「………え?」
シュトロハイムを騙し、東方仗助と相打たせる。
この作戦は上手く成功した。
そしてこれからの行動方針を決めようとした矢先の事だった。
「…トリッシュ?」
風に乗って、トリッシュの声が聴こえたような気がしたのだ。
「………………」
耳を澄ますが、もう何も聴こえない。
幻聴だったのだろうか。
何か現実離れした感触だった。
結局、何を言ったのかは聞き取れなかった。
ただ、その声について俺が分かっている事が二つ。
一つは俺に向けられているものだったという事。
そしてもう一つは、とても悲しそうな声だったという事。
俺は、トリッシュを悲しませているのか?
「いや、そんな事はない」
俺は敢えて口にする。
「俺はトリッシュを生き返らせる為に、トリッシュの為に悪魔に魂を売り渡そうとも…」
!!!
又聴こえた。トリッシュの声。
内容こそつかめないものの、とても悲しそうな声。
俺は、彼女を悲しませて、苦しめているのか?
俺は、自分のやろうとしている事に対する自信がぐらついてしまった。
ココは頭を冷やす必要がある。
良し、一度クールになって一から整理するか。
俺の目的は?
―――トリッシュの蘇生。
トリッシュ蘇生の方法は?
―――確実な方法は今の所無し。
―――優勝すれば生き返らせられる可能性がある。
ならば優勝するか?
―――肯定。但し、優勝のみに固執するのは危険。
―――ゲームを進めながら、トリッシュを蘇生出来る方法を常に模索する。
―――そしてトリッシュ蘇生の役に立たず、優勝の邪魔になりそうな者は殺す。
今、思いつくトリッシュ蘇生の方法は?
―――誰かに相談。
誰に?
………結論は出た。

「良し。リサリサ先生に会おう」
俺は結論を口にする。
JOJOに相談できない以上、他に無条件に信頼出来る人間はリサリサ先生位しか居ない。
リサリサ先生も、JOJOを生き返らせたいだろうし。
俺の優勝プランについてもちゃんと相談に乗ってくれそうだし。
「それにしても、何で俺、さっきはあんな事考えちまったんだろう」
さっき、リサリサ先生を貶めようと考えていた自分に身震いがする。
リサリサ先生だぜ?リサリサ先生。
敬愛する人を絶望の淵に叩き込もうとして、何を喜んでんだよ、俺は。
やはりJOJOの死に動転して、頭が正常に回っていなかったとしか思えないぜ。
頭を冷やす機会を与えてくれたトリッシュに感謝、だな。
「トリッシュ、有難う」
空に向け、呟く。
だが、トリッシュからの返事は無い。
結局、あれはただの幻聴だったのだろうか。
ただ、トリッシュはまだ納得していない。
何となくだが、そんな気がした。



 * * *

『リサリサ先生



御久し振りです。
シーザーです。

今、自分はG-2に居ます。
シュトロハイムとも会って、第四放送時にC-4で合流する話も聴いています。
実は、とても大事な話があります。
JOJOの事です。

JOJOは死にました。
死体はシュトロハイムが丁重に扱っています。
実は俺は、死体を見るまでJOJOは死んではいないんじゃないかと思っていました。
もしかしたら先生も同じ事を思っているんじゃないでしょうか。
酷な話ですが、そして先生には無礼極まりない話ですが、JOJOの死を受け容れて頂きたいと思います。
傷口をえぐるような真似をして、本当に申し訳ありません。
ただ、これから話す相談内容は、JOJOの死に直結する話なのです。

相談とは、他でもないJOJOを生き返らせる方法を一緒に考えて頂きたいのです。
(JOJOの他に、もう一人生き返らせたい人間が居るのですが、詳しくは会った時に話しましょう)

俺は今からC-4に向かいます。
先生も、早い内にC-4に来て下さい。
そして、JOJO達の事について相談しましょう。

後、この鳩は指定された相手に飛ばす事が出来ます。
先生は、この手紙を読んだ後、シュトロハイムや他の仲間に手紙を届けて下さい。
仲間を集め、そこで話し合いたいと思います

                             シーザー・アントニオ・ツェペリ』


 * * *

「………………あれ?」
鳩を飛ばした後、C-4に向かおうと北東の方向へ歩いていた。
そして暫くしてからの事である。
その時、俺は自分の状態に驚いた。
いつの間にか俺は、道路脇の電柱にぶつかって倒れていたらしい。
じくじくと額が痛む。
にしても。
いつ、俺はぶつかった?
どれだけボーっとしていても、深い思考に捕らわれていたとしても、ぶつかった瞬間くらいは解る筈だろう。
そして何より、
こ の 現 象 、 身 に 覚 え が 無 い か ?
そう、これは…。
「居る!!!奴はこの近くに!」
トリッシュが突然おびえ始めた、あの現象!!!
シーザー・アントニオ・ツェペリ。改めて問おう。
お前の目的は何だ?
トリッシュの蘇生のみか?

否!!!

他にもう一つ、“トリッシュの仇討ち”があるだろう!!!

どこだ!奴はどこに居る!
俺は辺りを窺い…
『喰らえ!アナスイの仇!!!』
「!!!」
付近の家から声が聴こえた瞬間、迷わずその場へ向かった。


 * * *

ドッピオは詰めの甘い男じゃなかった。
アタシがアナスイの死を悼んでいる間にも、アタシ達の足取りを追っていたのだ。
「!」
それは運が良かったのか、悪かったのか。
何か違和感を感じた瞬間、アタシは咄嗟に身を屈めた。
グオンッ!
一瞬後、悪鬼までアタシ首のあった場所を手刀が薙いでいた。
「くっ!」
アタシは顔を上げ、攻撃してきた相手を確認する。
「!!!」
そして、その姿を見て驚いた。
攻撃してきたのはドッピオ。
但しその姿形は、出会った時の面影も無かった。

 * * *

俺はドッピオと入れ替わっていた。
今、ドッピオを表に出したら、俺とドッピオの関係に勘付かれる可能性が強い。
だから、上手く言いくるめる方法を思い付くまで俺が表に出る事にし、ドッピオの思考を眠らせていた。
それにこれから斃す相手は、どの道俺が相手しなければ勝てない相手だからな。
俺の攻撃をかわした徐倫は、顔を上げて俺の姿を確認するなり声を上げる。
「貴様………ドッピオ!!!」
徐倫は、俺(ディアボロ)の事を一目で見抜いていた。
にしても、あれだけの重症だと思ったのに、随分と元気だな。
俺は徐倫に向かって言い放つ。
「ほう。車に潰されて瀕死状態だと思ったのに、もう回復したのか」


 * * *

もしもコイツがドッピオと別の服を着ていたら、恐らくアタシは同一人物と気付かなかっただろう。
まるで変身したかのような…これがこいつの能力か?
「アナスイのおかげだ」
ともあれ、ドッピオの言葉に言い返す。
「アナスイ?あぁ、そこに転がっている死体か」
その言葉を聴いた瞬間、アタシはキレた。
「てめえええぇぇぇ!!!」
アナスイを侮辱するなぁ!!!
「オラオラオラオラ!!!」
怒りに任せ、ドッピオを殴り続ける。
そして、ラッシュを終え…
………アタシは、あたしが殴っていた物がただの壁である事に気付いた。
「なっ!」
何だ!?これは!
さっきドッピオに襲われたときといい、“何かがおかしい”。
これも奴のスタンド能力か?
いや、スタンド能力は一体につき一つ。
どちらかはスタンド能力ではない筈だ。
くそっ、こいつの能力が何なのか、見当がつかねぇ。
「まあ、そう熱くなるな」
ドッピオはいつの間にかアタシの背後に居た。
「俺はただ、どうやってお前の怪我を治したのか知りたいだけだ」
その言葉に対し、目じりに涙が浮かんだ。
ドッピオの質問は、あたしの体を治した代償、アナスイの死を思い出させたから。
その怒りに、悔しさに、悲しみに。
だが、アタシはドッピオに返事をした。
このゲスに教えてやる。
アナスイがどれほどの矜持を抱いていたか。そしてどれだけ誇り高き死を選んだのか。
「アナスイはな。アタシの傷ついた臓器と、自分の無事な臓器を取り替えたんだ」
「…」
無表情に見下ろすドッピオに、アタシは続ける。
「自分の死を覚悟し、それで尚、あたしを生かす為にアナスイは決断をしたんだ!
お前にそれが出来るか!!!」
「…」
アタシが叫び終えた後、ドッピオは暫く沈黙したままだった。
「どうした?何も言い返せないのか?」
あたしはそう問い掛け、
「よく解った」
ドッピオはそう返し、
「お前らに用は無いという事が」
と続けた。

「用がない…だと?」
アタシの質問にドッピオは平然と返す。
「あぁ。もし万が一、お前の怪我が治ったように俺の怪我も治せるというのなら、暫くは生かしておいても良かった。
これから先、万が一俺が怪我した時の為の治療係としてな。
だが、今の話では、お前は俺の怪我を治せない。
つまり、利用価値も生かしておく価値も無いという事だ」
「貴様…!」
「死ね」
そして飛び掛るドッピオ。
アタシは迎え撃とうとして…

ザンッ!!!

勝負は一瞬の内についていた。
「………え?」
ドッピオは、いつの間にかアタシの腹を貫いていた。
「なあああぁぁぁ!!!」
腹を押さえて崩れ落ちる。
ヤベェ。致命傷だ。しかし…
本来ならもう立てないほどの傷を負いながら、アタシは怒りに奮い立つ。
こいつ、よりによって、一番やっちゃいけないことを…!!!
「終わりだな」
そう言って背を向けるドッピオ。
アタシの死を確信したとばかりに、部屋を出て行こうとする。
「!」
これは、最初で最後のチャンスだ!
刺し違えてでも、テメェはアタシが必ず斃す!!!
「うおおおぉぉぉ!!!
喰らえ!アナスイの仇!!!」
本来なら拳は届かない距離。
だがアタシは、肘の部分を紐状にしてロケットパンチのように拳を放った。
そしてそれは…

ドガッ!!!

ドッピオの後頭部に叩き込まれた。

 * * *

徐倫は、不意を付いて“俺”の後頭部に拳を叩き込み、倒れ込む“俺”の首根っこを掴み引き寄せる。
信じ難いほどの闘争心だ。
何がスイッチとなったのかはよく解らないが、
サンジョルジョの教会でのブチャラティのように、動けないはずの体で“俺”に攻撃を仕掛けている。
しかし…
「よくも…!」
オラオラオラオラオラオラオラオラ!
「よくもアタシの…!」
オラオラオラオラオラオラオラオラ!
「アタシの中のアナスイを…!」
オラオラオラオラオラオラオラオラ!
「傷つけたなあああぁぁぁ!!!」
オラアアアアアアァァァァァァッ!!!!!!

ドグシャアッ!

徐倫は怒涛のラッシュをかまし、最後に渾身の一撃を放つ。
全身粉々に打ち砕かれた“俺”は、ぼろきれのようになって吹き飛び、壁に叩きつけられた。


 * * *

ドゴオ~ン!!!
アタシに吹き飛ばされ壁に激突する音と同時に、力を使い果たしたアタシも倒れこんだ。
何とか顔を上げ、奴の確認をする。
「!!!」
吹き飛んだままピクリとも動く様子を見せない。
全身が、生きている者では有り得ない方向に曲がっている。
最早息絶えているのは一目瞭然だった。
「ねぇ、アナスイ」
斃した。
「何で…」
あのラッシュで生きているものは居ない。
「何でアタシさ…」
そう、アタシは奴を粉みじんにしてやったのに…
「…アンタを殴り飛ばしてんだろ」
涙が止まらなかった。
そう、アタシが攻撃していたのはアナスイだったのだ。
確かにドッピオに攻撃していた筈なのに…
さっきと一緒だ。殴っているものがいつの間にか変わっていたのだ。
なんでよぉ。
何で、よりによってアナスイを殴ってるのよ、アタシは。
「成程。お前は自分自身が殺されるより、自分の中の仲間の臓器を傷つけられた事に怒るタイプか」
背後からドッピオの声が聴こえる。
「怒りが貴様の原動力か。しかし諸刃の剣だったな。
動かないはずの体を動かすほどの怒りは、同時に目の前が見えなくなるほどの怒りでもあったようだ」
「…」
「ミドラーの時もそうだった。怒りに我を見失う奴にはこの手が通用しやすい。
“お前の攻撃をエピタフで予測し、俺とアナスイが入れ替わる”と云う手段が」
私の頬を涙が流れ続ける。
ドッピオの卑劣な手への怒りに、アナスイの仇を打てなかった悔しさに。
そして…
「では、今度こそ………死ね」

ドガッ!!!

力を使い果たしたアタシは、ドッピオのなすがまま蹴り飛ばされ、壁に叩きつけられた。



 * * *

「なっ!」
俺が辿り着いた時、その部屋は貧民街でも滅多に無い惨状をかもし出していた。
部屋の中にいるのは三人。
内、二人は既に息絶えているのが一目瞭然だ。
その内の一人、女性の殺され方は、俺の知る人間の殺され方と酷似していた。
そしてもう一人。
特に右半身を返り血に染め、淡々と死体を見下ろす男。
状況から見て、この男が恐らく二人を殺したであろう事は想像に難くない。
男は俺が部屋に入ると同時に振り返り、俺の姿を確認するなり驚いたような表情を見せた。
「お前は…あの時、逃がした男か」
「!!!」
その瞬間、俺は全てを理解した。
この男が…
トリッシュを殺し、目の前の男女を殺した…



仇敵か!!!



「お前がトリッシュを殺したんだな?」
返ってくる返事は解っていると云うのに、敢えてその質問を口にする。
最後の確認をする為に。
コイツを、トリッシュの仇として迷い無く殺す為に。
そして男は返事をした。
「トリッシュは俺の正体を知る唯一の人間だったからな」
それはトリッシュを殺したという肯定。
その返事を聞いた直後、俺は…



「貴様アアアァァァ!!!!!!」



咆哮した。


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105:『シーザー孤独の青春』 シーザー 107:仇敵(後編)~輪廻転生~
101:擬似娚愛は嫐乱す(前編) 空条徐倫 107:仇敵(後編)~輪廻転生~
101:擬似娚愛は嫐乱す(前編) ディアボロ 107:仇敵(後編)~輪廻転生~

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最終更新:2007年09月09日 21:05