C-4についた
ダイアー達を迎えたのは、耳が痛いほどの静寂と、1体の死体だった。
「ジョナサン…」
死体の素性を知るダイアーが呟く。
「お前の知り合いか?」
「ああ。ツェペリさんの弟子で、共にディオ打倒に向かった仲間だ」
「そうか…」
「ポルナレフ。ジョナサンを地へ還してやりたいのだが」
「分かった。でも、病院内の探索を先にしよう。
仲間か敵か、誰かが居るかもしれないからな」
「分かった」
そして二人は病院内を調べはじめた。
「誰かいないか!?」
広い病院の廊下を歩き回るが、発せられる音といえば二人の足音と呼び掛け声のみ。
ポルナレフたちに反応する声や物音は、何一つなかった。
暫く院内を歩き回り、得られた結論は、この病院には誰もいないということだった。
「じゃあ、休憩も兼ねて、しばらくここで仲間が来るのを待つか」
「ああ。それにジョナサンとかいう人間の埋葬もするんだろう?手伝うぜ」
「助かる」
そして二人は、ジョナサンを埋葬するために病院の外に出た。
その時だった。
「おい。ありゃ何だ?」
ポルナレフが指差す先には、病院へ向かって一直線に向かってくる一匹の馬。
暴れ馬のように気性が荒く見え、まるで暴走しているかのようだ。
「あの馬、見覚えがあるような気がする」
「駅にいたな。
タルカスと対決している時、奥にいた」
「ってことは、あの馬がこっちへ向かってくる理由もなんとなく読めたな」
そう。馬がこっちへ向かってくる理由。
それは一つしか考えられない。
駅にいたもう一人の敵、
ワムウが襲撃してきたのだ。
しかし、ワムウの姿は見えない。
ダイアーたちは二人とも、『あの馬が囮である』ことには気付いていた。
が、肝心のワムウと思しき姿が見えない。
「ポルナレフ。頼みがある。
今すぐこの玄関前に水溜りを作ってくれ。
あの馬、何かある。
あれの接近を阻むため、水をまいて欲しい」
「何をするんだ?」
「辺りに水をまき、俺の波紋を流す」
「分かった」
ポルナレフはダイアーの指示通り、ホースを持ち出して蛇口を全開にする。
一方、ダイアーは馬に向かって叫んでいた。
「そこの馬!俺達に攻撃する意思が無いのならそこで止まれ!
それ以上近付けば、俺達に敵意があると見なす!」
馬は止まる気配を見せない。
「できたぜっ」
ポルナレフがダイアーに呼び掛ける。
「とまる気配がないな。仕方ない。あの馬は危険と考えよう」
「おう」
二人は病院内へ退避した。
馬はダイアーたちを追って病院内へ入り込もうとする。
しかし、
「波紋疾走!」
馬が水溜まりに足を踏み入れた瞬間、ダイアーが水溜まりに波紋を流して馬の足を押さえつけた。
しかも、波紋の効果はそれに留まらない。
「ブルルルル!!!」
馬はひどく暴れ出したかと思うと、中から一人の巨人が現れた。
「MWOOOOOOOO!」
ダイアーとポルナレフは、ワムウが何を狙っていたのかに気付いた。
ワムウは馬の中に潜み、不用意に近付く人間に不意打ちを仕掛けようとしていたのだ。
ワムウは馬の中から抜け出して、水溜まりの外へと飛び出していた。
「不意打ちを仕掛けようとは…」
「戦士の風上にも置けねえぜ」
ワムウに対し、誇り高き二人の戦士は同じ感想を抱いたようだ。
「こいつ相手には、タルカスのように名乗り上げる必要はねえ。
ダイアー、さっさとぶち殺そうぜ」
「ああ」
ダイアーは馬に波紋を叩き込み消滅させ、ポルナレフはシルバー・チャリオッツを発現させてワムウに飛び掛る。
しかし、ワムウも既に持ち直していた。
シルバー・チャリオッツの攻撃を、後ろへ跳んでかわす。
「そうか。お前達は勝利よりも戦士としての誇りを重んじる者たちか。
ならば俺も、正々堂々と戦おう。
来い!誇り高き戦士たち!
我が名はワムウ!柱の男にして、このゲームを楽しみ戦い続ける参加者よ!」
「不意打ちしようと仕掛けておきながら、今更そんなこと言っても襲えんだよ!」
ワムウの高らかな声を受け、返事の代わりに突撃するダイアーとポルナレフ。
だが、身体能力、経験、すべてにおいてワムウが二人をはるかに凌駕していた。
(相手はスタンド使いと波紋戦士か。
危険なのは波紋戦士だが、スタンド使いのほうも予想外の能力を使って攻撃してくる可能性がある。
さて、スタンド使いの能力を見極めるために様子見するか、それとも一気に倒してしまうか…)
「波紋疾走!」
「フッ」
ダイアーの攻撃をかわすワムウに、シルバー・チャリオッツが攻撃を仕掛ける。
「食らえ!」
その攻撃に対し、ワムウは、何と真正面から攻撃を浴びに向かった!
ドスドスと突き刺さるシルバー・チャリオッツの剣。
相手が人間ならば、確実に死んでいる。
だが、ポルナレフは油断しなかった。
タルカスの時と同様、奴はこんな攻撃で怯む相手じゃない。
それが分かっていたからこそ、ワムウの反撃がくることは予測していた。
いつ反撃が来ても迎撃できるようにしながら、ワムウに攻撃を加える。
ポルナレフは油断をしなかった。
ただ、柱の男に対する知識が足りなかっただけなのだ。
ワムウの反撃はシルバー・チャリオッツへの攻撃だろうと思っていたポルナレフは、
「WRYYYYY!」
「なっ!」
ポルナレフ本人にワムウが攻撃を仕掛けてきたことに、完全に虚を突かれた。
ポルナレフに向かって薙ぐワムウの左腕。
その攻撃は、ポルナレフの左足をもぎ取った。
「ぐわあああ!」
叫ぶポルナレフに、ワムウは淡々と喋る。
「やはりスタンド使いは波紋をまとっていない。
ならば俺に触れただけで、その部分が俺に食われる」
「稲妻十次烈波!」
「おっと」
後方からの攻撃を難なくかわすワムウ。
「それがお前の必殺技か。
そういうのはとどめの一撃に使うものだ。
そんな大技、いきなり当たるはずがないだろう」
「バカな。死角からの攻撃を…!」
「我が流法は『風』。俺は風を感じ取ることで全方位の状態を感じ取ることができる。
俺に死角はない」
「くっ」
「では、今度はこちらから行くぞ」
ワムウは何か構え始める。
ダイアーとワムウの距離は5mほど離れているというのに、ワムウは深く腰を落とし、接近する気配を見せない。
ダイアーは、長年の波紋戦士としての勘が、この状態が危険だと告げていた。
(マズイ。奴はこの間合いでも俺に攻撃する手段を持っている!)
それに気付いたダイアーは、ワムウに技を出させないため、一気に間合いを詰め、接近戦を挑んだ。
「むう」
この行動はワムウにとって想定外だったらしい。
(なるほど。奴もそれなりの修羅場を潜り抜けているようだ。
神砂嵐の破壊力に直感的に気づき、技を出させぬよう突進して来たか)
ワムウにとって最も警戒すべきは波紋疾走。
スタンド使い相手と異なり、波紋使い相手にポルナレフの時のような“肉を切らせて骨を断つ”作戦は危険すぎる。
ワムウは構えをといてダイアーを迎え撃つ。
「うおおお!!!」
ダイアーの攻撃をひらりとかわし、
「フン!」
頭についていたアクセサリーが回転し、繰り出したダイアーの右腕を切り落とした。
「ぐわあああ!!!」
「片腕を失えばさっきのような大技はもう使えまい。
これで終わりだ」
そして、とどめの一撃を放つワムウ。
しかし、その攻撃はダイアーに届く事はなかった。
「シルバー・チャリオッツ!」
ポルナレフが攻撃を食い止めていたからである。
左足の膝から下を失い、スピードが半減しながらも、シルバーチャリオッツはワムウに立ち向かうだけの力を残していた。
どうやら奴に触れられると、その部分が食われてしまうらしい。
ただし、波紋使い、そしてスタンドについては例外。
それに気付いたポルナレフは、シルバーチャリオッツによる怒涛の攻めを開始した。
片足を奪われ、シルバーチャリオッツの強みであるスピードは失われた。
だが、足が動かない分、手を動かせばいい。
シルバー・チャリオッツは、信じられないほどの手数でワムウに攻撃を加える。
「SYAAAAA!!!」
さすがのワムウも、この攻撃には怯まざるをえなかった。
先程と同じ攻撃でありながら先程と全く違う攻撃量に、全身を穴だらけにされながら後方へよろめく。
そこへ、ダイアーが拳を放った。
「波紋疾走!」
「くっ!」
何とかそれをかわし、ダイアーを蹴り飛ばす。
ダイアーは吹き飛んだ。
が、そこへポルナレフがワムウの頭目がけてとどめの一撃を振り下ろす。
「うおりゃあああ!」
ポルナレフの斬撃を真剣白羽取りをするかのように腕を持ち上げるワムウ。
しかし、ことスピードに関しては他を圧倒するシルバー・チャリオッツの攻撃を防ぐ事はできない。
かろうじて首を横に傾けて頭を斬られる事は回避したものの、
シルバー・チャリオッツの剣はワムウのほおと首を掠め、肩に深く食い込んだ。
だが…
それは、『ポルナレフにとって最悪の状況を作り上げてしまった』。
ワムウに攻撃を仕掛けた瞬間、シルバー・チャリオッツとポルナレフは一瞬停止した。
ワムウに深手を与えたことで、ポルナレフに硬直が生じてしまったのだ。
ワムウが腕を突き出した理由。
それは剣を防ぐためのものではなかったというのに。
本当の狙いは、別にあったというのに。