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「――あたしと手を組まない?」
「……一体、どういうつもりだ?」
「どうもこうもありゃしないわよ。生き残りたけりゃ味方は多い方がいい、当然の理屈でしょーが」
「そういう事を言っているんじゃあない。あの空条徐倫の仲間に成り下がったキサマが、どの口でオレにそんな提案を吐けるんだ?」
「徐倫はあくまでただの手駒だよ。用済みになったら始末させてもらうけど、今はまだその時じゃあないってだけ。
 あたしが忠誠を誓うのは、この世においてたった一人。ジョンガリ・A、アンタだってそうでしょ?」
「……DIO様」
「そういうコトよ」
「しかし……徐倫がオレの同行を許可するとは思えんぞ」
「んなこたァあたしだって承知済みだよ。事情は知らないけどアンタ達、一回やり合ったらしいじゃないのよ。別行動だよ、別行動。
 あたしはこのまま、徐倫使って上手く立ち回り生き残る。アンタはさっさとライフル見つけて、DIO様のために参加者を減らす。どうよコレ」
「……オレの方に掛かる負担が、やけにデカいのは気のせいか?」
「いちいち細かい男だねぇアンタは。ここであたしが徐倫に、『ジョンガリ・Aは2階だぞォ――ッ!!』ってチクっちゃってもいいんだけど……」
「お、おいやめろッ! 早まるなッ!!」
「だったらグダグダ言うんじゃないよ。1(ウーノ)、2(ドゥーエ)。それ以上は待ってやらないから、はいかイエスでさっさと答えな。
 アンタはあたしの要求を、呑むの? 呑まないの?」
「――だが断る、というのはど「ウーノ」
「……イエス、だ」
「グッド」



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「それじゃあ、誓いの印にコイツをあげるよ。手ェ出しな」
「――何だ、これは。直径1cm程度、表面の形状は妙にざらついている。力を加えすぎると砕けそうだ……角砂糖か?」
「そうだけど、何。アンタひょっとしてその目、見えないの?」
「白内障を患ってな。――そうだ、逃げる前に聞いておきたい事があった。ミドラー、ここは何処のエリアに位置している?」
「F-2のちょい北西ってとこよ。――でもアンタ、そんな身体でどうやって、スナイパーを続けてるのさ?」
「『マンハッタン・トランスファー』――オレもキサマらの『同類』になったという事だ。
 『風の流れ』は、濁り切って頼りにならない二つの目玉よりもずっと鮮明に、オレに全てを伝えてくれる。何の問題もない。
 ……にしても、角砂糖とはな。オレの支給品にしてもそうだが、『荒木』はまともに殺し合いをさせるつもりがあるのか?」
「アンタ、角砂糖もそうバカにしたモンじゃあないわよ? 世の中ってワリと広いから、
 一気に3個も食べちゃうような、いやしんぼとかがいるかもしれないし。それに知ってる? ガソリンタンクの中にちょこっと放り込むだけで、
 バイクをオシャカにする事だって出来んのよ、角砂糖。これだけ聞いたら案外スゴいでしょ、幾らでもあるからもらっときなさいよ、ほら」
「……幾らでもあると言った割には5個だけか。ケチくさいな」
「何よ、文句でもあるっての? 大体、そういうアンタは何が入ってたのよ」
「――ちょうどいい、持て余していたところだ。キサマにくれてやる」
「これって……うわ、お酒!? しかもテキーラじゃないの! こんなモンまで配られてたなんて……マジでもらっちゃっていいワケ!?」
「構わん。うっかり飲んで酔っ払っちまったところをズガン! なんて事態に陥るのもゴメンだからな」
「ムキャキャキャキャハーッ! 厨房漁って見つけたことにしよっと……ちょっと待っててね、コイツ1階に置いてくるから」
「徐倫に見つかるんじゃあないのか? 後でここに取りに来ればいいだろう」
「今はテーブルに突っ伏してヘバッてるから平気だよ。それに……素敵なプレゼントをくれたアンタに、ちょっとした礼がしたいのさ」
「――礼だと? 何のつもりだ?」
「いいから待ってなよ。ナハハハハッ!」



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「お待たせ。こいつが餞別だよ」
「――包丁か?」
「この店のコックが使ってたやつらしいねぇ。見つけた時は何でだか壁に突き立ってたけど」
「か、壁に……刃毀れはしていないのか?」
「見てくれは全然問題ないわ。扱ってみてどうなのかは、アンタが自分で確かめな」
「……まあ、酒瓶よりは大分マシか。ありがたく頂いておこう、ミドラー」
「銃が手に入るまでの繋ぎだと思って使えばいいのさ。しんどいだろうとは思うけど、せいぜい頑張んなよ。
 ――それじゃあ、こっから逃がしてあげる」
「随分長いこと待ったな……手段は考えてあるのか?」
「当然じゃないの、あたしを誰だと思ってんのよ? あのね、ごにょごにょごにょ……」
「……なるほどな。しかし、キサマの『女教皇』の能力から、徐倫がそのトリックを見破ることは充分に可能じゃあないか?」
「そこら辺は抜かりないのよねぇ、これが。
 あたしは徐倫に対して、『女教皇』の能力は、『鉱物に潜み移動することが出来る』としか言ってないのさ」
「つくづく食えない女だ、キサマは……」
「褒めても角砂糖しか出ないわよ」
「……いや、そいつは結構だ」
「でしょーね」



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「合流のタイミングは、徐倫の名前が放送で呼ばれてから12時間後に、この『トラサルディー』で。
 半日もありゃあ、どのエリアにいたって戻ってこれるでしょーよ。オーケイ?」
「ああ、異存はない」
「じゃーね、ジョンガリ・A。生きて出会えたらテキーラおごるわよ」
「DIO様にもな」
「……せぇ、のッ!!」

 ――パリィィンッ!!



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 ――『トラサルディー』の脱出より、10分が経過。ミドラーの情報が確かならば、現在地はおそらくF-3の北方。
 南方160m先に、時速60km相当で移動する2つの気流有り。こちらからどんどん離れていっている、乗用車ともう片方は――馬、だと?
 バカな……おまけに乗っている奴の体格ときたらどうなっているのだ、アンドレ・ザ・ジャイアントが可愛く見えるぞ。
 ……まあいい、どの道オレでは追いつけん。カーチェイスでもリアル鬼ごっこでも、やりたいようにやってくれればいい。
 それらの連中以外には、オレの周囲200mに、生物の気配は無し。クソ忌々しい空条徐倫が後を追ってくる様子もない。
 ――逃げ切った。ミドラーの仕掛けたトリックは、有効に機能してくれたようだ。オレは空条徐倫から、逃げ切ったのだ。しかし……
 ……実にブザマだ。20年間も機会を待ち続けた復讐の対象から、仕留める手段が無いというだけで逃げ出したのだ、このオレは。
 あまつさえ、その復讐をよりにもよってヤツに託してしまった。あの抜け目ない女暗殺者は、絶好の時を決して逃す事無く、
 徐倫の命を喰らってみせることだろう。オレが徐倫の顔面目掛けてライフルの弾をブッ放し、
 出来の悪いチェリー・パイのような死に様を与えてやることは、永久に出来まい。オレの『血統』に対する復讐は、これで終わりの時を迎え……

 ……いや、違う。そうではない。あの『教会』でオレは捉えたのだ、徐倫以外にも確かに存在していた、『ジョースターの血統』を。
 感じた『血統』は、徐倫を加えて6つ。おそらくその全ての連中が、DIO様に向けて牙を剥こうとしている。ならばその牙をヘシ折ってやるのが、
 DIO様の忠実なる部下たるこのオレの使命であり、生きるための『目的』となる。ヤツらの命を刈り取るために、オレは一刻も早く、
 ライフルを手にした非情の狙撃手へと戻る必要があるのだ。
 そして、DIO様。DIO様が生きていたことを、ミドラーのヤツも否定しなかった。やはり『教会』で聞こえたあの声は、DIO様のものだったのだ。
 DIO様。ジョンガリ・Aは貴方のために、全身全霊を力に捧げ、必ずやヤツらを仕留めてみせましょう。
 『ひとりずつ』。されど、確実に。くそったれジョースターどもの首を、『歓喜と共に民衆の前へと掲げられたルイ16世のそれ』と同じように、
 貴方の元へと届けに参りましょう。このジョンガリ・Aが必ず、この包丁でヤツらの首を斬り落として、包丁で、包丁……

 ……DIO様。
 私が狙撃手へと戻るまでには、幾多もの苦難が待ち受けていそうです……。



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 青褪めた月の明かりも途絶え、鈍色の雲が夜と朝の隙間を埋め尽くしている黎明。
 その部屋に人はいなかった。『人間』は何処にもいなかった。半透明の鋭利なる欠片が床へと散っている以外は、
 何の変哲もない家屋の一室だった。
 その部屋の窓ガラスの中に、ゆらりと蠢く影があった。――否。それは適切ではない。『窓ガラス自体が蠢いていた』。
 その窓ガラスはちょうど、空条徐倫が部屋へと侵入する際に潜った窓枠の、正反対に位置していた。

「……ナハッ」

 窓ガラスが――最早、その存在を窓ガラスと表すだけ滑稽だろう。窓ガラスへと化けた『女教皇』が、奇妙な笑い声と共に、
 その身を闇へと溶け込ませると、後に残されたものは、平坦な四角形の窓枠に、カスのようにこびり付いた鉄イオン色の破片。
 『徐倫の潜った窓ガラスと、同タイミングで割り砕かれた、窓ガラスの端くれ』。
 徐倫が聞いた破砕音の際、割れたガラスは『2枚』あったのだ。
 1枚は徐倫が潜り抜け、ミドラーが2階から降ってきたと指差した方の窓ガラス。それを破壊したのは、ミドラーのスタンド『女教皇』。
 もう1枚は、ジョンガリ・Aが脱出経路として割り砕いた窓ガラス。ジョンガリ・Aが飛び降りた後に、『女教皇』が窓ガラスに化け、
 その隙間を埋める。全ての手順が完成した後に部屋へと飛び込んできた徐倫が、あたかも部屋の割れた窓ガラスは、
 自分が入ってきた一枚だけなのだと錯覚するように。
 ミドラーが片方の破片を指差し、こちら側の存在を徐倫に気付かせなかった事が、彼の逃亡を可能とした。
 全てはこの『女教皇』の手によって、演出されたものだったのだ。

「ナハッ、ナハハハハッ……!」

 陳腐なミステリーを終えた部屋に、『女教皇』の笑い声だけが響いている。その姿が何処に潜んでいようと、
 我々にはその居場所を窺い知る事は出来ない。たとえ徐倫がこの能力を聞かされていたところで、彼女は決して、
 『どの窓ガラスに化けていたか』を知る事は出来なかっただろう。それ程までに完璧な擬態。それ程までに完璧な能力。
 それを操るスタンド使い、ミドラーの詐術さえもまた、完璧――。

「ナハハ、ナハハハハハハッ! ナァーッハッハッハッハッハッ! ムキャッ! ムキャキャキャキャハッ! キャッホホォォ――ッ!!」

 その狂笑に込められた意味は、全てが上手くいったことへの愉悦か。『誇り高き血統』の末裔を、八つ裂きにする未来への興奮か。
 木霊が掻き消えた後の部屋には、もう何も残るものはなく、彼女の意思を読み取るだけの材料もまた、なかった。



【イタリアンレストラン『トラサルディー』(F-02)/1日目/黎明】

【空条徐倫】
[スタンド]:『ストーン・フリー』
[時間軸]:『ホワイトスネイク』との初戦直後。エルメェスがスタンド使いだとは知らない。
[状態]:健常
[装備]:自動式拳銃(支給品)
[道具]:道具一式
[思考・状況]
1.1階のミドラーと合流、釈然としないが『トラサルディー』を後にして移動する。
2.父親に会う。
3.ミドラーに気を許しすぎない。

【ミドラー】
[スタンド]:『女教皇(ハイプリエステス)』
[時間軸]:DIOに承太郎一行の暗殺依頼を受けた後。
[状態]:健常
[装備]:無し
[道具]:道具一式、角砂糖(大量)、テキーラ酒
[思考・状況]
1.徐倫と合流して移動開始。ジョンガリ・Aの逃げていった東は避ける予定。
2.生き残る。
3.徐倫の信頼を得て、手駒として動かしやすくする。
  そのためにはスタンドを彼女に明かした以上に使うことは極力避ける。
4.今のところはこれ以上徒党を組む必要性を感じていないが、好みのタイプである承太郎は別。
5.程良いタイミングで徐倫を殺害し、放送で徐倫の名前が呼ばれた12時間後に『トラサルディー』へと舞い戻る。

【線路沿いの道(F-03)/1日目/黎明】

【ジョンガリ・A】
[時間軸]:徐倫にオラオラされた直後
[状態]:問題なし
[装備]:トニオさんの包丁
[道具]:支給品一式、角砂糖×5
[思考・状況]
1.ディオと合流   
2.銃を探す 
3.自分とディオ以外の人物の抹殺
4.徐倫の名前が放送で呼ばれたら、その12時間後に『トラサルディー』へと舞い戻る。
[備考]: ホワイトスネイクは知っている(本体は知らない)
    :辺りを警戒(マンハッタン・トランスファーによって、周囲の状況は把握出来る)
    :自身の現在地を把握しました。


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キャラを追って読む

40:信奉者達の盟約(前編) 空条徐倫 55:思い知らせてあげる
40:信奉者達の盟約(前編) ミドラー 55:思い知らせてあげる
40:信奉者達の盟約(前編) ジョンガリ・A 51:それはまるで乙女のように

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最終更新:2007年06月10日 22:12