでもなく望みをかなえる。
亀頭を膣奥まで押し付け、恥骨を擦り合わせてグラインドした。
奥底に潜む性感帯を刺激され、押さえつけた女体がビクンビクンと跳ねる。
締め付けだってすごい。このままでもいけそうだった。

「あふん、うぅん、はあぁあああ!
そ、そこにもっとくださらなければ、満足できませんの」
「もっと……言って」
「いやん、いやいや……。殿下の白くて熱くて濃いザーメンですわ。
我慢できなくてぱくぱく開いちゃってる子宮に、殿下の高貴な子種でお仕置きしてください」
「お仕置きだなんてそんな。可愛がってあげるだけだよ」
「ああぁ! はあっはあ……ん、ひゃあ!
そんな、嬉しいです。はあはあ、か、可愛がって……可愛がってください!!
熱い子種で、あん、サウラの奥まで全部! 全部、愛を刻んでください!!」

ぐちゅんぐちゅんと粘液質な淫らな音をたてて、腰を動かす。
あまりの激しさにザーメンと愛液が飛び散って、下にいるサウラの顔にも掛かった。
肉襞が射精させようと、ひたすらに怒張をしごきあげる。
そんな中でもセドルは精神まで犯し、心まで刻み込むがごとく肉の楔を打ち込む。

t03-047 :五章:2009/03/08(日) 09:46:58 ID:oQzZqGHh
「すごいのぉ……サウラがセドルさまのものだって身体で教えてますぅ……
はあああぁ! んひぃ、あ、ああ、イい!
そんなに激しく愛されては……サウラはもうセドルさまの虜です!!」
「もうすぐ、はあっはああ! イクよ……サウラの中に出す!!」

高い密度の精液が肉竿を走る快楽、それがサウラの中へ隅々まで行き渡る満足感。
男根によって子作りの用意をされた器、そこへ直通に注ぎ込む。
サウラは熱い迸りを感じ、絶頂の高みへと昇る。
仰け反りながら身体を密着させて抱きしめ、子種をせがめば、
射ぬかんとばかりに勢いよく飛び出し、欲望に煮えたぎる肉炉へと満たしていく。

「うん……ああぁああん!! で、出てますわ。感じる!
セドルさまの愛が子宮の中に広がって、はあっはああぁ!!
だ、ダメれすよぉ、そんな射精しながら、あんっ!」
「もっと……もっと!」
「んあアっ! 激しい……もっとくるぅ。やっんん、イ、いく!!」

脈動のタイミングに合わせ脊髄反射で腰が動く。
卵子まで直撃するような容赦ない種付け。
貫かれた下腹部に潜む疼きが、別の高みへと昇華していく。
性器と同調する脳裡に潜む本能から快楽物質があふれ出し、
精神から肉体まで全てを一色に染めた。

「あっ……んぁ……すごい、熱い……。
激しくて、中にどくんどくんて脈打ってますわ」

鮮烈なのはセックスの肉体的快楽だけではない。
普段からは考えられない苛烈な欲求が、全て自分に向けられていること。
サウラにはこれが堪らなく愛しく、嬉しく、心地よい。
牡の凝縮された命の源が胎内を駆け巡る中、
高揚する心が止むことのない絶頂へと漂う。

「はあっはあっはあぁぁ……」
「うふふ、セドルさま。サウラは幸せいっぱいです。
次はベッドの上でも……」

ぎゅっとセドルを抱きしめるが、求愛行動より捕食行為に近い気がした。
ここでようやく本能が警報を鳴らす。
とても良い、良すぎて身が持たない。
経験の浅さがあだとなり、少々及び腰になるのも無理はなかった。

「えっ、えっと~。そうだ、グーリーさん」
「グーリー、王子の書状もって北区へそいつを連れて行きなさい。
書状なら上着の裏側に入っているわ」
「えっ!?」

何で言わんとするところがわかったのか。
本当は少し違って、一緒に連行しようと思ったのだが、
グーリーは外見に似合わずすばやい行動で出て行った。

「我々も行きましょう。王子の部屋? それとも私の部屋かしら。
うふふ、でも宮殿内といえば、それ専用の部屋があってもおかしくありませんわ。
きっと色々怪しげな道具がそろってたりして……。
私、覚悟はできてますの。セドルさまなら何をされても、喜んで受け入れますわ」
「あは……あはは」

覚悟を決めたのはセドルの方だった。

t03-048 :五章:2009/03/08(日) 09:50:48 ID:oQzZqGHh
********************

グーリーは浴室から男を連行しながら、同情はまったくしなかったが不思議に思う。
どうして凡庸を絵に描いたような男なのに、サウラのような業の持ち主に接近しようとするのか。
彼女をものにしようと身の程を知らぬその願い、結果など火を見るより明らかだというのに。

案内のとおり、番の役人にセドル王子の書状を渡した。
書状のサインと印を確認し、一応男の話を聞いて牢に入れられる。
ちなみに役人は皆、馬鹿だなあという顔をしていた。
グーリーも同感だった。
外見はとかく人を惑わすが、少々賢ければ惑わす時点で一考する。
しかもサウラはその妖しさを隠すことなく発散している。

さて、セドル王子はどうなるか。
サウラに関わって身持ちを崩した人間を幾度となく見てきたが、
意外に悪くないような気がした。
財産を投げ出すタイプ、身体を壊すタイプ、精神が危うくなるタイプ、
どこか不幸になるタイプ、そもそもサウラに嫌われるタイプ、
色々あるがどれも当てはまらない。
まともなわりにサウラを盲信しすぎてか、惑わされても笑って受け入れる。
前に感じた大物さ、これが大器の片鱗ならば面白いことになるかもしれない。

t03-049 :五章:2009/03/08(日) 09:52:40 ID:oQzZqGHh
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会議室に王と王妃、審判査問官、書記等々の責任者が並ぶ。
セドル王子によって呼び集められたが、
いくつかの席が空白だったり代理補佐だったりした。

空けて一週間後、セドルはサウラに手を出した者を懲戒に処し、
今その事後報告を王に伝えていた。
冷静に淡々と、誰をどのように処断するべきか逐一述べるさまは圧巻である。

シェシングの協力があってこそ、ここまでスムーズに事は運べた。
親方気質で慕われ、影響力の強さでは随一。
軍部としての組織は形骸化しても、
併せ持っている警察機構は必要不可欠であり切磋琢磨されたもの。
パザンたちの対する親近感や義憤、それがセドル王子の肝いりも重なり奮迅せざるをえない。

「と言う訳でして、不届き者は全て逮捕しておきました」
「そ、そうか。大儀であった」
「後の審議は審判院の手にまかせます。
総括しますと、今回の一件は滅多にない賓客来訪者への対応のまずさもあったと思います。
今後このようなことがないよう、制度対策を考えていく必要があるでしょう。
つきましては当分の間、サウラ・ガリィを私の管理下に置きたいと思いますが」
「うっ! そ、それは……」

チュルハン王は息を飲む。
口調こそ淡々としたものだが、これは完全にサウラの身元委譲を迫っていた。
いつも見知った息子でありながら、今日は一回りも大きく見える。
有無を言わさぬ威圧感があったが、そう簡単に手放せるものではない。
あの身体を知った者は例外などない反応だ。
この世の快楽をしゃぶりつくしても、まだ見えぬ先がすぐそこにあるようなもの。

t03-050 :五章:2009/03/08(日) 09:54:12 ID:oQzZqGHh
だが簡単に突っぱねることはできない。理がどちらにあるか明白だった。
もしサウラが公式に王の愛妾の地位にあれば、
仮にも絶対権力者から奪い取ることになりこの理が正しく働かない。
処分を行うのも王の名の下で行うことになり、
今回のように王子の独断で進めるのは不可能だった。
賓客という等しく中立で、人格を持たない国が身元を預かるという状況だからこそ、
公的には、奪い取る、というのは成立せず、
国の名誉のために、という王に頼らない大義名分が振るえた。

「ふふ、セドルの意見はもっともだと思いますわ」

実に晴れ晴れしい笑顔でアズメイラ王妃はそう進言した。
調査の一環でセドルにサウラの部屋を探らせてから、ようやくここまで辿り着いた達成感。
まさかここまで上手く行くとは思っても見なかった。

「客人への安全を考えましたらとても良い措置かと。
今回の王子の果敢な処断を見れば、おいそれと手を出す輩も失せましょう」

利害の一致があるのは当然だが、
意外と理解があっただけに共闘は実に簡単だった。
ここでサウラを王から引き離すことは、願ったりである。

「サ、サウラは……」

そこでチュルハン王は息を飲んだ。
セドルとアズメイラが同時ににっこり微笑む姿は、黙らすには充分だった。
そのまま口をぱくぱくさせていると出てくる言葉は
「そちの……ヨイヨウニ」であった。

こうして円満? に解決されたこの事件は、世間に出ることはなかった。
そして、これでもって神罰嫌疑派は壊滅した。
身から出た錆である。

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t03-051 :六章:2009/03/08(日) 09:59:54 ID:oQzZqGHh
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パザンにすればオーナーの首がすげかえられただけであるし、
そもそも良くしてくれるセドル王子ならなおさら問題はなかった。
だがこの先の未来までは考えない。
たとえサウラに骨の髄まで吸い取られようが、
まあそれはそれで一言物申すだけである。
けして冷たいわけではなく、経験上聞き入れてもらえない虚しさと、
サウラの小言とさり気ない嫌がらせが身にしみていたからだった。

そう考えていたが、長い冬が終わろうとしても、
王子は多少やつれたかもしれないが許容範囲内だった。
聞けばサウラの方がさり気に調整しているそうで、
伽をする相手を気遣う、これは異常事態であり、天変地異の前触れだとすら感じた。

t03-053 :六章:2009/03/08(日) 10:03:08 ID:oQzZqGHh
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サウラは宮殿内を平気で闊歩する。
悲劇のヒロインというよりは歩く災厄として認識されたようで、すれ違う皆は一様に礼をした。
人があまり立ち寄らない奥へと行くと、一角にある熔炉からの廃熱を利用した温室に入った。
中は普段お目にかかることのない変わった草花が栽培されている。
厳しい自然と貧しい食生活のためだろうか、
薬草や香草が中心で、花はあまりなく殺風景だ。
群生するアロエを眺めつつ、人を待った。

「待たせましたかな」
「いえ。暇つぶしには丁度よいところで。なんとお呼びしたらよろしいかしら」
「そのままユーリンとお呼びください」

温室に入ってきた男はサウラに挨拶をした。
男は前にサウラを形の上で助けたことになっている神官だった。
先の処分において、サウラは名前を出さなかったからだ。
サウラを犯した神官を追い払ったのは事実で、その後は密室の上のため二人以外証人はいない。

「まさか素直に来るとは思ってませんでしたよ。
見たところ、誰も連れていませんようで。
まあ今更貴女に手を出す人はいませんでしょうがな」
「神官さまは違うようで?」
「当然ですよ。しかし何故私を助けたのですか。
これでは勘違いするのも、無理はないでしょう」
「ふふ、勘違いだなんて」

神官はサウラを抱き寄せた。
だが扇で口元を隠して接吻を拒絶される。

「ですがもう遅いですわ。私はすでに身も心もセドルさまのものですの」

こうもきっぱりと断言されると、えてして逆効果になるものだ。

「くっ……。ふ、ですが私とサウラ殿があそこで何をしていたか、殿下に報告してもよろしいのですよ」
「あら、そんなことをなされば、あなたも身の破滅では?」
「大した問題ではありません。殿下は貴女を知らなさ過ぎる。
だが私なら表も、裏も全て知り尽くしている。
果たして真実を知った殿下が、貴女を許すことが出来ますかな……」

熱くなる口調に合わせて、サウラは扇いで風を送った。

t03-054 :六章:2009/03/08(日) 10:07:14 ID:oQzZqGHh
「ふふ、許してもらおうだなんて……少々そそられる言葉ですわ。
私は殿下に嫉妬してもらえるのも、罰せられるのも好きですのよ。
ああぁ、奴隷みたいに首輪をさせられて、一晩中調教される私……。
その苛烈な責めに耐え切れず、許しを請う私……。
想像するだけでステキですわぁ~」
「あっ?」

ユーリンを尻目に、ひとり陶酔するサウラだった。
内股でくねくねと身を捩じらす。

「はあぁ、早速行きましょう」
「えっ?」
「殿下のところへですわ。善は急げとも。
明日は久々の……伽の日! 願ってもない状況ですの」
「い、いやその……」

手を引っ張られて、はたから見れば二人逃避行の図だった。
行き先は王子の執務室。
振りほどこうにも、勢いと意外に力強い握力によって出来なかった。
とうとう体当たりをするように、部屋へと転げ入った。

「セドルさま、お邪魔します」
「えっ!?」

突然の闖入者にセドルが驚くのも無理はない。
おまけにサウラだけでなく、息を切らした神官の姿もあったからだ。

「ふふ、少々お時間もらいます。この者の話を聞いてやってくださいな」
「は、はあ、まあ。……皆、悪いけど、いったん席を外してくれるかな」

セドルの机の前に並んでいた者が苦笑しつつ部屋から出て行く。
こうしてたまに仕事の邪魔をするのが定番と化していた。

「何かな。ええっと、ユーリン神官長補佐でよろしかったでしたか」
「その通りです。この度は突然ではありますが、直訴にまいりました。
このサウラを! 即刻、宮殿から叩き出すべきです!!」
「あれれ?」

いきなり別のことを言われたサウラだった。

t03-055 :六章:2009/03/08(日) 10:13:04 ID:oQzZqGHh
「私は先に処罰された一連の者共のように、
肌の色云々でサウラが穢れた存在だなどど戯言は申しません。
ですが、悪しき性根と淫らな身体で持って、
セドル王子をたぶらかそうとしているのは明々白々であります。
これを見過ごすことは、神に仕える身として許せません!
王宮内に悪しき風土が蔓延する前に、即刻叩き出すべきです!!」

訴えの間、サウラはむすっと不機嫌な顔で腕組みをしていた。
黙って聞いていたのは内容がどうこう言う前に、
思った展開にならないのが不満だったためだった。

「話はよくわかりました」
「わかってもらえましたか。それでは」
「ですが、漂流し保護した者を追い出すなどもってのほかです」

毅然とした言いように、神官の方が一歩気おされる。

「で、ですが王子の下でなくとも」
「確かにそうですが、保護する制度も施設もありません。
地位も確立してないため、極論すれば彼らに何をしても罪に問えないのです。
くだんの事件もそういった影響もあったと思います。
ならば私が率先して保護するのが一番でしょう」
「それならば教会でも……」

ユーリンは言った後、しまったという顔をした。
セドルが優しく微笑むから、後悔の度合いは増していく。

「ようやく本音がでましたね。
私が追放したらまっさきに保護するくせに、と言っては言葉が過ぎるかもしれませんが。
……確かにサウラさんは悪しき者でしょう。
多くの人を惑わし、今もこうしてあなたをたぶらかす。
ですがその悪いところが、たまらなく魅力的でもある証左で、表裏一体のもの。
私はそんな悪いサウラさんをそのまま受け入れたいと思います。
それに今ではこう思います。悪くないサウラさんは、サウラさんではなく、
良いサウラさんなどおそらく魅力が半減するでしょう。
私も将来一国を束ねる者として、清濁あわせ呑むことも必要だと思っています」
「で、殿下~」

のぼせた表情でサウラが小躍りする。
しまいには抱きついてキスをねだった。
普通の感性なら微妙に貶されている気もするところだが。

「あ、あの。政務が控えてますから、ね」
「はう~、残念です。けど予定通り明日、お待ちしてますわ殿下」
「うん。その……すごく楽しみにしてるから」

小声で囁くのを聞いて、サウラは仕方なしに離れる。
セドルにしてみれば、何故今日ではないのか疑問だった。
自分の技量にも自信を持てるようになり、そろそろ一日二日置きだって良いくらいだった。
ペースとして、まあこれはこれで悪い気はしないので充分我慢はできるのだが。

t03-056 :六章:2009/03/08(日) 10:16:25 ID:oQzZqGHh
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翌日、セドルは書類にサインを終えて、控えている者に手渡す。

「よし、午前は終わった!!」

午前最後の業務を終え書記官が去っていくと、突然大声をあげた。
自分の所為もあるが、先回の綱紀粛正兼大処分によって、
一時的に空いたポストの一部を代任することとなり、大変に忙しかった。
明日は休日だが、それよりも何よりも、今日はサウラと触れ合える日であった。
それはどれほど待ち遠しいか、そろそろ二十歳を迎える男性には一日千秋と言っても過言ではない。
机の上の書類もそのままに、早足に昼食へと向かった。

サウラを手中にした当初、少々怖気ついた所為かもあり、
こちらから奉仕を要求するのは気がひけていた。
そのまま自然と、たまにサウラから指定のある日のみ許されるという、
地位から見れば明らかに逆転した関係が成り立っていたのだった。

王族高官専用の食堂に入ると、先にアズメイラが座っていた。
向こうが手招きをしたので、セドルは対面席に着く。
すると書類を手渡された。

「午後からの案件だ。頭に入れておけ」
「……ああなるほど」

概要は炭鉱採掘労働者への待遇改善の要望だった。
熔炉に必須なため、基幹産業の更に基盤となるデリケートな問題だった。
こういった陳述を聞くのは、国の慈悲の象徴たる王妃の役目であるが、
単純に女性の方が話しやすい意味もある。
それを官僚と話し合い、王ともども裁可を仰ぐわけだ。

書類の中身は担当者から出された去年の消費量と生産量。
人員と一日の産出を割り出し、どの程度休暇との兼ね合いが成り立つか計算してある。
生産が追いつかなければ、ほぼ全ての高炉がストップする。
そうなると、パザンの言葉を借りれば飢えと寒さが待っている。
どうしても余裕を持って見積もりたいのが本音だった。
読み進めながら、貯蓄量と熔鉱炉担当からも技術改善等々、
別方面からのアプローチが出来ないか考えた。

「はい、殿下。お召し上がりください」
「ん……置いてください」

書類にかかりきりのセドルは、そのまま読み続ける。
だが頭上から伸びてきた手によって、書類を奪い取られてしまった。

「えっ」
「殿下、熱いうちにどうぞ。
それにお昼くらいゆっくりなさらないとダメですわ」

振り向くとサウラがメイド姿で給仕していた。
実用性重視のシンプルなものだが、似合わないことこの上ない。
肌の露出がない格好など見慣れた身には奇妙極まりなく、
不健全な塊が健全な格好をする胡散臭さが凄まじい。
セドルはぽかんと呆気に取られたまま固まっていた。
もしかしたら昨日の神官との問答を気にして、彼女なりに真面目な格好をしてみたのだろうか。

t03-057 :六章:2009/03/08(日) 10:23:16 ID:oQzZqGHh
「ふふ、似合いますか?」
「えっ、に、あうよ」

いけないと思っても、言いよどんでしまった。
サウラの顔がはっきりと引きつる。
もしかしたら受け狙いかと思ったが、やはり違っていたらしい。
微妙に気まずい空気が両者の間に流れた。

「……ごゆっくり」
「う、うん」

サウラはきびきびとした動作で厨房へと戻っていった。

「はあ~」
「サウラとは上手くいってないのか。
まあ出立の時期が近く色々あるのはわかるが、しっかりしてくれよ」
「わかってますよ」
「私からも言っておくよ。
ふふ、今日は遅れても構わんぞ。
だいたい結論が出ないのはわかりきっているからな」

なにやら意味深な事を言ってアズメイラは出て行った。
残されたのはセドル一人だけで、とりあえずは食事に取り掛かることにした。
パンにチーズ、野菜と肉のスープ、ヨーグルトと腹に詰め込んでいく。
食生活に関しては、庶民とそれ程変わらない。
食べ終わったあたりにサウラが見はかって食器を下げた。

「殿下、デザートはどうかしら」
「お願いします」

今度は自然に言えたことに安堵する。
気にしすぎかもしれないが、下世話な話、今日は出来る日なのだ。
自分が王太子という身分も忘れて、ただ彼女の機嫌を損ねたくない一心であった。

突然顔を両手で固定され、サウラの顔が近づく。
親指が口角を押さえ、強引に舌を引き出すように啄ばまれた。

「ん、ん~~!!」
「んちゅ、じゅるる……あぁん、はあはあ」
「ぅうん……サ、サウラ? んん!」

サウラは戸惑うセドルを無視してもう一度口付けをした。
貪るように唾液を絡めとり、歯茎を舐め回す。
二人の間から零れ落ちたものが服を濡らした。

「デ、デザートってもしかして」
「ご名答です! たっぷり召し上がってください」
「いや……それちょっと違う」

止める間もなく股の間にもぐりこみ、取り出した男根に舌を這わせた。
熱い吐息が股間をくすぐる。
たかだか一週間ぶりくらいだが、その気持ちよさは折り紙つき。
亀頭から唇で丹念にしごかれ、付け根の袋を揉まれるたびに天を仰ぐ。
食べてるのは間違いなくサウラの方だった。

「ずっ…ん、ちゅる、んっぅん」
「ダ、ダメだよ。誰か来たらまずい」

t03-058 :六章:2009/03/08(日) 10:29:46 ID:oQzZqGHh
だがサウラが止めるはずもなく、さらには何人か食堂へと入ってきた。
セドルはとっさにクロスを引っ張り寄せ、椅子を前に出して下半身を隠す。
目にも留まらぬ早技だった。

「これはセドルさま。昨日の議案はまとまりましたか」
「ど、どうも……。昨日の件は……明日もう一度叩き台を練るそうです」

王子に一礼して食卓に付くものだから、無理矢理普段どおりの表情をして返事をした。
音や匂いまでは誤魔化せないが、離れた席に座ってくれたのが幸いだった。
何気なしに書類を眺めつつ食後のお茶を味わう振りをする。
下で隠れながら、サウラは舐め、しゃぶりながら下半身の様子だけでうかがえる興奮の度合いを高めていく。
特に陰嚢を念入りに舐め、この中で濃厚なミルクを製造していると思うと愛しくほお擦りまでした。
このまま貫かれ、膣奥まで抉って何発も子宮を射抜いて欲しい。

「うぅ……ん。サウラ?」

そう思うと口での愛撫を緩やかにしていく。
セドルにとっては拷問以外の何ものでもない、生殺し状態だった。
もどかしさのあまり、腰を浮かしそうになる。

「はあっ、はあっ。これはこれで、ツライ」
「殿下、どうされましたか」

近くに来ていた別のメイドに気付かず、荒い息をしていた。
見ればリリアベス、王妃付きの女性衛士もまた微妙に似合わないメイド姿だった。
(ああつまり、これってアズメイラ王妃のはからい……)
符丁がぴったりと合い、朦朧とする頭の中でそう考えた。

「い、いや、なんでもないから」
「そうですか? お茶のお代わりでも」
「うん。いただくよ。そういえば君ってサウラとも仲良かったかな」
「いえ、お目にかかったことはあるだけですわ。
代わりにと言ってはなんですが、シーフゥさまとは仲良くさせてもらってます」

この意味の無い会話が憎らしい。
ただ時間だけが早く過ぎるよう願った。
食器の音が遠く響く中、ひたすら耐える。
ようやく皆が出払い、誰もいなくなったところでサウラは表に出る。

「ふふ、殿下~」
「そ、その、もう行かないと遅れるから」
「殿下も私も、きっとそれほど時間はかかりませんわ。
それにこのままにして、午後から集中できまして?」

さすがに難しいのか、セドルは俯いたまま動かない。
肯定の意と受けとめたサウラは淫らな笑みを浮かべた。

「ささ、メインディッシュです」

デザートではなかったのかと、愚にもつかないことが頭によぎった。
サウラの表情を見るまでもなく、完全に出来上がっている状態で、
自らスカートの裾を上げた。
そこはすでに内腿に垂れるほど蜜に濡れていた。

「もしかして、自分で準備していた?」
「うふふ、違いますわ。
殿下のものをお口で味わっているうちにこうなりましたの。
強引に入れられて、何回も中出しするのを想像すると濡れて来るんです」

t03-059 :六章:2009/03/08(日) 10:33:03 ID:oQzZqGHh
実際そうなるだろうと思うと、セドルは赤面した。
だがひとつだけ違う点がある。

「強引になんてしないよ」
「あら、そうですか。
うふふ、もし私がこの場でお断りしたら、どうなさるおつもりで」

サウラは悪魔の笑みで、嬉々としながら話した。
ここでレイプされるのも一興だった。
むしろ望むところ。

「我慢するさ。だって私は……サウラをけがした奴らとは違う」
「で、殿下……。そんな殺し文句、サウラは幸せいっぱいですぅ~」

思いがけない台詞にサウラは舞い上がり、
全身からハートマークが出そうなほどの勢いだった。
胸からアソコまできゅんきゅんと切なく、一刻も早く慰めて欲しい。
給仕の邪魔にならないよう結っていた髪を解き、風に舞うように首を振るった。
はっとするほど華麗で美しい仕草だ。

「はあぁ、これではサウラの方が我慢できません。
殿下の美味しそうなコ・レ・いただきます」
「ちょっ、ま、待って。本当に遅れるから」

器用のスカートの端を口にくわえ、手で怒張を押えて秘唇に導いた。
少しずつ飲み込まれていく淫らな光景が終わると、次は波状する快楽の営みが始まる。
向かい合いながら、サウラが腰を上げては下ろし、
隘路に男性器を納めながら愛液で潤していく。

「はうぅ、ごめんなさい。サウラが……サウラが無理矢理殿下を犯してますぅ……。
それなのに、ん、はあはあ……いつもより大きくなってませんか」
「あっっ、くあぁ!」

すでに焦らされ続けただけに、怒張は今にも爆発しそうなほど硬く大きくなっていた。
その瞬間を想像しながら、膣の奥まで感じるままにサウラは自由奔放に動く。
亀頭が膣に擦れて伸ばされ、収縮しては締め付ける繰り返し。
ひとつひとつを余すところなく感じて、性行為を執行した。

「はあぁっ! くぅ、本当にもうダメだから。で、出るよ」
「あっ、うんん……イいですわぁ、サウラの中に……いつでも来てください。
ずうっと我慢して溜めてきた、濃厚な子種を感じさせて欲しいですわ」

もう我慢ならず、セドルも腰を突き上げる。
この芸術品ともよべそうな身体を独占し、深奥まで蹂躙する牡の優越感が我を忘れさせた。
だがサウラも負けじと腰を捻ったり、奥まで咥え込んで尻を振る。
肉襞が引っ張られるほどに、ぴったりと吸い付いたままするものだから堪らない。
快楽に結合部が蕩けて境目が曖昧になるほど混じりあう。
激しくなる責め、自重をかけて剛直に貫かれる悦びに仰け反った。

t03-060 :六章:2009/03/08(日) 10:39:32 ID:oQzZqGHh
「ああぁん! 深いわ、深ぁいところまで届いてるん!」
「ふうっ、ん……気持ちいいよ。すごくイイ!」
「くっ、くださぁい。あァん、イッパイに、あぅ……広がるほど白いので染めて!
溶けそうなほど中に熱いのください」

両手で尻を押さえ、猛然と怒張を送り込んだ。
服で隠されてる分、淫らに蠢く肉の感触が鮮明だった。
淫肉に翻弄されながらも、忠実に男としての役割を果たす。
子宮口まで穿つ剛直に、今度はサウラが我を忘れる。

「あぁああ、出すよ!
はあはあ、テーブル下でいじられた分まで、お返しするから!!」
「アん! このままサウラに濃厚な子種を恵んでくださいませ!」

セドルは尻を掴む手を強めた。
先走りと愛液に濡れた肉壷に、一際粘る白濁の子種汁が飛んだ。
子宮を総なめするような、延々と続く生殖の印を付ける。
サウラも閨中に注がれる熱い精液に嬉々としながらも、このままで終わらせるつもりはなかった。
腰を捻っては下ろし、淫唇で射精し続ける男根をしごきあげる。
慈悲も休息も与えぬサウラの責めに、睾丸から吸い取られる快感が背筋を駆け抜けた。

「んあ、はあっ、中で飛び跳ねてますぅ……。
まだぁ……まだオチンチンの先からびゅくびゅくいって暴れてますわ」
「はあはあ、ごめん。ちょっとこのままで……」
「ちゅ……ん、にゅちゅぅ」

上に乗ったまま、口付けをした。
肉槍は突き刺さったまま、輸精管から送られる精子を子壺へと注ぐ。
付け根から伝わる、痛いような心地良さが放出する快感に代わる瞬間。
これを女芯に包まれながら行うということが幸せだった。
セドルは自分でもどれだけ出すのか、段々と恥ずかしくなってきた。
ようやく終わると、意外にもサウラは素直に解放してくれた。

「ご、ごめん。また後でね」
「ふふ、あやまらなくてもよろしいですわ。
サウラには、殿下が苦労されていることをよく理解しています」

これまた意外な台詞だったが、
うわべだけではない確かな重みが口調に含まれていた。

t03-061 :六章:2009/03/08(日) 10:41:44 ID:oQzZqGHh
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セドルは歩いて会議場に向かう。
もう今更走っても意味は無い。
扉の前に来るといささか緊張したが、ためらわずノックをした。

「もし、遅れてすみません」

反応が返ってこない。
不審に思いつつ扉を開けると、まだ王妃と数人の官僚だけだった。

「まだ大丈夫ですが」
「えっ? はあ……」

どうもしっくりとこない返事だった。
時間帯を間違えたかと時計を見ると、違和感の原因がわかった。

「あれ? あの時計、おかしくないですか」
「いえ、なにがですか」
「遅れているように思えますが」
「うん? 特に問題ないようですが……」

皆も同じ意見らしく、釈然としないながらも席に付く。

「どうした、早かったな。ふふ、それでサウラは満足していたか。
もっとゆっくりしても構わないと言ったであろうに。
念を押しておくが、この言葉に他意はないぞ」
「だ、大丈夫です……。まだ今日はありますし……」

アズメイラが周りに聞こえぬよう小声で伝えたが、
更に小声で呟くセドルだった。

t03-062 :六章:2009/03/08(日) 10:46:31 ID:oQzZqGHh
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その晩は、一足早く夏が来たような熱さが一室に広がる。
情事などと呼ぶには生ぬるい、
健康的な美女と若者が絡み合う、壮絶な営みが絶え間なく続いていた。

先ほどサウラに口内射精を終えた男根を、サウラが口で奉仕する。
幾度となく絶頂にいかされた一物を愛しげにほお張り、
再び立ち上がらせんと満遍なく舌でなぶる。
若々しいさに溢れた男根には活力が漲っていた。

「んん、じゅ、ちゅるる……んく」
「ああぁ……もう、大丈夫だから」
「んはあ、あらすごいですわ。
ふふ、本当はお妃をもらい、子作りに励むものですのに。
でもよろしいですわ。サウラでたっぷりと予行練習を……」

セドルはしゃがんで目線を合わせ、抱きしめてながら唇をなぶる。
自分の後処理をしたのも構わず舌を絡ませた。

「んはぁ、れ、ちゅるぅ。はあぁ」
「練習とはちがうさ。これは本番」
「はあ、はあ……それは」

答えるよりも早く、サウラを押し倒すようにして片足を担ぎ、結合した。
脈動の音が聞こえそうなほど、密着する部分が震える。

「ああん! ダメれすの……サウラは娼婦なのに殿下との愛を育んでます」
「ダメじゃない。それに育むのは愛だけかな」

最奥まで挿入したまま、その先を捻るように刺激する。

「はん! もしかしてサウラを、アあぁ!! ほ、本当に私が殿下の御子を……?」
「帰るなんて寂しいことを言わないで、ここで一緒に居て欲しい」

さすがに何を示唆しているか気付く。
百戦錬磨を誇るサウラも、うぶに頬を赤らめた。
ここまで言われて、嬉しくないはずがない。
膣内へ男根が挿入されるたび、身体と一緒に心が蕩けていきそうだった。

「ふア! 本当は……殿下のお慰めをするだけでも、
んあ、はあぁ……恐れ多いですのに、そんなのダメですわ。
……サウラは何人もの男に汚されていますの」

横臥のままサウラの背後に回ってかぶりつくように交合する。
肩に手をかけ、太腿を持ち上げながら剛直が秘所を貫いた。
下半身からの衝撃を逃すことなく一身に受ける官能の責めに、喘ぐ意外には抵抗の手はない。
セドルは髪に顔をうずめ、頬擦りする。

「そんなことはもう関係ない。サウラは綺麗だよ。
もうどれくらいこうしてきたと思ってるの。隅々まで知ってるつもりだけど」
「はっ……はあァン! そ、ソコ……弱いのに」

弱くて甘い、そんな箇所を肉棒によって丁寧に擦られると、
他愛もなく肉体は屈し蜜があふれ出す。
そうかと思ったら、今度は唸りを上げて子宮口まで突いてくる。
サウラは背後に腕をまわし、顔を寄せてキスをする。
胸肉を両手に揉まれ、休むことなく律動は続いたままの接吻は格別だった。

t03-063 :六章:2009/03/08(日) 10:52:46 ID:oQzZqGHh
「んちゅ、はん! 淫乱な娼婦のサウラが……殿下の御子を孕む……。
ああん!! ら、らめぇれす。許されませんのに、身体が言うことを聞いてくれませんわ……。
で、でも本当にダメぇ! 身体を売る汚れた女ですの。はあ、はあ……。
この国だけではなく、他のところでもサウラは肉奴隷ですわ。
代わる代わる男に抱かれ、犯されて、そのくせ嫌がりもしないで喜ぶ売女……。
ひゃん! だからダメですのに」
「全然ダメな理由になってない。サウラは本当に綺麗だよ」

本当に綺麗だから他に言いようがない。
そのくせこんな子供じみた嫌々を言われても可愛いだけだ。
今まで何度励んできたか、日数はそれほどでもなくとも、
回数に直せば数えるのも馬鹿らしい。

「んああ! でもでも、ダメです。
サウラは……金さえあれば誰にでも股を開く淫売ですのよ」
「じゃあ一生分のお金を払うよ。これでサウラの身体は私のもの。
さっ、後は問題なのは心だけ……サウラはどう思ってるのかな」

否とは言わせない。そんな感情のこもった熱い怒張に、
サウラは自分から脚を抱え上げて、心底犯されることを望んだ。
優しい言葉とは裏腹な、荒れ狂う男根が柔襞を蹂躙する。
まるで性器から火薬が弾けるような快感が脳髄まで走り、
制御の利かない身体が心というたがねをはじき飛ばす。

「サ、サウラはぁ……殿下をお慕いしておりますぅぅ!!」
「それじゃあまた、中に出すよ。いいね」
「ハイ!! ください! 中に濃い子種を注いでくださいませ!」
「サウラ……サウラと私の赤ちゃんがここにね」

サウラの贅肉のない引き締まった下腹部をなでる。
熱い身体とは違う暖かい手が胎内まで浸透するようで、
より鋭敏になる女の肉体が貫く剛直をはっきりと感じた。
目はあらぬ方向へ定まり、舌を出して歓喜に叫ぶ。

「ひん! やあぁ……許されません。
けど……ああん! ココに注ぐ殿下の赤ちゃんの元を想像するだけで震えますわ」
「欲しいって言ってくれないかな。そうしたらもっと頑張れるから」
「はぅ……」

耳元で囁かれると、混濁する思考がある一点で結ばれた。
内なる声が求めろと叫ぶ。

「お願い……欲しいですぅ……。
卑しいサウラの子宮に殿下の高貴な子種が欲しいです!!
孕むの……んんア! はあはあ、殿下の御子をサウラにくださいませ!!」

頑張れるという言葉に期待する身体が口を動かす。
抗えぬ喜びの爆発が灼熱の肉欲を伴って加速し、メーターの指針を完全に振り切っていた。
もうどうにも止まらない。

t03-065 :六章:2009/03/08(日) 11:02:44 ID:oQzZqGHh
「うんいいよ。絶対受精するくらい……いくよ!!」
「はうぅ! 卑怯ですの。わ、罠ですわ。
やっ! はあはあ、でもぉ……本当に欲しいです。
イいよぉ……出して、たくさん出してぇ!! で、殿下との愛の結晶をみごもりますの~!!
オチンチン奥、おくまで入れて、ア、中出し! してして!!」

肉と肉の打ちつける音が高くなり、言葉にならない喘ぎと絶叫が響いた。
射精へと誘う性器の抵抗が不規則に強くなり、
昂ぶりが最高潮に達したとき動きを止めた。
愛欲にみなぎる怒張から熱き精液が迸る。
子宮口から押し寄せる大量の牡汁が駆け巡り、卵子への邂逅を目指す。
ぐりぐりと深奥を押されながら、反応する膣がせがむように蠕動して精を吸い上げた。

「くぅァっ!! すごいよ……サウラのアソコ、びくびくして射精が終わらない!」
「あんあアん! こ、こんな、ありえませんわ……。
何度も何度も濃いのを注いでるのが、はっきりとわかるくらいにすごいの!
はあはあぁ……、ふあ……雄々しいですわ……。
子種を植えつけようと、隅々まで行き渡ってくるようですの」

中に注がれる熱い波動を感じながら、サウラの身体が震える。
身も心もさらけ出して果てる心地よい敗北感が、
受精という更なる隷属の烙印によって焼き尽くされる。
繰り返される膣内射精に胸は高鳴り、乳首は痛いほど張り詰めていた。

「あふん! アん……はあぁん! もうダメれすの……。
このまま……サウラが孕むまで犯してください。
子種汁で子宮をどろどろの、濃いので染めて!」

豊かな乳房を揉みしだきながら腰を打ち付ける。
余韻を楽しみながら、うなじから形の良い耳まで舐めて甘噛みをした。

「おっ、オチンポ硬いまま……そんなに動かれたらまた溶けるぅ!!
はうっん! すごくてぇ……べた惚れのオマンコが感じすぎてイキますの」
「もう……どこまでも」

今度は前面にまわり、快楽に喘ぐ表情を見ながら律動する。
至福の境地に漂うサウラの美貌だけでも勃起は止まりそうもなかった。
媚粘膜によって包み込まれるような圧迫感に、
揺れ動く円錐状の豊かな乳が牡を魅了して余計に奮い立つ。
挿入のたびに量を増す愛液に、匂い立つ発情した女の体臭が混ざり壮絶なまでに部屋内を淫らに染める。
肌に触れればどこもかしこも瑞々しく柔らかく張りがあり、性交の躍動感が全身に満ちていた。
最奥に何度も亀頭を叩きつけながら、いよいよストロークをさらに長く、早くしていく。
股間の奥で凝縮された生の源が沸きあがるのを感じながら、それを押し進める準備を着々と重ねていった。

サウラは硬く膨張する膣内の肉剛直に陶酔したまま、無意識に本能が快楽と牡器官を貪り喰らう。
膣襞がねっとりと蜜を絡ませて収縮し、牡の種付けの一助と共に性感を分かち合う悦び。
猶予のない切迫感が下腹部に渦巻きながらも、
子宮口との官能の接吻が先走り汁を滴らせながら余すところなく応えた。
フィナーレを飾る生殖へのデモンストレーションを繰り返しながら、
こうしている間もサウラはすでに幾度となく達し、卑猥な音をたて双方の体液がシーツを濡らしていく。

t03-066 :六章:2009/03/08(日) 11:05:53 ID:oQzZqGHh
「イ、いいです! 奥までいっぱい感じて……イクの止まらないの!! 
殿下ので、はぁあん! サウラのオマンコぐちゅぐちゅでイきっぱなしですぅ!!」
「はあ、はあっ! もうすぐだからね」
「んん!! はい、嬉しいです……。
絶対に受精するくらいに注いでください、でんかの御子を宿しますのぉ!!
あア、想像だけでまたぁ!! はあはあ、くうんっステキ、ステキですわ!!
いいのぉ、中に出して……ぶちまけて、孕ませてください!!」
「ぐぅぅっ……はあああぁぁあああ!!」

ひと突きごとに濃縮され、白濁とした精液が子宮口を乱打する。
脈打つたびに感じる射精圧に、受精を待つように下がった子壷が悦びにわななく。
肉の割れ目をこじ開けられ、身体の芯を高密度の粘液が何度も貫き、
襲いかかる甘美な交配の時に容易く絶頂に果てた。

「ひゃアアん!! 殿下、殿下ァァ!! 愛情たっぷり精液が……た、たくさん。
一番奥までっ、今届いてる!
妊娠したがってるところに直接子種を浴びてますぅぅ!!
ら、らめェなの、イってる子宮に種付け!
熱いのが……はあン、溢れちゃうくらいたくさん……しあわせですわぁ……」

最奥まで穿ち、鈴口を押し付けゼロ距離からの精の射出。
嬌声を上げるサウラに対して、容赦なく胎内へと押し寄せるザーメン。
妊娠への頂を目指す至高の癒しに、疼く肉体は新たな段階へと昇る。
そこには肌の色も関係なしに、境目なく交じり合い、喜びを謳歌する二人だった。

t03-067 :六章:2009/03/08(日) 11:08:43 ID:oQzZqGHh
精根尽き果てたセドルは、しばらく抱き合ったままサウラの頭をなでる。

「明日もいいかな。本当のことを言えば……毎日でもしたいよ」
「……それはアズメイラ王妃の思うつぼですわ」

セドルは意味がわからないらしく、怪訝な顔をする。

「まだ未婚の殿下が異国の娼婦にかまけるのは、やはり皆良くは思いません。
国民の信用を失ない、王妃に子が授かれば、世論が傾く可能性が少ないながらもあります。
私という存在を奪ったことで、陛下の信を損ねてしまい現実味が増してきました。
ティーサさまがご存命である内はまだしも、この先は予断を許さぬ状況になりましょう」

両者によって暖められた部屋の気温とは対照的に、背筋が冷えるような感触を味わった。
王妃にかけられた遅れても構わない、ゆっくりしていけという言葉が頭の中で反響する。
他意はないとは、どういう意味で言ったのか。
以前なら他意があったとでも、
サウラが去る時が近いからもう好きにすればいいということだったのか。
あの笑顔の裏はそんな策動が含まれていたのかと思うとぞっとした。
同時にシーフゥ、パザンに言われたサウラ像の不思議な輪郭がはっきりした瞬間だった。
侮ってはいけないこと、狡猾、油断ならないこと、
大胆な行動や言動も、現状を把握した分析の上で成り立ってるとすれば恐ろしいかぎり。

「サウラは……もしかして私の立場を気遣ってくれたのか?」
「殿下の働きかけに、サウラは本当に感謝してますわ」

微妙に真意をはぐらかす答えだったが、
セドルはこれ以上問い詰める気分にはなれなかった。

「そんな。当然のことをしてるだけだよ」
「……殿下は当然でも、皆が当然とは限りません。
ふふ、次にお礼として、少々変わった趣向をご用意いたしますわ。
楽しみにしていてください」
「う、うん」

そう応えるのが精一杯だった。
やもすれば、身の破滅も、今こうして何事もなく睦み合えるのも、
全ては彼女の掌の内にあったということだろうか。
パザンが言っていたとおり、確かにサウラの怖さを知ったセドルだった。

t03-068 :六章:2009/03/08(日) 11:15:28 ID:oQzZqGHh
********************

今のサウラの格好は、昔懐かしい砂漠を渡り行商した頃に着ていた物だ。
勿論本物は海の底にあるので、今の衣装は特注で作らせた。
両手両足に細い金属の輪を幾重にも付けて、動くたびにシャラシャラと音が鳴った。

「これはまた懐かしい格好だな」
「明日から出発する準備しなきゃならないだろうし、今日が最後だろうからね。
これくらいはサービスサービス」

本当にサウラの言うとおりであった。
帰る船は用意してくれて気前良く寄贈、黄金はサウラの給金にプラスお土産付き。
ここまでしてくれると、返って申し訳ない気分になる。
サウラは当然だという顔をしていたが。

今だに純なシーフゥは、サウラの格好を見ただけで赤面した。
踊り子姿だが、その目的は言わずもかなであった。
下半身は腰から前後に布が垂れているだけでむっちりとした尻肉もはみだし、
胸元を見れば細い鎖の間から楽々と谷間がのぞけ、
縛り付けるものはなくただ腕を通して肩掛けのように纏う代物だ。
淫猥な肢体から視線を振り払い、
手元に持っている笛に集中して、練習した旋律をイメージして精神統一した。


セドルは招かれたサウラの格好を見て複雑な気分になる。
明らかに特別を装ってるだけに、別れの一幕を連想した。
本当は留まって欲しかったのだが、最後まで彼らは一同にそれを辞していた。

「今宵もご機嫌麗しく。最後に我らから……」

パザンが代表し一礼して弦を鳴らす。
グーリーは大小の手鼓でリズムをとり、シーフゥが笛を奏でる。
異国風のメロディが流れる中、誂えた高台の上でサウラは踊った。

暖炉の火と月明かりが差す中、幻想的でどこか原始的な光景だった。
リズムに手足をくねらせ、全身を使い躍動させる。
優雅さよりも野性的に、芸術よりも娯楽を目的としているが、
目を奪われるのはどちらも同じ。
太鼓に合わせてシャラシャラとした金属音がサウラの手足から鳴る。
爪先立ちに旋回すると、浮き上がる布地の下に思わず注視してしまった。
明かりが少なく、よく見えないところがいやに扇情的だった。

t03-069 :六章:2009/03/08(日) 11:18:29 ID:oQzZqGHh
セドルは手拍子をしながら
この踊りだけは皆で楽しむべきだったかもしれないと少し後悔した。
それも野外で焚き火を囲み、これは今の季節では不可能だが、
もしくは町の酒場で野卑た歓声と共に。
肉感的でエロチックな性の躍動を観賞するには猥雑な熱気に包まれた雰囲気こそ相応しいが、
いかんせん宮殿内では個室内で鑑賞するのがせいぜいで、それがどうも寂しかった。

リズムが早くなり、踊りも激しくなっていく。
いつの間にか胸元の鎖が外れたのか、
舞うたびに上向きの美乳も上下に顔を覗かせて観衆に誘いかけた。
以前なら恥ずかしさのあまり目を背けたかもしれない。
だがそれは返って失礼なものと今なら思う。
いやらしさ、淫らさをしっかりと受け止め、
こういう世界があることを知るのもひとつの成長なのだろう。
いささか大げさだがそう考えた。

世界という言葉に思いをはせ、
彼らを留めるなど愚の骨頂だったのかもしれないと感じた。
この宮殿は勿論のこと、国自体が鳥かごのようなものだ。
そこに魅力を見出しても、虚しいだけなのだと思った。
太陽とは内に秘める情熱ではなく、外から照らすのが彼らにとって当然なのだ。
太陽の下でこそ、彼女を見るべきなのだろう。
結論が出たあたりに丁度音楽も終わり、
踊りを終えたサウラは格好に似合わず神妙に頭を下げた。

「今まで本当にありがとうございました。ここでお別れですわ」
「えっ!? 見送りくらいするよ」
「それはいけません。私と殿下、これは民の前で馴れ馴れしく見せる訳にはいきません。
出立の際、私は事前に船に乗って顔を出すことはありませんから、ここでお別れになります」
「で、でも! ん……」

王子は立ち上がって抗議しようとしたが、中断を余儀なくされた。

「はむ……ん、ん……ちゅ。
ふふ、私と殿下、住む世界が違います。
あなたは将来を担う王子、私は永遠に放浪する娼婦です。
普通の人にとってはひと時の薬になることが出来ても、あなたにとっては毒にもなります」

いつの間にか高台から降りたサウラがキスをする。
真直ぐと射抜くような瞳に、セドルは何も言えず直立するだけだった。

t03-070 :六章:2009/03/08(日) 11:20:38 ID:oQzZqGHh
「私は蔑まれるべき者。疎まれるべき存在。
けれど……とても嬉しかったです、あなたが私を悪魔だと思わない、
そして迫害することを言語道断とまで、そう言ってくれたことが。
信じてもらえませんでしょうが、
……私の半身は……真実忌み嫌われる悪魔……それも死神のような強大なもの。
だけどもう片方は慈悲深い、それは女神とも呼ばれるものなのです。
ですがこの神の奇跡を呼びながら、冥府とも契約できること、
それは聖邪双方から迫害されるには充分な理由でした。
そういった境遇の所為かもしれませんが、私は次第に人に憧れました。
世の中には善い人もいれば悪い人もいて、一緒に暮らしている。
そして一人の人の中にも、善悪双方があること、
普段気付かないことでしょうが、これはとても素晴らしいことなのです。
勿論負の面も大いにあります。
地位や名誉、金、女を求めるあまり人を傷つけ、
安全を確保し安息に浸り、安寧へと進む中、安楽の果てに堕落し、腐敗する……。
ですが飽くなき探求、果てのない研鑽、未知への開拓、
人は欲求を動力として突き進みます。
欲求には善悪を内包しており、超越した先にあればこそ実現するもの。
人にしか持てない、強い強い欲望があればこそなせる業。
そう、私には悪の面があればこそ、人はここまで繁栄をできたのだと思います。
私自身がお互いの半身を憎み、引き裂かれそうな中、
人の世に交わり、偉人や傑物、英雄、悪漢と言われる人物を見て、いつしかようやく一つ悟りました。
陰と陽、これを律すること、それはどちらも飲み込む器を作ることです。
双方を戦わせるのでもなく、天秤にかけるのでもなく、一方が押さえつけるのでもなく、
自然に泳がせ、内なる声に耳を傾け、全てを受け入れること。
稀代の人物は皆、大器を持ち、自身は無論のこと他人の欲望すらも飲み込んでいるように思えました。
神は愛を授けることはできても、欲望はまた別の話。
悪魔は自身の欲のみを追求し、他人まで省みません。
これは人のみが可能な、偉大な心です。
このことを悟った時、私は進んで人の身に……と望みました。
しかし私は力が強すぎました。
だがそれでも人の身へと、『強い欲望』を持ったとき、一つの壁は突破されました。
やがて少しずつ、少しずつ、気の遠くなるような時間、転生と封印を繰り返してきました。
本当に運命とは皮肉なもの、まさかここで封印が解けそうになるとは思いませんでしたよ。
閉鎖的な土地柄が幸いしたのでしょう、
古来王族は神の血を引いてるからこそと、と言われております。
その血脈の所為でしょう。懐かしい感触、交わるたびに封印が軋むようでしたわ。
それに閨の中ではなかなか激しい……ふふ。いつ弾け飛ぶのかと冷や汗をかくほど」

t03-071 :六章:2009/03/08(日) 11:24:13 ID:oQzZqGHh
懐かしむような含み笑いを漏らした後、次第に愁眉になるサウラは普段とは違う美が備わっていた。
憂いの含んだ陰のある魅力も、惜しむらくは今のセドルには意識に止めることが出来なかった。
身体の奥底から引き摺り下ろされるような、深い眠気が全身を襲っていた。
膝が崩れ落ちるのをサウラが抱きかかえ、椅子へと座らせる。

「……残念ですがここでお別れです。
私を手に入れるとき、あなたは悪の面を持って行動したと思います。
ですがそれは弱さだけではありません。
心してください、それは強くなったとも言えるのを。
覚えていてください、あなたが人を統べる際には、その汚れた強さも必要になるはずです。
すみません、前振りが長かったですね。
それでは私からのささやかな最初で……最後のプレゼントです」

サウラは自分の胸元に両手をあて、それをゆっくりと前に差し出す。
包みを解くように両手を広げ、そこに出現した光の粒子を頭上高く掲げ散開させた。
さながら月の欠片を舞い散らせたような淡い光が、徐々に強烈な太陽の日差しへと変わっていく。

シーフゥはひどく非現実的な光景を目の当たりにして、
先の独白はけして嘘ではなかったのかと理解していく。

パザンも実際にその力を見るのは初めてだった。
十年近くを共に行動し幾多の危険を乗り越えてきたときにも、
いくつか不可思議なできごとはあった。
しかしそれは身体的なこと、
例えば病気にならない、寒さ暑さはどうとでもなる、毒はうけつけない、
そういったことで、今回のような超常的なことではなかった。

********************

サウラと最初に会ったのは、まだ10にならないかの浮浪児だった。
孤児院を渡り歩き、ふらふらと当てのない旅をしていたらしい。
薄汚れた顔にも光る美貌、意外な知性を見出したとき、孤児院と交渉して引き取る事にした。
金をちらつかせると進んで差し出してきた。
曰く、まるでどこからの御使いみたいで。子供なのに大人みたいで気味が悪い。
始めは合点いかなかったが、顔を拭き身なりをきれいにして見れば、
すぐに言わんとするところがわかった。
後で聞いた話だが、サウラはわざと身なりを汚くしていたらしい。

パザンは当初の予定通り、そのまま知り合いの娼館へとサウラを売り払うことにした。
向こうはなかなかの高値をつけ、将来性の高さに喜んでいた。
そして後々、サウラも喜んでいく。人の世と交わるに、これほど最適なところはない。
今のサウラの性格の大部分は、ここで育まれていくことになる。
その後、順調に成長し客を取るようになると、
その輝く美貌と才気から一躍人気の娼婦となっていった。
18の頃、それは暗転する。
サウラが子供の頃から目をかけ可愛がってくれた先輩が、酔った客からしたたかに暴行を受けた
そこまでならまだ、客がたたき出されてお終いなのだが、その客がお忍びできたさる高貴な人物だった。
逆恨みをしたその男は手勢を連れて娼館から何人かの女をまとめて浚い、酷い残虐な仕打ちを行ったらしい。

t03-072 :六章:2009/03/08(日) 11:26:06 ID:oQzZqGHh
********************

光の粒子が拡散して部屋を満たすと、一気に暗転した。
今度は一面闇に包まれる。
すでにセドルは意識を手放していた。
その中で、まだ子供の頃の夢を見る。
まだ多少なりとも元気で、明るい母の姿。

別の部屋でティーサは意識を取り戻した。
まぶたの下で緑が広がる。
そこで一人の人物が座っていた。
見たことのない褐色の肌に黒い髪、
一目して、前に会話した死神さんだと気付いた。
その不吉さとは無縁な美しく柔和な笑顔を向け、お隣はいかがと招く。
ティーサは慣れ親しんだ友人のように、そっと隣へ座った。
春の日差し、少し強いが暖かい風、それらは生命の息吹を感じさせる。
失ったはずの視覚が備わってる自分にも違和感はなかった。

*********************

仕打ちを行った『らしい』、とは実際に行った当事者があの世へと去り、
被害者もその傷は跡形もなく完治していたからだ。
だがサウラは違った。
全身血にまみれ、けれど傷一つない姿を晒し、現場に立っていた。
館主が有力者と一緒に談判に行ったとき全ては終わり、
呆然と立つサウラと、周りで怯える女たちを発見した。
そして隣室では文字通り肉塊と化した人間が数人分あった。
物理的に不可能であっても、だれが行ったか瞭然たる事実。
皮肉にもそれを裏付けたのは、完治した自分たちの外傷であった。
証言によれば、事切れていた人すら息を吹き返したらしい。

畏敬とあからさまな謙譲、だが奥に潜む恐怖の眼差し、
特に良くしてくれた先輩からそういう特別扱いをされたのは悲しかった。
いたたまれなくなったサウラは館を出ることにし、そしてパザンが引き取ることになった。
引き取る際に館主から話は聞いていたが、そのときは半信半疑どころか一信九疑。
一緒に商いと旅を繰り返す中、サウラは娼婦として培った能力を発揮し
秘密を引き出す話術、便利な諜報、
進んで親善の手向けに自らを差し出し、有利な条件を引き出したこともあった。
特に貴重な情報に対する嗅覚はパザンすら及ばない。
やがて普通の人間ではありえない事実がいくつか出てくるとき、
次第に館主の言葉を信じていくようになる。
猛毒を持つヘビに咬まれ、現地のガイドが慌てる中、
平然とヘビを引き裂くサウラの姿を見れば信じざるを得ない。
だが今に至るまで、ここまであからさまに超常的な力の発露はなかった。
独白から察するに、迫害、差別を恐れてるためか。

t03-073 :六章:2009/03/08(日) 11:28:16 ID:oQzZqGHh
********************

座ったまま遠く雪を冠した山脈を眺める。
この冬を越せたのは、ひとえに春を迎えればひょっとして、
などと欲があったからなのかもしれない。
ティーサは自分でも可笑しくなる。
いまさら何を望むのかと。

「良いお顔をなさってますよ」
「私が? そう見えますか」
「そうです。楽しそう」
「確かに、仰るとおりです」

ティーサは静かに頷いた。
春の息吹を全身で感じることなど、もう出来ないと思っていた。
たとえこれが夢幻の中だとしても、感謝せざるを得ない。

「さ、春になりました。あなたの心の中に花は咲きましたか?」
「いえ、とても」
「それはどうして?」
「初めてお目にかかったとき、仰ったと思いますが、
生き延びることが出来たとしても、息子の成長した姿が見れないのは……」
「ふふ、息子さんはとても立派になられました。
将来国を背負う才覚、気概、人情、どれをとっても不足はないでしょう。
う~ん、でも女性を見る目は、今ひとつのような気もしますが」
「あら。それはいけませんねえ。私がしっかりしなければ」

二人は笑う。
自嘲の意もあったが、明るい笑い声だった。

「………私はもういいのですよ。最後にこの景色を見れただけでも充分です。
もしあなたが本当に死神なら、私を連れて行ってください。
そのほうがセドルも吹っ切れてくれることでしょう」
「あなたの真の望みがそうであれば、私は一も二もなくかなえます。
ですが本当は違う、そうですよね」
「…………」
「ふふ、この国の方は耐えることに関しては本当にお強い。
それは高貴な魂ゆえか、それともこの厳しい自然のためか。
ですが、あなたがすぐにでも棺に入ることを良しとされるなら、
この場で何を言っても許されましょう」

ティーサの形が少しずつ薄れて、その境目が失われていく。
問いかける側は、時間があまり残されていないことに気付いた。
だが優しい笑みは絶やさない。
楽観こそ美徳とみなす気風の持ち主。

「……私は数多の人を見て、知り合い、時には触れ合いました。
人の欲とは面白いものです。
焦がれるあまり、私にすら願う者もおりました。
そしてまだ日が浅い頃、気まぐれでその者の願いをかなえたことがありました。
するとその者はまた別の願いを言うのです。
それも次第にエスカレートする、
善良で世の中を思った願いも、他者を貶め自己の利益を追求した願いもです。
最後にはどうなると思いますか?
まあ大抵全能の神にならんと願います。
なぜ? それは身の丈に合わぬ……器に入りきらぬと気付くからです。
でももう遅い、その先に待っているのは反動です。
大きな津波のようなものから、雨のしずくが大石を穿つがごとく静かなものまで。
時の洗礼は、意外にも平等ではありませんが、結末は同じです」

t03-074 :六章:2009/03/08(日) 11:29:47 ID:oQzZqGHh
差し伸べられる手をみると、光に溢れていた。
それが大地に零れ落ちると、芝生が波紋を描くように活力を増していく。
波は遠く遠く、遥か山脈を越えていく。

「本来ならば人は賢い、過ぎたる欲望は身を滅ぼすことを学んでいる。
器に入りきらぬものをおさめようとすると、
ひび割れて中身が流れ出し、全てを失くすように。
自分の手を汚さず、歩みを忘れた底の浅い人間が偶然手中にした末路とは、
そのようにかくも儚いものです。
――さあ、今一度伺います。
あなたのその望みは唯一にしてこれ以上ないもの、そうではありませんか。
自分の願いがどのような類のものか、よく理解されているはず。
ならば私が悪魔だとしても恐れることもありません。
神だとしても恥じ入ることはありませんのですよ」

ティーサはひどく険しい顔をした。なんて甘美な誘惑だろうか。
だがその浅ましさが他の身に及ぶのはどうしても避けなければならなかった。

「……いいえ。もしあなたが悪魔なら、対価が必要なはず。
黙っていますが、本当は何か取っていくのではありませんか。
セドルの命……など」
「えっ?」

引き裂かれそうな心の中、ティーサは絞るような声を出した。
理性では何と言おうが、
感情が生きながらえセドルの成長が見れるなら他の全てを差し出しても構わないと叫ぶ。
これが狂気の淵にいる人間の考えることだと、心の中でもわかっていた。
わかっていたが、狂おしい欲望がそれを止めることは出来なかった。
しかし口に出した瞬間、後悔が襲った。
もしここで息子の命に関わらないら、どんな代償だって払うとわかっていたから。

「ああなるほど。寓話でそういった話はありますね。
ふ、ふふ……ぷっ、あはは、はははは、
確かに少しばかり寿命を縮めてしまったかしら。あははは」
「な、何が可笑しいんですか」

相手の心の内とは対照的に、軽く笑い飛ばす。一週間だろうか、一ヶ月だろうか。
もしかしたら伸ばした可能性だって大いにある。溜めておくのだって、身体によくないはず。

ティーサにしてみれば、まるで自分の浅ましさを笑われているようで、
恥ずかしさのあまり憤慨してしまった。
それは己を省みて、狂気の淵にあったはずの心が救われた瞬間でもあった。

「すみません。私もまだまだ人の世に疎い、そういうことです。
安心してください。対価など充分にもらいましたわ。
いやいやそれとも、あなたがいない方がもっとたくさんもらえそうですね」
「そ、それはいけません。私が命に代えても許しません!」

断固たる口調に微笑ましく思う。
これこそがティーサにとってもっとも前向きな生きる理由ではなかろうか。
生を諦めた者に、命に代えてもなどとは言えるはずもない。

「な・ら・ば・あなたがしっかりするしかないでしょう、悪い虫が付かないように。
はっきり言って、あなたの息子さん、女性を見る目がまーったくありませんから」

二人は目を合わせた後、笑いあう。
ティーサはひとつわかった。
この人は、セドルのことをよく知っているのだと。

***********************

t03-075 :終章・エピローグ:2009/03/08(日) 11:32:24 ID:oQzZqGHh
**********************

ファルセリオン神皇国を離れて数ヶ月。
皇国で流氷が溶ける頃、すでに他地方では春が過ぎ、
長い航海を続けて、一番近い港に入る頃には盛夏であった。

パザンはグーリーを連れて市場をねり歩く。
グーリーは護衛兼荷物持ちであるが、交渉がある時は必ず連れて行く。
なにも相手が堅気のみと限らないのが、金と物が飛び交う世界の常である。
筋骨隆々の巨漢、グーリーが背後に控えてるだけで、
詐欺まがいの未然防止、値段交渉の円滑化、盗難防止と効果覿面であった。
目的の品を見つけ、立ち止まって質に問題がないか吟味する。

「これでいくらだ?」
「インス金貨で22枚、ルーブ金貨なら28枚だね」
「ファル金貨で支払いたいが」
「ほほう、それはめずらしい。う~ん15枚でいいよ」

パザンは頭の中でこれからの交渉をシミュレートする。
第一線の現役商人として立っているだけに、その頭脳は衰えを知らない。

「ふむ安いな。さすがは豊作だっただけはある」
「おうよ。質も上々だよ」
「だけど、どこの国も豊作になりそうで、実はダブついてるんでしょう。
待ってればそのうち値を下げるんじゃなーい。ね、パザン」

別方向から来た否定的な口調に、売り手の男はむっとした顔をしたが、すぐに相好を崩す。
深いスリットが入ったスカートに、細くくびれた腰を晒す美女。
ハイヒールが悩ましさと高貴な雰囲気をかもし出す。
パザンは横から口を挟んできたサウラをうんざりとした表情で見る。
最近シーフゥをからかうことに生きがいを感じているようで、
こうして市場に出ては色々と見聞きしてたまに口を挟む。
目的はともかく、知識を得ることは結構だが、はっきり言って迷惑極まりない。

「こ、これは……旦那、隅に置けませんねぇ。これでしょ、これ」

男が小指を立てて小声で擦り寄るのには本当にうんざりした。

「囲いものかと言いたいようだが違う。
それでこの女の話を聞いたと思うが、もっとまけられないか」
「はは、旦那、旦那専用のイロじゃないなら、ちょっと味見させてくださいよ~。
それならまけるなんてけち臭いこと言いませんで」

またかと思うと、男の気持ち悪い猫なで声に疲れてきた。
こういうやり方は商人として控えるべきだ、という信念をパザンは持っていた。

「あら~、私を抱きたいの……。ふふ、高いわよ」
「うるさい。さっさと失せろサウラ。邪魔をするな!」
「あらあら、こわいこわい。またね~」

サウラは手を振って、素直に何処へと去っていった。
いつまでもにやにやと見送る男を見て、パザンはその後頭部を殴りつけたくなった。

「あー……うぉっほん……。それで先ほどの話なんだが」
「……ええっと、何でしたっけ?」

パザンは徹底的に値切ることを決めた。
半値でも生ぬるい。

t03-076 :終章:2009/03/08(日) 11:35:25 ID:oQzZqGHh
*********************

この港に来たのは5日前、予定では荷を積み込み明日にも出発する。
この国では船の接岸料もあるため、目的を果たせば長居は無用である。
そのため今日が正念場であることは、サウラにも重々承知していた。

サウラは波止場近くの岩場で、裸足を海に泳がせて遊ぶ。
濡れないようスカートは腰に結んで裾上げをし、
スリットも意味を成さないくらいに脚を露わにする。
押し寄せる波を見ていると、はじで独り老人が釣竿を垂らしていた。

「お隣、よろしいかしら」
「ほほう、これまたべっぴんさんだのう。どうぞご自由に」
「ここでは何が釣れますか」
「いやぁ、大したものは釣れないよ。まあ暇つぶしみたいなもんだ。
お若いのには退屈かもしれんが、釣りはいいよ。心が洗われる」

サウラは老人からお若いの、などと呼ばれて内心複雑だった。
今の姿は18の頃から変わらない。
血まみれのあの時から変わらない。

「心が洗われる、ですか」

血を浴びた時の恍惚感はまぎれもなく本物だった。
純粋な暴力と破壊の陶酔感、生命が消えていく喪失感。
洗われるという言葉に、少しばかり興味を持って訊ねた。

「そそ、お嬢さんもしてみるかい?」
「えっ、はあ……いえ、やめておきます」
「はっはっは」

お嬢さんなどと呼ばれたことにしばし返答に間が出来た。
サウラの格好を見れば、どんなタイプかだいたいわかる。
老人はなにをそこまでと思わんばかりに呵呵大笑する。

「まあ考えごとなら、海を眺めているほうが良いだろう。
魚を逃してしまい、後悔にさいなまれては元も子もないからのお」
「そうですね」
「何かお悩みかね」
「……」

サウラの様子を見て得心がいったのか、一度糸を引き上げ再度竿を投げる。
波の合間を縫うように、浮きを移動させて狙いのところへとエサを泳がせた。

t03-078 :終章:2009/03/08(日) 11:37:34 ID:oQzZqGHh
「まあまあ言わずともよい。
何があったか知らんが、人生悪いことばかりではない。
勿論良いことばかりではないがのう、だがそこが面白い。
おまいさんは何か悩んでいるかもしれんが、
過去のことなら悩んでもしかたない。
これから先のことなら全力でぶつかってみなされ。
たとえ悪い結果であっても、それは己の血肉となる。
たまにまずい飯を食わなければならん時もあるだろう、
そんな気持ちで行けば気楽なもんさ。
食い物なら腹を壊すときもあるが、艱難辛苦は心を磨くもんだと思えば怖くもない。
まあ人によっては、かえって捻じ曲がる奴もいるがな、はっはっは」

若いおなごに人生の講釈をたれるのが嬉しいらしく、満足げに何度も頷いた。
すると浮きが沈み、老人は歳不相応の素早い手つきで魚を釣り上げた。

「どうじゃ、おまいさんも男くらいいるだろう?」
「………」
「お、おや……? これはヤブヘビだったかの。すまんすまん」
「いいから話を続けて」
「おう。まあその……なんだ。
この後に、こんな寂しい老人に付き合ってくれて嬉しいが、
さっさと男のところに帰ってやんなさい、と言うつもりだったのだよ」
「余計なお世話ね」

老人は頭をぽりぽりと掻く。

「だが家族くらいはいるだろう」
「まあ……はい」

幾つもの時代を過ごしてきたが、
この問いにはっきりと肯定でもって返せるのは初めてだったかもしれない。
親代わりであるパザン、弟分であるシーフゥ、
兄かどうかは微妙だが、寡黙で背中で語るところが兄貴ぽいグーリー。
パザンとシーフゥを除けば、誰もが血のつながりを持ってないが、
それぞれしっくり馴染むような感覚を持ち合わせている。

「ほっほっほ、なら安心だ。
まあわざわざ付き合ってくれるおなごを追い返す気はない。
何か考えごとがあるなら、好きなだけここに居なされ。
伊達に歳は取っていない、相談だってお安い御用なもの」
「そうさせてもいますわ」

t03-079 :終章:2009/03/08(日) 11:39:01 ID:oQzZqGHh
サウラは人生を振り返り、黙考する。
そういえば今まで、こうして静かに思い出すなどなかった気がした。

思えば何故セドルにああも心惹かれたのか。
入れ込みすぎたと言っても過言ではなかった。
性格、容姿、言葉と思い、そして血筋。
理由を探せばいくつも上がるが、どれも決定的のようで、もうひとつ足りない。
いくら自分のためとは言え、わざわざ先方が願ってもいないのに、
母親を救うために力を奮うなんていかにも自分らしくない行動だった。

「あー、サーウーラーさーん!」
「…………」

シーフゥがサウラを見つけ桟橋を走ってきた。
長い黒髪は二つの金細工の髪止めによってまとめられている。

「見つけましたよ。こんなところで油を売ってないでください」
「シーフゥ。私ね、自分の人生を振り返ってるの。邪魔をしないで」
「そんな見え透いた嘘をついてサボらないでください。
あんまりお金がないから今日は一緒の宿なんですよ。
だからサウラさんが居ないと決まらないから、ほら宿探しに行きましょう。
また後でゴネてキャンセル料なんてご免ですよ」
「…………しかたないわね」

サウラは面倒くさそうに岩場から桟橋へ渡り、待っていたシーフゥの横を歩く。

「えい」
「えっ? ええぇっ!!」

横に立ったらおもむろに足払いをかまして、シーフゥを海へと落とした。
派手な水音は鳴ったが、シーフゥは泳げるため浮き上がる。

「ぷ、はあ。な、な、何するんですか!」
「ふふん、私一人で決めてくるから、あんたは不要なのよ。
わかったら頭冷やしてなさい」
「だ、だ、ダメですよ。予算! よさーん!!」

老人は一部始終を見ており、
「ふむ。あれも家族愛だな。あのおなご、なかなか照れ屋さんと見える」
と呟いた。

t03-080 :終章:2009/03/08(日) 11:41:38 ID:oQzZqGHh
********************

それなりに小奇麗な宿の食堂で、サウラを含めて皆が夕食にありつく。
とりあえず予算内であったことにシーフゥは安堵した。
皇国で貰った金貨は、船の改造と商売の元手にほぼ全て消えている。
かろうじて借金をしなくて済んだのは、
サウラが分け前を受け取らずパザンに任せたおかげだった。

「皆聞いてくれ。明日出航の予定だったが、明後日に延期する。
商工組合から連絡が届いて、人が来ることになった。
接岸延期許可も特別に無料でもらえるそうだ。
こちらも荷の積み込みが明日になったから丁度良い。
確認もできず慌ただしく出発するのは避けたかったからな」
「ふーん、誰が来るの?」

サウラの基本的な疑問は全員同じだった。

「最近私も歳でな、もう一人秘書を兼ねて船員見習いを雇うことにした。
それで希望者が明日にでも来るそうだ」

パザンの答えにサウラは怪訝な顔をした。
長権限があるとはいえ、そういうことはもっと事前に言うものではないだろうか。

「初耳だわ」
「まあ聞け」

少々非難がましい口調は通じたようだが、パザンは慌てず間をおく。

t03-081 :終章:2009/03/08(日) 11:43:37 ID:oQzZqGHh
「正確に言えば、先方から打診があったんだ。
この一週間の動きを見て決めようと思ってな、やはり人手不足で時間が足りなくなった。
時間が足りなくて滞在延長すれば諸経費もかかるが、それ以上に機を逃す可能性が大きくなる。
商売取引において、何よりもチャンスとタイミングが大事なのは言うまでもなかろう」

サウラは不承不承だが、皆一様に相槌を打つ。

「私も知っている者だが、今度来る彼はとても優秀でな、そうなれば断る理由はない」
「だけど」

底冷えするような声でサウラが割ってはいった。

「私が認めなかったら、絶対に叩き出すからね」
「安心しろ。もとよりそのつもりだ」

パザンにも、サウラが認めなければ難しいと重々承知していた。
だが、まあそんな心配はないだろうと思った。


サウラが一人部屋に戻った後、パザンたち三人も部屋へ戻った。
男衆は雑魚寝部屋である。
揺れる船で寝るよりも、
せっかく陸に上がったなら部屋代がほとんど無料のこちらの方が良い。

「明日来る人、サウラさん納得しますか?」

シーフゥにしてみても、もう少し根回しした方が良かったのではと思っていた。
最近のサウラは妙に気難しく、
今日にしてみても波止場での一件は本当に考えごとだったかもしれない。

「ああ、大丈夫だ。安心してなさい」
「けれどさっきの様子じゃあ。何か怖かったですよ」
「ははは、あれはな、単にもっと早く言えと深く釘をさしたかっただけだ。
……しかし昔のサウラからは考えられない理由だがな。
無理に押し進めるつもりはないが、仮に押し進めたとしても最終的には折れるよ。
雇う理由を話した時、納得していた」
「そうですか? 殺気を感じましたけど……」
「はは、まあ明日も早い。朝からあちこち周らなければならん。もう寝よう」

部屋の一角で川の字になって眠る男三人だった。

t03-082 :終章:2009/03/08(日) 11:45:07 ID:oQzZqGHh
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一夜明けて、サウラはまた波止場近くの岩場へ向かった。
昨日の釣りをしている老人はいなかったが、打ち寄せる波を無心に見ていた。
せっかくだから、釣竿でも借りておけば良かったと思った。


パザンたちは朝食を終えた後もテーブルを借りて、簡単な打ち合わせを始めた。

「シーフゥは先にグーリーを連れて代金の支払いに行ってくれ。
物自体は直接船に運んでもらい受け取る予定だから、領収書だけ忘れずにな。
私は港で人夫に指示をして搬入と、今日来る見習いと待ち合わせをする。
終わったら船まで来てくれ。あとは帳面をつけて一段落だ」
「わかりました」
「そうそう。やはり先に言っておくか。今日来る者はな――」

シーフゥは驚いた。
それはもう、天地がひっくり返るくらいに驚いた。
いったい何を考えているのだろうか。

t03-083 :終章:2009/03/08(日) 11:47:24 ID:oQzZqGHh
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正午を過ぎ、そのまま日が沈みかけてもサウラはそこに居た。
夕日の赤は優しい。明日への再生を約束されている。

「ふうぅ……」

本当はパザンたちから姿を消そうか悩んでいた。
セドルの血の力を借りて、一瞬を見計らい封印を施したが、
効力を発揮するのはまだまだ先の話。
歳を重ねるのはずっと後の自分、だが彼らは問題なく時の洗礼を受ける。
人間で一番始末に終えないのが、経験上不老不死への願いだった。
サウラが見た様々な望みの中で、これ以上ありふれた狂気はない。
狂気に侵された人間を見るのは面白楽しいが、それがパザンたちに及ぶのは耐えがたい。
彼らが老いた時、今だに若い自分を許せるだろうか。

だが、少なくとも今は離れるのはつらい。
これも自ら湧き上がる欲求ならば、自然のまま受け入れたい。
だから信じてみよう。
セドルとの別れの時に見せた力、それを踏まえた上でパザンたちは変わらず接してくれた。
長年付き合いがあるパザンとグーリーはともかく、
シーフゥの存在は決断への一助となってくれてた。
日々決断の連続なら、今日決断、明日決断して進もう。

「よし決まり! さあ行きましょうか」

サウラは立ち上がって背筋に伸びをいれた。
このまま悩んでいても変わらない。
明確に答えが見えた訳ではないが、結局は今までどおりで行くことと決断する。
夕日に照らされながら、今度は自分が再起する番だった。

そういえば今日来る人がいたことを思い出す。
迎え入れられるかどうか、出足から少々不安になる。


桟橋を歩くとすぐに船着場だ。
パザンたちもそこに居るはずなので、周囲を見渡した。
すぐに発見できたが、見かけない後ろ姿があった。
きっと彼が新入りなのだろう。

「ん~。まあ最初はヨロシクとかで……」

サウラは初対面の挨拶を考えながら近づいていった。
それを先に気付いたのはパザンだった。

「サウラか。丁度良い、紹介しよう。彼が今日から新しく入るセドル君だ」
「はあい、私サウラって言うの。ヨロシ……ク…………ネ」
「彼は優秀でな、義務のため海軍に一年所属経験がある上に経理にも詳しい。
経済や世間一般の情勢は少し疎いが、それはおいおい教えていくつもりだ。
そうそう、この場で敬称は、一員として迎えるに返って失礼だからな」

パザンの紹介が終わると、若者は照れくさそうに頭を下げる。

「よろしくお願いします。サウラさん」

夕日で遠目からわからなかったが、
黄金色の髪に、少し日焼けしているが周囲に比べて圧倒的に白い肌。
服装はまったく違うが、まぎれもなくセドル王子だった。

t03-084 :終章:2009/03/08(日) 11:50:45 ID:oQzZqGHh
「しかし国は大丈夫かね」
「はい。父は健在ですし、アズメイラ王妃など私より優秀で努力家です。
サウラさんが去った後、恩赦で必要な人材は復帰させましたから官僚も揃っています。
あと、何よりも元気になった母が後押ししてくれたんです。
サウラさんのことご存知らしく、是非よろしくと言付けもお願いされました。
本当に何も心配ありませんから、遠慮なく使ってください」
「ぁ、あのババア……止めなさいよ」

留守中アズメイラを信じて旅立ち、サウラを追いかける。
息子は女を見る目がないとあれほど言っていたのに、いったい何を考えているのか。

「こちらこそよろしく頼むよ」
「はい」

パザンとセドルがしっかりと握手をした。
それを見てサウラは慌てる。
これでは封印を施したのに壊れてしまう可能性が極めて高い。
せっかく練ってきたプランが台無しになってしまう。

「ちょっと待ちなさいよ。私は認めないわよ!」
「えっ、ええ! な、何でですか」

セドルは思っても見なかった台詞に驚き慌てふためく。

「ははは、サウラは恥ずかしくて言ってるだけだ」
「そうそう。歓迎の挨拶ですって。くっくくく。
本当は嬉しくて嬉しくて仕方ないんですけど、
ついつい逆のこと言ってしまう時ってありますよね。
それですよそれ。ぷっ、に、似合わないですけど……あはははははは」

シーフゥも可笑しいらしく、必死で笑いをこらえていたが、ついには爆笑してしまった。

「なにシーフゥも笑ってるのよ! 認めない、ぜぇ~ったい認めないからね!!」
「良かったな。封印がどうのこうの言っていたが、まったく無意味になりそうだぞ」
「わかってんなら追い返しなさいよ! い、今からでも海の藻屑に!!」
「わわっ、やめてください! 泳げませんから!!」

極寒の皇国で泳ぎはまず必要ない。
空気の読めるグーリーはサウラを背後から押さえた。

セドルとエッチしなければいいのだが、
自慢にもならないがサウラはそんなことをまったく考えられなかった。
皇国で正式にセドルのお膝元に収まった後でさえ、
本当は毎日したくてしたくてしたくてしたくてしたくてしたくて
我慢できなかったというのに。

「認めないんだから! 私の人生を返しなさーい!!」
「あ、あの、サウラさんの事情わかってますから。
いえ、よくわからないですが、私と……その……ゴニョゴニュ……するとまずいのですよね。
大丈夫です。子供じゃありませんから我慢できます。
それにサウラさんを尊重して、しっかりわきますから安心してください」
「なによそれ! ちっともわかってないじゃな~い!! もうセドルのバカバカー!!」

夕日が沈んでもサウラの絶叫が木霊していた。
結局セドルはサウラに一切触れてはならない、ということで決着をつける。
はなはだ実効性に疑問が持たれる協定だった。

t03-085 :終章:2009/03/08(日) 11:54:26 ID:oQzZqGHh
******************

その後、ささやかながら歓迎の宴席をもうけられた。
最初サウラはふて腐れていたが、次第に口数も多くなっていった。
セドルの所信表明、思い出話にその後の皇国の皆の近況、色々話しも弾み夜はふけていった。

皆が寝静まった後も、パザンとサウラはお互いのグラスに果実酒を注いでいた。

「それにしても謀ってくれたわね」
「いつもやられっぱなしなのでな。たまにはこういうのも新鮮でいいだろう」

くつくつと笑いご機嫌なのはパザンだった。
特段謀るつもりはなかったが、
ここまで見事に感情を出せばそうと思われてもしかたがない。

「だが良かっただろ。この際本心を言ってしまえ」
「はああぁ……うん嬉しいわよ」

ため息ひとつついた後、あっさりと言った。

「ただ自分でも何で嬉しいのかよくわからないの。
私って母親になったことないからわからないけど、
なんかさあ、時々セドルのこと、自分の子供みたいに感じたりするのよね。
だから会えて嬉しいのかもしれないわ。
セドルを見てるとたまに心配だったりして落ち着かないのよ。
これって結構母親っぽい感情だと思わないかな」
「……それは単なる恋愛感情だろ。普通息子と交わったりはせんと思うが」
「普通? う~ん、そうかあ。フツーねえ……」
「まあ血筋がつながってないから、どうこう言えるわけではないがな。
もし本当にそう思ってるなら、あんまりちょっかいを出すなよ」

サウラは暫し普通という言葉を小声で連呼し、舌の上で転がす。
案外息子と言うのもあながち外れではないのではないか、そんな気がした。
今も過去も、サウラには子供はいない。
だがこうもセドルに惹かれる理由を補完するには充分な答えになる。
やはり血が求めているのかもしれない。

セドルは自分に興味を持っても、出だし積極的に身体を求めることは少なかった。
我慢強さや羞恥心もあったかもしれないが、
サウラはそれくらいの精神は破壊できる自信があり、実際にかなぐり捨てて求める者がほとんどだ。
身柄を手中にしても特に変化がなかったのは、
意外というよりも異常があるのではないかと疑いたくなったりもした。
もしかしたらパザンの言う普通が、意識の外で働いていたのだろうか。
ならば遠い遠い遥か過去に、同一の縁者、ないしは同類がいたのかもしれないことになる。
実証しようと思っても、幾星霜も遡らなければならないから無理なのが残念だ。
だが逆に悠久のロマンがそれを否定させてはいない。
もしセドルの祖先、ファルセリオン王家が自分と同じ立場、
似た存在から成り立ったのなら、これほど心躍る想像はない。
つまりセドルはサウラの未来であり、
飛躍すれば自分は人間のアーキータイプのひとつのわけだ。

ふと思い当たることがひとつ出てきた。

「ああっ、今謎が解けたわ。
パザンが何で私に手を出さないのか不思議だったけど、そういうことだったの」

パザンは片手で髭をなでつける。
いささか伏目がちに、サウラのグラスへと酒を注いだ。

t03-086 :終章:2009/03/08(日) 11:58:15 ID:oQzZqGHh
「俺はお前の親のつもりだが」
「そのわりには引き取った後、娼館に売ったわね……」
「まあな。あの頃はまだまだ駆け出しで、売れるものなら何でも売っていたからな。
だがまあ、お前にはぴったりだっただろ」

ふん、とサウラは鼻息荒くグラスを傾けた。
なみなみと注がれていたが、手を下ろしたときには半分以下までになっていた。

「あんたさぁ、セドルをよく見てなさいよ。
貴重な血族、やんごとなき身分。まあそれを差し置いても、将来国を背負う身なんだから。
遊びに行くにしても、しっかり付いて行って、
館主に話しつけて、いい娘を薦めてやるのよ。無駄に顔が広いんだからさ」

いきなり何の話かと思ったら、いかがわしい所へ連れて行く時の話だった。
娼館つながりで出てきたのだろう。
確かにこれは母親っぽい感情かもしれない。
ただし、かなりズレているが。

「彼だって大人だろ。余計なお世話だと思うが」
「バカ! 変なビョーキうつされないように見張ってなさいってこと!
あの手の病は治りにくい上に、種無しなっちゃうかもしれないから」

サウラは威勢よく言った後、もじもじと重ねた手をくねらせる。
いきなりの急変振りに驚く。
どうやら酔っているようだった。

「だ、だからさ……もし、もしもそういうトコ行くくらいならさ、私を薦めなさいよ。
最初はあんなこと言っちゃったけど、
む、無理矢理でも押し倒せば……うん私、拒めないしぃ……とか言ってさ。
だ、だってさあ、安全じゃない、私って。
ビョーキないし、ならないし、うんうん。そうよ、一番いいよ」

この後、ぶつぶつとよくわからないことを呟く。
パザンは隔世の感すらあったサウラが、
実に人間らしい反応をしていることに笑いたくなった。
母親として身体の心配をしたり、
女として娼婦に接待を受けるセドルを想像し、嫉妬しているわけだ。

「ああ、わかったわかった。
だがそれくらい心配してるのなら、お前が見てればいいだろう」

至極当然の台詞を聞いて、サウラはしょんぼりとした。
残り半分のグラスを一気に呷る。

「バカぁ……それが出来たら苦労しないわよ……」

ぐすぐすと鼻をすすりながら涙ながらに訴えた。
この先どんどんと時の流れの差がつらくなるばかりだというのに。

やれやれ、どうやら精神年齢も小娘のままらしい。
パザンにはすでにサウラの成長や老化が止まっていると検討をつけていた。
十年近くも付き合いがあれば、薄々わかるようなものだ。
肉体的成長が止まると、精神もそれに習うのかもしれない。
正しい見解かもしれないと思ったが、
アズメイラ王妃を思い出すと、やはり一概には断定できないとも思った。

パザンは居住まいを正してサウラに向かう。
親なら子の幸せを願うものだろう。

t03-087 :終章:2009/03/08(日) 12:01:35 ID:oQzZqGHh
「サウラ殿にお願いを申す」
「何よ。急に畏まって」
「もしよろしければ、我々の行く末を末永く見守ってもらいたい。
私も、グーリーも、シーフゥも、そしてセドル殿もまた然り。
虚も実も自在に操る頭脳に手腕、人の身にあらざる異才を持つからこそ願いたい。
その最後、息を引き取る瞬間まで」

サウラは言わんとするところが理解できると、
今度はどういう顔をしたらよいのかわからなくなった。
空のグラスを見つめたり、天井の明かりをぼんやり見た後、窓から漁火を眺めた。
今日も人の営みが間違いなく続いているひとつの証だった。
自分もこの中に違和感なく混ざることが出来るだろうか。

「パザン……あんたさぁ、いい奴だね。
私、色んな人間を見てきたけど、こんな風にいい奴って思うのは初めてかもしれない。
たくさん持ってる、けどいらない……欲しいものなんてない。
そんな私に、最高の品がわかるパザンは、最高の商人だよ」

結ってあったサウラの髪が、紐を弾き飛ばしてあたりに広がる。
神気が辺りを覆い、切り取られた空間に禍々しい瘴気がたゆたう。
セドルとの別れ際の時に見た、優しさと生命に満ちた暖かさとは違い、
死と虚無によって塗りつぶされる。
悪寒がざわめき総毛立つが、不快のようで妙な安心があった。
おそらく人は最後にここをくぐるものなのかもしれない。

「よろしい、パザンよ、その願いを聞き入れよう。
だがこれは成就でも褒美でもない。
そなたを商人として尊重するゆえ、これは取引に伴った契約とする。
あらかじめ言っておくが、
我は人の身にならうため、奇跡を用いることはけっしてないだろう。
時には女神より優しく慈悲深い、だが悪魔より狡猾で冷酷な我ゆえ、
道連れの中でも一筋縄ではいかぬぞ。それでも良いか」

パザンは恭しく礼をとる。

「無論です。取引が成立するということ。
これは全ての商の根幹にあるものが我々にあるということです。
それは信頼に値すると同位を意味します。
これの前には、人でも神でも悪魔でも皆対等でしょう」

それはサウラが初めて『力』を使わないでかなえる願いだった。
そして初めて、いつも与えるばかりだったサウラがした取引だった。
双方が欲しいもの、望むものを交換する。
一見欲望に基づいたドラスティックな行動だが、
そこには確かに信頼があり、喜びがあり、幸せがあった。


過去、神と悪魔を併せ持つサウラに刃向かえたものはいない。
善と悪、陰と陽、光と闇、
相反しているが表裏一体のもの。
調和のときこそ真の強さが見える。
それが可能なのはサウラと人だけだった。


終わり

最終更新:2009年07月19日 18:01