* * *
後ろで銃声が聞こえあたしが振り向いた時、ジョンガリ・Aの銃口はあたしを向いていた。
つまりジョンガリ・Aは、チャンスを見計らってあたしを殺そうとしてたってワケだ。
なるほど、やっぱりそういう腹積もりだったってワケかよ。
ただ、まだ疑問は残っている。
何であたしに当たらなかったんだ?
至近距離、あたしは殆ど動いていない。加えてコイツは銃のプロだと言っていた。
それなのに何であたしに弾丸が当たらない?
その時、ホテルから二人の男が姿を現した。
一人は西部ガンマン風の男で、もう一人の男を置いて走り去った。
そして残されたもう一人の人間の姿を見てあたしは驚いた。
立っていたのは傷だらけの学生。
足下もおぼついていなくて、立っている事すら難しいように見える。
背後に男のスタンドが見える。多分アレがあたしを助けたんだろう。
「逃げろ!ヤツは未だ貴方を狙っている!」
男の声にジョンガリ・Aの方を向くと、
…確かにあたしを狙ってやがる。だが、
「うぜぇ」
ヤツが撃つ前にあたしがF・F弾を炸裂させた。
F・F弾をその身に受けたジョンガリ・Aは吹き飛ぶ。
「…ッ!!」
傷だらけの男の、息を呑む声が聴こえた。
ヤツが倒れたのを見届け、あたしは男に向き直った。
「何故あたしを助けた?」
コイツ達が何者かは分からないが、信用する訳には行かない。
が、あたしを助けてくれたのも事実だ。
(まあ、そんな事されなくてもあたしは全く問題無かったが)
借りが出来た以上、返さなきゃならんだろう。
「殺したのか?」
あたしの質問に、男は質問で返して来た。
「え?」
「何故あの男を殺したんだ?」
ここでウソを言うと、あたしの質問にもウソの答が返って来る気がする。
そう思ったあたしは、正直に答える事にした。
「殺らなきゃ殺られてた。それにコイツがDIOの仲間だってんなら、あたし達の敵だ」
「あたし達?DIOが…敵?」
「そう、あたしや徐倫、エルメェス、エンポリオ、ウェザー、アナスイ、…」
「…」
警戒を解かず私の答を淡々と聴いていただけの男の表情は、次の名を聴いた時一気に豹変した。
「…承太郎」
「…!!承太郎!?貴方は
空条承太郎の仲間なのか!?」
「あ、あぁ」
男の勢いに、つい返事をしてしまう。こっちの質問に答えて貰って無いってのに。
「そうか、承太郎の…。しかし、僕が知らないと云う事は…」
そこまで呟いて、男は考え込んでしまった。
「おい、あたしの質問にも…」
「済みません、後二点質問させて下さい。
貴方のお名前と、貴方が承太郎と一緒に居たのが西暦で何年かを」
あたしの発言は遮られた。しかも何故か敬語になってるし。
「さっきからお前が質問してばっかじゃねぇか。あたしの質問にも答えろ!」
若干キレ気味に男に言うが、
「これで最後ですから」
と返答してきた。
「ったく。あたしの名はF・F。もう一つの答は2015年だよ」
「やはり、未来の仲間か…」
あたしの答に、ワケ分からない事を呟く。
「イイ加減答えろ!アンタ何モンだ?何故あたしを助けた?」
「名を名乗らず、礼を欠き申し訳ありませんでした。
僕の名は
花京院典明。1987年、承太郎達とDIO打倒の旅に出た者です」
「1987年、承太郎と…?」
徐倫からその話は聴いている。しかしこの男が…?
「まあいい。で、何であたしを助けた?」
「あの、ジョンガリ・Aという名の男から
DIOの情報を訊き出そうと思っていたのですが…」
「答になって無い」
あたしの射る様な視線を受け、花京院は顔を背け、
「こんな理不尽なゲームに付き合う必要は無い。
命を落とす人間は少ない方が良い。そう思いませんか?」
と言って来た。
そしてこいつの視線を追うと、その先には
瓦礫の下のガキを救おうとしている二人の男がいた。
その内の一人は、さっきのガンマン風の男だ。
なるほど、そういう事か。
あの二人はコイツの仲間なんだな。
「!!」
その時、瓦礫が崩れ二人の上に落ちて来た。
辛うじて二人は押さえたものの、岩盤を支えるだけで精一杯のようだ。
「ジョースター卿!!」
叫ぶ花京院に私は言ってやった。
「OKOK。あたしが援護に行ってやるよ」
「え?」
花京院が振り返る。
「あんたには借りがあるしな」
そうあたしが立ち上がろうとした時、
「待て!」
花京院がいきなり声を荒げた。
「な、何だよ。いきなり」
「ジョンガリ・Aが居ない!」
花京院の声にジョンガリ・Aの死体の方を振り向くと、
…ヤツの死体は消えていた。
* * *
こいつはヤベェ!何でこんな事になっちまうんだよ!
DIOからの伝言なら俺宛にもあるかも知れねぇ、
そう思って、この小僧を助けようとしたら…。
「ぐおおぉぉ……!!」
何でこのタイミングで瓦礫が崩れて来るんだよぉ!
「………ッ!!」
ジョースターも余裕は無さそうだ。
俺も全くねぇ。首を動かす事すらままならねぇ。
逃げることも出来ねぇ。そんなことしたら三人まとめて下敷きだ。
全く、利用価値があると思ってジョースターに付いてりゃ花京院を助けるし、
ジョースターの前じゃ殺せないからと花京院の手当てをすれば、その花京院のせいでこのざまだ。
どいつもこいつも恩を仇で返しやがる。
おい、花京院!お前、この状況見えてんだろ!さっさと何とかしてくれよ!
* * *
「ハイエロファント・グリーン!」
花京院が叫ぶと、再びコイツのスタンドが出現した。
「法皇の結界!」
続く花京院の声に、スタンドがヒモ状に変化し、辺り一面がヒモで覆われる。
…まるでいつぞやのストーン・フリーの様に。
「F・Fさん。ジョンガリ・Aはあの背後に隠れている様です」
糸のスタンドから何かを感じ取ったのだろう、花京院はホテルの一角を指し、あたしに言って来た。
「さて、どうやって取り押さえるか…」
「あぁ、そいつなら問題無い。あたしがアイツから50m離れるだけで爆死する」
「え?」
「そういう腕輪が付いているんだ。ヤツには」
そう言ってあたしはヤツと逆の方向に走り出し、
「待て!迂闊に動くな!」
ドン!
制止の声と銃声が同時に聴こえ、あたしは吹き飛ばされた。
―――後頭部を貫かれ。
* * *
辛うじて立っていた僕はF・Fさんが斃れる光景を目の当たりにし、
ずるずると壁をずり落ち、地べたにへたり込んだ。
最悪の事態になってしまった。
F・Fさんは凶弾に斃れてしまい、ジョースター卿達は救助の筈が二次災害に巻き込まれ身動きが取れない。
そして、放っておいたら僕達を皆殺しにするであろう、ジョンガリ・A。
ヤツを斃す事は不可能では無い。再び銃を撃つ前にエメラルドスプラッシュを叩きこめば良いだけだ。
しかしその後、ジョースター卿達の救出をする術が無い。
僕には岩を支える力どころか立つ力さえ残されていないのだ。
僕が長くない事は十分過ぎる位理解している。
つまり、数時間後に残るのは六人の死体だけとなってしまう。
もう全員死ぬしか道は無いのか?荒木の能力を知るものは居なくなってしまうのか?
「……ッ!」
僕は頭を振った。
そんな結果を受け入れる訳には行かない。
考えろ、考えるんだ。
最悪でも、あの三人だけは救出できる方法を!
しかし僕の意志とは裏腹に、僕の体力はどんどん失われて行く。
それに呼応するかのように、法皇の結界の糸もその数を減らして行った。
兎に角、今僕が出来る事は時間を稼ぐ事だけだ。
緩めればすぐに落ちてしまう意識を気力のみで繋ぎ止め、僕はジョンガリ・Aに向かって言葉を発した。
* * *
勝負はついた。F・Fは斃れ、側の男、花京院という名のスタンド使いは瀕死状態。
残りの人間は崩れ落ちる瓦礫を支えるだけで精一杯。
…何もしなくても死ぬような連中ばかりだ。
弾を込め直している所に、花京院から声を掛けられる。
「お前のスタンドは見切った」
「…」
「お前のスタンドは弾丸を操る能力」
弾を込める手が止まる。そのままヤツは話を続けた。
「僕が知るスタンド使いに銃がスタンドという人間がいる。
そいつは弾丸もスタンドなので自在に軌道を操る事が出来る。
お前の場合は、あくまで銃は銃であり、弾丸もただの物質。
放たれた弾丸の軌道を変える事しか出来ない。しかも変えられるのは1回だけだ。
何回も軌道を変更出来るのならば先の一発で僕も一緒に撃ち抜かれている筈だからな」
「…」
「図星か」
若干の見当違いこそあれ、ほぼ正解のようなものだ。
しかし、俺の優位は変わらない。
「それが解ったからどうだというのだ?お前では俺を斃す事は出来ん」
「何故だ」
「お前が俺を斃せないほど弱っているからだ。
ほら、お前の糸のスタンド、時間と共に段々と量が減っているだろうが」
「…ッ」
花京院が息を呑む気配がした。
すかさずさっきの言葉を言い返してやる。
「図星か」
実際、スタンドの糸はかなり減ってきている。最早俺の周りに数十本在る程度だ。
恐らく花京院は意識を保つのすら厳しいのだろう。
俺自身も放って置いて良いケガではないが、
この場に居る全員を殺し、『ライク・ア・ヴァージン』を入手した後手当てするだけの余裕はある。
何せ相手は抵抗出来ないのだ。
悠々と弾を込める俺に又花京院が何か言い始めたが、もう無視する事にした。
やつを撃ち殺すのに不要な情報は遮断する。
耳に入るヤツの声も、消え行く硝煙の臭いも、口元にある糸くずの感触も、
胸元から流れ、止まりかけている血の感触も、
やつのスタンドが段々となくなる気配も…。
弾丸を装填し、マンハッタン・トランスファーに狙いを定める。
マンハッタン・トランスファーに当たり反射した弾丸は、確実に花京院の頭を貫く。
そう、F・Fのように。
「………」
暗殺時に相手に掛ける言葉など無い。
俺は無言で引き金を引いた。
「………?」
引き金は引いた。それは俺自身としては既に終えた作業の筈だった。
後はマンハッタン・トランスファーが反射した弾丸がヤツに命中するだけなのに…。
「!!…う、腕が…動かない?」
どういう事だ!?これは!!
動揺する俺に、壁越しに花京院の声が掛かる。
「相手のスタンド能力を知らずに闘う事は敗因へと直結し易い。
だからスタンド使い同士の戦いでは、相手のスタンドの能力を見極める事が最優先なのだ」
俺は、自分の意志と裏腹に銃を取り落とし、足が勝手に動いて花京院の前に姿を現した。
壁にもたれ掛かり俺を見る花京院は淡々と喋り続ける。
「法皇の結界は弱まって消えていたんじゃ無い。
より細い糸状になってお前の口から内部に潜り込んだんだ。
そう、お前に感知されない位細い糸になって…」
ま、まさかさっきの口元の糸くずの感触は…!
そしてこいつがペラペラと喋っていたのは、それから俺の気を逸らすため…!?
「今、お前の体を操らせて貰っている。体内に潜り込んだハイエロファント・グリーンが…ね」
く、くそっ!
花京院の前に無防備に立たされる。最早俺に成す術は無い。
血の気を失った顔で、しかし冷静さは全く失っていない声で花京院は告げた。
「さぁ、お仕置きの時間だ」
* * *
ジョンガリ・Aの自由は奪った。
この男の腕を内部から破壊し、銃を持てないようにしても良いのだが…
「さて、お前からは色々と訊きたい事があるが、それらは後回しだ。
先ずお前がやる事はジョースター卿達の救出。
その次にF・Fさんの埋葬だ」
「…ッ」
「行け!!」
弾かれた様にジョースター卿の下へ走り出すジョンガリ・A。
これで三人を助けられる筈だ。
警戒は解けないが、少々の安堵の息を吐いた。
と、
「あたしを埋葬する必要なんて無いぞ」
「!!」
死んだ筈のF・Fさんが起き上がりながら僕に声を掛けてきて、僕は驚いた。
「だ、大丈夫なんですか?」
「あぁ、あたしは頭を撃ち抜かれた位じゃ死なないからね。
死んだ振りして、ヤツが姿を現した時に殺ってやろうと思っていたんだが」
「貴方は一体…?」
唖然とする僕に、F・Fさんは
「お互い色々訊きたい事があるだろうが、まずはアレ、何とかした方がいいな」
と、親指でジョースター卿達を指した。
ジョンガリ・Aと組んでいたという不安要素は残るものの、
動けない僕の代わりに手伝ってくれると言うのなら有難い。
「…お願い出来ますか?」
「任せな。…っと、そうだ」
ジョースター卿の下へ走り出そうとしたF・Fさんはふと足を止め、僕に近付いて来た。
「な、何を…?」
警戒し、ハイエロファント・グリーンを出そうとしたが、その前に
「借り返しのついでだ」
そう言ってF・Fさんは僕の前にしゃがみ込み、傷口に触れた。
「え?」
彼女が触れた途端、傷が治って行く。
次々に傷を治しながらF・Fさんは言った。
「応急処置だ。傷口を埋めただけなんで痛みは残るが、出血したり、動く事で傷口が開いたりする事は無くなる筈だ。
このまま大人しくしていれば、直ぐにちゃんと動けるようになるよ」
確かに傷はなくなっていた。
暫く休んでいれば、体力も回復するだろう。
「あ、有難う御座います」
F・Fに礼を述べると、F・Fさんは
「これで貸し借りゼロだからな」
と言って、今度こそジョースター卿の下へ走って行った。
「…違いますよ」
もう聴こえないであろう、F・Fさんの背に向かって、僕は呟く。
「借りが出来たのは、僕の方じゃありませんか…」
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最終更新:2007年06月10日 23:27