紫蓮は渋々、セインに連れられてセントラルシティの中央通りを歩いていた。
神界には昼夜の区別がない。
常に明るい昼の世界である。
昼夜の区別は時刻のみ。
今の時刻は昼過ぎだ。
そんな明るい通りには石造りの建物が並び、石造りの道路が広がる。
楽しそうに歩くセインと比べると、紫蓮は疲れた表情だった。
そんな紫蓮の表情を無視して、セインは路上の露店を興味深そうに見ている。
中でもカルメ焼きの屋台から目が離せない様だ。
「買ってきますか?」
「そう言いたいところだけど、財布を忘れたわ。」
やれやれという顔をして、紫蓮はカルメ焼きの屋台へと歩き出す。
「ちょっと!財布を忘れたって言ったでしょ!?」
「それくらいのお金は持っていますよ。だから私が買ってきます。」
「だからっておごってもらうわけにもいかないでしょ!?」
おごられるのが慣れていないのかそれとも何か気に入らないのか、バカにムキになるセイン。
「では、後ほどにお金をいただけますか?今は立て替えるという形で。」
「それならいいわ。」
紫蓮は二人分のカルメ焼きを買い、セインに全て手渡した。
そして二人は、そのまま道を歩き、セントラルシティの中央にある公園についた。
二人は公園の芝生に腰を下ろし、生えている大木によりかかる。
何故かセインは憂鬱そうな表情を浮かべている。
「何かお悩みでもあるんですか?」
セインは、紫蓮の方を向いて口を開く。
「この前の話、受諾したみたいだけど本当にいいの?」
「えぇ、その方が我々にとっても利点が多いでしょうし………。」
「本当にいいの?神界人の複製計画なんて………。」
複製計画、この話は前々から持ち上がっていた話である。
神界人の寿命は他の人種と比べると短い。
そして有能な人材というものは確保が難しい。
その話の流れから複製計画というものが持ち上がっていた。
有能な神界人のデータを保存し、いつでもその人物を生み出せる魔法技術。
いわば魔法世界におけるクローン技術である。
ここ最近のセインの政務はその話がらみが多く、セインは政務の度に気を重くしていた。
「私たち、一般の神界人では不死のセイン様を長くに亘って支えることはできません。
このような計画は遅かれ早かれ、出てきてもおかしくはないでしょう。
それに今は優秀な人材が多々そろっている理想的な環境です。
この環境を維持すれば、セイン様の負担も減るでしょうし………。」
「………でも、技術的に不安だよ。」
セインは、目線を落とす。
明らかにその表情は暗い。
「その計画を成功させるためにも彼女の力を借りるのでしょう?
私たち神界人の基礎を作ったのは、セイン様なのですからそれほど気負いしなくても大丈夫ですよ。
計画を行う以上、より神界を発展させなくてはならないという義務は出てくるとは思いますがね。」
「義務はわかってる。だけどあの人にまかせても平気なのかな………?」
「我々よりも優れているのは確かです。
現に計画の実行が決まったことですから彼女に任せましょう。」
二人の言う彼女とは、一人の科学者をさしていた。
科学者というものは、三世界には存在しない。
その人物は、突然に姉妹と共にこの世界へと現れた。
その人物たちは元の世界へと戻る術もなく、それぞれ好きな世界で暮らすことにした。
そのうちの一人が科学者として、神界に残っていた。
彼女の名前は、マーガレット=ロイゼン=クリストフェルノ。
複製計画を指揮する人物である。
しばらく、セインと紫蓮はその計画について話をしていた。
ふと、思い出したかのようにポケットから時計を取り出して時刻を見る紫蓮。
「おっと、そろそろ政務を行っていただかないと今日中に終わりませんよ?」
「うん、わかった………。」
二人は、公園を出て歩き出した。
(複製計画、やるからには絶対に成功させる………。)
セインは、そんな決意を胸に政務に励むのだった。
最終更新:2011年05月08日 18:55