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吹き荒ぶ風を身に受け、カーネル・ジョンソン警部補は灰色のコートの襟を立てた。
今、彼はズキズキと痛む腹を抑えながら、マンションの階段を下っている。
どうやら随分長い間気絶していた様だ。最後に見た時計は10時過ぎくらいだったのだが、それから2時間近くも経過している。
気がつくと、銀行周辺は大騒ぎとなっていた。
彼の部下達も同じ様に気絶していたが、今はそれどころではない。
拳を一発受けただけなのに、予想以上に腹は痛み、身体は重い。彼は、既に自分が30歳を過ぎた身体なのだという事を思い知った。
余程勢い良く倒れたのか、コートとその下のスーツ、更にこの前新品にしたばかりの茶色のネクタイまで、薄汚れてヨレヨレになっていた。
進みの遅い自分の身体にイライラして、彼は白髪交じりの短い黒髪を掻き毟った。
マンションをやっとの事で出ると、機動隊が銀行へ突入しているのが見える。
重い身体を引きずる様に歩いて行くと、彼の上司であるオウル警部がパトカーの横に立っているのが見えた。

カーネル警部補の上司であるオウル警部は、40代後半のベテランだ。
茶色いコートに緑のネクタイ。コートと同じ色の、丸いつばの帽子を被り、眼鏡を掛けている。ピンと伸ばした口髭が特徴的である。
1メートル90センチ近い長身のカーネル警部補に比べると、背は大分低い様に見えた。
そのオウル警部は、カーネル警部補を見るなり、思い出した様に言った。
「おや、どうしたんだねカーネル君。先程から連絡が途絶えていたぞ。
部下を寄越そうかと思ったが、人員が足りなくてな」
カーネル警部補は呼吸を整えてから、焦った様子で言った。
「警部、それどころじゃありません。
先程、銀行を監視する私と部下達が、突如何者かに襲撃されたのです!」
警部はそれまで手帳に何事か記入していたが、カーネル警部補の言葉に顔を上げた。
「何だと?何故早く報告しなかったのだ!」
「それが…その何者かによって、私も部下達も全員気絶させられて…」
「むう、それは大変な事態だな。丁度良い、現在強盗達のリーダー格も逃走中だ。
君達を襲撃した犯人も捜査網に捕まる様に手配せねばな」
続けて犯人の特徴と人相を聞こうとしたオウル警部の言葉を遮って、カーネル警部補は、今警部が言った言葉の意味を尋ねた。
「どういう事です?強盗達を確保したんですか?」
「ああ、そうだが?」
これはカーネル警部補にとっては完全に予想外だった。
何せ、強盗達の武装や兵器はこの町の警察の全戦力を使っても手を焼きそうな程のものだったからだ。
少なくとも今夜中に解決する可能性は低い、とカーネル警部補は踏んでいたのだ。
それが、彼が気絶していた1、2時間の間にほとんど解決したという。
カーネル警部補が疑問に思うのも無理の無い事かもしれない。
「あの強力な強盗相手に、一体どうやって対抗したのですか?警部」
このカーネル警部補の質問に、オウル警部の答えはこれまでの会話とは違って明瞭なものではなかった。

「強盗達は、あの兵器で我々を引き付けた後、現金を奪って地下から脱出しようとしたらしい。そこまでは分かったんだが、不明な点が多くてな」
オウル警部の言葉に、カーネル警部補はまだ納得できなかった。
「不明な点、と申しますと?」
「うむ。10分ほど前、急に人質達が、犯人側が掘った脱出路から脱出してきてな。
いざ機動隊が突入してみると、強盗達はほとんど無抵抗で投降したそうだよ。
それと、我々警察をあれほど蹴散らした兵器は鉄屑となっていたそうだ」
オウル警部の話に、カーネル警部補は心底驚愕した。
「一体、何があったのでしょうか?」
「分からん。だが犯人のリーダー格の男はまだ逃げ延びている様だ。
捜査網に捕まるのは時間の問題だろうが、それまでは安心はできんよ。
で、君達を襲撃したという犯人の特徴や人相は分かるかね?」
聞かれて、初めてカーネル警部補は、自分を襲撃した者をちゃんと見れなかった事を思い出した。
「暗闇だった上に姿を見た瞬間意識を失ったので、よく…は憶えていません。
ただ、アーマー姿だった事くらいしか…」
オウル警部は、カーネル警部補の話に、不満そうな顔をした。
「ふむ、そうかね。では詳しい事は署に行ってから話すとしようか」
そう言うと、警部はパトカーの上に置いておいた缶コーヒーをグイッと一気に飲み干し、運転席に座った。ドアを閉め、エンジンをかけると、窓を開けて言った。
「まもなく犯人達が連行されて来るだろう。今夜は確実に徹夜だな…乗るかね?」
「いえ、まだ部下達が気絶しています。彼らを起こさないと」
「ふむ、分かった」
そう言うと、オウル警部は慣れた手つきでパトカーを運転し、行ってしまった。
オウル警部を見送ったカーネル警部補は、マンションへ歩き出した。
腹の痛みはいつの間にか治まっていた。

ふと路上を見下ろすと、沢山の足跡がついている。
辿っていくと、マンホールが見えた。機動隊の何人かがそこから中の様子を見ている。
おそらく、あそこから人質達は脱出して来たのだろう。
下水道はジメジメとしていて湿度が高く、水の流れない足場でも常に湿っている。
そこを人質達は歩いてきたのだから、足跡がついて当然だ。
ほとんどの足跡は、まっすぐ銀行を包囲していた警察の方へ向かっていた。
だが、三つの足跡が、反対の方向へ向かっているのが見えた。
「ん…?」
警部補は、その足跡に近づき、形を見た。
二つは平凡な靴底の形をしているが、一つは明らかに違っている。アーマーの形だ。
足跡は視線の向こうの方で途切れていた。
思わず、カーネル警部補は足跡の目指した方角へ走り出した。

「ハァッ、ハァッ、ハァッ…」
息を切らしながらも、その男は全力で走っていた。
ここは街灯も無い路地裏。屋根の低い民家の間を縫う様に、強盗達のボスだった男は、脇に僅かに残った現金の入った鞄を抱えながら走っている。
もうどのくらい走っただろう。既に町の外れに来ていてもおかしくは無いが、まだ先には家々が連なっていた。
遂に息を切らして、男は立ち止まった。鞄を取り落とし、地面に手をつく。
落ち着いて深呼吸をし、彼は周りを見回した。
目の前にはT字路が見えた。左右と正面に民家が見える。
街灯も無いので辺りは暗闇に包まれている。それが男には好都合だった。
上手く暗闇に紛れて、このまま逃走を続ければ、警察の包囲網を突破する事もできるかもしれない。男はその可能性に望みを託していた。
息を整え、立ち上がる。そして、鞄を持ち直し、走り出そうとした時だった。
「な…!!」
急に辺りが明るくなった。
警察に包囲されて照明を浴びせられているのかと思い、男は一瞬、辺りを見回した。
だが、何もいない。
辺りに人の気配は感じられない。しばらくして、男は明るくなった原因を理解した。
先程まで雲に隠れていた月が顔を出したのだ。
月は丁度、前方の民家の屋根の上辺りから出ていた。
「な、何だよ、驚かせやがって…」
ホッと胸を撫で下ろし、月を見上げる。
瞬間、その顔は凍りついた。

一人の男が、立っていた。

屋根の上に。まるで、月の中にいるかの様に。

漆黒のスカーフを風になびかせ、クロウ・エリュシオンは、そこにいた。

「ひ、ひぃ!!」
男は尻餅をついた。
少しでもその男から逃げようと、這い蹲る様にして今来た道を戻ろうともがいている。
クロウは屋根から地面に着地すると、ゆっくりと男に近づいた。
男は腰から拳銃を取り出し、クロウに向けて引き金を引く。
だが、その拳銃は当の昔に弾切れとなっていた。
男は銃を捨て、後ろへ逃げようともがきながら、必死に叫んだ。
「お、俺に何か怨みでもあるのか!何故俺をここまで苦しめる!?」
クロウは、静かに、だが強い語調で、言った。
「お前が、大勢の人々を苦しめるからだ」

言いながら、クロウはゆっくりと男へ近づいた。
もはや逃げられない事を悟ったのか、男は立ち上がる。
だが、クロウは油断しなかった。先程と同じ失敗を繰り返す気はもう無い。
「うおぉぉぁぁぁーーー!!」
予想通り、男は我武者羅に、クロウに殴りかかってきた。
クロウは男の拳を避け、肘打ちを男の腹に見舞った。
「グゴハ…!」
男は呻いて2、3歩後ろへよろめくと、ゆっくりその場に倒れた。
クロウは男を警察署へ連れて行こうと近づいた。
だが、それで終わりではなかった。
男はまた立ち上がり、再びクロウへ突っ込んできたのだ。
クロウは腹に突っ込んできた男の肩をまともに喰らったが、アーマーのお陰で大したダメージにはならない。
男の腹に膝蹴りを食らわせると、再び男は呻いて膝をついたが、また立ち上がった。
「何故そこまで抵抗する。もうお前が勝てる可能性など無いんだぞ」
クロウの問いに、男は言う。
「負けられん……仲間の為にも…!」
まるで正義の味方の様な台詞を口にする男に、クロウは心底呆れた。
今度こそ完全に気絶させようと、クロウが拳を振り上げた、その時だった。
「やめてくれ!!」
路地裏に、声が響き渡った。

クロウの右側に続く道に、ジャンク屋の主人が立っていた。
随分長い間走ったのか、その顔には大量の汗が浮かび、息を切らしている様だ。
「自首したんじゃなかったのか」
ジャンク屋の主人は、クロウの問いに答える余裕も無い様子だが、それでも再び先程の言葉を口にした。
「やめてくれ…!」
そして彼は、ゆっくりクロウに近づいていった。
「そいつは…そいつらは…ただ金が欲しいってだけで銀行強盗をしたわけじゃないんだ。
話を聞いてくれ、エリュシオン!!」
ようやく息を整えた様で、ジャンク屋の主人は最後には元の大きな声で言った。
その主人の只ならぬ様子に、クロウは振り上げた拳を降ろした。
「…いいだろう。」
ジャンク屋の主人はホッとした様な様子で立ち止まった。
だが次の瞬間、銀行強盗のボスの方がその場に倒れた。
即座にクロウは首筋に指を当て、脈を確認する。どうやら命に別状は無さそうだった。

「彼らは元々、この町の貧困な労働者達だったんだ」
「…やはりこの町の者達だったか」
強盗のボスを寝かせ、ジャンク屋の主人はその場に座って話を始めた。
クロウは民家の壁に寄り掛かり、話を聞いている。
「この町では、彼らの人権は無いに等しい。
一部の権力者達が、彼らの賃金と労働時間を操っている状態なんだ。
おかげで、彼らはタダ同然の賃金で長時間労働を強いられている」
「…そうなのか」
クロウは、長い事この町のアパートを拠点としてディグアウターを続けていたが、その様な事実を聞いたのは初めてだった。
「で、あんたのその面倒見のいい性格が災いして…強盗に加担する羽目になったわけか」
「ああ。間違っている事は分かっていた。だが…」
そこで一旦言葉を切ると、悔しそうにジャンク屋の主人は言った。
「彼らを…放ってはおけなかった」
そこまで言って、ジャンク屋の主人はハァと溜め息をついた。
その様子を見ながら、クロウはノアの言葉を思い出していた。
「(くれぐれも気をつけろだと…?どう気をつけろと言うんだ…。
こんな事、ジャンク屋がいなければ知り得なかった事実だぞ…!)」
心中でノアを罵倒した後、色々な考えが頭を巡ったが、やはりクロウは強盗達がした事を許す気にはなれなかった。

「いずれにしても、お前達をここで見逃すつもりは無い」
「ああ、分かってる。警察に行くよ。
行かなきゃ、あんたは許しはしないだろ?」
そう言うと、ゆっくりジャンク屋の主人は立ち上がった。
そして気絶した強盗達のボスを抱き起こし、警察署に向かって歩き出そうとした。
遠ざかる後姿を見て、クロウは不意に口を開いた。
「今回の銀行強盗…警察でも手を焼くほどのものだった」
「…何?」
ジャンク屋の主人はクロウの言いたい事が分からず、振り向いた。
「何故その団結力をもっと別の方法で使おうとしない?」
「どういう…事だ?」
「貧困な労働者達も、団結して市に訴えればいい。
それでも駄目なら、この実状を他の島々へ広めればいい。
少しは状況が変わってくるだろう」
ジャンク屋の主人は微笑んで、言った。
「ああ分かった。こいつが起きたらそう伝えておくよ」
再び歩き出そうとする主人に、クロウは言葉を続けた。
「ジャンク屋、もう一つお前に頼みたい事がある」

「動くな!」
カーネル・ジョンソン警部補は、その場の全員に向かって吼えた。
左側1メートルほど前には、大男を担いだ中年の男がおり、5メートルほど前方には、数時間前に彼を気絶させたアーマー姿の男が立っていた。
彼の持つ拳銃は、寸分の狂い無くアーマーを着た男の頭を狙っている。
その男を見るまで、カーネル警部補の気絶する直前の記憶は曖昧なものだったが、見た途端、警部補はその男が自分を気絶させた張本人だと確信した。
「ひっ…」
驚いたのか、彼の前にいる、大男を担いだ中年の男は両手を上げた。両手を上げたので、担いでいた男はそのまま地面に転がった。
その転がった大男の服装は、強盗団のものと一目で分かるものだった。
カーネル警部補は、その男を強盗団のボスと断定した。
「…何者だ」
一番奥にいるアーマー姿の男は微動だにしないまま、そう言った。
月明かりはカーネル警部補を照らしているが、そのアーマーの男は民家の影に覆われており、警部補は、位置的には自分の方が不利だという事を自覚した。
だが、警部補はこれでも20代の頃は射撃の名手と呼ばれたほどの腕前である。
相手が少しでも動けば即座に銃弾を当てるなど、警部補には造作の無い事だった。
それを感じ取っているのだろうか。アーマー姿の男の動く気配は無い。
警部補は右手の銃口をピタリとアーマー姿の男に向けながら、左手で内ポケットから警察手帳を出し、その場の全員に見える様に示した。
「警察署のカーネル・ジョンソン警部補だ」

強盗団のボスは完全に気絶している様だ。地面に転がっても動きはしないが、呼吸はしている。中年の男は尻餅をつきつつも、相変わらず両手を上げている。抵抗する意思は無いと見ていいだろう。
アーマー姿の男は、やはり動こうとはしないまま、警部補を見据えて立っていた。
警部補は、その男に言った。
「多数の警察官を気絶させたのはお前か」
「…ああ」
「認めるか。ならば署まで同行してもらおう」
「公務執行妨害で逮捕…か。全く…」
男は、呆れた様にそう言った。
男の様子に、沸々と憤りの感情がカーネル警部補の中に湧いてきていた。
「(俺や部下を気絶させて『全く』だと!?ふざけるな…!!)」
感情を抑えながら、カーネル警部補は言った。
「武器を捨てろ。不審な動きをすれば撃つ」
男は、ゆっくりと両腰の刀の鞘に手を掛けた。
だが警部補は、決して油断はしなかった。何しろ素手で気絶させられた相手である。
しかし、思いの外あっさりと、男は二本の刀を地面に落とした。

クロウ・エリュシオンは、両手を上げながら、自分の不運を呪った。
これでやっと終わりだと思った途端にこれだ。
目の前の刑事をさっさと気絶させて逃走する事は不可能ではない。だが、その後の警察の捜査は、いずれ自分を特定し、更に自分の住むアパートまで及ぶ事になるだろう。
今、彼の選ぶ事のできる道は、二つだけだった。
目の前の刑事を倒し、その後この町を去るか。
警察に捕まるか。
思案しながら、クロウは目の前の刑事に言った。
「カーネル…とか言ったな?」
「…何だ」
刑事は、拳銃を持ちながら手錠を取り出そうとしているところだった。
しかし、その銃は油断無くクロウの頭を狙っている。
「どうやってここに来た?」
クロウの問いに、しばし考えた後、刑事は言った。
「お前達の足跡を見つけた。途中で途絶えていたが、方角が分かれば十分だ。
 犯罪者の行きそうな場所は頭の中に入ってる」
「そうか…」
と言いつつも、目の前の刑事の話にあまり興味は無く。
クロウは、その僅かに話した時間の中で、結論を出した。
そして彼は、頭を覆うメットを外した。
「!?」
その仕草でさえ、目の前の刑事は反応した。余程警戒している様子だ。
まぁ、一度気絶させられた相手になら当然かもしれないが。
「クロウだ」
「何?」
急に発した言葉に、目の前の刑事は意味が分かっていない様だった。
「俺の名はクロウ・エリュシオン。ディグアウターだ」
そう言うと、クロウは目の前の刑事に向かって、両手を差し出した。
彼にとっては、やっとこの町の事が色々と分かってきた所だ。
去るのは、やはり惜しかった。
相変わらず警戒を解かないまま、刑事は近づいた。
そしてついに、クロウの両腕に手錠が掛けられた。

「(何のつもりだ…この男…)」
カーネル警部補にしてみれば、腑に落ちない事だった。
それと共に、メットを取ればまだ20歳にも満たない様に見える目の前の青年が、自分と数名の部下を一度に気絶させたと言う事実に今更ながら驚いた。

結局、この日カーネル警部補が連行したのは3名。
いずれも、抵抗の意思は見せなかった。



翌日。
世界のどこかにある研究室にて。

昨日は研究に没頭しており、ノアはあまり睡眠を取らなかった。
のんびりと欠伸をしながら、彼は昨日と同じ様に新聞を広げた。
デスクの隅に、次々と世界中の島々から多種多様な新聞が転送されて来る。
「どこも相変わらずだねぇ…おや。」
眠い目を擦りながら次々と新聞を読んで行ったノアは、その中にある一冊の一面を見た時、その手を止めた。
傍に置いてあるモーニングコーヒーを一口飲んだ彼は、再びその記事に目を移す。

そこには、一軒の銀行強盗の事件が報じられていた。
貧困な労働者達が金を出し合い、空族からガラクタ同然の兵器を買い取って、銀行強盗を起こしたと言うのだ。
ガラクタとは言え、その町の警察を手こずらせるには十分な兵器だったと言う。
しかし、その事件は、怖気づいた強盗の一人(何故か労働者達とは関係の無いジャンク屋の主人だったらしい)が人質を逃がし、兵器を爆破した事で破綻。
最後には警察に包囲され、逃走した強盗団のボスも数時間後に拘束された、と報じられていた。
また、重軽傷者は多数出たが、奇跡的に死者は出なかったらしい。

「この島は確か…」
と言いつつ、ノアはゆっくりとページを捲る。
そのページの隅にある記事に、彼は注目した。

強盗の警戒をする警察に暴行を働いたとして、一人のディグアウターが逮捕された、と報じる記事だった。

「へぇ…」
詳細も書いてあったが、ノアは新聞を閉じた。
コーヒーを飲み干すと、一言彼は呟く。
「それが…君のやり方かね。ミラージュ君」
ノアは、最後の新聞を手に取った。
その一面も、彼の目を引くものだった。
「ほう…本当に…」

世界有数の事業家ウェルナー・フォン・ミュラー氏が、『大いなる遺産』があると言われている場所『禁断の地』に、現在建造中の巨大飛空船で突入すると発表した、とその新聞は報じていた。

「人の欲望には…限りなど無いね…」
一通り読んだ後、ノアは満足そうな表情で新聞を閉じた。
そして顔を上げると、再び一言、呟いた。
「さて…この先、この世界はどうなるかな。
実に…楽しみだ」




最終更新:2012年01月21日 23:14