アットウィキロゴ
町の一角に、その邸宅は建っていた。
町の住人の中でも、特に裕福な者達の住む一角。その中でも、特にその邸宅は広範囲を占めていた。
黒に近い赤色をしたコンクリートの屋敷。二階建てで、各所に黒服にサングラスをした警備員らしき者達がいる。
だが、その邸宅の周囲に住む者達は知っていた。その黒服が、ただの警備員でない事を。
その実態は、賭博、麻薬売買、密輸などの犯罪行為で地位を築いた、いわゆる『裏社会』での名のある人物の屋敷なのだった。
その屋敷の一角にある部屋に、今7人の男女が集結し、円卓の周りに座ろうとしていた。
赤い絨毯に、高級そうな濃い茶色の円卓。壁には水彩画が飾られ、照明は淡い黄色の光を放っている。
時刻は深夜。まだ日が出るまでには随分時間がある。
円卓の一番奥の席に座る、灰色のスーツを着た白髪に髭を蓄えた老人――プロキオンは、円卓に座る全員の顔を眺めると、言った。
「念の為、出席を取るぞ」
老人は名簿を取り出し、ペンを手にすると、名簿の一番上の名を呼んだ。
「アルデバラン」
その名に反応したのは、教会に勤務するような白い礼服と帽子を被った壮年の男だった。
彼はにこやかな表情で、「はい」と返事をした。
「ベテルギウス」
そう呼ばれ返事をしたのは、シルクハットを被り黒い燕尾服を着た男だった。アルデバランよりも若いが、切り揃えられた顎鬚が少し年齢を高く見せている。彼もまた、微笑と共に返事をした。
「カペラ」
そう呼ばれ、反応したのは円卓に座る中で唯一の女性だった。黒いローブを着た、ウェーブのかかった長い銀髪で、20代前半位に見える整った顔を持つ女性。彼女は無表情で「はい」と答えた。
「カストル」
これに答えたのは、これまでの者達とは違い無骨な男だった。口元には無精髭を生やし、前髪は少し長めで、顔つきは40~50代ほどに見える黒いコートを着た男。彼は「ああ」と返事をした。
「ポルックス」
今度は、円卓に座る者の中でも一番体格の大きな男が返事をした。男は金髪を角刈りにした白人で、茶色の皮のジャケットを着ており、30~40代ほどの顔立ちに見える。「おう」と返事をした。
「リゲル」
最後に呼ばれたのは、白いスーツを着た青年だった。短い金髪だが、微妙に長い前髪が目元を覆っている。青年は他の者の様に返事をせず、代わりに言った。
「いつも思うけど、これ必要なの?全員揃ってるって見りゃ分かるじゃない」
白スーツの青年・リゲルの言葉に、プロキオンは米神に青筋を立てる。
「慣例なのだ。変えるつもりはない」
このやりとりに、シルクハットの紳士・ベテルギウスが面白そうに微笑する。逆に皮のジャケットの男・ポルックスは苛立った様に言った。
「んな事はいいから早く始めろ。こっちは仕事があるんだ、とっとと終わらせたいのは全員同じだろう」
その言葉に、プロキオンは一回咳払いをすると、厳かに口を開いた。
「そうだな。では、これより定例会議を始め…」
プロキオンの言葉が終わらないうちに、邸宅内に警報が響き渡った。

これまで起こらなかった事態に、室内の雰囲気が一変し、緊張を帯びたものとなる。
プロキオンは手元にある電話に即座に手を伸ばした。
「何事だ!?」
電話の向こうの声は、彼がこれまで聞いた事の無いほど焦った声だった。
『侵入者です!既に2人殺されました!!』
「何だと!!?」
電話の向こう側は怒号が飛び交っているらしい。プロキオンは、電話の向こうから響いてくる『何なんだあれは!?』『弾が当たらない!!』といった声に絶句する。
その様子を見て、最初に席を立ったのは無精髭の男・カストルだった。彼は舌打ちすると、口を開く。
「何者か知らないが、どう考えても目的は我々だろう。迎え撃つとしよう」
「俺も行くぞ、兄者」
カストルに続いて、席を立とうとする角刈りの大男・ポルックス。
「待て!まだ情報が少な過ぎる!」
「このままじっとしていても情報は増えん」
プロキオンは受話器を耳から放すと、二人を止めようと声を上げた。だが、即座に放たれたカストルの反論に、彼は言い淀むしかない。
「それは、そうだが…」
ここで発言したのは、この中で唯一の女性であるカペラだった。
「落ち着いて下さい。カストル、ポルックス、不用意にバラバラになるのは逆に危険です。敵が何者であるにせよ、ここで私達全員が迎え撃った方が何とかできるでしょう。誘き出されて各個撃破されるのが最も恐れるべき事です」
彼女の言葉に、今度はカストルとポルックスが黙る番だった。
「しかし、どうしますかな?プロキオン?」
ここで問うたのは司教姿のアルデバランだった。だがプロキオンは、受話器に耳を当てたまま額に冷や汗を浮かべ、ポツリと言った。
「声が、消えた」

会議室のドアが開かれたのは、プロキオンがそう言った直後だった。

「っ…!!?」
会議室を入ってきた者の姿に、一同が息を呑む。
非常に背の低い者だった。まだ子供だと、それだけで判断できる位に。その人物は、明らかに血で染まった真っ赤なマントとフードを身に付けている。フードから覗く顔は、背丈の通り10歳ほどにしか見えない少年のものだった。
マントの下は、ボロボロになった灰色の服で、手には血で染まったナイフが握られている。
「なっ…何者だ!!」
最初に声を上げたのは、やはりプロキオンだった。
「…ヘブンは、お前達と敵対していたらしいな」
静かに、その少年はそう言った。そしてプロキオンが何か言う前に続ける。
「手を組みたい。その為にここに来た。こうして、実力を示して」
「なっ…」
呆気に取られるプロキオン。同じ様に、古き神々達の間にざわめきが広がる。
少年がただの人間ではありえない事は明白であった。
その時、一際大きく声を上げ、ベテルギウスが少年に言葉を向ける。
「それでは聞きましょう。何人倒して、ここまで来ましたか?」
少年は、そのフードの奥の瞳をベテルギウスへと向けると、言った。
「数は多かったが、所詮デコイだ。一々数えてないから答えられない」
「実力を示したと言ったが、数えてもいないとはどういう了見だ」
ベテルギウスが何か言う前に、今度は席を立っていたカストルが少年を睨む。
少年は、静かに言った。
「数えてはいない…だが、一つだけ言える事がある。この屋敷で生きているのは、もうあんたらだけだ」
その言葉に、古き神々達全員の間に衝撃が走った。
「馬鹿な!?肉体改造も施していないデコイとはいえ、訓練された屈強な者達だぞ!?」
そう言いながら、プロキオンは電話機に別の番号を入力して応答を待つ。が、少年の言葉を裏付けるかのように、電話に出る者はいなかった。
そして、少年が入ってきた扉からも、黒服の者が少年を追いかけてくる様子は無い。
「フフッ……ハハハハハハッ!!」
笑い出したのは、リゲルだった。その場の全員が彼に視線を向ける程に、彼は大声で笑い続ける。
そして一頻り笑い終えると、彼は言った。
「気に入ったよ。特にその眼が。プロキオン、彼の提案、承諾してもいいんじゃない?」
「し、しかし…」
「私も賛成です。こうして確かに、少しやり過ぎだと思う程に実力は示したのですから」
リゲルに続き、ベテルギウスも賛成の意を表す。そして、彼は続けた。
「まぁ本格的な承認は後日取るとしましょう。それで…あなたの名前は?」
古き神々達のやりとりを黙って眺めていた少年は、一瞬の沈黙の後、口を開く。

「シフ・ザナドゥ。又の名を…」

そして、静かにゆっくりと、被っていたフードを脱いだ。

「ロックマン・ロード」





最終更新:2012年02月10日 23:50