「今でもここに来ると思い出す。お前を見つけた時は、そりゃあ驚いた」
コンクリートで作られた壁、床、天井。
その一室で、先程ゴーストと呼ばれていた男は木製の椅子に座り、そう言い放った。
服装もそのまま、そして先程現れた顔の片側を覆う幾何学模様のタトゥーも、やはりそのままである。
「ま、生憎今日は昔話をしにきたわけじゃない。単刀直入に言おう」
そう語るゴーストの前にいたのは、拘束衣を着せられて椅子に固定された男だった。
顔には鉄製のマスクが被せられ、その表情を見ることはできない。
かろうじて分かるのは、男の頭髪が長い金髪であるということくらいだ。
俯き、目を瞑ったその男は、一見して眠っているように見えた。
それでも構わず、ゴーストは言葉を紡ぎ続ける。
「タナトスが死んだよ」
その言葉にも、その人物は答えない。
それでもゴーストは、反応など期待していないかのように話を続ける。
「ノアもだ」
そこまで言って、ゴーストはその人物の反応を観察する。
しかし、依然としてその人物は反応を示さない。
それを見て取ると、ゴーストは肩をすくめつつ話を続けた。
「どちらも、いい死に花だった」
椅子から立ち上がり、歌うようにそう言葉を紡ぐ。
そうしてから、両手をポケットに入れて男の近くまで来ると、ゴーストは男の眼を覗き込んだ。
「だから、今度はあんたの番だ」
やはり男に反応は無い。
それでも尚、ゴーストは口の両端を吊り上げた。
「歓喜、憎悪、悲哀、悦楽…俺達のように、まだ虚無しかないあんたにも、どんな感情が生まれるのか…実に、楽しみだ」
「なぁ?バアル」
その言葉で、男はゆっくりと――その眼を開いた。
最終更新:2016年11月06日 00:03