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「ごめんな、今日クロウ来れなくて」
「いいよいいよ。じゃ、また明日ね~」
マンションに入っていくクレアを見届けて、トムは安堵のため息をついた。送って行くここまでの過程が、一番ストーカーの出現を懸念していた部分だったからだ。
「さて、後は見回りか」
そう言ってトムは歩き出した。

クレアのマンションの裏側辺りまで来て、トムは背後に歩いてきている人物に気づいた。
自分より背の高く、地味な服装。
よく思い出してみれば、クレアといた時から自分達の後ろを歩いていた男だった。
自分が立ち止まっても、男は歩いてくる。間近まで来たが自分に視線を向けてはいない、とトムが判断した瞬間、急に男が凄まじい力で自分に組み付いてきた。
足が地面を滑り、トムの身体はその場に倒れる。
その上に、男が圧し掛かり、マウントポジションを取った。
「な、何なんだお前…!!」
言葉が終わらないうちに、トムの頬を男の拳が打ち付ける。
「今日はお前一人だな…殺してやる!!」
男の言葉が、クロウと一緒ではないと言っている事に気づいたトムは、全てを理解した。
「お前が…クレアのストーカーか!!」
そう叫んだはいいが、トムは次に視界に入った光景に血の気が引いた。
男はいつの間にか手にナイフを持ち、振りかぶっていたのだ。
「死ねぇ!!」
言葉と共に男がナイフを振り下ろす。トムはたまらず顔の前で腕を組み、目を閉じた。
だが、痛みはやってこなかった。代わりに、鈍い音がした。
続けて、金属がどこかに落ちたような甲高い音。トムは恐る恐る目を開けた。


クロウは、振り上げた男の腕を蹴り飛ばした。
途端に男はナイフを手放し、ナイフがアスファルトの地面に落ちて音を立てる。
「俺がいない時に限ってこれか」
「ひっ…」
男が何か言う前に、クロウは男の顔面を蹴り飛ばした。
男はその身体ごと民家の塀に吹っ飛ばされる。

クロウは、トムを助け起こした。
「クロウ、用事があったんじゃ…」
「もう片付いた」
そう言うと、クロウは男の方へ視線を向ける。
手加減して蹴った為か男はまだ元気そうだったが、クロウを見ておののいていた。
「こいつがストーカーか」
「痛っ…そういう事だよ。…てか用事って喧嘩でもしてきたのか?何かボロボロだぞ…」
頬を押さえつつ、クロウの様子を見て早口でトムはそう言った。
そんなトムの言葉を無視しつつクロウは周りを見る。クレアのマンションの周辺は街頭が一定間隔で道路を照らしているものの、人通りは少ない。警官の姿など更に皆無だ。
クロウはトムへ視線を向けた。
「いいのか?このままやられっぱなしで。俺が片付けるべき用件かこれは?」
トムはその言葉で、クロウの意図を察した。
「…えーと、あいつが更に凶器を取り出してきたら、加勢頼む」
そう言うと立ち上がりつつあるストーカーへ向かって、トムは走り出した。

しばらくトムと男の殴り合いが続いたが、最終的にトムが男を殴り倒した。
男は地面に大の字に気絶。トムは顔に青痣を作ったが、何とか立っていた。
「か、勝った…勝ったぁぁぁぁ!!」
トムは夜の住宅街という時も場所も意識に入っていない様子で、勝利の雄叫びを上げる。
一頻りトムが叫んだのを確認してから、クロウは言った。
「俺がこの男を見てるから、クレアのマンションに行って警察を呼んでくれ」
「あ、ああ、頼む」
よろよろと覚束ない足取りでトムはマンションへ向かっていく。それを見届けたクロウは、男に視線を向けた。
だが、その意識は路地裏の方へ向いていた。視線を動かさぬまま彼は口を開く。
「お陰で間一髪間に合った」
クロウの言葉を受けて、路地裏から一人の人影が姿を見せる。
現れたのは、ゼゼだった。
ゼゼは、クロウがトンネル内に持ってきていたドリルを入れた鞄を肩に下げている。
「俺のアパートまで運んでもらえるか。おそらくこれから警察に事情を聞かれる。しばらくは戻れないだろう」
「畏まりました」

流石にそこまでの頼みは拒否されるだろうとクロウは思っていたのだが、思いのほか素直に返事が返ってきたので少し驚いた。
「…悪かったな、こんな事のためにこの街まで呼び出して」
ゼゼは表情を変えずに返事を返す。
「別の用件がありましたので、そのついでです」
ゼゼの言う『別の用件』というのがクロウは気になったが、その前に通信機が鳴った。
ストーカーに視線を向けたまま、彼は通信機を耳に当てる。相手はディエスだった。
『無事に済んだ様ですね、お疲れ様でした。「ディメンジョン・ゲート」とそのキーについては、早速明日お話しますね』
クロウは、これまで抱えていた疑問を口にする事にした。
「なぁディエス。脱出路の構築なんて重要な役割を、何故俺一人に?」
ディエスは少し驚いたような声を出したが、微笑しつつ言った。
『あなたが、デコイを巻き込まないでほしいと言ったからです。他者の命を気にかける事のできるあなたなら、あの二人の命がかかった役割を必ずこなしてくれると思いました』
そう言って一拍置くと、ディエスは言った。
『そしてあなたは私の予想を裏切らないでくれた…ありがとう。あなたのお陰で、私はかけがえの無い人たちを失わないで済みました』
「い…いや、俺の命もかかってたからやった。それだけだ」
それから二、三言の言葉を交わし、クロウは通信を切った。
クロウの胸中に、言い知れぬ感動が芽生えていた。あれほど明確に感謝の気持ちを伝えられたのは、随分久しぶりな気がしたからだ。
それから、警察が来る前にゼゼは引き上げた。
この後彼は、事が大体終わった後クレアにも似たような感謝の言葉を送られる事になる。わざわざトムに殴り合いをさせたことに対しては少し怒っていたが。


薄暗闇の中で、アルデバランは眼を覚ました。
『(…生きているのか、私は)』
確か、トンネル内に最大出力の雷撃を叩き込み、天井の瓦礫が目前まで迫った所で記憶が途切れている。
右側だけ残った翼に付いた眼を周囲に向けると、トンネルの瓦礫が積もっていた。
『(どうやら…運良く瓦礫がここに落ちなかったらしいな…!)』
周りにテスタメント達の姿は無い。アルデバランは自分が助かる事を確信し始めた。

『(トンネルの崩落はニュースになる筈だ。きっと私が巻き込まれている事はプロキオンも掴んでいるに違いない。とすれば、一般の人々より先に、あいつの手の者が探しに来る筈だ。フフ、助かる、助かるぞ…!)』
そこで、トンネルが崩落してからどれほど経つのか確認する術が無い事に彼は気付いた。
『(まぁいい…いずれにしても、まずプロキオンの部下が探しに来る筈だからな…!)』
そこまで考えて、彼はようやく周囲の状況を確認する事にした。
『(それにしても、この瓦礫に押し潰されなかった事は奇跡としか言いようが無いな。常日頃神に祈っていた甲斐もあるというものだ。…それにしても、あの淡い光は一体…?)』
アルデバランは、視界の隅にある淡く光る何かに眼を凝らした。
が、その光は、逆にどんどん彼に近づいてくる。そして―

「ごきげんよう、アルデバラン君」

その淡い光は、白衣の男が持つ電灯だった。
その男の顔を見て、アルデバランの脳裏に瞬時にカストルの視界の記録が蘇る。
『お前は…確か、クロノス…!!』
ノアは電灯をアルデバランの翼へと向けた。
「これまでに色々な古き神々を見てきたが、君ほど特異な姿も珍しい」
そう言うとノアは、瓦礫に埋もれかけてヒビの入ったリーバードの瞳を踏み潰した。
『グガァッ!!』
「痛そうだね。君の瞳はまだまだあると言うのに、一つ壊しても痛いかね?」
顔に笑みを張り付かせ、ノアはもう一つ踏み潰す。アルデバランは再度悲鳴を上げた。
「…しかしながら、いつまでも君を苦しめているのもいいがこれでは単調だし話も進まん。早々に質疑応答に移らせてもらうとしよう」
ノアは右手に白手袋の様なアーマーを装着すると、アルデバランの山羊型の頭の額に手を当てた。凄まじい力で、頭が地面にめり込んでいく。
「一つ目。君は『ディメンジョン・ゲート』の管理を任されていたんだったね?」
『…馬鹿な!?何故それを!!?』
そう言いながらも、この時アルデバランは内通者の存在を強く確信した。
しかし、時は既に遅い。
「返答は?」
そう言いつつノアは片手でアルデバランの翼からリーバードの瞳を抉り出す。
アルデバランの悲鳴が再び上がった。

『そ、そうだ!だからどうしたと言うのだ!?』
その返答にノアは笑みを浮かべた。
「では聞きたい。約1年ほど前、ロックマン・トリッガーがマザー・セラを打ち倒し、システムを破壊した。それにより地上に封印されていた古き神々達も目覚めたが…」
一拍置き、ノアが口を開く。
「デウスの本体はまだ封印されたままだ。だが、『目覚めて』はいる筈なのだ」
アルデバランはノアの言葉に、疑問の声を上げた。
『何の事だ…お前の言う「デウス」とは何なのだ!?』
「あれ?ああ、君はそう呼んでないのか」
惚けた調子でノアは言う。続けて、微笑と共にこう言った。
「『古き神々の王』の事だよ、アルデバラン君」
『…!!「アカシック・レコード」の事か!!』
「へぇ、随分大層な名で呼んでいるんだねぇ」
驚愕の声を上げるアルデバランに、ノアは平坦な調子で応じた。
「その『アカシック・レコード』は封印されてこそいるが、確かに目覚めているんだ」
先程と全く同じ調子で同じ言葉を紡ぐノア。
「目覚めているという事は、誰かとコンタクトを取れるという事だ。そして取るとしたら、おそらく今生き残っている古き神々の中では三人しか候補がいない」
『だがら私を…生かしたと?』
アルデバランの言葉に、ノアは満面の笑みを顔に浮かべた。
「死体から貰える情報は少ない。死は終着でしかないからね」

「君か、『ロゴス』か、『タナトス』か。古き神々の王がコンタクトを取るとしたら、この三人が一番可能性が高い。コンタクトを取られたか?と聞こうと思ったんだ」
『聞こうと、思った…?』
ノアの言葉に、悪寒を覚えるアルデバラン。
「ああ。だが私と話した様子じゃ、君はコンタクトなど取っていない様だな。あの三人の粛清官と戦った時も、敗れた時も、自爆を覚悟した時も、そんな言葉は出なかったし」
『取ったと言ったら…どうする…!』
アルデバランは、これまでとは打って変わった態度でそう言った。
だが次の瞬間、再びノアはアルデバランの翼から瞳を抉り取る。
『ガアァッ…!!』
「ハハハ、嘘はやめたまえ。今更、遅いよ」

言葉の途中から、ノアの声色は酷く冷えたものとなっていた。
「いいかね…デウスは、必ず普通でない方法でコンタクトを取る。一人でいる時か、大勢の人々の間にいる時か、それとも…夢の中で」
そう言いながら、ノアは次々にアルデバランの瞳を抉り出していった。
その度にアルデバランは悲鳴を上げる。もうノアの話を聞いている余裕も無い筈だが、ノアは話を続けていた。
「いずれの方法でも、コンタクトを取られた人物は、その記憶を心の中に強く刻み込む。そうならざるを得ない方法をデウスが選ぶからだ。だからもし君がコンタクトを取られたなら、私の話にそれらしい言葉が出た時点で、何らかの特殊な反応を示した筈だ」
気づけば、ノアの片手は血のような赤い液体で塗れていた。
それをノアは眺め、自らの頬にべったりと塗りつける。
そうしてから、再びノアは言葉を紡いだ。
「だが、君はそうはしなかった。だからこれで、君への用はあと一つだけだ」
そう言うとノアは、アルデバランの額を掴んでいた手に、力を込めた。
『グオオォ…な…何をす…』
「死は終着でしかない。本当は君を殺したくなどないんだ。私は、優しいからねぇ」
その顔に、笑みが浮かぶ。
「カストルも、殺さなかったろう?」
アルデバランの脳裏に、プロキオンから見せられたカストルの視覚記録の最後の部分が映った。死ねば止まる筈だった記録は、カストルがバラバラに分解されてからも続いていた。
『や…やめろ!!私は、あんな風にはなりたくない!!』
アルデバランの言葉に、ノアの涼しい声が返ってきた。
「勿論さ。君はあんな風にはならない。君には…君の同胞に絶望してもらう為、生贄になってもらうとしよう」
『や…やめろ、やめろ、ヤメロオオオオオォォォォ』

ピシリと、アルデバランの頭部にヒビが入った。

「これで…一人」




白いアーマーに白いマントとフードを被った青年―シリウスは、大きな扉を叩いた。
ここは郊外にあるグレアム・フォン・ロワイアル―プロキオンの屋敷。
庭先には手入れされた花壇が20メートル近く並んでおり、この扉までの間に自動車用の道路が舗装されている。
郊外だけあってか敷地自体が凄まじい広さを持ち、従って屋敷も大きく、シリウスの目の前にある扉一つ取っても特に高さなどはかなりのものを持っていた。
シリウスは門を跳び越えて進入した。いつもこうして来ているのだが、警備の者に不審者と間違えられてはプロキオンにわざわざ許可されるというパターンが何十回も繰り返されている。
しかし、今日は違っていた。
警備の者が影も形も見当たらない。門の所以外に目の前の扉の前にも常に2名のガードマンがいつもは立っている筈なのだ。
シリウスは扉を叩いた。この分だと誰も出ないかと思ったのだが、一人の女性が顔を出した。
褐色の肌に赤い瞳。短く切り揃えた緑色の髪の上から黒いニット帽を被り、黒いスーツを着た男装の麗人といった印象の女性。
「おはようございます、シリウス様」
感情を込めずにシリウスは答える。
「おはようググ」
その女性―ググはシリウスを招き入れるとニット帽を取った。その額には、大きなリーバードの瞳が存在していた。
「何故警備員がいないんだ?」
ググはシリウスに意味ありげな視線を送ると、言った。
「プロキオン様に面会でございますか?」
「ああ」
ググは赤い絨毯の敷かれた廊下を歩いていく。シリウスもそれについて行っている。
「ではその前に少しご説明致しますので、付いてきて下さい」
そう言うと、ググは階段を下った。

「アルデバラン様の真の姿は見た事がおありですか?」
「いや、無い」
ググは地下のとある部屋に入って行った。部屋の中は灰色のコンクリートの床と白壁で、かなりの広さを持ち湿気が漂っている。
中央に大きなテーブルが置かれ、その上には白い布が被せられた何かが乗っていた。
「アルデバラン様は、馬の様な四本足に人型の上半身、山羊の頭に蝙蝠の翼と、その翼の表面に無数のリーバードの瞳を持った姿をしているのです」
何故今そんな事を?そう聞こうとしたシリウスだったが、その前にググがテーブルの上の布を取り払った。
「っ…!!」
そこには、今ググが言った様なパーツが堆く積まれていた。馬の蹄鉄を付けた様な足、普通の人間のものより大分大きいが人型の腕・肩。それらを覆うように積まれた漆黒の翼。所々からリーバードの瞳が抉り出され、積まれているのとは別に並べられている。
だが何よりも眼を引いたのは、それらのパーツの一番上に積まれた山羊型の頭部だった。
シリウスは一渡り見回した後、鋭い目でググへ視線を向ける。
「全部話せ」
ググは頷くと、言った。
「まず最初に見つかったのは頭部でした。プロキオン様が見つけたのです、起床の際に。ご自身の眠られているベッドの中に、押し込まれておりました」
「…押し込まれた時点で気づかなかったのか」
ググは沈痛な面持ちで片手を顎の下に当てると答えた。
「ええ。おそらく昨夜睡眠薬でも飲まされたのでしょう。プロキオン様の悲鳴を聞き、私は駆けつけました。しかし駆けつける道中で、屋敷の所々にこれらのパーツ…アルデバラン様のご遺体が散乱しているのが見つかったのです」
一拍を置き、ググは再び口を開く。
「下手にデコイに知られても面倒ですので、夜間の警備の者は帰宅させ、日中の警備の者は暇を出させました」
そこまで言って、ググは黙った。シリウスもしばらく黙っていたが、やがて口を開く。
「プロキオンは今どうしている」
「大変なショックをお受けになりまして、客人用の寝室で休んでいらっしゃいます」
「…今すぐ会いたい」
ググは止めようとしたが、シリウスの眼はどうやっても会うつもりなのが見て取れた。


「おお…シリウスか」
ベッドから起き上がったプロキオンは明らかに憔悴しており、頬は痩せこけている。
髪や髭は乱れ、両目の下には隈が浮かんでいた。
プロキオンはシリウスを見ると安心したような声で言った。
「お前は殺されなかったようだな…心配していたぞ」
だがそんなプロキオンの様子を意に介さず、シリウスは言った。
「3日前の約束、覚えているか」
プロキオンはしばらく疲れた頭で記憶を探っていたようだったが、ようやくその記憶が見つかったのか表情を変え、言った。
「アレについてはもう忘れてくれていい。お前には難し過ぎる命令じゃった。まだお前はワシらに会って100年も経っておらん。わしらの中から裏切り者を見つけ出す事など、お前には無理難題じゃったろう」
「見つかった」
「ああ当然じゃ…3千年生きたワシでも気づかなかったのじゃ…お前には重い荷を背負わせて…何?」
俯いて長く呟いていたプロキオンだったが、シリウスの言葉の意味を理解すると同時に顔を上げた。
「今…何と言った?」
「裏切り者が見つかった」
無表情で繰り返すシリウス。プロキオンの表情はみるみる変化していった。
「だ、誰じゃ!一体どうやっ…ゴホッ!!ゴホッ!!」
驚きのあまり咽るプロキオン。慌ててググが水差しを持ってくる。
ググに介抱されるプロキオンを眺めつつ、静かにシリウスは言った。
「カペラだ」
シリウスの言葉に、プロキオンは半ば怒鳴る様に声を上げた。
「馬鹿な!!奴とは正真正銘3千年来の付き合いだ!ベテルギウスに次いで2番目だぞ!」
「3番目はアルデバランか」
アルデバランの名を出されてプロキオンは身を震わせる。
そんなプロキオンの様子を見ながら、シリウスは掌大の機材を取り出した。
鉄でできた長方形の小さな箱に見えるその機材。だが、その表面にON/OFF式のスイッチが設置されているのが見えた。

「…何じゃ、それは?」
ベッドの前に置かれていた机の上に、シリウスはスイッチをONにしてその箱を置く。
すると、その機材から鉄製の鋭い足が6本生え、机の上に立ち上がった。
「見ての通り、移動式の…盗聴装置だ」
「盗聴装置じゃと?」
訝しげに訪ねるプロキオンに、シリウスは頷いた。
「プリズナの町で、クロイツという改造デコイが使用していたものを拝借した。
ただこいつは『盗聴』しか使用できない代物。会話の記録は…こっちに入ってる」

そう言うとシリウスは、マントの中から一枚のディスクを取り出し机の上に置いた。
「この中に…カペラとロックマン・テスタメント、それにロックマン・ミラージュの会話が記録されている」
「な…!」
驚愕するプロキオンを尻目に、シリウスは背を向けた。
「明日までに聞いておいてくれ。それから…」
プロキオンは呼び止めようとしたが、その前にシリウスが足を止めた。
「カペラを討つなら、俺も加えてくれ」
そして、シリウスは部屋を出て行った。


シリウスは廊下を進む。ググに案内されていた時は気づかなかったが、確かにそこかしこに血痕のようなものができていた。

それを見て、シリウスは―その口元を歪める。

「(カストル、ポルックス、そしてアルデバラン…この短期間のうちに邪魔な奴が次々に消えてくれた。あとはカペラを討ち取れば、残りは三人のみ。うちプロキオンはあの状態では役に立たないだろう。ベテルギウスとリゲルは厄介そうだが、ベテルギウスは今は他地区に出ていつ帰るか分からん。リゲルは俺の力を過小評価している。いける…いけるぞ。この分なら…俺が最初に『古き神々の王』の元へ!!)」
シリウスは歪む口元を元に戻し、歩き続ける。
動き出した彼の足は、決して止まる事は無い。
ロックマン・ミラージュとの決着をつけるまで。
その先にある、自らの望みを叶える為に。



そして光は甦る』・完

最終更新:2012年01月21日 23:46