「『オレンジあるよ、レモンもね』鐘響かせる、セント・クレメント」
広い、真っ白な廊下で、ゴーストの声が響く。
今彼は、その廊下をずっと歩いていた。
廊下の幅は広く、天井も高い。
彼の足音とその歌声だけが、その空間に反響していた。
「『お前には、貸しがあるんだ、3ファージング』鐘響かせる、セント・マーティン」
歌声に交じって、彼のポケットから携帯の着信音が鳴る。
僅かに眉を顰めた彼は、歩きながら携帯を取り出し、耳に当てた。
女性の声が響く。
『バアルが死んだわ』
「…マジか」
その言葉に、ゴーストは目を見開いた。
やがて彼は目を細め、言葉を紡ぐ。
「相手してた、あの男はどうなった?」
『会話を聞いてたけど、最低限の仕事はしたみたい。もう戦えないでしょうね』
「そうか」
言いながら廊下の端まで来て、彼は目の前のゲートを開けた。
その先の広大な部屋には、数体の巨大な人型の兵器が鎮座していた。
左の壁に沿って2体。右の壁に沿って1体。
他に三つ、格納されていたようなスペースがあるが、そこには兵器の姿は無い。
その光景を見回し、ゴーストは言う。
「残念だ。破壊された端末も、ケフェウスの残骸も無い。遺跡の機能で自動的に破棄されたようだ」
『目的のものはあったの?』
「ああ。残り…無傷の戦闘端末はまだ残ってる」
『なら、予定通り?』
「あぁ。本番はもうすぐだ。気合い入れてけよ?」
『問題ない。最早この町は私のもの』
満足そうに頷くと、ゴーストは電話を切る。
そして、再度彼は歩き出した。歌声を再び響かせながら。
「『いつになったら、返してくれる?』鐘響かせる、オールド・ベイリ」
その声は、いつも通りに始まり――最後には、震えていた。
やがて彼は堪え切れずに、片手で顔を覆って笑い出す。
「クク…ハハハハハハ…ヒャハハハハハハハハハ!!!」
「バアル…馬鹿にあっさり死ぬじゃねぇかよ!!あんだけ俺のゲームを楽しみにしてたのによ!!お前が先に死んでどうすんだ!!ああ!?」
そして、足を地面に叩きつけて、絶叫した。
「畜生ガアアアアアアァァァァァ!!!」
叫び終え、肩で息をしながら、片手を顔に当てて尚も彼は呟く。
「何でだ、バアル。お前がいなくちゃ、俺は何のためにショーを続けりゃいい?観客の居ないサーカスなんぞ何の意味も無ぇだろうが!!」
言いながら、再びその場で地団太を踏む。
一頻り絶叫と地団太を繰り返し、やがて彼は静かに言った。
「あぁ、分かってるぜバアル。お前のためにも、このゲームは盛大に楽しませてやるさ。全ての人間にな…!!」
そして、彼は再び、歌声を響かせた。
「『大金持ちに、なったらな』鐘響かせる、ショアディッチ」
最終更新:2022年10月23日 23:45